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シナリオ詳細

<信なる凱旋>シンデレラは遠く、女王はキミを想い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●舞台の幕は未だ上がらず
 わたくしは何をしたというの。
 わたくしが何をしてしまったというの。
 独りぼっちの舞踏会、周囲にある全てはわたくしの知る者の影なのかもしれなかった。
 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。
 ハシバミの大樹を中心に据えた舞踏会はシンデレラステージ。
 世界で一番美しく、洗練された女性を決める舞台。
「――どうすれば、ここから出れるというのでしょう」
 わたくしは、ただ。
 ただ――彼女と、相応しい舞台でもう一度――そう願ってやまないだけなのに。

●シンデレラは帰らず
「……シャルールさんが、どこにもいない?」
 トール=アシェンプテル (p3p010816)はローレットの情報屋からそんな話を聞いた。
 シャルールはトールと同じ世界、同じ時代を生きた友人でありライバルとでも言うべき女性だった。
 いつかまた、相応しい舞台で競い合おうとそう約束した人物だ。
「えぇ、同じ依頼に出た方は全員戻ってこられたのですが、シャルールさんだけ帰って来ておらず」
「そんな……彼女がそんなことをするとは思えませんが」
 生まれ持った美貌に奢らず、才を磨き続ける努力の人。
 誰よりも真摯に、健全そのものの傑物だ。
 依頼の報告を放り出してどこかへ消えるような人ではないのだ。
「……どうかしたのか、トール?」
 やや眉をひそめて、険しい顔をするトールのことが気になって、何となく結月 沙耶 (p3p009126)は声をかけた。
「向こうの世界からの私の友人が行方不明なそうなんです」
「それは心配だな……」
「あら、それは気がかりな情報なのです」
 その話を聞いてLily Aileen Lane (p3p002187)やルトヴィリア・シュルフツ (p3p010843)も顔を出す。
「こんにちは、情報屋さん。その人が最後に目撃された所って分かるのです?」
 Lilyが情報屋に問えば、彼女は少しばかり考え、何やら情報を整理しているように見える。
「……天義のこの地方ですね」
「……ここは?」
「天義の一角にある聖域と呼ばれていた場所の1つです。
 何でも遠い昔、その辺りには神の恩寵を与えてくれる霊樹が存在していたとか」
「……胡散臭いですね」
 思わずルトヴィリアが言えば、情報屋は少しだけ苦笑したように見えた。
「そうですね。実際、多くの人は胡散臭いとか、そういうものには頼らないだとか言って近寄らなかったようです。
 残念ながら、欲に駆られた人間いうのは出るもので……利用され続けた霊樹を保護する名目で現在は閉鎖され、そのまま放棄されたようです」
「気になるな……遂行者の連中が目を付けそうなものだ」
 ぽつりと沙耶が言えば微かな緊張が走る。
「そうですね、言ってみましょう。もしも、遂行者に目を付けられていたら……」
 トールはぎゅっと拳を握り、
「では、こちらで他数名を募集しておきましょう。
 皆さんは今から出発してください」
 情報屋がそう言ってくれたのを聞きながら、4人はローレットを後にして聖域へと向かって行く。

