シナリオ詳細
<信なる凱旋>命名は遂行の元に
オープニング
●
「全く、神託神託って……」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)はその活動にうんざりとしていたようである。
無理もない。
ここしばらく、遂行者は混沌の広範囲で暗躍を続けている。
彼らが各地に下ろす帳は、構築された『神の国』と呼ばれる混沌のコピーを生み出す。
『触媒』を使い、遂行者らは自分達の領域を広げていたのだ。
だが、天義の騎士、ローレットイレギュラーズの活躍もあり、多くの箇所の帳が払われている。
さらに、シェアキム六世に降りた預言通り、遂行者は新たな行動を起こしていたが、これもほぼイレギュラーズに鎮圧されている。
「それらもあって、遂行者に新たな動きがみられるよ」
なんでも、天義国内へと『預言の騎士』を解き放ったのだという。
――白き騎士は勝利をもたらし、赤き騎士は人々を焔へと変え戦を引き起す。黒き騎士は地に芽吹いた命を神の国へ誘い、蒼き騎士は選ばれぬものを根絶やしにする。
これが遂行者へと舞い降りた神託であり、天義教皇シェアキムが耳にした『神託』でもある。
「遂行者はここにきて、急いているように見えるね」
神の国を降ろし、天義国内を自分らの手に。
遂行者は失敗続きであるが、彼らの語る神はそれも大らかに見ているように見える。
だからこそ、遂行者は余計に成果を上げようと躍起になっているのだろう。
さて、遂行者の活動を止めるのが本題であるが、ナーワルという遂行者は他とは少し毛並みが異なる。
「元々が外部者であるナーワルは遂行者としての任をこなす一方で、自分の欲にも忠実らしい」
他者の痛み、恐怖、憎しみ。
ナーワルはそれらを集め、自らの存在……碧熾の魔導書という術式を完成させようとしている。
ただ、遂行者の一員となっている以上、神の意志に従わねばならぬらしい。
各地に出向いて爪痕を残しているのもその為だろう。
「ナーワルが天義で行動を起こしているのも、そのせいさ」
今回、ナーワルは聖都某所にある聖堂を襲撃するという。
ここに帳を降ろすことで、民衆が信仰の為に集まる場所を奪うつもりなのだろう。
どうやら、襲撃されるとみられる日は、近場で生まれた子供の命名式が行われるらしく、数十名程度の人が集まるとみられる。
帳を下ろして神の国を作るのはもちろんだが、これだけ人がいれば、ナーワルが目的を果たしやすい状況名のは間違いない。
「今回も止めてくれればいい。救わねばならない人も多いからね」
騎士とやらの力も大まかな部分しか分からない。
ナーワルの出方が分からぬ部分がある為、慎重に事に当たってほしいとオリヴィアはイレギュラーズ達へと頼むのだった。
●
事件当日。
聖都内某所にある聖堂には、50名ほどの人々が集まっていた。
ここでは休日朝などミサが行われるが、昼間にこうして近場の住民が集うのは冠婚葬祭などの他、今回のように命名式などといった事由もある。
「……さんのところのお子さん、可愛らしいわね」
「とても利発そうだ。……将来は聖騎士団に……」
人々が語らう中、檀上の夫婦は愛おしそうに我が子をみやる。
夫婦は天義でも上流家庭に育った者同士といった印象だ。
旦那が神官、嫁が聖騎士団らしい。やや旦那が気弱そうにも見えるが、凛々しそうな嫁をリードしているあたり夫婦関係も良好なのだろう。
さて、旦那の上司と思われる司祭の進行の元、つつがなく命名式は進んでいたが……。
突如、入り口から駆け込んでくる複数の人影が。
「いいわね、新たな命」
終焉獣、紅白の騎士、それに、柄の悪そうな綜結教会の末端構成員に無人戦車。
それらを率いてきたのは、黒い鎧を纏う女性。
ただ、窮屈らしく、それをすぐに脱いで豊満な体を露わにする。
「何者だ!」
旦那が呼びかけると、女性は口元に微笑みを湛えて。
「ナーワルと申しますわ。お見知りおきを」
申し訳程度の薄布でできた修道服を纏った遂行者ナーワルである。
警戒を強めるこの場の人々。
しかし、対するのが遂行者であるなら、相手が悪すぎたというべきだろう。
