PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<信なる凱旋>invitation to stage

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●舞台
 なにもかもを取り戻せるなら、私はあの頃の自分達を取り戻したい。
 夢に胸を膨らませ船を出した、あの瞬間の自分達を。
「だがそのために……貴様は邪魔だ、風読禽!」
 『飛空騎士』ナジュドは憎しみを抱きながらその海を見つめる。
 かつて掲げた夢を実現したかのように、壊滅した海洋王国、首都リッツ・パークの地区がひとつ。
 押し寄せた星灯聖典と遂行者たち、そして黒騎士の攻撃によって陥落した町には帳が下ろされ、今は黒騎士がその身体に廃滅病の力を蓄え始めていた。
「相変わらず、ご執心ねえ」
 空にふわりと浮かび、ナジュドの横顔を見やる『身代形代』黒羊。
 二人は星灯聖典に所属する遂行者。多くの聖骸布を下賜されたことで常人とは比べものにならないほどの戦闘力を手に入れたスペシャルだ。
 元々、この町を制圧することは難しくはなかった。
 なぜなら元から星灯聖典の宣教師として黒羊たちが入り込み、『失ったものを取り戻せる』という誘惑によって一部の民を味方に付けていたからだ。
 内側から防御を崩された地区はたちまち陥落し、今は帳の内。
 帳も徐々に膨らみ始めている。
「……」
 黒羊はナジュドの横顔にどこか自分と同じものを見ていた。
 『敵であろうとし続ける』。そのことで、自分を保とうとしているのだ。
 何者かわからなくなってしまった自分をつなぎ止めるのは、敵としての覚悟と立場。
 そしてまたこうして『舞台』を整えれば、彼らはきっとやってくる。
 同じカイトの名を持つ二人の男は、きっと……。

●パルサレオ地区の帳
「大変だ、海洋首都のパルサレオ地区が帳に覆われた。その上『漆黒の騎士』が現れて廃滅病の力を蓄え始めてる。もしこいつが済めば、廃滅病を天義へ持ち込まれるぞ!」
 酒場に駆け込みそう叫んだのは海洋王国を中心に活動する情報屋だった。
「聞いたか、『俺』?」
「ああ。廃滅病は洒落にならないぞ、『俺』」
 酒場に居合わせたカイト(p3p007128)とカイト・シャルラハ(p3p000684)。彼らは名前が同じことをおもしろがって、わざと互いを俺と呼び合っていた。
 そんな二人がこう何度も組むことになるのも、やはり何かの縁というやつだろう。
 カイトはシャルラハと頷き合い、情報屋のもとへと歩み寄る。
「詳しく聞かせてくれ。敵は? そして、状況は」

 情報屋の話によれば。
 パルサレオ地区は既に触媒によって帳が下ろされ、廃滅病の気配が蔓延しているという。
 そしてその力を蓄えているのが漆黒の騎士だ。
「漆黒の騎士――黒騎士はルストの権能によって作り出された予言の怪物だ。
 廃滅病の力を身体の中に取り込み、天義にばらまくために生み出された騎士らしい。
 その副次効果で、パルサレオ地区の植物や食品は枯れ果ててひどいもんだったらしい」
「なら、その黒騎士を倒せば問題は解決だな。『時間制限付きミッション』って所か」
 カイトがぱしんと拳を手のひらに叩きつけて気合いを入れる。
 が、そう簡単にはいかないだろうというのがシャルラハの見立てだ。
「そんな舞台を整えるんだ。星灯聖典の連中もいるんだろ?」
「ああ……星灯聖典のネームド、ナジュドと黒羊がな」
 ナジュドはカイト・シャルラハと拮抗できるほどの空中戦闘を可能とする高機動必中型のファイターだ。普段は飛び回るだけで敵を翻弄できるシャルラハであっても、油断できない相手となる。
 一方で黒羊は妖しい術を使い様々なBSによってこちらを翻弄する術を行使してくる。その上で耐性も豊かなためカイトからしてやりづらい相手だ。
 だが彼らの特徴として、シャルラハとカイトに強く個人的執着を持っているという点がある。
 それを利用すれば、彼らを引きつけ黒騎士から引き離すチャンスを作り出せるかもしれない。
「依頼主は海洋王国……目的は黒騎士の撃破だ。もし黒騎士が廃滅病を取り込み終えてしまったらその場から消えてしまう。つまり天義へそれがばらまかれるということだ。そうなる前に、黒騎士を倒してくれ」

