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シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>香ばしビスキュイ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●香ばし、甘し、美味なりし
 バターの香りがふわり、甘く香る。
 焼き菓子の焼き立ての香りは、いつだって鼻孔をくすぐって、幸せな気持ちとさせてくれるものだ。
 サクッ、サクッ、サクッ。
 甘い香りへと自然と手が伸びて、またサクッと小気味よい音が鳴った。クッキーたちが奏でる音は、きっと『おいしい』。だってマスターがあんなにも口にしているのだから――と、ミーリアの思考回路が告げていた。
「マスター」
「なんだ?」
 ミーリアが声を掛けても、マスター――ジュゼッペ・フォンタナは視線を向けない。真剣な顔で図面を睨み、時折そこへ羽ペンを走らせ、時折クッキーを摘み……と、彼は忙しい。
「マスター、ミーリアはクッキーを作ってみたいです」
 いつもお願い事を口にしないミーリアがそんなことを言った。
 だからジュゼッペも驚いたのだろう。青銀の髪を揺らしてミーリアを見るとモノクルを外し、目をこする。ああ、マスター、クッキーを食べた手で目を擦ってはいけません。
「ミーリア、どうしてか教えてくれるかい?」
「はい、マスター・ジュゼッペ。ミーリアは――」
 ミーリアは先日、アトリエ・コンフィーのお手伝いさんたちと主の居ない『初めてのおつかい』を果たしたばかりだ。そこでお手伝いさんたちと話したことを素直にジュゼッペへと告げる。
 つまるところ、ミーリアはクッキーを焼いて、ジュゼッペを喜ばせたいのだ。それも出来れば皆で。大勢で作ったほうが『きっと楽しい』で、皆で作ったものを食べるのは『きっと美味しい』だから。
「ジュゼッペ様、いけませんか? ミーリアの思考は間違っておりますか?」
 そうであれば、修正を。ミーリアをリセットしてください。真っ直ぐな瞳を向けるミーリアはどこまでもゼロ・クール(人形)で、感情の色は見られない。
「いいや、ミーリア。いいよ」
 ぎゅうとミーリアが服の裾を握っていることに気が付き、ジュゼッペが笑う。
「それじゃあ、またアトリエ・コンフィーのお手伝いさんに頼もうか」
 彼はそう言ってから、改めてミーリアを見た。
「――私のためにクッキーを焼いてくれるかい?」
「はい、ジュゼッペ様」
 声は抑揚無くいつも通りだけれど、ジュゼッペには弾んでいるように聞こえたのだった。

●アトリエ・コンフィー
「あ、来た来た!」
 アトリエ・コンフィーへと顔を出したゲオルグ=レオンハート(p3p001983)を見つけたユグムが手を振った。燃えるような赤髪の少年(のように見える)ゼロ・クールだ。
「ああ」
「今日も元気そうでいいことだ」
 今日は既に手伝い内容を聞いており「この日に来て」と告げられているため、ともに来たバクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)もひらりと手を振り返す。
「ユグムも手伝いをするのか?」
「そうなんだぜ。ミーリアはまだ『生まれたて』だから」
 今日は皆とクッキーを焼きたいと言ったミーリアのために集まってもらったため、調理補助をするんだと笑顔を見せるユグムに仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は瞳を細める。
「雨泽って料理できるの?」
「出来ないよ」
「……何で来たんですか、おんし」
「えっ、食べに?」
 あと、サマーァ・アル・アラク(p3n000320)に誘われたから。そんな事を口にした劉・雨泽(p3n000218)に思わず瞳を眇めた物部 支佐手(p3p009422)の同行理由は南蛮菓子(クッキー)だろう。作れるようになって主に振る舞うのもいいかもしれない。
「でも雨泽、おにぎり……握る、してた、よ」
「おにぎりは握れます」
 豊穣男子たる者何とやら。一緒にどう? と誘ったチック・シュテル(p3p000932)にピースを向けた雨泽は、彼とともにユグムへと挨拶に行った。
「初めまして、ユグム様。ニルはニルです」
「おう、今日はよろしくな。ミーリアは先に買い物をして厨房に行ってるぞ!」
 ニル(p3p009185)の視線がミーリアを探したから、ユグムはそう告げた。皆でクッキー材料のおつかい経験を積んだミーリアは、今日の分の材料もしっかりと用意ができるらしい。
「それじゃあ厨房に案内するな! オレについてきてくれ!」
 ユグムが元気に先導していくそこは、ユグムの主――調理人であるマスターの厨房だ。「ジュゼッペさんにはお世話になっているから」と厨房を貸してくれたのだと主の話をしている間に、すぐに到着した。

