PandoraPartyProject

シナリオ詳細

矜持なきエピゴーネン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●凄惨なる
 世界は終わりに近づいている。
 例えば、混沌世界に存在する大国は、ここ数年で魔のものによる大規模な攻撃を何度も受けてきていたし。
 怪物たちは、魔の影響を受けてそのゲノムを変質させた。
 おとぎ話の存在だった竜が空を舞っているところを見たというものもいれば。
 同じく、おとぎ話の存在だったはずの『終焉』でも何かが起こっているとか。
 世界が終わりに近づいている。
 この世は終わりに近づいている。
 刹那的とそしられども、しかし「今を楽しまなければ損である」――。

 幻想のスラム。いや、スラムというほど人は住んでおらず、再開発も諦められた、廃墟の集まり。そういう場所である。
 騎士たちがその廃墟にやってきたのは、数少ない住人からの通報である。特に大きな廃墟の奥に顔を向けてみれば、なんとも吐き気を催すような臭いが漂ってきた。人はそういうものを死臭と呼んでいて、つまりここには濃密な『死』が漂っているといえた。
 その廃墟に踏み込んで、腐った木造りの床を見てみれば、赤黒く変色した古い血痕と、まだ鮮烈さを保っている血痕が混ざり合っている。刃こぼれしたナイフや、まがったナイフ、或いは新品のナイフなども無造作に放り捨てられていて、とにかく、ここには生と死と、新と古とか、めちゃくちゃに混ざりあっているような気配すら感じられた。
「……隊長……」
 部下の一人が声をあげるのへ、隊長がマジック・ライトの光源を掲げた。魔力の灯りに照らされたものは、間違いなく、人の屍である。鉄鉤につるされた、無数の、人であった肉の塊だ。後ろで部下が嘔吐しているのを感じながら、隊長は口元に手をやった。
「これほど残忍な犯行は――」
 もう一人の部下が言うのへ、隊長が頷いた。
「ああ、間違いない。ジャックだ。かぎづめのジャック――」
 かぎづめのジャック。それは、ここ最近の幻想を騒がせている連続殺人犯である。
 目的は不明。動悸は不明。標的もランダム。とにかく、目につくものを片っ端から殺して、てつかぎにつるして去る。そういった、何も理解できないような、得体の知れない殺人鬼。タブロイド紙の一面を飾る、そう言った『現実と非現実のはざまの脅威』である存在。
 この悪夢のような光景も、練達当たりのカメラに撮られて、タブロイド紙の一面にでかでかと貼り付けられるのだろう。そうして、「自分には影響がない」と思い込んでいる一般人たちは、これをひと時の肝試しとして消費するのだ……あるいは、さかしらな安楽椅子探偵が「騎士団は何をやっているのか」と酒場で持論をわめきたてるのかもしれないが。
 いずれにしても、騎士団にとっては、かぎづめのジャックの連続殺人は、日夜頭を悩ませるような、そう言う現実的な事件に間違いはないのだ。