ナーワルは微笑みながら、巨大な口の姿をした終焉獣による空間浸食と合わせ、聖堂に帳を下ろしていく。
「その子は神の国で新たな名を賜るのね。ふふ……」
「冗談じゃない、娘を好きにはさせぬぞ、遂行者!」
凛とした態度で、護身用の剣に手をかける赤子の母。
旦那もそんな妻を支えるべく錫杖を構える。
参加者は奥側へと引いていくが、ナーワルの率いる敵は何れも恐怖を感じさせる存在ばかり。
まず、赤白の騎士は神託によって神が遣わした存在らしい。
白はサポート中心だが、赤は炎を操る他滅びのアークも使うというから注意が必要だ。
終焉獣は言わずもがな、空間を侵食する危険な相手。
現れたのが飽食の口1体と少ないのが比較的楽に対処できそうな点か。
続いて、鉄帝の元新皇帝派、綜結教会の末端構成員であるアサクラ隊。
柄の悪いものが多く、社会の枠組みから外れた物ばかり。闇の世界でここまで生き延びていただけあって、戦闘力はなかなかのものらしい。
最後に、多脚戦車AIT-1。アサクラ隊が運用する戦車で非常に高機動であり、攻撃もかなり激しいとのこと。
それらを相手にしながら、人々を救い出さねばならない。
「じっくり味あわせていただきますよ」
くすりと微笑むナーワルは聖堂から少し身を退き、帳の維持をしつつもこの騒動を傍観することにしたようだった。
- <信なる凱旋>命名は遂行の元に完了
- 命名式を利用する遂行者を止めなければ
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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天義、聖都某所。
数ある聖堂の一つにて行われる命名式を、遂行者の一隊が襲撃するという情報があった。
「ちょっーと待ったーっす!」
真っ先に中へと駆け込んだ『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)はいつの間にか内部で待ち伏せしており、強引に一般人と遂行者一隊の間へと割って入る。
さらに、透視で聖堂の中へと確認していた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、いち早く物質透過で突入して。
「人々に手は出させない。俺達が相手だ!」
立ちはだかるレッドやイズマに敵が気を取られている間に、他のメンバー達も飛び込む。
「神聖な聖堂に立ち入るにしては、ドレスコードから同伴者の雰囲気までなってないじゃない? 遂行者」
「せっかく新しい命に名前が授かる日に、無粋な人たちねえ。あなたたちにもお名前くらいあるでしょうに」
無粋な相手に、ロレイン(p3p006293)も『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)も遂行者と取り巻きどもへと言い放つ。
その間に、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が保護結界を展開して後に備える。
突然の闖入者に驚く式の参列者の多くは困惑していた。
「ここは俺達に任せて、奥に下がってくれ!
平常心で呼びかけるイズマ。彼に勇気づけられた人々は急いで聖堂奥へと下がっていく。
「皆さんご安心ください。正義の味方、イレギュラーズがあなた達を必ず御守りするっすよ」
参加者らを安心させるべく、レッドは後光を纏って語り聞かせる。
赤子の命名に来ていた夫婦は我が子を守るべく立ち向かう構えを見せていたが、レッドは赤旗を掲げて2人を制止した。
「ここはボク達に任せて奥側へ退避するように……」
「奴等から呼び声や誘いが来ても絶対応じないようにね……!」
守る50名の参列者達へとそう伝達したヨゾラは、猫のファミリアーをつかせて警戒を強める。
「だめよぉ、子供って国が、大人が、まもるべきものなんだから、ね」
「子と親を引き離す……その一線だけは超えちゃだめよ。遂行者」
牽制するメリーノの傍で、ロレインもまた自らの想いをナーワルへとぶつけて。
命名式に臨む聖職者の旦那と騎士の母、そして娘。