●女王は至らず
 聖域と呼ばれるだけあり、件の領域は不思議な空気に包まれていた。
 常に何かに――あるいは誰かに見られているかのような、空間全てが警戒しているような、そんな気配が辺りを包んでいる。
 それでいてどこまでも澄んだ空気と木々の生む木漏れ日は穏やかな温かみを伝えてくれた。
 一歩一歩、一同は進む。
 そこは聖域の中心、天を衝くハシバミの霊樹があるはずの場所。
「……やはりどこにもないか」
 声がした。
 合流した4人を含めた8人のイレギュラーズの間に、ピリリとした緊張が走る。
 ぽっかりを開いた空間、大樹のあるべき場所に少女が一人、立っていた。
 キラキラと木漏れ日に輝く美しき銀色の髪、木漏れ日さえも包み込むようなしっとりとした黒のドレスが目についた。
「……何者です!」
 トールは思わず声をあげながら声の主を視界に抑えた。
 ここに先客がいる――それ自体に違和感があるがゆえに。
「貴女がシャルールさんを連れ去ったんですか?」
「――うん? なんだ、聞き覚えのある声だな」
 そう言って少女は振り返る。
「――トール?」
 思わずそう声に出したのは沙耶だった。
 ぱっちりとした天色の瞳が、こちらに向いた。
 目鼻立ちも、何もかもトールとそっくりな――けれど明確にトールではないと分かる少女がそこにいた。
「誰かと思えば、私の近衛騎士ではないか」
 そう言いながら、彼女はそっと腕を組んで悠然と笑っている。
「――女王、様……?」
 トールは声を震わせる。
 自分よりも遥かに小さな少女、正面に立つだけでその少女は大きく見える。
「……ねえ、女王陛下ってことは、偉い人なの?」
 Lilyはこそりとトールの隣に酔って声をかけてみる。
「それに、先程、私の近衛騎士と」
 ルトヴィリアもそう言えば、トールは2人へと頷くものだ。
「……私の元の世界での主君です」
「まぁ、色々あって少し前に女王は止めた。だからここにいるのはただのルーナ=フローラルナだ。
 そちらも好きに呼ぶといい」
「辞めた!?」
「異世界でいつまでも女王を名乗っているのもつまらんだろう」
 絶対的な自己への自信を感じさせる笑みさえ浮かべてルーナは言い放つ。
「……ところで、その、トールの主とやらはなんでこんなところにいるんだ?」
 沙耶が問えば、ルーナは不思議そうに首を傾げた。
「それは此方の台詞だな。キミ達こそ、どうしてこんな何の変哲もない森に来てる?」
「シャルールさんが、この辺りで行方不明なんです」
「……シャルールとは、ぺロウの、シャルールか?」
 トールが言えばルーナは少し驚いた後、何かに得心したように顎に手を当てて何かを考え始めた。
 ――その時だった。
 不意に、ルーナの真横、空間が裂けた。
「女王様!」
 思わず、トールは飛び出していた。
 空間の裂け目とルーナの間に割って入れば、空間の向こう側に絢爛とした舞踏会が見える。
 そして、舞踏会の向こう側から、こちら側へと何かが顔を出す。
「――ほう」
 後ろでルーナが感心したように声をあげる。
「そう言えば、今この国は冠位とやらの攻撃を受けているのだったな?」
 感心し切りな様子でルーナが言う。
「――全く、混沌というのは退屈しない。そう思わないかトール」
「そんなことを言ってる場合ですか!? 何か、来ます!」
 それは騎士だった。
 白い燕尾服に身を包んだ王子様然とした騎士と、赤いネクタイの燕尾服を着た騎士だ。
 彼らに連れられて姿を見せるのは、まるで貴族の子息令嬢を思わせる装いの人々――だろうか。
 瞬く間に変じるそれらは、赤き騎士の効果で変じた炎の獣に他なるまい。
「預言の騎士――」
 だれかが声をあげる。
「――む、おい、トール」
「なんですか、この状況で!」
「あの白騎士が持っている旗、あれは壊すな」
「え!?」
「あれはハシバミの枝だ、それもどうやらまだ綺麗なものに見える。あれの為に私はここまで来たんだ」
「――分かりました!」
 骨身にまで染みた上下関係のせいか、思わずそう叫んでいた。
「なに、多少は手を貸してやらんでもない。その代わり、私は守れ。私はか弱いんだ」
 そう語る背中、AURORAの輝きが感じ取れた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう

●オーダー
【1】預言の騎士の撃破
【2】ハシバミの枝の確保

●フィールドデータ
 天義に存在する聖域の1つです。
 周囲全周は森に囲まれ、美しくも緊張せざるを得ない空気感が辺りを包みます。

●エネミーデータ
・預言の白騎士
 白馬に跨り、ハシバミの木の枝を旗にした物を握ります。
 戦場に存在するだけでエネミーを強化するバッファーです。
 その他、旗を輝かせて神秘攻撃を試みてきます。

・預言の赤騎士
 汗血馬に跨り、燃えるような赤いネクタイと焔を纏った燕尾服姿の騎士です。
 人々の姿を炎の獣へと変化させ、滅びのアークを纏わせた『終焉獣まがい』の存在へと至らしめます。

 武器は穂先が燃えるように輝く槍。
 近接戦闘を主体として、貫通や扇などの範囲攻撃を駆使します。

・炎の獣×10
 赤騎士の能力で変化した炎の獣、雑魚枠です。
 元々は神の国にて作られたゼノグラシアンたちと思われます。
 貴族の子息やご令嬢を思わせる姿をしており、剣による物理戦闘、魔術による神秘戦闘を行なってきます。