●そして、ローレットにて
 案の定、タブロイド紙には、グロテスクな写真と、安っぽい煽り文が踊った。そんな新聞を手に取りながら、
「超迷惑なんですよね」
 と、にっこり笑ったのが、かぎづめジャック女史である。
 年齢のほどは、おそらく17か、8か。一見すれば、図書館で可愛らしい小説を読んでいるか、花屋で花でも育てているようなイメージのある、可憐で繊細な乙女である。
 とはいえ、ローレット・イレギュラーズであるあなたならば一目で気づいたであろう。その大きなワンピースの中には、巨大なナイフを吊るしていることくらいには。
「かぎづめジャックさんです」
 と、情報屋であるファーリナ(p3n000013)がそう告げる。別に何かを気にしていたり、あなたたちのリアクションを期待しているわけではないようだった。淡々としているあたり、小さい体ながら肝が据わっている。そのあたりはさすがは情報屋である。
「エミリィ、って呼んでもいいですよ。私がかぎづめジャックって密告(チク)らないのであれば」
「そこんところは守秘します。仕事の間は。では、エミリィ」
 ファーリナが言う。
「今回の依頼は――偽物の排除、ですね?」
「そうです」
 エミリィが言う。
「今回の事件を起こしたのは、つまんない偽物やろう(エピゴーネン)です。矜持とか、そう言うものを感じられない。
 こういうと中二臭いんですが、私、こう見えてもこだわりを持って殺しをやってるんです。
 嘘です。割と八つ当たりとその場の勢いで殺したりもしてます。
 でもこの、てつかぎに、死体を吊るすとき。それは本当に、こだわっていて」
 ほう、と、エミリィは表情を変えずに言った。無表情である。
「一番きれいになる様に吊るしてるんですよね。
 それが、この写真は何なんですか? まるで食肉の豚か牛を吊るしてるみたい。死体に敬意がない。
 というか、人のお肉を食肉みたいに吊るすのが理解できない。食人なんてサイテーですよ。非人間的な」
 表情は変えない。無表情である。言葉には熱がこもっていたが、それも本当の感情なのかは理解できない。
「で、このクソ女」
 ファーリナが、コホンと咳払いした。
「失礼、依頼主なのですが。
 先ほども言った通り、偽物を排除したい――とのことで」
「ええ。誰がやったのかは目星がついています。だれが、というか、どういう集団が、なのですが」
 ぽん、と、エミリィは資料を放った。この街の、西のスラムの地図だ。その最奥の、大きな館に〇がついている。
「クソみたいなガキどもが、ナイフもってイキってる――ギャング気取りのやつらっているじゃないですか。
 自分は社会と大人と金に守られてるくせに、自分たちはそうじゃない、自分たちは社会から逸脱してるんだ、って思いこんでる間抜けの。
 そういうアホンダラどもが、ここに潜んでまして。今回の事件も、そいつらの仕業です」
「なんていうんですかね……古いワードだと、チーマー? みたいな?」
 ファーリナが言う。
「まぁ、ちょっとやんちゃしすぎちゃったガキどもです。こんな頭のおかしい女に目をつけられたのが災難でしたね」
「うふふ」
 エミリィが笑った。
「それはいいんだけど」
 あなたの仲間である、イレギュラーズの一人が言う。
「そこまでわかってるなら、それこそ騎士団にでも密告(チク)ればいいんじゃないの?」
「そうなんですけどぉ」
 エミリィが無表情のまま口をとがらせて見せた。
「だって、それだと、一時的でも、『かぎづめジャック逮捕!』ってなっちゃうじゃないですかぁ。
 ムカつきません? 自分と関係ない奴の落ち度で、自分の名声が下がるの。
 私はムカつくんですよね。こう見えても、誇りをもってかぎづめジャックをやってるっていうかぁ」
「こういう奴のロマンとか言い分を聞くと疲れますよ」
 ファーリナが言った。
「とにかく、今回の依頼は――この哀れなガキどもの皆殺しになりますね。
 全員殺すのが、依頼主のご意向で」
「自分でやれって思ってますぅ? 私ぃ、一対一ならともかく、30人もいたら多勢に無勢ですよぉ。か弱いんでぇ」
「まぁ、そう言うわけなので、30人、きっかり殺してきてください。死体は」
「置いといてくださいねぇ。あとでキレイにつるしておきますからぁ」
「……だそうです」
 ファーリナが嫌そうに言うのへ、あなたは淡々と頷いた。
 こういう仕事も、まぁ、稀にある。
 それに、言い方を変えれば――これも、因果応報、世の中のためといえるだろうか。
 厄介な気持ちとともにか。あるいは、割り切った気持ちとともにか。いずれにしても、あなたは依頼を受け、目的の廃墟へと向かうのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 全滅させてください。