GMコメント

●シチュエーション
 パルサレオ地区にルスト派の『帳』が下ろされました。
 制限時間内に黒騎士のもとへたどり着き、黒騎士を倒しましょう。

●エネミーデータ
・星灯聖典×多数
 町の外周を守っている星灯聖典の信徒達です。
 元は一般市民でしたが聖骸布を下賜されたことでやや強めの戦士程度に変わっています。
 彼らをマトモに相手にしていては時間が足りないので、強行突破をはかりましょう。
 手段は問いませんが、『全滅よりも突破を目指す』方向で考えてみるとよいでしょう。
 騎乗戦闘なんかがお勧めです。

・黒騎士クリザンテーム
 ルストの権能によって作り出された特別な騎士です。
 馬に乗っており、漆黒の前身鎧に包まれています。
 かつてベアトリーチェの軍勢に与して天義を裏切った騎士クリザンテームをモチーフに作られており、闇の魔法で作り出した長剣を伸ばしたり増やしたり時には飛ばしたりと変幻自在の戦いを見せます。

・ナジュド
 飛行能力をもち必中系のスキルを多様する高機動型のファイターです。
 聖骸布を多く下賜されており強力です。
 カイト・シャルラハに強く執着しています。

・黒羊
 様々なBSを使いこちらを翻弄してくる魔法使いです。
 聖骸布を多く下賜されており強力です。
 カイトに強い執着を持っています。

  • <信なる凱旋>invitation to stage完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)

リプレイ

●パルサレオ地区へ向かい
 急速にパルサレオ地区へと進む馬車の中、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はやれやれといった様子で馬車の手綱をとっていた。
(あっちでもこっちでも廃滅病を欲しがる連中だらけで、世の中わからねぇってのはこういうことかね。
 そんなモン好きなだけ持って行きゃぁいいさ――と言ってやりてぇ所だが、そいつのやばさを身を持って知っている以上、軽々しく他所へ持ち出させる訳にはいかねぇな)
 あの海での戦いを、絶望を、忘れることなどありはしない。
 縁はどこか皮肉げに呟いた。
「終わったモンを未練がましく掘り起こすのは楽しいかい? 過去にこだわるやつは、碌な生き方できねぇぞ――俺みたいにな」
 馬車では『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がげんなりとした顔をしている。廃滅病に苦しめられた張本人としては、冗談ではない状況なのである。
「うへぇ、海洋で事を荒立てるのやめて欲しいんですけどね。
 しかも廃滅病なんてものをいまさらもちだしてきて……しかも黒騎士とかいうの倒す時間制限付き…………。
 や、まぁ、やるんですけどね!」
 ね! と同意を求めるように振り向くと、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が腕組みをしてこくりと頷いた。
「今回の仕事は帳をもたらす黒騎士とやらを倒す事だからな。しかし、道中にはいる邪魔を考える必要があるか」
 ここまで来るに至って、空を飛んで頭を越えていく作戦を立てていたが、よくよく考えてみれば飛行手段など結構誰でも持っているものである。信徒たちも、全員と言わずとも飛行可能な連中はいるだろう。射撃可能な連中も含めればだいぶ面倒は残る。さりとて射撃不能な高高度を飛ぶとなると機動力の面で心配だ。
「ヒトの生は廻り、戻らぬもの。戻らぬからこそ前に進み続けるのだ」
 ふと含蓄のあることを言う『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。
 馬車を並走して飛行するワイバーンへぴょんと飛び乗り、手綱を握る。
 空中での戦闘に優れたウォーワイバーンだ。これなら相手が飛行してきてもそれなりに有利をとれるだろう。
 一方で、『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)がニヒルに馬車から飛び降りる。
「やれ。面倒な連中が多いことだ。
 だがな――俺には最早問題は何一つない。
 制限時間はどれくらいだ? 80秒あれば余裕が出るくらいだ」
「さすがに早すぎるだろう。とはいえ、その反応速度があれば確実に先手をとれる。頼んだぞ」
 アーマデルの言うように、ブランシュの反応速度は600台だ。それに連鎖行動も合わせれば大抵の相手に先手をとって動ける。相手の先制射撃よりも早く距離を詰め攻撃を仕掛けられるという点で、集団を突破するのに優れたビルド構成となるだろう。
「思う所がないわけではないが、黒騎士の行動もまた見過ごせんな。それに……」
 と、大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が帳の降りた地区を見やって目を細める。
「この様子では星灯聖典の信徒ではない者も多数帳に巻き込まれているのではないか?」
「だろうな。むしろ、そうなった者の方が多いはずだ」
「然らば」
 やるべきことは決まったな、と武蔵は不敵に笑う。
 一方で『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はどこか不敵な様子で微笑んでいた。
「時間は待ってくれないし、客も待ってくれない訳だ。
 丁重に饗さなきゃならねぇ賓客が勝手に帰ろうとするなら、それを死ぬまで引き止めてやらなきゃなぁ。
 な、『俺』?」
「ああ『俺』! 巧遅拙速だっけ? 早ければ早いほど良いってやつ。
 つまるところ突っ込んでぶっ飛ばして黒いやつ叩きのめせばいいってことだよな!
 ナジュド、お前らの企みはまた沈めてやるから覚悟しろよ?」
 馬車はそのまま地区へと突撃し、ワイバーンたちが展開する。