 大きな扉を開ければ、よく使い込まれた広い厨房があなたたちを迎える。
 厨房の中央。大きな作業机に、これまた大きなバターをドシンと置いたミーリアはあなたたちに気がつくとパチパチと瞳を瞬かせた。
「皆様、今日はミーリアのお願いを聞いてくださってありがとうございます」
 そう言ってミーリアは真新しいエプロンの上に手を置いて、綺麗にお辞儀をしてみせた。
 ミーリアのことは気にせず、楽しい時間をお過ごしください。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 ゼロ・クールたちとクッキーを作りましょう!

●目的
 美味しいクッキーを作る
 楽しく過ごす

●できること
 クッキー調理
 焼いたクッキーを食べる

●厨房
 ユグムの主人が貸し出してくれた厨房です。
 クッキーを焼くための窯(魔力をエネルギーとした窯です。ユグムが丁度よい温度に調整してくれます)生地を冷やすための冷蔵庫(魔力をエネルギーとした冷蔵庫)等、調理に必要な物は揃っています。
 実食する場合は、調理器具の片付けを終えたら作業台を綺麗にし、お茶やクッキーを楽しめます。作ったクッキーを見せあったり交換してもいいかもしれませんね。

●クッキー
 基本的な材料は揃っていますが、足りない分は回廊内で購入した! として頂いて大丈夫です。
 誰かにプレゼントする用の包装紙や箱等も回廊で買えるので、買ってきたことにして頂いて大丈夫です。

●同行NPC
・『ゼロ・クール』ミーリア
 魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形です。
 ジュゼッペ製。多くの場合戦士として利用されることが多いのですが、ジュゼッペは『人に寄り添うもの』を好みます。人々の生活を助けるお手伝い人形となるべく、調整中。魔法(プログラミング)された知識はあるものの、まだまだです。

・『ゼロ・クール』ユグム
 魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形です。
 ジュゼッペ製。ジュゼッペのアトリエから出て、主がいます。
 主は料理人で、ユグムは調理補助をしています。

・劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋。楽しそうなので、クッキーを食べに来ました。
 初めての異世界なので、少しワクワク。
 クッキー作りは初めて。手先が器用なので可もなく不可もなく。

・サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
 新米イレギュラーズ。雨泽を呼びました。
 異世界は雨泽の先輩。ふふーん。
 三角巾もエプロンもちゃんと準備してきています。
 クッキー作るの楽しみ! 可愛いのを作りたい!

●サポート
 イベシナ感覚でどうぞ。
 同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

●ご注意
 相談期間が短いのでご注意ください!
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 それでは、アトリエ・コンフィーのお手伝いさん、宜しくお願い致します。


《S1:行動》
 select 1
 メインとする行動はどれでしょう?

【1】《作成》自分用
 お家に帰ってから食べるために作るよ!

【2】《作成》贈り物
 大切な人や友人のお土産にするために作るよ!

【3】《作成》皆で
 作ったら皆で食べるんだ~♪

【4】《実食》
 もぐもぐ、美味しい!


《S2:交流》
 select 2
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。
 同行している弊NPCは話しかけると反応しますが、他の人の行動によっては添った行動を取ることが難しい場合もあります。(【4】が優先されます。)

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、同行NPCとすごく交流したい方向け。文字数が半分くらいNPC。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。
 交流したいNPCは頭文字で指定してください。
 ひとりなら【N雨】【Nユ】、複数なら【N雨・サ】【N人形】(ユグム&ミーリア)でも通じます。
(サポート招待NPCさんとは【2】を選択してください。)

  • <英雄譚の始まり>香ばしビスキュイ完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月08日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC2人)参加者一覧(10人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して

