シナリオ詳細
<渦巻く因果>レイピア
オープニング
●魔王軍からの依頼
その日のプーレルジールはかつてない程に血生臭いものであった。
発端はこの世界の魔王軍がイレギュラーズに平和的解決を何一つ望まない交渉を持ちかけてきた事に遡る。『獣王』ル=アディン、『闇の申し子』ヴェルギュラ、『骸騎将』ダルギーズ、『魂の監視者』セァハからなる魔王軍四天王は混沌世界をも手中に収めんと、この世界と混沌世界を繋ぐ鍵であるイレギュラーズを一方的に利用する算段である。
「我々はこの世界を滅ぼし、混沌世界へと渡航する事に決めた。選ばれた世界の住民達しか『混沌世界』に渡ることが出来ないのだ。滅びに抗えるお前達を捕え混沌に渡る手助けをして貰おうか」
その交渉はこちらの返事などお構いなしの強要としか言いようがないもので、突っぱねる事そのものは容易であった。見ず知らずの悪党に手を貸す奇特な人物は流石にローレットの名簿にも乗っていないだろう。
それでは、この傍若無人な四天王はいかにして手助けを行わせるのか。答えは魔王軍らしいシンプルなものとしてプーレルジールに体現した。
「な、なんだこの数のモンスターは! いくら何でも多すぎるぞ!」
「泣き言いってねえで戦闘用ゼロ・クールを出せ!」
アトリエ・コンフィーからそう遠くない場所にレムリアと言う村がある。比較的穏やかな地に根ざしたこの村は人口も多く、モンスターの襲撃に関しても通常の範囲であれば返り討ちにする戦力を有している。アトリエに住む魔法使いの恩恵を受けやすく、戦闘用ゼロ・クールを拝借されているにも関わらず現在直面している襲撃には苦しい戦況が続いている。
森のモンスターが村に出張ってきたという規模ではない。無秩序な虐殺でありながら統率が取れている襲撃者は魔王軍の指令を受けたものたち、終焉獣で構成されている。
レムリアを襲っている終焉獣は主にインプと呼ばれる餓鬼のような姿をしたものが多かった。多少の飛行能力を有しているが、鋭い爪で斬り裂く事しかできない下級モンスターである。
しかし、レムリアの村人や配備されているゼロ・クールは迎撃性能に乏しかった。腕利きの猟師を始めとする村人たちがロングボウや投石で応戦するも、こちらに真っ向から殺し合いを挑んでくる魔物相手には善戦しているとは言い難いものであった。
ゼロ・クールの頑強さで持ち堪えてはいるものの、このままでは全滅が必至だろう。
●アトリエからの依頼
「というわけでじゃ、お主らを呼んだわけ。急ぎの仕事じゃから茶は出ないぞ」
「ルグィン様のお手伝いをされる方々ですね。わたくしはLB01号戦闘型ブロードソード、こちらにお茶を用意致しました」
アトリエ・コンフィーの一角にイレギュラーズは呼び出された。ルグィンという魔法使いからレムリアの救援に向かって欲しいという依頼を受けた訳であるが、この騒動は勿論イレギュラーズの耳にも入っている。いち個人から呼び出されるとは思ってもいなかった。
「わかるぞい、このレムの実は絶品でな。茶と一緒に味わうと」
「レムリアはここより西に向かった先にある友好的な村でございます。ルグィン様はレムリアに戦闘用ゼロ・クールを寄贈すると共に特産物であるレムの実を享受されておられます」
その主人とゼロ・クールは全く息が合っていなかったが、ゼロ・クールはプログラムされた存在である。これはルグィンが仕込んでおいた茶番なのだ。自分で説明した方が早いような気もするのだが、ゼロ・クールという存在に出会ったばかりのイレギュラーズへのサービスめいたものなのかもしれない。
「よし、ここからはワシが説明する。お前は茶でも飲んでおれ」
「システムエラー その命令を実行できません 問題が解決しない場合は管」
ルグィンが急にシリアスな表情へと変わる。元々がひょうきんな人物であるため普段の1.3倍程度の真剣さしか感じないのだが、レムリアが襲われている事にはまともな対応を見せた。