●強行突破
 馬車から切り離した軍馬に跨がり、義弘は群衆へと突っ込んでいく。
 相手は当然星灯聖典の信徒たち。こちらに向けた銃口の数は多いが、やってやれない数ではない。
「まずは黒騎士の下に辿り着かないとどうにもならねえ。いくぞ!」
 軍馬による突進。それは相手が銃撃を行うよりも早く繰り出され、そして信徒の最前列をなぎ倒す。
 慌てて馬に乗った信徒の一部が並走しながら銃を向けてくるが、義弘は相手の手首を直接掴んでねじり上げ、馬から蹴り落とす形でそれを防いだ。
 そんな彼の馬に便乗しているのがベークである。
「どうしましょうか。案外射撃武器を持ってる人が多い印象ですけど」
「なら、アレが役立つはずだ」
「アレですかあ……」
 仕方ない、とばかりにベークは甘い香りをばらまいて周囲の注意を弾き始める。ライフルを持った信徒が怒り狂ってベークに遅いかかり、彼にライフルのストックで殴りかかった。
 とはいえ相手を全滅させるのが目的というわけではない。すぐにでも黒騎士のところへたどり着かなければならない。集まってくる群衆がとにかく邪魔だ。
「誰か、なぎ払ってもらえますか」
「任されよう!」
 ドレイクチャリオッツに騎乗していた……というかほぼ戦車そのものと化していた武蔵が己の砲を稼働させる。
「九四式四六糎三連装砲改――全砲門開け!」
 妖精の動作によって全ての砲が開いた次の瞬間。一斉発射によって砲弾がベーク(厳密にはそのすぐとなりの信徒)めがけて飛んでいく。
「うわっ!?」
 が、ベークたちには当たらない。周辺の信徒だけに命中した砲弾が爆発を起こし、ベークたちは爆発するその中を駆け抜けて行った。
「聖骸布での強化もあるだろうが……。悪いが元より手加減などできる砲火ではない!!
 死んでも構わない者だけかかってくるがいい!!」
 そんな武蔵に一斉に殴りかかってくる信徒たち。こちらは馬車で突っ込んでいるというのに、相手も必死に飛びかかってくるのだ。
 ならば、全力で応えるのみだ。
「対空近接防御!」
 吠えるように号令を放つと妖精たちが砲を次々に発射。高角砲や機銃を用いて飛びかかる群衆をなぎ払う。
 こうして射撃のおそれを軽減させたところで――。
「駆け抜けさせて貰う。一気にな」
 群衆の頭上を飛行によって駆け抜けるブランシュ。
 対抗して空に飛び上がったいくらかの信徒たちが剣で斬りかかるも、ブランシュはそれを四機の剣型ビットを周囲に展開することで防御した。
 エルフレームシリーズオプショナルユニット・マルチブルビット――通称『エルの終末』。そのうちの一本を握ると合体し大剣形態をとり、ブランシュは群がる群衆をなぎ払った。
 と同時に放つ『クリストスペシャル』。悪性のジャマーがばらまかれ、動作を阻害された信徒たちが次々においていかれることになる。
「こりゃあ楽だ。で、俺の仕事は?」
 カイトは飛空探査艇を操縦しながら、しつこく横を並走してくる信徒たちへと目を向けた。
「まずはこいつか――氷戒凍葬『凍獄愁雨』」
 際限なく降り注ぐ雨が一瞬にして凍土へと変える呪われた舞台演出。それが飛行する信徒たちの身体を凍り付かせ、その防御能力を著しく低下させる。
 さすがにまずいと判断したのだろう。彼らが防御を固めるようなそぶりをみせるが――。
「やっちまえ、『俺』」
 すかさずシャルラハが彼らに向けて『熱血の赤翼』をばらまいた。紅蓮の翼がもたらす高揚に混乱した彼らは思わず味方同士を撃ち合ってしまう。
 加えて、シャルラハは『風天神星』の術を発動。白き翼の加護を与える表・占星術だ。
 これによって軍馬で走っていた義弘や馬車を使っていた武蔵たちも一斉に空へと舞い上がり、大半の信徒たちをスルーすることに成功する。
 これで味方全員を飛行させることに成功したわけである。群衆を飛び越える際などに有効なスキルをまさに有効なタイミングで使えたと言えるだろう。
「このまま高高度をとって安全に行くか? いや、最高速度で突っ切るのが得策だよな!」
 カイトはそう呟くと、三叉槍で邪魔な信徒を払いのけつつ更に加速をかけた。
「Wカイトのタッグマッチなんて面白そうな試合をゆっくり観戦できねぇのは残念だが、俺らは俺らの仕事を片付けちまわねぇとな」
 黒騎士の居場所は分かっている。縁は騎乗していたワイバーンに命じると更なる加速を仕掛けた。
「止まれ! 黒騎士様へは近づかせんぞ!」
 信徒の一人が飛びかかり、翼を羽ばたかせながら縁へと掴みかかろうとする。
 が、縁は相手の腕を軽く掴むとひょいと反対側へと投げ飛ばしてしまう。
「悪いが、付き合ってる暇はないんでな」
 低空飛行状態へもっていき、『操流術・引潮』の構えをとる縁。
 竜脈の守護者である『冽家』の血筋のみが扱えるとされる術のひとつだ。
 周囲の気の流れが彼によって干渉され、乱れ、操られ、ねじ曲げられる。青刀『ワダツミ』の抜刀と同時に、周囲の人々は内側から切り裂かれ次々に倒れていく。
「しかし、圧倒的だな。順調すぎる」
 アーマデルはワイバーンの上から蛇銃剣アルファルドによる射撃を行いつつ進んでいたが、あまりの順調さに口元を緩めていた。
 大半の地上を走るだけの信徒たちは空中からの爆撃を一方的に受けるばかりでバリケードの役割すら果たせず、射撃によって撃ち落とそうとする連中は【怒り】によって支配される。僅かにいる地上を進む仲間も【飛行】付与によって空を駆けている有様で、これでは信徒たちはほとんど邪魔ができていない状態だ。
 タイムアタックというこの状況において、これほど良い結果はそうそうないだろう。
「なら、やるべきことはこの連中が黒騎士たちとの戦いに水を差さないようにすること……だな」
 アーマデルは銃をリロード。コイン束状の弾を装填すると、眼下の群衆めがけてぶっ放した。