●友軍データ
・『AURORAの女王』ルーナ=フローラルナ
 美しい銀色の髪と天色の瞳をした女性、トールさんとそっくり。
 元の世界でトールさんに女装を命じた張本人であり、トールさんの嘗ての主君。
『停滞を受け入れず、変化を受け入れる』という理念を掲げた正真正銘の女王様。
 デレない媚びない上から目線な傍若無人で超自信家なサディスト。

 魔砲系列を思わす超高火力の神秘アタッカーです。
 攻撃力全振りかつ肉体自体は普通に一般人程度。
 固定砲台としてはかなり信頼を寄せることができますが、守りは紙どころの話ではありません。
 頑張って守りましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <信なる凱旋>シンデレラは遠く、女王はキミを想い完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年09月26日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
※参加確定済み※
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
※参加確定済み※
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
※参加確定済み※
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女
※参加確定済み※
若宮 芽衣子(p3p010879)
定めし運命の守り手

リプレイ


 預言の騎士達の向こう側、空間に開いた裂け目は瞬く間に閉じていく。
 その動きは人によっては舞台に幕が下りるように見えたのかもしれない。
 動き出す赤と白の騎士達と、多数の炎の獣達。

(なるほど、あの方がトールさんが仕えている女王様か。
 確かに高貴なオーラを漂わせているな。振る舞いも上品だ)
 それらの出現に微塵も怯えることなく対する女性を見て、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はそんな感想を抱いていた。
「では御所望のハシバミの枝を、私たちが献納いたしましょうかね」
 大地を蹴り、モカは一気に駆け抜ける。
 白き騎士を刈り取るように足を払う。
 防御体勢を取るように騎士が旗を動かしたその刹那に、軸足を入れ替えて開いた空間へと飛び込んだ。
「どうした、トール」
 後ろから声が聞こえる。
 懐かしい声を聞いていると、ようやく『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)にも実感がわき始めていた。
「本当に……ルーナ様が混沌に……僕の目の前にいる……!」
 間に合わせの長剣を握り締めて、溢れそうになる目頭を抑えた。
(トールの敬愛する女王、か。
 それはまた……いいとこ見せたいだろうな、トール?)
 そんな様子を『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)はどこかドギマギするような様子で見ていた。
 2人の間には沙耶の知らぬある種の信頼関係のようなものが見える。
「大丈夫だ、私もいる。一緒にいいとこ見せようじゃないか。……シャルールも気になるしな!」
 改めてそう声をかけると共に沙耶はカードを白騎士とその周囲へ投擲する。
 無回転のままに真っすぐに突き立ったカードはそれ単体では傷をつけることは不可能なれど、印象を付けるには十分だ。
「トール=アシェンプテル、闘志全開で近衛騎士の務めを全う致します!」
 沙耶の言葉に頷くようにしてトールは背後の主君へと宣言するのだ。
「当然だ」
 静かな答えを聞きながら、トールは自らに加護を降ろす。
 その態度が改めて背中に負う人が彼女であることの証明に聞こえて、また熱を帯びる目元を抑えながら深く呼吸をして剣を握り締めた。
「――砲撃開始なのです!」