リプレイ

●れっつくっきんぐ
 クッキーを作ると事前に聞いていたイレギュラーズたちも、自分が作る予定のクッキー材料はバッチリ。それぞれ手にした包みを抱え、広い厨房内でこの辺りで作ろうかなと場所を決める。
「初めまして……おれは、チック。よろしく……ね」
「はい、チック様。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」
 荷物――ナッツやチョコレートを置いた『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)がゼロ・クールへ挨拶にいけば、人のように個性の違う挨拶が返ってきた。ユグムは快活なように見えるが、どうやら少し世話焼きらしい。ミーリアのエプロンや三角巾の位置を正しながら、「そこのバターとか、計って持って行ってな!」と笑った。
「ミーリアさまは、プログラミングされている……のです、よね?」
「はい、メイメイ様。ミーリアはクッキーのレシピを知っています」
 前回イレギュラーズと会った時には作り方までは知らなかったが、ジュゼッペに『作りたい』と申し出たことにより新しくプログラミングがされたらしい。想像通りの応えに『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は小さく微笑んで、「側で作ってもいいですか?」と尋ねた。
「フォローも出来ますし、おすすめも、できます」
「ニルも、いっしょに作りたいです」
 はいっと『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が手を挙げた。ミーリアの側でクッキーを作るのなら、ミーリアの両隣、それからそれよりも離れるが向かい側に三名までだろう。
(何処で作るか……ミーリアへ教える必要は無さそうだが、まあ近くでいいか)
 主人のためにとミーリアが頑張ったクッキーをタダで食べるわけにも……と思った『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は辺りを見渡し、ミーリアの斜め向かい辺りに場所を決めた。……働かずに食べるという罪悪感に駆られての行動だが、実はこの中にはクッキーを焼かないひとが二名いることに後から気付き、世界は微妙な気持ちになったりもする。食べ専、うらやましい。
「誰でもクッキーを作れる不思議なアイテムがあるのだが」
 そう言って取り出した『ただのビスケット』というアイテムを世界はミーリアへと披露する。そのビスケットをポケットに入れて叩くと増える、という不思議なビスケットだ。勿論『皆でクッキーを作りたい』の趣旨とは外れることを世界は知っているから、こういうものがあると世界は見せただけだ。
(命じられての行動以外の、自発的な行動。それはきっと大きな意味を持つだろう)
 で、あれば。
「なるべくならば……ジュゼッペに渡すクッキーはミーリアだけで作ったものが良いだろうな」
「そうですね、ニルもそれがよいと思います」
 『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の言葉に、すかさずニルが頷く。失敗したっていい。何度挑戦したっていい。けれど自分だけで全てやり遂げたクッキー。それはきっと誰もがいつかの日に体験したであろう、初めての成功の煌めきとなるはずだ。
「分量に不安を憶えたら、気軽に聞いて欲しい」
「はい」
「はい!」
 ミーリアとニルの声が重なって、ふたりは顔を見合わせた。