●黒騎士と因縁と
 地区中央で待ち構えていたのは黒騎士クリザンテーム。そしてナジュドと黒羊だ。
「よぉ! 海洋国の一部とはいえ奪えて満足か?」
 挑発的に翼を広げてみせるシャルラハ。その姿にナジュドは怒りを露わに剣を振り上げた。
「この程度で満足するものか。全て奪ってやる風見禽!」
 猛烈な突進を、シャルラハは華麗に回避する。
 回避性能において彼ほど優れたイレギュラーズはそういない。そこそこの命中性能ではかすり傷すらつけられないのだ。だからこそ、ナジュドは【必中】性能を持つ光の魔法を乱射。全ての弾がホーミングしてシャルラハへと迫るが、シャルラハはハハハと笑いながら黒騎士と距離をあけるように飛んでいった。
「まあいい、奪われたら奪い返す。海の男の強欲さ、海洋国の執念深さ、わからせてやるぜ!」
「待て!」
 はるか空での一騎打ちが始まる。
 それを見上げて、黒羊は「やあねえ」と肩をすくめていた。
「分断作戦だってすぐわかるのに。ナジュドったらお子様ね……アンタはその辺、どうなのかしら?」
「ああ、わかってる」
 カイトは肩をすくめて苦笑した。
「見て欲しいってんなら付き合いはするが、そっちに立つことは如何せん無理だな。
 昔の自分の話したところで、『似た者』に話が通じるかって言ったら。
 ――よく知ってる。聞くつもりないだろ?
 けれど、他人にかくあれと望まれた所で、自分の在り方は自分自身にしか決めれないんだよ。
 お前はそういう意味じゃまだ、とも言えるし、もうとも言えるよな」
 カイト独特の言い回しだ。相手を引き込むような、踊りに誘うような、まさに舞台演出である。
 彼の真髄は戦闘能力だけにあらず、なのだ。
「でも、付き合っては暮れるのでしょう?」
「アンタがそう望むならな」
 そう言って走り出すカイト。黒羊もそれに伴って走り出し、互いに術を発動させた。
 こちらもまた一騎打ちの始まりである。
 残されたのは黒騎士だ。
「ハア……」
 黒騎士はため息をつくと、自分を取り囲む六人のイレギュラーズの顔ぶれを見た。
「聖騎士グラキエス殿は何を思ってあの二人を遣わしたのか。いや、これもまた必要な因果であったか」
 ならばこれ以上は問うまい。
 黒騎士は剣を抜くと、それをブンと振り抜いた。
 刃は通常のそれとはことなりまるでムチのようにしなって彼の全方位を走る。回転斬りと呼ぶにはあまりに柔軟すぎるその動きに、傷を作られた義弘が腕に流れる血を見やる。
「6対1でも骨が折れそうだ。が……」
「速攻で終わらせる」
 言い連ねたのはブランシュだ。
「神の剣よりも冥王の蹴りの方が速いという事を証明してやろう」
 超高速で距離を詰めると、強烈な蹴りを繰り出した。
 ブランシュの蹴りを鎧でうける黒騎士クリザンテーム。彼の鎧は衝撃を受け流し、放った剣がブランシュへと突き刺さる――その寸前に、ベークが割り込みをかけて防御した。