「レムリアのインプについてはお主らがバーンってやってズバーで大丈夫じゃ。このクソ忙しい時にお主らをわざわざ呼び止めたのはワシの専門分野、ゼロ・クールにある。どうもアイツらの挙動がおかしい。ワシの読みではあの魔王軍とかほざく奴らのダークスーパーパワーで操られているのではないかと思うが、どうじゃ? ダークスーパーパワーは仮の名前じゃから後で良い感じのに変えるわい!」
この老人は何を言っているのだろうか。しかし、ゼロ・クールが寝返っているとなるとますますレムリアが危ない。ダークスーパーパワーは忘れるとして、こちら側からシステムの停止を行えないとなればゼロ・クールのコアを破壊するしか方法はないとルグィンはきっぱりと言った。
「レムリアまではわたくしがご案内します。また、戦闘のサポートを行う事が可能です。ダークスーパーパワーで操られていると仮定したゼロ・クールはLB02号戦闘型レイピアと推測されます。レイピアはルグィン様が製造された戦闘用ゼロ・クールです。この回答はお役に立ちましたか?」
ルグィンはその後、自分の机へと向きを変えて黙り込んでしまった。
自身の言い放った対処法に、若干の悔しさがにじみ出ていた。
- <渦巻く因果>レイピア完了
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月20日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●道中
「ロッソ殿ー! お久しぶりです!」
『忍者人形』芍灼(p3p011289)が元気な声でLB01号戦闘型ブロードソードと再開を果たす。このゼロ・クールの製造者はもう少しだけエキセントリックな略称、又は愛称を付ける予定であったが、芍灼に先を越された形となっている。
「お久しぶりです芍灼様。前回お手伝い頂いた日からおよそ27日が経過しています。明確な定義を行う事はできませんが、これは様々なデータの平均値から久しぶりと言っても良いでしょう」
「おう、相変わらずのポンコツっぷりだな。それで今度はロケットパンチの代わりにターミネイターカノン? 付けてもらったのか、そうかそうか。……絶っ対に今度は撃つ前になんか言えよ!?」
『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は何か苦い思い出があるようで、ロケットパンチや射撃許可についてあれこれと指示をするキドーに対し『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は何やら理解不能なホイップクリーム構文で揶揄し、『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は依頼者から飛び出てきたダークスーパーパワーという単語も相まって先行きの不安を感じている。
「――愉快な悪魔とお人形ごっことは! 汝も不可思議にして混沌の経験をしたと見える! Nyahahahaha!!!」
「ともかく、だーくすーぱーぱわーの真相は置いておくとしても、破壊するしか方法が無いというのは悲しいものですね……」
流れはキドーに一任されるように進む。そう、だいたいキドーが子守りをするだろうと安全な位置を確保しているのである。
「はい、私は絶対に撃つ前に何かを言う事ができます。しかし過去の類似パターンとして強い行動制限は前フリという形でデータがあります。これは古来のコメディアンを参照されているようです」
「何を撃つのか知らねえが雑魚の殲滅なら任せときな。素人の一発なんざ期待しちゃいねえよ」
『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がクラシカルなライフルを整備しつつ言い放つ。見た目こそ古めかしい長銃はその筋の者が調べるとよく手入れされており、原型から大きく改造された第一線級の火器である事が見て取れる。