騎士の母というのがロレインには自らの家族と重なって見えたのだ。
もっとも、蛮族に堕ちた残党と遂行者などは命名式に居なかっただろうが。
「聖堂が神聖な場所と、理解した上での蛮行なら救いなし、ね」
「全て承知の上です」
全ては自らの完成の為、ネガティブな感情を得る為、遂行者はより良い舞台を選んだに過ぎない。
「命名式という祝われるべき日にまで手を出すなんて、どこまで節操がないんですか……!」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の一言にも、ナーワルは笑うばかり。
そんな彼女に、『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は大仰に嘆息して。
「貴方、仕事熱心ですわよね。前々から思ってましたけど。たまにはサボってこっち側に協力してはいかが?」
「生憎、悠長にしている暇はありませんの」
ナーワルが腕を伸ばすと、彼女の手下どもが進み出る。
「ここから先は立ち入り禁止っすよ。子の大事な名付け儀式に邪魔が入っちゃあいけないっすね」
それらを、レッドが赤旗で制し、後方に下がる参列者を守り、敵と対峙する。
「大切な名前と大切な思い出を侮辱し傷つけるような行為、僕は大っ嫌いだ」
「絶対に許しません、ここに来たことを後悔させるほどに徹底的に叩きのめします!」
レッドに続き、シフォリィもまた感情のまま、思いをぶちまける。
ただ、目の前の敵は簡単に御せる相手でないことを、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は察して。
唇の姿の終焉獣による空間浸食やゼノグロシアン化。
赤騎士による炎獣化や白騎士の支援能力。
戦車、AIT-1の戦闘力にチンピラの集団アサクラ隊の数も脅威だ。
「……これは割とかなり……ピンチだね……」
ラムダの分析は間違っていない。気を抜けば思わぬ事態を引き起こすことは間違いないだろう。
そこで、イズマは夫婦に小物打楽器セットを渡して。
「俺の後ろには誰も通さないから大丈夫、安心してくれ」
良ければ、終焉獣の耳障りな音を撥ね退けるよう、応援してもらえたなら嬉しいと彼は夫婦を諭す。
「神の国で新たな名……って変な名前付けられたら困るじゃないっすか、そう好きにはさせないっすよ」
「子供の誕生を祝う大事な儀式を恐怖で塗り潰すなんて許せないな」
依然、牽制の続ける最前線のレッド。その横でイズマも寄せ集めの敵になど負けるものかと身構える。
「……出し惜しみは無し本気で征くよ!」
「悪いけど、心底腹が立った。本気で行くわね?」
すぐ後ろで、ラムダ、ロレインが仕掛けるタイミングをはかると。
「では、まいりましょうか」
「姉様の居所も全部吐いてもらいましてよ」
身を退くナーワルが手下をけしかけると、リドニアがそのナーワルに一言告げ、敵陣へと飛び込むのだった。
●
命名式に参加する一般人50人ほどを護りながら、イレギュラーズは遂行者ナーワル一隊の撃退を急ぐ。
(とにかく敵は多いですが……)
単純な敵の数はこちらの倍。
シフォリィは優先順位に沿って敵を……まずは、『預言の騎士』と称される赤騎士から相手する。
凍てつくような暗い波動を纏って己の力を引き上げたシフォリィは敵陣を堕天の輝きで包む。
赤騎士を中心に、攻撃射程が長い白騎士や戦車も巻き込み、呪いで侵す。
一部、満足に力を発揮できなくなっていた敵が出れば、シフォリィの思惑通りだ。
「ここを神の国になどさせない!」
名乗りを上げたイズマがフリーになったままのアサクラ隊を引き付ける。
イズマはそのまま敵を外へと弾き飛ばし、参列者から少しでも遠ざけようとする。
リドニアは外の方にまで身を退き、戦況を注視していたナーワルの動きを警戒し、鼠のファミリアーを向かわせる。
(あいつの計画は魔導書の完成なのだから、手薄な時に住民にぶっ放してくる事もあり得る)
現状、涼しい顔で戦いを見ているナーワルに近づくべく、彼女は目の前の敵……赤騎士から赤い闘気を叩き付けていく。
「お呼びじゃないんですのよあんたらは。総大将を目の前に寄こしなさい」