「痛っ!?」
 彼の凄まじい再生能力でも治癒しきれない程の傷が身体に走る。
 それほどの強敵ということだ。ベークは覚悟をきめて甘い香りを散布。更に自らを治癒し始める。
 対して黒騎士はもう一本の剣を抜き、先ほどの縦横無尽の剣さばきを高速で繰り出してきた。連続で斬り付けられるベーク。
 流石に分が悪いかと思われるが……こちらは僅かな時間耐えてくれればそれでよいのだ。その間に、ブランシュたちの猛攻が待っている。
 合体した『エルの終末』を大上段から叩き込むブランシュ。
 更に武蔵が砲撃を開始。
「それこそ傲慢であると言われようとも、誰かの希望を踏みにじる事になろうとも
 私は、私の正しさを信じている。――撃ェ!」
 武蔵の号令と共に全ての砲門から砲撃が放たれ、黒騎士へと殺到する。
 更に義弘の拳が黒騎士の顔面へと炸裂。
「グッ――」
 黒騎士が軽くよろめいたが、それだけだ。踊るように回転すると全方位へ向けて再び剣を繰り出した。
 回避不能の連続斬撃。しかしそれを義弘は両腕でガードすることで突っ切ると、今度は思い切りドロップキックを叩き込んだ。
「ぐお!?」
 思わず吹き飛ばされた黒騎士へ、武蔵の砲撃が一斉に放たれる。
 全弾命中。爆発が起き黒騎士が炎と光に包まれる。
「畳みかけるぞ」
「了解だ」
 アーマデルと縁が走り出す。
 黒騎士が縦横無尽の剣ならば、アーマデルの蛇鞭剣ダナブトゥバンもまた縦横無尽の蛇腹剣だ。相手の放つ剣に絡みつかせるように放ったそれで、びしりと相手の剣をとらえる。
 まるで蛇と蛇の殺し合いだ。そこでアーマデルはすかさず『英霊残響』を開始。
 奏でる音色は『妄執』。更に『蛇巫女の後悔』を銃撃によって撃ち込むと、続けざまに『怨嗟』の音色を撃ち込んだ。
「ぐ、ぐお……!」
 ここまで叩き込まれれば流石の黒騎士とてただではすまない。
 そこへ縁がワダツミを抜いて斬りかかった。
「よう、廃滅病を土産に持って帰ろうって趣味の悪い客はお前さんかい?」
 そうはさせない、とばかりに繰り出された剣が黒騎士の腕を切り落とす。
「これでもしぶといんでな。本物の廃滅病を乗り越えた俺達を甘く見ねぇでくれや」
 ギラリ――と縁の目が光る。次の瞬間連続で繰り出された斬撃が黒騎士クリザンテームの前身をバラバラに切り裂いて行った。
「おのれ、あと、もう少しで……」
 語る首をも切り落として、背を向ける縁。

 その後の展開はあっという間であった。
 黒騎士が倒されたことで計画が失敗に終わった星灯聖典は一斉に撤退を開始。
 ナジュドと黒羊も一騎打ちを惜しみながらもその場を撤退したのだった。
 あとに残ったのは晴れ渡る空と、海。
 そう、あの平和な海洋の姿であったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

PAGETOPPAGEBOTTOM