●成功条件
 すべての敵の殺害。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 近年、幻想を騒がせている連続殺人鬼『かぎづめジャック』。
 ……今回は、そのかぎづめジャックから、模倣犯を殺してきてほしい、という依頼を受けました。
 なんでも、模倣犯は15~6程度の少年たちからなる、少年ギャングたち。
 最近の、些か終末的な空気に当てられてか、刹那的に自棄を起こし、自分の暴力性を発露して人を殺しているようです。
 まぁ、クズの集まりなので、同情は不要でしょう。それに、それがどれだけ幼い判断から生まれものであっても、罪は罪ですから。
 というわけで、かぎづめジャック女史の情報に従い、スラムの廃墟に訪れた皆さんは、廃墟の一室で、30名ほどの少年ギャングと相対することとなります。依頼主の意向ですので、全員逃がさず殺して終わらせてください。
 皆さんの活躍も、またかぎづめジャックの武勇伝の一つになるのでしょうが――まぁ、そこはそれです。
 作戦決行タイミングは夜。作戦エリアは廃墟。
 周囲は、少年ギャングたちが灯りをともしているので、それなりに明るいです。廃墟は広く、いちどに30人と戦闘することになります。
 侵入方法や、誘い出す方法などを考えれば、一度に戦う敵の数を減らすことができるかもしれません。そこはプレイング次第です。

●エネミーデータ
 少年ギャング ×30
  30名の少年ギャングたちです。それぞれの戦闘能力は皆さんより低いですが、何せ数が多いので、そのあたりでは苦戦を強いられるかもしれません。
  少年たちは銃やナイフ、こん棒などで武装しているため、そこそこオールレンジで攻撃を仕掛けてきます。ナイフには毒などが塗られていることもありますし、斬られたり撃たれたりすれば出血もするでしょう。
  一度に全員と戦闘に入ることになりますが、事前にプレイングにて、侵入する際に何らかの仕掛けをしたり、或いは少数を誘い出すようなことができれば、それだけ数的優位を減らした状態で戦闘にはいれるかもしれません。
  真正面から30人とぶつかれば、相応にケガをしますので、ご一考ください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 矜持なきエピゴーネン完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

リプレイ

●未来は潰える
 月光がうすぼんやりとスラムを照らしている。その中に、まるで騒ぎ立てるように明かりのともった廃墟がある。その廃墟の彼方此方に、酒瓶やら、ドラッグの類が転がっているのが分かった。
 そんな薄汚れた光景とは、縁遠そうな2人の姿が、その廃墟に近づいていた。例えるならば、燃え盛る焚火に飛び込まんとする、2羽の蝶か。
 『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と、『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)。二人の姿は、家出をしてきた世間知らずの令嬢とそれに付き合わされた付き人といった様子であり、そのようにふるまっている。
「ピリム、疲れたの」
 令嬢(エクスマリア)は我儘そうにそういう。付き人(ピリム)は困ったような声を上げた。
「そうは言いますがね、この辺りに休めるようなところは、とても」
「あそこに明かりがあるわ」
 エクスマリアは、愚かにもそう指をさした。
「道を尋ねましょう。欲を言うならば、朝までの休息も」
 そう言って、『予定通りに』すすんでいく。このまま予定通りに、エクスマリアはこういうのだろう。『こんばんは。ちょっと道に迷ってしまって……一晩お部屋を貸していただけるかしら?』。そしてこういってみせるのだろう。『この辺りはかぎづめジャックっていう怖い人が出るんでしょう? お兄さん達は強そうだから、一緒に居たら安心ね?』。
「役者だねぇ」
 そう、近くの廃墟(セーフハウス)から外を伺い、飴玉をころりと舐めて見せるのは、『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)である。廃墟の周りには、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)が罠を仕掛けているはずだった。ガキどもは廃墟の豪邸を手に入れて浮かれているようだが、実体にはもうすぐそこまで、狩人は姿を現しているのである。
「ルブラットといえば」
 ことほぎが、くっくっと笑う。
「あいつのセリフは傑作だったな」
 思い出してみれば――。
『ああ、その異名ならば新聞で見かけたことがあるよ。
 記事を読む度に思ったものだ、私の方が美しく殺せると――おや失礼。
 もしも偽物の殺人というのなら、納得できる話……ということにしておくかね?』
 だったか。依頼人(エミリィ)は表情を変えなかったが、若干ムカついていただろう。別に依頼人に喧嘩を売る気はないが、それはそれとして、愉快というものだ。
「どうせまともじゃねぇんだ。愉快に生きようぜ」
 この場にいないエミリィをなだめるように、そうつぶやく。まぁ、なだめる義理もないし、エミリィの苛立ちは見知らぬ無辜の民に向かうだけなので、それこそことほぎの知ったことではあるまいが。
 さて、そんなことほぎの目の前で、廃墟にてざわざわとした騒ぎが起こった。今のところ立ち上がっているのは、下卑た笑い声とか、そう言うものだった。おっぱじめる気らしい。それはそうだろう。彼らにとってみれば、鴨が葱を背負って来る、とはまさにこのことであろう。適当に遊んで、殺して、また吊るしてイキがるのだろうさ、と、ことほぎは思う。
「でもま、厄介な奴に目をつけられちまってるからさ。ご愁傷サマ!」
 同情的な気持ちなど欠片も持ち合わせていない笑顔を、ことほぎは浮かべた。仲間たちの心情にことほぎは興味はなかったが、少なくとも、この依頼の成立は善意とかで生まれたものではないことは確かであったからだ。