鋭い眼光で向かい来る敵を、リドニアは睨みつけて。
(ナーワル、後で覚えてろ)
ラムダも傍で遂行者に並々ならぬ感情を覚えつつも、聖堂奥で固まって戦況を見守る式の参列者を安心させるよう立ち回る。
「なんにせよ、やらせないよ!」
敵がこちらの布陣を突破しないか気を払うラムダは実戦武技の型をとり、赤騎士を優先しつつ鉛を掃射して足を止める。
「神よ、これよりこの地で行う所業、お赦しください」
ロザリオを握るロレインは小さく祈りを捧げてから敵を見据える。
奥の遂行者には強い怒りを覚えるロレインは、聖堂内へと突入していた戦車を危険視し、急ぎ詠唱によって自身に魔神の一部を降ろす。
ロレインはすぐさま、漲る魔力をその手に高め、幻装信仰を巨大なライフルへと変えて。
「顕現……神官のパパさん、その娘の耳を塞いでおいてほしいわ?」
その要望に夫が応えて娘の耳を塞ぐと。
「顕現・砲」
ロレインは戦車とその直線状にいる敵を一気に殲光砲で撃ち貫いていく。
怯む敵陣へ、メリーノが仲間に続いて。
すでに、自身を戦いに最適化させ、能力を限界突破させていたメリーノだ。
群がり、襲い掛かってくる敵へと大太刀による乱撃を刻み込む……が。
(とはいえ、わたし、単体でぶん殴る方が得意なのよねぇ)
加えて、仲間が主だって狙う赤騎士にしっかりと渾身の一撃で切りかかる。
できるなら、強敵は手早く倒していきたいところ。
「人々がここへ来たのは、神の国なんかに名前って大切なものを名付けられる為なんかじゃない!」
ヨゾラもまた遂行者らに強い怒りを感じていた。
敵の繰り出す攻撃は赤騎士の炎、飽食の口が発する音や声、戦車の主砲と何れも強力。
それでも、ヨゾラは凛然と立ち向かい、誘いの魔術によって敵を引き付ける。その最中、魔術紋を輝かせて自らを励起し、力を引き出すことも忘れない。
フリーになっている敵がいないかと戦況を見定めるレッドは、ナーワル隊を支援しようとする白騎士を制して。
「お好みの戦いが出来るとお思いっすか!」
レッドもまた誘いの魔力を充満させて敵を引き付け、怒りと魅了で惑わし、落馬を狙う。
態勢を崩す敵もおり、気を良くするレッドの態度は気丈なモノであったが、いつ敵の刃が一般人に向かうかと内心はヒヤヒヤしていたようだ。
「やるなら、邪魔するボク達を倒してからにするっす」
レッドに挑発されたからなのか、敵は不気味に瞳を光らせ、攻撃を差し向けてくるのだった。
●
様々な敵が集まるナーワル隊はやや統率に欠ける。
いかなる攻撃にも身構えるイズマが仲間と協力し、敵の攻撃全てを抑えつけるすぐ後ろから、ラムダが対群精神感応攻撃術式「死月」を発動させる。
「……汝、咎人懺悔せよ」
精神を揺さぶる断罪の刃。
ラムダの術式が敵陣に浴びせかけられ、赤騎士などは狂気に侵される。
「ふふふ! たのしいわぁ!」
そいつ目掛け、メリーノは嬉々として刃を振り回す。
敵は相手を炎の獣に変える力を持つ異形。
ならば、メリーノも人々を護るべく身を挺して飛んでくる炎を受け止め、幾度目かの乱撃を見舞って赤騎士1体を仕留めた。
その血を浴びるも、メリーノは気にすることなく次の敵と対する。
もう1体の赤騎士には、シフォリィが周囲の敵と纏めて再度アンジュ・デシュで照らし出して動きを鈍らせたところで、ヨゾラも神秘の一撃で殴りつけ、赤騎士を完全に沈黙させた。
大きく食らいつき、奇怪な音を立てる飽食の口は装飾品を使ったレッドが広く名乗りを発生させ、他の敵と合わせて抑える。
終焉獣に対する攻撃が集中する中、大きく口を開けた終焉獣にシフォリィが無数の炎片を叩き込み、さらに眩い光で照らせば、そいつは空中で塵と化してしまう。
次なる標的は、この室内においてもなお、圧倒的な機動力で動く多脚戦車AIT-1。
暴れる戦車はナーワルの命もあってか、的確にイレギュラーズにのみ銃砲を放つ。
爆炎が起こるも、聖堂にほとんど被害がないのは保護結界によるところが大きい。
無論、イレギュラーズ側も敵の撃退に注力する。
「総大将を目の前に寄こしなさい」