「しかし俺も秘宝種の知り合いは多いからゼロ・クールをあまり無機物、敵として扱いにくいかな……。そう考えるととてもやりにくい依頼だけど、今は他に方法がないよね」
『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が今回のターゲットの一つであるゼロ・クールに触れる。レムリアを蹂躙している襲撃者は魔王イルドゼギアの配下、モンスターだけではない。敵に利用されているであろうゼロ・クール、魔法使いルグィンの製造したLB02号戦闘型レイピアが特異点となっている。
「人間でも狂気に陥って強引に止めるしかない時がある。ゼロ・クールもそうであっても、誰にも何の非も無い。悪いのは寄生や暴走をさせる敵だ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は物事をややこしくさせている要因、終焉獣に強い敵意を抱く。感情のない機械であろうともこのような悪事に加担させて良い訳がない。『神をも殺す』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)もそれに頷き、一同はレムリアを目指す。
「到着はどうしても遅れてしまうけど…まだ間に合う! ワタシの両手で拾えるものには限りがあるけど……」
「その質問にお答えする事ができます。持ち物を多くするには、一般的にバッグ、リュックサックや」
このゼロ・クールの扱いを理解したロジャーズはブロードソードの口にホイップクリームを詰め込もうとした
●レムリア
村は騒々しいものだった。火の手こそあがっていないものの、村中を飛び回るインプの群れは街灯に群がる羽虫のようで、視覚的な恐怖がレムリアを支配していた。
「ありゃ間違いなく三下だが、早いうちに対処しねえと被害が広がっちまうな」
「バクルドさん。向こうはまだ駄目だ、人がいる。あれは俺のドレイクが何とかするから広場の方を頼む」
ライフルが襲撃者へ狙いを定め、次々と発砲する。一瞬村人たちは驚いたが、敵に火器を扱う者が存在しない事からすぐにアトリエからの援軍だと理解された。猟銃で応戦していた者が多かった事も反応の速さに関わっているだろう。
「一般人を盾にしたとしても俺は外さねえがな。お前さんのオーダーは受け取ったぜ」
「これは立ち止まっている暇はないですね、行きます!」
ルーキスが二本の刀を即座に抜き、羽虫の群れへと猛進する。自分から向かってくる敵に面食らったインプはすぐに激怒し、ルーキスに応戦しようとする。勇敢さこそルーキスに負けていなかったものの、そこには圧倒的な技量の差があり、紙一重のような攻防は二刀流の剣士の思惑通りの展開となっていた。
「――Nyahahahaha!!! 肉の壁に群がる悪食! 其の蛮勇が心折れるまで私は其処に鎮座しよう」
「うわ」
ロジャーズは確かに村人をかばい、英雄の如き高潔な行為であったが真っ黒い何かにインプが群がる光景はフラーゴラから思わずそんな声が漏れた。放っておけば一日中だってああしているだろう、この物体と馴染み深い者は大真面目にそう答える。
「こいつも相変わらずだったわ。まァ、あの壁を使える側としちゃありがてぇけどよ」
キドーが謎に包まれた狩猟団を喚び出す。不変という点においては、この狩猟団がキドーを熱心に『スカウト』している事も同じであるが、この小鬼は聞く耳を持たない。それに関わらず狩猟団は仕事を成す。
「ロッソ殿の妹殿までの道を斬り開きましょう! いざ!」
「ERROR LB02号戦闘型レイピアは私の妹ではありません。レイピアはルグィン様が私の次に製造されたゼロ・クールです。ゼロ・クールは魔法使いによって」
芍灼は別の意味で苦戦を予感する。とりあえず妹で間違いないと誰もが思う所であるが、このゼロ・クールはとことん人間的な感性が欠落しているようだった。何と説明するべきか、彼女の忍術の引き出しが試される。