 背後から笑い声が聞こえてくる。どうにも、相手はこちらを「無力な獲物」だと思ってるらしいのだと、エクスマリアとピリムは理解した。
「ふふ、どうしましょうかねー。結構釣れたみたいで」
 ピリムはそういう。相手にきこえなければ、演技などをしてやる義理もあるまい。『ガキども』は、こちらを追っかけまわすメンバーと、そうでなくたむろしているメンバーにおおむねわかれている。
「別れてみるのもよいでしょうかねー。それぞれに釣ってみる。『他の仲間』も、既に準備をしているでしょうからー」
「いいだろう」
 エクスマリアが頷いた。
「いや! 助けて!」
 エクスマリアはひときわ大きな声を上げると、ピリムをとん、と突き飛ばした。それから、長い廊下を二階に駆け上がる。
「なるほど、役者。ああ、そんな、お嬢様ー」
 ピリムは適当に声を上げると、階段とは別の方向へと駆けだした。一階へ。
「馬鹿な奴らだ」
 と、後方から声が聞こえる。
「俺は女の方がいいなぁ」
 へらへらとした声が聞こえるのへ、別の声がいった。
「俺は殺れるならどっちもでいい。適当に分かれようぜ」
「さんせーい」
 女の声も聞こえる。どうも、男女は問わず、破滅的な若者がそろっているようである。そしてその誰もが、若い、というべきか、あけすけに言えば、知能が足りていない、というべきか。
 愚かさを罪とは言うまいが、その愚かさゆえに人道に反すればそれは罪であろう。さておき、そんなわけだから、彼らは本能の赴くままに、実に愚かにもさらに分散して移動を開始したわけである。