 空高く、静かにそう声をあげたのは『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)である。
 四連装のガトリング砲とマイクロミサイルランチャーから放たれる過剰なまでの大量砲撃が空より降り注ぐ。
 弾幕を浴びせあられた赤騎士が激情の声をあげた。
「ルーナさんはトールちゃんのご主人様という事らしいですね。
 ここは共に難局越えと行きましょうか。援護します」
 ルーナへと声をかけながら『春色の砲撃』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)は炎の獣達へと一斉に銃口を向けた。
「良いだろう、丁度いい。
 科学と魔法を融合させた極光式二連多目的超火力破砕炮の実戦テストに付き合ってもらうぞ」
 そんなノアに合わせ、ルーナが背に負うオーロラに輝く砲身らしき物を敵の方に向けた。
「――先手必勝です」
 静かにノアの告げた刹那、12の銃口から放たれる魔力砲撃が数多の炎の獣を焼き払う。
「馬に乗っている以上、馬が傷つけば落馬するはず――」
 閃光が戦場を焼き、放たれる砲撃は真っすぐに観血馬の足元を撃ち抜いた。
 生まれた衝撃の反動に黒衣がはたはたと波を打つ。
 そこへルーナの砲撃が改めて重なり、余韻の極光が燐光を瞬かせて消えていく。
「枝は壊さず確保しろって? 簡単に言ってくれるね、まったく」
 要請を受けた『天翔の鉱龍神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は小さく呟きながら既にその本来の姿を露わにしていた。
 鉱龍は一気に敵陣を貫いて白騎士へ向けて飛び込んでいく。
「面白いものを見た」
 などというルーナの声が後ろから聞こえてくる頃には、その姿は既に白き騎士の目の前にある。
 籠められた念が流体金属を刃に変えて、一斉に動き出す。
 13もの刃が放つ斬撃は檻の如く確実にその斬撃を刻む。
 その内の一本がくるりと旗を捉えた。
「――そんなにこの旗が欲しいのですか?」
 短く、白き騎士が笑う。
 次の瞬間には眩い光がェクセレリァスの身体を焼いている。
「ちぃ、忌々しい女だ」
 舌を撃った赤き騎士は、苛立ちを露わにLilyを見上げていた。
「降りて来い!」
 ギラリとした怒りを向けた男は八つ当たりとばかりに槍を振るう。
 保護結界を張り巡らせながら『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)はルーナの方、正確にはその砲身たる結晶を見ていた。
(……あの結晶と籠ったエネルギー、なんだかちょっと親近感ですねえ。
 トールさんの縁ある人らしいですし、まあサクッと手伝いましょうか)
 張り終わる頃、ルトヴィリアは既に術式を展開し終えている。
「赤々と燃えていようが、我が罪の火に飲み込まれるのみですがね!」
 握りしめた触媒たる刃が熱を帯びる。
 既に肉薄は終え、翳した手から放たれる術式は赤き騎士を絡め取る。
「私の名前は『若宮芽衣子』。展開するは『唯続けられる運命の円環連鎖』
 不終の完全性のエキスパート……なんて、イマは大それたモノ名乗れないけど。
 ──一つのモノを、『保存』することくらいならできる」
 静かに名乗りを上げた『定めし運命の守り手』若宮 芽衣子(p3p010879)は手を伸ばす。
 伸びていく運命の鎖。
 浮遊する鎖は波を打ちながら白き騎士の握る旗へと迫る。
 それは奇跡の産物、奇妙の設定の一致。
 掴みとるべきはただ一つ。
(ホントなら野史にしかいられない私たち。
 だけど現実として──私達はこの世界に『正史』として受け入れられた。
 故に文と文の隙間、第四の壁を超えた先、物語の欄外より来る私の、鎖)
 伸ばした手にそれはまだないけれど、そうすることは決めている。
(トールちゃん、お母さんにいいところ見せてあげて)
 俯瞰した意識の中で、芽衣子は胸の内で思いを馳せながら、トールの背中をほんの少しだけ押した。