アサクラ隊を眼光で牽制しつつ、リドニアは重い戦車を空中へと跳ね上げて闘気を撃ち込み、さらに凶手で貫いた装甲をじわじわと腐食させ、動きを鈍らせる。
ここまで人々に近づかせまいと抑えに注力していたイズマも、自身の傷を福音によって癒してから攻勢に出る。
魔神の力を借りた殲光砲を発射し、イズマは戦車を撃ち抜く。
戦車はそれでも持前の火力を存分に生かし、近づくメンバーに地雷を爆破させ、さらに連装機銃を浴びせかける。
爆撃、銃撃上等とばかりに血を流すリドニアだが、ここぞと蒼熾の魔導書を起動させる。
「後はただの硬いだけの置物になりましてよ」
荒れ狂う炎と雷が戦車を焼いていく傍から、ロレインがなおも巨大ライフルを発射する。
立て続けに火力を浴び続けた戦車もついに黒煙を上げ始め、動力部を爆発させてから完全に沈黙したのだった。
時折、炎を聖堂内へと叩き込んで支援はしつつも、ナーワルは本腰を入れて戦う素振りは見られない。
「ううん、もう少し欲しいですかね……」
連れてきた隊の主力が倒されたというのに、ナーワルは涼しい顔。
怯える参列者達と合わせ、自ら連れてきた隊員らからも負の感情を得ているのだろう。
多少でも攻撃の素振りを見せれば、ヨゾラがロレインが動き、外のナーワルへと迫る。
「引き裂かれた家族に、その方が幸せだなどと、本気で言えるのかしら、遂行者!」
思いの丈をぶちまけるロレインは幻装信仰を握って。
「顕現・銃」
それを銃へと変化させ、2連射して弾丸を撃ち込む。
ヨゾラもナーワルを抑えるべく誘いの魔力を使うが、相手の抵抗力は高く、すました顔で炎を飛ばしてくる。
「別に構いませんね。私の完成には関係ないことですから」
「子どもの未来は渡さない。たとえ私自身を犠牲にしようとも……!」
遂行者の一言に闘志を一層燃え上がらせたロレインは、間断なく銃撃を続けてナーワルを動きを止めていた。
同タイミング、聖堂内の戦いはイレギュラーズが圧倒していく形に。
白騎士達はここまで回復支援を続けていたが、主力の赤騎士や戦車がいなくなれば、自らも光を放って援護するも、もはやジリ貧でしかない。
「今より良い夢をみせてやれるけどいかがっすか」
敵を強く引き付けて自分へと寄ってきた白騎士目掛け、レッドが相手の夢を現実にまで浸食させる。
預言の騎士が何を夢見ていたかなど知る由もないが、白騎士は喘ぐようにして落馬し、馬共々動きを止め、ゆっくりと姿を消していく。
ラムダも精神を研ぎ澄まして戦況を瞬時に把握し、これ以上の支援はさせぬと刹那の剣閃で馬共々騎士を切り裂き、剣閃によってその首を切り落とす。
「「くそがああああああああ!!」」
叫ぶアサクラ隊ナイフ捌きは鮮やかで、気を抜けば致命傷を負いかねないが、イレギュラーズは冷静だ。
メリーノは変わらずカタバミちゃんを振るってアサクラ隊を切り裂く。
そのうちの1人にメリーノは鋭い突きを繰り出し、見事に倒していた。
アサクラ隊も荒事に慣れた連中であり、如何にすれば最小限の動きで敵を倒せるかといった戦闘術も身に着けている。
ただ、死線も潜り抜けた経験の多いイレギュラーズ。
いくら刃を突き出し、銃撃や手榴弾を使おうともレッドは旗を立て、不屈の精神で耐えきってみせた。
「キッヒッヒッヒ、邪魔されて事が上手くいかず苛立っちゃうっすか? そこのナーワルも掛かってきても良いんっすよ?」
レッドが笑いながら呼びかけるが、相手は外で仲間と交戦中であり、こちらへと炎を飛ばす様子はない。
その間にも、アサクラ隊の討伐が加速する。
イズマの放った光に焼かれたアサクラ隊が3人ほぼ同時に崩れ落ちた。
「私を誰と思っていますの?」
リドニアもそれに気を取られた別のアサクラ隊へと幾多の魔力弾による乱撃を浴びせかけ、2人を昏倒させる。
「このアルフェーネ家の次期当主、リドニア・アルフェーネの首が欲しければ死ぬ気でかかってきなさい」
「ひっ……」
すでに残るアサクラ隊は2人。
イレギュラーズの強さに及び腰になるが、ナーワルの視線に気づいて破れかぶれになって特攻していたようだ。
それらをあしらいながらも、リドニアはナーワルが何かやってくると感じて。
(あいつは手薄な時に住民にぶっ放してくる)
先程からこちらに炎を投擲していたのは気づいている。