「お楽しみのようで」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)がいつも通りの笑みを張り付けながら言うのへ、ルブラットはうなづいた。
「人生最期のパーティだ。楽しませてあげるのもよいだろう」
「冥途の土産、と言いましょうか。まぁ、それもここまでなのですが」
 そういうと、ウィルドとルブラットは、その体を壁面に沈ませた。物質透過の技である。壊れかけの廃墟の壁は、二人のそれを阻めるほど頑丈でも分厚くもなかった。
 二人がそのまま、ロビーに入り込んでみれば、狂ったような音を立てて回転する電池式のレコードプレイヤーが、流行りの歌を奏でていた。あたりは魔術式のライトと、蝋燭のランプなどがあちこちに置かれていて、明るい。もちろん、影は差すわけで、二人はそのような位置に躍り出た。
「あまり見せたくはないもので」
 同行している、『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)の事を考えれば、潮がここの担当ではなかったことを、少しばかり喜ぶ気持ちもあるというものだ。潮には孫がいるはずだ。もしかしたら、似たような年代の子供もいるかもしれない。そのような存在が、ここまで悪徳と退廃に塗れていては、気持ちも悪くなるというものだろう。
「なら、私たちで処理するとしよう」
 ルブラットがそういった。そのまま、一切の躊躇なく、手近で酒を煽っていたガキの胸元を仕込み刃で突き刺した。
「は?」
 と、不思議そうな顔をして、ガキが崩れ落ちる。騒ぎに、他の連中はまだ気づかない。宴の中にいる。
「愚かだ」
 嫌そうにそう言ってみると、次はウィルドが目の前のガキを一人、力強くぶん殴ったところだった。そのまま後頭部から床に叩きつけられる。ばきぃ、と大きな音が鳴り響いた。馬鹿でも、さすがに目を覚ます。
「おっと、楽しそうですねぇ。私も混ぜてくださいよ」
 ぱんぱん、と両手を叩きながら、ウィルドはそういった。
「おいおい、何だおっさん」
 ガキが一人、へらへら笑いながら近づいてくる。いや、まだ夢の中にいるようだった。ルブラットはもう一度仕込み刀を振るうと、躊躇なくガキの首を切り落とした。
「――殺し方は指定されていたかな」
「いいえ。殺しておけば問題ないはずです。ああ、でも、脚は残しておいてほしいそうですよ。ピリムさんが」
「では、そこは留意しよう」
 とん、と踏み出す。
「え?」
 ガキが声を上げた。
「殺したのか?」
「そうだとも」
 ルブラットが当然のように言う。
「何故君達は此処で死する運命なのか。分かっているだろう?
 そう、この私こそが真のかぎづめジャックだからだ。
 無秩序な紛い物は淘汰される必要がある。
 さようなら、……ふふ」
 ルブラットが、刃を振るった刹那、あちこちで、怒号やら、悲鳴やらが鳴り響いた。見てみれば、手に武器を持って襲い掛かってくるものとか、そうでないなら奥へ逃げようとするものとかが、三々五々に行動し始めていた。
 もし、イレギュラーズたちが真正面から8人、正々堂々と立ち向かっていたならば、彼らはおそらく、冷静さと数の暴力を基に、30人全員で襲い掛かってきただろう。
 だが、既にエクスマリアの策で半数ほどが既にこの場を離れ、そして奇襲的に、仲間をあっさりと殺害されている。そうなれば、この場にいるやつらがパニックに陥ることも不思議ではない。それに、元より烏合の衆。こうなれば、連携も何もあったものではあるまい。
「愚かだ」
 ルブラットは、もう一度そういった。
 まさに――愚者の供宴、と言うべきか。そんな光景であった。

「おい! どうなってんだ!」
 ぎゃあぎゃあと男がわめく。先ほどホールから逃げ出してきたガキの一人だ。
「かぎづめジャック、とか言ってたの。本物?」
 ケバイ女がそういった。その名前で思い出す。そういえば、気に入らない女を殺して、真似をして吊るした。
「そんな、え、キレて殺しに」
 きたの? という女の言葉は、結局そのまま喉を震わせることはなかった。女が幸運だったのは、この場にいたのが『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)であった、という事だろう。暗闇から飛び出したゼファーは、その手にしていたナイフを、寸分たがわず心臓に突き刺して破壊した。だからきっと、即座に意識を失ったであろう。苦しまずに死ねた、という事だけは、間違いなく、救いだった。
「……それが救い、っていうのも、なんとも。救えないものね」
 ゼファーは小さくつぶやくと、すぐに隣にいた男の首の動脈を切り裂いた。男にとっては、もう、何が何だかわからない間での、殺人劇だった。
「どいつもこいつも、本当にロクでもないんですから。
 悪戯も過ぎれば痛い目見るのは当然でしょうに、ねえ」
 倒れた死体を抱えると、近くにあった扉の中に放り込んだ。確か、掃除用具入れの様なものだった。この混乱の中で、こんなところを開けるやつはいないだろう。
「さて」
 ゼファーは嘆息すると、再びその体を闇へとひそめた。今この瞬間、蒼い風は黒の闇の中で息をひそめるものになっていた。過ぎ去った風を誰も覚えない。でも、今は闇に隠れるそれを誰も認識しない。あとに何も残らない、という点では同一でも、その在り方は変わらないようにも思える。
「楽しい仕事じゃないもの」
 そういった。でも、仕事に手を抜くような人間では、ゼファーはない。