「なかなか個性的な友人だね。それと、大半はもう怖気づいてるようだ」
ヴェルグリーズが鞘を向ければ何処からともなく放たれた無数の弾丸がインプを貫く。地の利はインプ達にあったはずだが、イレギュラーズは器用にインプのみを討ち、逃げ惑う村人などは安直な人質にすらならなかった。小賢しく利用しようにもイズマのドレイク『チャド』に運ばれた後である。ドレイクに運ばれている村人は、インプに襲われている時より悲鳴が大きく、イズマにそのコーラスを評価させるならば赤点が出るだろう。
「こんなのはワタシ達の相手じゃない……問題は……!」
フラーゴラがインプを粉砕し、唯一イレギュラーズに地上戦を仕掛ける敵LB02号戦闘型レイピアを睨んだ。
●レイピア
そのゼロ・クールはブロードソード同様に修道服を纏っている。これも恐らくはルグィンの趣味によるものが大きいが、簡素なデザインで量産が容易でありながら最低限の人間性を与える狙いがあるようでもあった。
「キミがレイピアだよね、悪いけど俺たちはキミを倒さなければならない」
「はい。レイピアは機能を停止する事ができます。オフラインモードを有効にするには管理者の承認が必要です」
ヴェルグリーズが接触を試みればレイピアは其の名の通り細剣を真っ直ぐに構える。旅人や高名な剣士であれば見覚えのある構え、異国で猛威を振るった細剣術である。
「Nya……? 機能を停止する為に上位存在への接続が必要とは珍妙なる機械人形よ! 応答は如何に?」
「ああいうやつなの。しかし気を付けとけよ、ありゃ下手に踏み込むとグッサリいくぜ」
キドーが面倒くさそうにそれを観察する。武器のリーチや目的を最大限に活かした、古風にして極めて危険な構えだ。
「どうせ胸あたりにコアがあるんだろ? 絶対にこちらに正面を向けてこねぇ」
バクルドが仕事を片付けるべく照星を合わせるも教科書通りの歩法で角度をずらされる。融通の利かないポンコツ会話をするくせにこちらの殺意にはそれこそ機械的な反応速度を見せる。厄介な相手だとバクルドは舌打ちし、不意打ちは諦めるに至った。
「操られているという話だったがそう姿を見せてくれる相手でもないか」
「終焉獣、それだけを狙ってもダメそうだよね……」
イズマとフラーゴラがじりじりと距離を詰める。踊るように剣先を向けるレイピアとの距離は近いようで、その武器が持つ死の間合いがそれを途方もない長さに感じ取らせていた。
「レイピアを射程に捉えました。滅殺破壊砲の準備が整っています」
「ダメダメダメ。お前はじっとしとけ、な! イズマが言ってただろ、お前も何か操られるかもしれねぇからお留守番。ステイ、ステイ」
キドーがブロードソードの腕に取り付けられた銃身に指を突っ込む。下手をしたらそのまま撃たれるかもしれないが咄嗟に指が出てしまった。
「復唱はありがたい。完全に仕留めるまでブロードソードさんも危険だからな」
「ねぇ俺の身の安全は!?」
ルーキスが瞬時に飛び込む。レイピアは無表情で目元を狙い突きを繰り出すが、ルーキスはその勢いのまま屈む事で回避し、無理な体勢で諸刃の秘技、鬼百合を繰り出す。ほぼ人間の限界を超える動きに身体が悲鳴をあげる。それを承知の上で行われる殺人刀法はレイピアの上半身と頭部を捉える。生身の人間であればこれだけで勝負は決まるのだが、眼前のからくり人形は声一つあげる事もなく踏み止まり、次なる死の突きを準備している。
「くっ……そう甘い相手ではないようですね!」
「あれはワタシも受けたくないな……! アナタの外殻とワタシたちの濁流のような猛攻撃、どっちが強いかな…?!」
フラーゴラが炎の花吹雪でルーキスを援護する。レイピアは細剣を円を描くように振り、それを振り払う。修道服の一部に火がついたが耐燃性の処理が施されているようであった。
「火災を確認しました。適切な消火プロセスを踏む事をおすすめします」
「火災を確認しました。適切な消火プロセスを踏む事をおすすめします」