ただ、それはあくまでイレギュラーズに向けたもの。
奴なら本気でやりかねないと、リドニアはこの場を仲間に任せてナーワルの元へと向かう。
ただ、残る2体も突撃してくるだけの相手。
シフォリィが咲き乱れる極小の炎乱でその片割れを沈め、メリーノも確殺自負の殺人剣を見舞い、最後のアサクラ隊を昏倒させてしまったのだった。
●
仲間と対するナーワルの元に蒼熾の魔導書を起動させたリドニアが飛び込み、その顔面へと拳を叩き込んでいく。
相手の体だけでなく魂までも焼き尽くす勢いで。
「そんな大層な玩具捨てて、魔導書の能力で殴り合ってみなさいな。……それとも、私が怖くて?」
「ご冗談を」
多少の攻撃を受けても表情を変えぬナーワルは腕を振るって焔を燃え上がらせる。
ここまでくれば、市民も残った指揮官の討伐をただ祈るのみ。
輝くヨゾラが星の破撃で殴り掛かり、ナーワルが少し身を退いたところで、メリーノが呼びかける。
「そもそも、『未完成』であるほうが『完成』されているよりわたしは魅力的だと思うわぁ」
「『欠陥品』は傍観するだけで大して役に立たないっすね?」
ナーワルのことなど一切知りもしないメルーノの一言に続いて、レッドが煽る。
レッド自身も道具だからこそ言える一言だが、これにはナーワルも刹那表情が変わる。
そこで、歴史修復への誘いに強い興味があったレッドがなおも煽って。
「聖痕? 刻められるもんなら来いよ!」
「残念だけど、思い通りにはさせませんわ」
今度は炎を雷火と化して飛ばしてくるナーワル。
眩い光が戦場を照らす中、敵はまだ交戦意志があると見たメンバーが呼びかける。
「これ以上やっても無意味ではないですか?」
シフォリィはナーワルへと撤退を促す。
確かに、こちらに追撃する力はないとシフォリィも認めはする……が。
「それでも、貴女を倒すことぐらいは出来る」
語気はなおも強く、啖呵を切るシフォリィだ。
「俺は人を楽しませるのが生業でな、負の感情は生ませないよ。だから帰れ、ナーワル」
続けて、イズマが諭すようにナーワルへと告げる。
この場はこれ以上、負の感情を味わうのが難しいと見たナーワルは外へと飛びのく。
「では、その言葉に甘えさせていただきましょう」
だが、リドニアはそれを許さず、PPPを発動しようとするが……何も起こらない。
まだその時ではない。世界がそう言っているのかもしれない。
飛躍的な力が得られたならば、その顔面にもう一発ぶち込めたのに。
リドニアは無力感を感じながらも、消えゆくナーワルの背を注視し続けるのだった。
遂行者一隊を退け、イレギュラーズ一行は命名式に参加していた市民に怪我がないか確認する。
(恐ろしい思いをしていますし、巻き込まれた皆さんの心のケアも重要ですね)
シフォリィは参列者に話しかけ、自分達の存在をアピールし、元気づけていく。
「赤ちゃんも無事? 良かった……」
安堵するヨゾラの視線の先では、夫婦の娘が寝息を立てていた。
あれだけの騒がしかったこの聖堂内で、泣いてすらいないという。
「……うん、この娘は強い娘に育ちそうね。どんな名前になるのかしら……?」
ロレインの疑問に、夫婦が笑顔を見せる。
夫が手にする額縁内には、エミリーと書かれてあった。
勇敢であるという意味を籠めただという。
「お子さんが健やかに育つ事を願うよ」
参列していたイズマもまた、その子の行く末を案じて願いを捧げていた。
「いやはや、とんだ命名式になったけどこの子が育つ頃には混沌の騒ぎも収まると良いのだけどね」
参列者から拍手が巻き起こる中、ラムダは思う。
しかしながら、それが叶うのはいつになることか。
命名を見届けたリドニアは外に出る。
「……アルフェーネ家のお家騒動も大きくなったもんですわね」
身内が魔種になったのもそうだが、何よりナーワルが自由に世界を動き回り、人々を苦しめている現状がある。
そこには人々と距離をとるメリーノもいたが、リドニアは煙草を吹かそうと手をかけたところで止めて。
「またあの女が出てきたら……、私がいつでも何度でもぶっ飛ばしてやりますわ」
リドニアは何度だって戦い続ける。