「なぁ、なんかロビーの方が騒がしくねぇ?」
 そう言ったのは、エクスマリアを探しに二階に上がったガキの一人だ。そいつは比較的、頭がよかった。まあ、本当に、比較的に、なのだが。いずれにしても、彼は他のやつらに比べて少しだけ危機管理能力があったのは確かだ。だから、
「気のせいじゃね?」
 とへらへらいう奴らを後にして、
「ちとみてくるわ」
 と、その場を離れるだけの理性はあった。ついでに、そいつについていこうという人間も、2人ほどはいた。賢さには人望がついてくる。それがドングリのなんとやらであっても。
 たんたんと三人が階段を降りると、何か不気味に静まり返った廊下が見えた。静かなのが、妙に気にかかった。もうちょっと、他の仲間が騒いでいてもいいはずだと思った。
「おい、助けてくれ!」
 途端、そんな声が響いた。
「こっちの部屋だ! 頼む、来てくれ!」
 その声に、ガキたちは不思議気に顔を見合わせると、その部屋の中に入り込んだ。そうしてみれば、真っ暗な部屋の中に、大柄な男が一人たたずんでいる。誰だろう。こんな奴は、メンバーにいただろうか。彼は頭は良かったが、それもそこまでだった。
 ぐっ、と、大きな手が、彼の頭をつかんだ。それが、潮の手であることに彼が気づいたときに、彼はそのまま力強く床に叩きつけられ、絶命していた。
「なんだ、テメェ……!?」
 お決まりの言葉を残った男が吠えるのへ、潮は無言で手刀を振るった。そこから生まれたサメの幻影が、ばぐり、と男をかみつぶす。ひゅ、と断末魔を上げて、男が倒れた。そこまでされてようやく、残った最後の愚鈍は、事態を把握したらしい。つまり、誰かが、自分たちを、殺そうとしている。
「たすけ」
 と、声を上げた瞬間には、もう潮は彼の体を貫いていた。
「一応、尋ねておこうかの」
 潮が、声を上げた。
「おまえが殺めた者達。そして、その家族たち。彼らに、謝罪の言葉はあるか」
「たすけて、たすけて、死にたくない」
 男は、そうとだけ言った。
「そうじゃろうなあ」
 潮が、悲しげに言った。
「そうじゃろうとも」
 潮が、その手刀を引き抜いた。男が倒れる。
 なんだかひどく、悲しかった。潮は、扉から出た。ロビーから逃げてきたものたちと、遭遇したのはその瞬間だったから、潮は笑うように言った。
「かぎづめジャックを騙るやからも、数だけ集まった只のお遊び仲間とは面白い話じゃな。
 わしのようなジジイに、今三人も殺された。
 どうじゃ、どうじゃ、人殺しども。
 わしを殺せたら褒美に宝石(これ)をやるぞ」
 挑発する。
 ひどく、悲しかった。