 イレギュラーズの作戦は上手く行ったとは少しばかり言い難い面もある。
「機動力ならそうそう負けはしないぞ……!」
 言いながら舞い上がったェクセレリァスの手には旗が握られていた。
 戦場を動き始めた白騎士が芽衣子へと肉薄する最中、上空から滑空するままに掠め取り、くるりと体勢を立て直す。
「私の飛翔をその目に焼き付けて散れ!」
 周囲へと展開したワームホールへと一斉に撃ち込んだ触手で白騎士を殴りつけていく。
「ほかの方はともかく、あたしはくたばりにくいのでどんどん巻き込んでくださいな。死ぬほど痛いけど」
 ルトヴィリアはルーナの近くにいた。
「私がまだ女王だったのなら、キミに褒美をやっただろうな」
 腕を組んだままにそう答えたルーナの隣、ルトヴィリアは魔術を励起させる。
 それは普段の全てを焼き流すような黒い炎とは違う、優しい火種。
 周囲を包む再生の炎は優しく傷を癒していく。
 芽衣子がそんな中で触手の一本から旗を受け取ったことは白騎士には気付かれていない。
「トールちゃんの為になるならね」
 それは戯れにも似た行いで――けれど続ければ習慣に違いなく。
 習慣は終わることは無い。
 ハシバミの枝たる杖を鎖が絡め取り、その形を保存する。
「確保できたのなら、加減する必要もないな!」
 モカは一気に飛び込んだ。
 峻烈の蹴撃は圧倒的な手数と多種多様な連撃を描く。
 その脚が動きを止める頃には、白騎士の身体は黒い靄となってボロボロと綻び、消滅していた。
「負けただと? つまらん男だ」
 騎士が声を荒げる。
「どうした、白騎士がいないと勝負できないのか?」
 沙耶は敢えて赤騎士の神経を逆なでするように笑って言えば。
「なめるなよ!」
 激情を露わに赤き騎士が汗血馬のふとももを叩いて飛び込んでくる。
「そんな槍捌きで私を捉えきれると思ってるのか?」
 連撃を回避しながら、沙耶の視線は赤き騎士の姿を見据えている。
「――近衛騎士として、恥ずかしい戦いは出来ません!」
 闘志を燃やすトールが赤騎士の下へと肉薄する。
 間に合わせの剣なりに振り払う斬撃は必中の闇撃。
 肉薄に気付かなかった騎士の槍が動き出すよりも前に振るった斬撃は強かに赤き騎士の身体を切り裂いた。
「今度は手加減する必要なさそうです」
 地上へと降り立ったLilyは棺型のコンテナを両脇に置いて、一気に弾幕をぶち込んでいく。
 下手をすれば聖域その物が木っ端みじんに吹き飛びかねない超火力が直線上を吹き飛ばさんばかりに駆け抜ける。
 しかしそこは保護結界に護られた聖域。放たれた砲撃は確かに敵陣を薙ぎ払う。
「随分面白いものを見せてくれる」
 感心しながらルーナが再び極光の砲撃を戦場に奔らせた。
 炎の獣を吹き飛ばす砲撃がまたも聖域にキラキラと煌いている。
「魅せてくれますね……!」
「キミこそ。戦闘スタイルも呼吸も合うな」
 ノアがルーナへと言えば、静かにそんな返答が返ってくるものである。
「では、このような手はいかがでしょう!」
 次の一手、12の銃口が狙うは赤き騎士の馬。
 放たれた魔砲が再び赤き馬を撃ち抜いていく。
 風穴の開いた馬がゆっくりと倒れ、そのまま黒い靄になって消えて行った。