ブロードソードとレイピアの声が被る。芍灼はそれに対して絶対に姉妹説を推す所だが、ここでそれを突っ込もうと妹の方からも反論される事が目に見えている。姉も敵に回るのだから忍術では対処できない窮地にある。
「……やはりゼロ・クールを別の形で救う事はできないのでしょうか。それがしはイレギュラーズを諦めない集団と捉えており、それがしも諦めが悪いのでございます」
混沌世界において狂気に囚われた人間は、程度の差があれど要因の排除で処置できる事もあった。プーレルジールに渡っては一度もそのような事例を確認できていない。ゼロ・クールのコアを破壊するという唯一の対策は芍灼の心に影を落としている。
「はい、ゼロ・クールLB01号戦闘型ブロードソードはサポートを行う事ができます。どのようなお手伝いが必要でしょうか」
「悲しい生き物だ。せめてコアだけでもルグィン殿の所へ連れて帰ろう」
ロジャーズにホイップクリームを詰め込まれて口を塞がれているブロードソードを横目に、ヴェルグリーズは流星の構えをとる。細剣の速度を上回る最速の剣術、突きよりも速く第ニ、第三の太刀を繰り出さんと。
「キドー殿、こちらとしても速度を緩める余裕はない。申し訳ない」
「へっ! 同士討ちなんてダセェ死因は墓場がお断りしてんのよ」
ヴェルグリーズとレイピアが打ち合う剣嵐の中にキドーも飛び込む。3つの死の軌跡が容赦なく飛び交うが、未だ誰一人として致命傷を与えれずにいる。キドーの召喚する邪妖精も加わり、場は混迷を極める。
「全く若造どもは体力が有り余ってる事で。ちょろちょろ動かれると狙い辛いだろうが」
バクルドがライフルを仕舞う。彼の腕であればそれほど問題にもならないものであったが、彼にも火がついたのか名刀『明鏡雪鋼』を抜く。剣を嗜む者の抗えない欲求とでも言うべきか、強き剣があれば交えて見なければ気が済まないものである。
三光梅舟。息の根を止める確殺の剣はレイピアの細剣が一度をいなし、二度を受けた後に三の太刀で捉える。
「これでも効かねぇってのかい。中に何が詰まってるんだか」
「はい。レイピアは現在の損耗が34%を記録しています。レイピアの外装はプーレルジール鋼を独自に精錬した強化素材が主に使われています。詳しい主成分は閲覧に制限がかかっております」
ため息を漏らす。このお硬い小娘の珍妙な返答もあるが、何時受けたのかも理解らぬ深い刺し傷がバクルドに落胆をもたらした。
「チッ、避けきったと思ったんだが……な」
「Nyahahahaha!!! やはり我があの邪剣を受けるより活路は無い! 人知を超えし根性比べなれば我の領域也!」
ロジャーズが間に割って入り、5発の突きを真正面から受け止める。流石のレイピアもこの混沌への解答は演算する事が出来ず、人を殺すのに最適化された刺突以上のものを出す事が敵わなかった。
最初から避ける気もないレイピアの刺突は剣に生きる者にとってひどく戦い辛い物であった。こちらの剣閃に対して保身に走る事なく、躊躇なく相打ちのような形で突きを繰り出すので、バクルドにルーキスは知らずのうちに同等以上のダメージを負う事となっている。
「ロジャーズさんでも何時まで保つか、それよりも終焉獣が何をしてくるかわからない物がある。そうなる前に……終わらせてみせる!」
イズマが覚悟を決める。自身をも吹き飛ばす程の閃光、殲光砲魔神。既に戦意を失ったインプをも逃さず炭と化す強大な砲撃がレイピアを貫く。思わずキドーがブロードソードの方を振り向くが発生源はイズマである。ブロードソードは言いつけ通りステイの構えを取っている。
「マザーボードに異常が生じました。敵性存在の排除に支障をきたす恐れがあります」
「もういいんだ……! ルグィンさんをこれ以上悲しませたくないんだ。……止まれ!」
大砲の一撃でぼろぼろになった身体のままイズマはメロディア・コンダクターを振るう。指揮者として、この悲愴曲は変えねばならない。罪なき者が嘆き、悲しむだけの音律など三流も良いところだ。響奏撃、心なき機械人形へ贈る最期の鎮魂歌。