――これ以上、自身が守りたかったものを壊させなぬ為に。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは赤騎士を含めて多くの敵を倒したあなたへ。
抑えとして存在感を示したあなたにも称号を付与しております。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<信なる凱旋>のシナリオをお届けします。
遂行者達の活動は多少の妨害では止まりません。その次なる狙いは――。
●概要
遂行者ナーワルが再び聖都に狙いを定めて襲い掛かってきます。
今回は人の集まる聖堂へと、寄せ集めの手勢を引き連れて襲い掛かってきます。
国内に解き放たれた『預言の騎士』をナーワルも数体引き入れ、終焉獣、(鉄帝の)元新皇帝派と合わせて人々を襲撃、一帯に帳を下ろそうとします。
聖堂には赤ん坊の命名式に集まった50人ほどがおり、壇上には司祭と赤子の両親、座席には関係者が座っています。
●敵:ナーワル混成隊
〇遂行者:ナーワル
普段は、黒鉄の鎧で身を包む女性遂行者。
修道服を纏った20歳、旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者。
その正体は「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる魔導術式が形を成した物。
自ら未完成だと自覚しており、完成の為に「他者の痛み」と「恐怖」、「憎しみ」を集めています。
戦いでは、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。
今回も様々な種類の手勢を使い、事件を引き起こします。
遂行者として仕事は行う一方、この騒ぎによって生み出された他者の感情を集めているようです。
〇『預言の騎士』×4体
ルスト・シファーの権能によって生み出された騎士。
皆馬に乗っており、カラーリングによって役割が決まっているようです。
・赤騎士×2体
見た目赤い騎士。炎を操って狙った相手を燃やしてきます。炎の投擲だけでなく、直線、放射など
また、滅びのアークを使いこなし、近場の人々などを含めて狙った相手を炎の獣に変化させる力を持ちます。
・白騎士×2体
白い外見の騎士。勝利を呼び込む存在とされ、仲間を支援強化します。
強化が行き届いているときは回復、白い光を放って遠距離攻撃も行います。
〇ワールドイーター(終焉獣)
・飽食の口×1体
全長3mほど。直接噛みついてくるだけでなく、歯ぎしりや怨嗟の声を発します。
R.O.Oで登場した個体は石化病を使いましたが、その代わりに直接食らいついたモノの存在を消し去ろうとしてきます。
〇アサクラ隊×8体
かつて鉄帝国の『新皇帝派』に属していた部隊。現在は綜結教会の一組織構成員です。
男性軍曹を中心とした小隊ですが、何れもマフィアや死刑囚であり、肉体派の者も多く、ナイフなど凶器の扱いにも長けた練度の高い戦闘集団です。
〇多脚戦車AIT-1×1体
新皇帝派が有していた蒸気式精霊制御型無人戦車。
見た目以上にオーバースペックな挙動をし、戦車と思えぬ運動性に機動性、さらに攻撃性能を有します。
連装の大口径主砲、連装機銃、近接防御兵器としての榴散弾地雷がベースの武装です。
●NPC
〇聖都の住人×50名ほど
命名式に参加していた者達。司祭、夫妻の妻(聖騎士団団員)は交戦できる力が多少あります。神官の旦那もサポート程度。他は戦闘能力を持ちません。
彼らが交戦に巻き込まれると、『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』となる可能性があります。
そうなった場合の戦闘能力などは不明な為、できる限り巻き込まぬよう対処すべきでしょう。
●『歴史修復への誘い』
当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いします。
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