 戦いは終わる。
 全ての敵は黒い靄となって世界に融けて消えて行った。
「安らかに……」
 Lilyは目を閉じて小さく祈りの言葉を捧ぐ。
 それに続く形で一同はひとまずの祈りを捧げておく。
「ルーナ様、ずっとずっと再会を願っておりました……」
「……そうか。キミの活躍は風の噂には聞いていたぞ」
 片膝をついて臣下の令を取ったトールが頭を垂れるままにそう言えば、短くそんな答えが返ってくる。
「AURORAも、輝剣も機能不全に陥ったようだな」
「……申し訳ありません」
「それだけ激戦だったのだろう。それに武器であれ何であれ、消耗品である以上、いつかは壊れるものだ」
 思わず顔を上げれば、天色の瞳が重なり合う。静かな女王の瞳は何を考えているのだろうか。

「……何もないように見えますねえ」
 首をかしげながらもルトヴィリアは亀裂の生じた付近へと使い魔を差し向けた。
 見えないようになっているのか、消えてしまったのか。
「入らないように、帰って来れなくなりますから」
 そう指示こそ与えども、向かった使い魔たちも不思議に首を傾げ、ルトヴィリアの下へと帰ってくるばかり。
「本当にないか、確かめてみましょう。
 何かしらの反応が在ったら今後の依頼にも役に立つでしょう?」
 そう言ったLilyは既にミサイルランチャーから砲弾をぶっ放していた。
 裂けめのあったはずの位置へと炸裂したそれらの弾丸はただ爆炎と土煙を巻き上げる。
「リリーさん!?」
 驚いたトールの横で面白そうに微笑んでいるのはルーナである。
「面白い娘だな、トール」
「……!」
 Lilyはその様子に気付くと、さっと片足を斜め後ろに引いて所謂カーテシ―のポーズを取ってから。
「私の名前はLily Aileen Laneと申します。名が長いのでリリーと覚えて頂ければ幸いです」
「あぁ、覚えておこう。私の自己紹介は……先程ので大丈夫だろうか」
 そう返されたLilyは内心に目の前の少女のように見える女王に思うところがあった。
 対するルーナはまるで気にも留めていない。
 気づかれてないわけでもなさそうだが、辞めたとはいえ女王、向けられることに慣れているのだろうか。
(裂目を攻撃できるわけではない……不可視、というわけではないようですね)
 ルトヴィリアはLilyの砲撃を受けてもびくともせぬ状況にそんな推測を立てている。
「空間の裂け目から見えた場所……あれは間違いなく私が元の世界で立ったシンデレラ・ステージの会場です。
 元の世界に通じる裂け目……?」
「それはないだろうな。そもそも、元の世界ならばいるはずもない存在もいただろう」
 首をかしげるトールに対してそう答えたのはほかならぬルーナであった。
「それじゃあ……あそこは一体?」
「……帳、とか」
 そう首を傾げたトールへ沙耶が口を開く。
 何もない空間、ここに会ってそこにない状況。世界の裏側の如きその所業。
 それが該当する状況は冠位の攻撃を受ける今の天義であれば容易に想像の付く事態だ。
 沙耶はそんなトールの横顔を見ながらほんの少しばかりぽぅと顔を赤らめていた。
「帳……だとしたら、シャルールさんは……何かに巻き込まれた可能性が……?」
「……心配だな」
 少しだけ険しい表情を浮かべるトールに沙耶は頷いてみせる。
 そのままトールを励ましながらその隣をしっかりと確保していた。
「それなら、ここにあるべきハシバミの霊樹は……」
 トールが思わずそう口を開けば、それに答えたのはェクセレリァスだった。
「帳なら構築するのに聖遺物が必要なはずだ。
 多くの人々を助けようとしていた霊樹なら、それその物が聖遺物だとしてもおかしくないはずだよね」
 ェクセレリァスはちらりと何もない空間の方を見てながらぽつりとそう告げた。
「帳だとしたら、ほいほい突入するのは危険だよなぁ。この先は敵地だろうし」
 既に息を潜めたそこにはぽっかりと開いた空間があるだけだった。
「……世界が変わっても女に囲まれているな。そういう星の下にでも生まれたのか?」
「フフ……良いコンビだろう」
 モカはルーナの様子に気付いてふと声をかける。
「あぁ、そのようだ」
「申し遅れました。シェフをやっております、モカ・ビアンキーニと申します」
 ルーナが静かに頷いた所でハッと気づいて、モカは会釈をしつつルーナへ改めてそう自己紹介をすれば。
「私も異世界から、この混沌世界へ呼ばれた者でございます」
「それは興味深いな。シェフか。そこではどんな食事を提供しているのだ?」
 ルーナはモカを見て驚いた風もなくそう頷いた。
「機会が有れば、私の店にお越しください」
「あぁ、機会が有れば伺おう」
 そっと差し出した名刺を受け取ったルーナはそのままそれを懐へとしまったのを見て、こっそりとガッツポーズをするものだ。
 ふと視線をあげれば、ルーナが沙耶の方を見ているのに気づく。
 その視線は特に彼女の髪の一箇所を見ているように思えば、ふむ、と何かを考える様子を見せた。
「……これだけ女に囲まれていれば特別な女の1人や2人もいるか」
 トールを見る目はどこか『主君』と呼ぶのとは異なる色がある――ような気がした。
「ルーナさん、でしたっけね」
 ルトヴィリアはふとルーナへと声をかける。
「無事に確保も出来ましたが、その枝を何に使うのでしょう?」
「――少しな」
 腕を組み、少しだけ考えた様子を見せたルーナは瞳を開いて短くそう答える。
(……トールさんに関係があることでしょうか?)
 その視線がトールの方に向いていたことに気付いて、ルトヴィリアは小さく首を傾げた。

 その後、これ以上の調査を続けても折角の聖域が結果的に荒れてしまうと判断したイレギュラーズは撤退を予定しつつあった。
「ねぇ、トールちゃん」
 ノアはその最中にトールへと声をかける。
「なんでしょう、ノアさん」
 微笑ましげに笑う表情は揶揄うつもり満々だ。
「彼女がトールちゃんのご主人様なのね? それにトールちゃんに負けず劣らずの綺麗な人ね」
 ふふふ、と笑うノアが揶揄っているのにはトールも分かる。
「素敵なご主人様に仕える女騎士みたいでカッコよかったわ?」
「ありがとうございます。ルーナ様の騎士である事は私にとって最高の誉れです」」
 ついにはニマニマとした笑顔に変わってノアが言えば、少しばかり驚いた様子を見せたまま、トールははにかむと、そう言葉を返した。
「――本当に、変わらないな」
 そんなルーナの呟きが静かに風にさらわれていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

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