 『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の足元に、ガキの体が転がった。外に逃げようとしたガキを、とっ捕まえて殺すだけ。すでに廃墟の中は、仲間たちによる狩場と化している。実に、イージィな仕事だ。
「なんで」
 足元のガキが、息も絶え絶えにそういった。
「なんで、こんなことに」
「……」
 マニエラは嘆息した。アホなのか、こいつは。心底そう思う。
「ま、育ちが悪いも運が悪いの一つとも言える、か。いやいや、親御さんには申し訳ないが」
 肩をすくめつつ、
「なによりも……狂気的な殺人鬼を模倣したのが痛い。あぁ、残念だが此処でお終いだ」
 魔導具がマニエラの魔力をそのまま殺傷兵器として利用した。押し流された魔力が、ガキの死体を生産する。
「やってんねぇ」
 ことほぎが、ぱんぱんと手を叩きながら現れた。
「鮮やかなもんだ。どいつもこいつも、な」
「君も、だな」
 マニエラが言う。
「外に逃げた数は思いのほか少ない。君がやったんだろうさ」
「そりゃな。サボりはしない主義なんだ」
 はっ、と笑って肩をすくめた。それはそうだろう。ことほぎが、しくじるわけがない。
「……色々な言葉で飾ったところで私達はイレギュラー。人殺しは割と日常茶飯事。
 兵士だろうが、無辜の民だろうが。そう、道を外した少年を始末したのも1度や2度じゃ無い、か」
 自分に言い聞かせるかのように、マニエラが言った。ことほぎが、ふん、と鼻を鳴らす。
「ま、そんなところだ。
 ところでさぁ、これ、死体って集めといたほうがいいのかねぇ?
 確実にやったか、を確認するのもそうだし、ほら、脚、欲しいんだろ? ピリム」
「そうだったな」
 マニエラが、ふむん、と唸った。
「集めておくか……。
 私は、この辺りでしか作業をしていないから楽だが、君は?」
「あー、結構動き回ったわ……手伝ってくんねぇ?」
 そういうことほぎに、マニエラは肩をすくめてみせた。

 エクスマリアの周りには、いくつもの死体が転がっている。当然だ。エクスマリアは、ただ逃げ惑うだけの淑女などでは、決してない。
「なんだ」
 生き残った男が、息も絶え絶えに言う。
「なんだ、てめぇは」
「お兄さん達、本当はかぎづめジャックじゃないんでしょう」
 にこりと笑う。淑女の演技を継続する。
「本物が、怒ってるよ。だからマリアが来たんだから」
 本物なのだろうか。この、淑女が。刃物も持たず、人を切りつけたように見えた。そんな、怪物にも。
「次は誰が吊るされる番か、もうわかるよね?」
 優しく笑った。
 左様ならエピゴーネン。相手が悪かったのさ。

「いやー、大量ですねー」
 死体から足を切り取りながら、ピリムは言う。そんな現場に、階段から降りて来たばかりのエクスマリアは遭遇した。
「ぜんぶ、斬るのか」
 少しあきれたように言うのへ、ピリムは笑った。
「ええ、ええ! こんな機会なかなかないですからねー。ふふふ。
 手伝っていただけるんですか?」
 そういうのへ、エクスマリアは頭を振った。
「楽しみを邪魔するのは、悪いだろう」
「うへへ、ありがとうございますー」
 エクスマリアはこくりとうなづくと、窓から空を見上げて見ていた。
 月は相変わらず、興味もなさげにこちらを見ている。下界の愚劇などしったことか。そういうように。
「そこで解体するの?」
 暗闇から現れたゼファーが、ふと声を上げた。
「あっちのロビーでしなさいな。明るくて、流行りの音楽が流れているもの。
 それに広い方が作業しやすいでしょ?」
 そういうのへ、ピリムが頷いた。ゼファーとエクスマリアの視線が交差した。
「静かな夜ね」
「ああ」
 そういう。
「終焉だ、終末だなんて雰囲気に当てられて、こんな事ばっかり起きるのは勘弁願いたいわ。
 夜なんて、静かで穏やかなのが丁度いいのよ」
 ゼファーの言葉に、エクスマリアは本当に、深く、静かにうなづいた。
 耳を澄ませてみれば、あちこちから仲間たちの声が聞こえてきた。死体の確認をしつつ、一か所にまとめるのだろう。エクスマリアは、手伝う気持ちにはなれなかったから、階段に腰かけて、静かに目を閉じた。
「ごゆっくり、マリア」
「ありがとう、ゼファー」
 ゼファーの気遣いに、エクスマリアは静かにうなづいた。足音が遠ざかるのが聞こえた。
 弔ってはやれないが、綺麗に吊るされるといいな。愚かな死体たちへ、そうつぶやいた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさ……えぇ、なんか脚がないんですけど……?
 ま、これはこれで吊がいがありますね。
 ありがとうございましたぁ。また何かアホが出たらよろしくお願いしますねぇ。

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