●大戦火の果て
「レイピアの沈黙を確認しました。ルグィン様からのご依頼は達成したと言えるでしょう」
「こうするしかなかったんだよね……村の状況も確認しなきゃ」
フラーゴラがレムリアを見渡す。効率的なインプの処理によって、負傷者は多いが死傷者は0と思われる。レイピアの残骸へ敵意を向けるものも存在し、プーレルジールに生きるものであれば許せない反乱だったのであろうが、ヴェルグリーズとルーキスの冷気を帯びるかのような目線によって制された。
「怪我人は俺が手当てします。だけど、あれを必要以上に破壊する事は許しません」
「あの子は家に還してあげようと思ってるんだ。手を出すなら、俺もちょっと考えるかもしれないよ」
キドーがロジャーズに突き刺さったままの細剣を引き抜く。村人からすると中々にショッキングな光景であるが、それが突き刺さったままの異形から『けーき』を振る舞われるよりはマシだろう。出血一つしていないのが更に恐ろしい。
「Nyahahahaha!!! もう赤子のように怯え、脱兎の如く避難する必要はない! 終焉なる獣は我ら混沌の物語、その1ページとなった!」
「良いからもう黙っとけって。何いってるかぜってぇ理解ってねぇから」
バクルドが帰りの馬車で一人倒れ込み、脂汗をにじませながら苦笑する。
「ハァ……ハァ……あの小娘が、老骨にここまでするかよ」
「バクルドさん、大丈夫? ワタシの治癒でよければ傷口を見るけど……」
フラーゴラが心配そうに覗き込んできた。これもまた厄介な小娘な事だ。
「いらねぇよ、安酒でも浴びせとけばこんなもんすぐ治るんだよ。いいからお前さんはレムリアの手伝いにでも行ってきな。老いぼれはここでサボっておくからよ」
「うん、じゃあ何かあったらすぐに呼んでね……」
レムリアは復興の道を辿る。
「レイピア殿は流石ルグィン殿のゼロ・クールと言うべきか、強敵でございました。それがしも酷く苦戦しましたが……無事にご遺体を回収する事ができました」
「うむ。よくやってくれたのう……お主らが何を求めているかは理解る。しかしこのようなケースはワシも初めてじゃ。できる限りの事はするが、コアの壊れたゼロ・クールが生き返るとは思わんでおいてくれ」
ルグィンはレイピアの頬を優しく撫でる。寄生獣やインプの群れを前に最期まで戦ったのだろう。役目を終えた人形を再び何かに利用する事は気が引けるものも感じたが、このままでは終わらせない。イルドゼギア四天王はこの手で討つ、ここにいる誰もがそう決意した。
「今できる事はブロードソードに戦闘データをコンバートする事じゃが、どうもこの細剣から甘い匂いがするのう……」
「はい。細剣に多少の血液付着が認められますが、主成分は赤血球であり一般的に甘い匂いはしません。ルグィン様の身体に不調がない場合、未知の成分に対し注意が必要です」
「Nyahahahaha!!!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました!
生身に対してレイピアほど恐ろしい武器もないと思うらいとでした。
GMコメント
●目標
レムリアの救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
現場に到着する頃は昼です。
レムリアは大変な事になっています
●敵
終焉獣インプ 20匹
羽の生えた小鬼です。
爪で斬り裂く事しかできません。
LB02号戦闘型レイピア
終焉獣の何かに寄生されたゼロ・クールです。
ルグィン製。とんでもなく頑強です。
●味方
LB01号戦闘型ブロードソード
ルグィン製のゼロ・クールです。感情はありませんが会話はできます。
近接兵装アングレンの大剣とターミネイター・カノン(滅殺破壊砲)を有しています。
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