(ミーリア、順調そう……だね)
 離れた場所からチラと見ても、困った自体は起きていないようだ。
 チックは手元の材料の混ぜる順番を気にしながら、丁寧に混ぜていく。
(おいしくなる、しますように)
 食べてくれる人が笑顔になれるように。
 美味しいって言ってくれますように。
「チョコチップはどのくらいがいいでしょう?」
「多いとどうなるのでしょう?」
 各自の前には、各自の生地。そこへどれだけチョコチップを入れるかでニルとミーリアは首を傾げ、ゲオルグを見た。
「多く入れすぎるとクッキーではなくなるかもしれないな」
「確かに。チョコクッキーではなく、クッキーチョコになるかもしれません」
「足りなければ足せばいい。だから――」
 少しずつ足していこう。まずはこれくらいでどうだろうと示されたグラムをしっかりと計り、ニルとミーリアは生地を作っていく。
「多すぎれば、また一から作ろう」
 試作のクッキーの消費先はたくさんあるのだから。
「よいしょ、えい」
 手順通りに材料を混ぜ合わせた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は生地をふたつに分けた。
「こっちがココア味だね」
「うん、かさねお姉ちゃんお願いできる?」
「任せて」
 ココアパウダーで色と味に違いを出すのは姉に任せた祝音は、その間にプレーンの方をくるくるこねこね。棒状にしたら、溶けないように冷蔵庫で冷やす。
「何だか、懐かしい……かも」
 すぐにココアの方も冷やしに来たかさねがそう言って、祝音は姉を見上げた。前にも……って思ったのかな。
「楽しみだね、祝音君」
「うん、かさねお姉ちゃん」
 硬いところではなくタオルを敷いた上で切ると、生地はひしゃげずまぁるいまま切れる。かさねがそう教えてくれて、祝音はまぁるく切れた生地を姉へと見せた。
 うん、上出来!
「これを焼いたら次は何を作ろう?」
「アイシングクッキーも作りたい……かも。みゃー」
「ふふっ、それじゃあまた生地から作ろうか?」
 姉と弟は仲良くクッキーを作っていく。
(日頃からお世話になっとる宮様と刑部卿に……)
 バターが作られていない豊穣ではクッキー自体が珍かだ。故に手ずから作って……と考えた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)はそこでハッと気がついた。
 ――貴人に素人の手作りを渡して良いのだろうか。優しいから笑顔で受け取ってくれるだろうけれど……。
「大丈夫じゃない?」
 考えが声に出ていたらしい。様子を見に来た雨泽が適当そうな声音で告げた。もっと真面目に考えてほしい……ところだが、まあいい。
「……失敗したら、雨泽殿に食わせりゃええわけですしの」
「そういう事は心の中だけで済ませてくれない?」
「おんし、試食係でしょう」
「アイシングクッキーは作るよ。可愛いヤツ」
 ふぅむ。少し支佐手は考える。
「義兄弟に土産物っちゅうんも、偶にはええと思いますが?」
「えー……支佐手って一人っ子? 姉って言う悪鬼の存在って知ってる?」
 クッキーは材料をちゃんと測ってしっかり混ぜれば作れる。難なく生地作りまで勧めたふたりはチックやメイメイ、祝音から可愛い動物型の型を借りて抜いていく。……蛇の型は誰も持っていなかったから適当に細いのをニョロニョロ作ってべたんと潰した。
「雨泽殿、そこにある黒いのを取って頂いてええですかの」
「え、これ?」
「そう、それです。これで動物に表情を付けてと……ふふふ、出来ました。渾身の出来です」
 雨泽は何か言いたげな表情をしたが、支佐手はワクワクとオーブンへ入れに行った。
「食器は在るが……茶葉等の用意が必要か」
 厨房をひととおり見て回った『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、ふむとひとつ頷いた。クッキーを食べるからにはお茶や紅茶、ミルク等があった方が良いだろう。ミーリアが用意したのは普通のクッキー材料のみだから、買い出しにでなくてはならない。
「茶葉を買いに行くが、他に必要な物はあるか?」
「クッキーだけじゃ喉も渇くだろう、牛乳だのジュースだのも買っておくか。コーヒーなんかもいいな。……作る側じゃねえから、俺も行くか」
 バターの香りの満ちる空間で何もせずにいるのも形見が狭い。『あの子の生きる未来』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)も汰磨羈の買い出しへと付き添うことにした。
「酒もあるといいが……いや、やめておこう」
 旨い食べ物には旨い酒や茶が必須。塩気やチーズの多いクッキーには酒も合うのだが……アルコールの香りが混ざるのは粋ではないかと『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)。彼はサクサクホロホロのショートブレッドを作成しているから、そのままふたりを見送った。

「ミーリアさまは好きな形、ありますか?」
「ミーリアには好きがわかりません」
 プレーンとココア生地を絞り出し、中央にナッツやドライフルーツを置くメイメイのお手伝い。先にメイメイが焼いている型は羊、猫、犬、小鳥、花、星……と、どれも愛らしい。
「ですが、ジュゼッペ様でしたらきっと……」
 ミーリアは鳥のクッキー型へ指さした。動物はきっとどれも好きだけど、白い鳩が好きなような気がすると何となく思うのだ、と。
 鉄板に並べてオーブンへと入れに行くと、ユグムと焼き加減を見ているチックがいた。
「ユグムとミーリア、マスター……いっしょ、だっけ」
 ふたりは兄弟なのか問おうとして、やめた。チックはもうきっと、弟とクッキーを焼ける時間は来ないと思っている。
「おう、ジュゼッペ様だぜ」
「ジュゼッペ様はおふたりに優しいのですね?」
 ミーリアの分と自分の分。双方を見守っているニルも首を傾げた。
 ゼロ・クールは『しもべ人形』と聞いている。中には酷い主もいるかもしれないと思えば、ニルは我が事のように悲しい。けれど、ふたりとも愛されている、ように見えた。
「ジュゼッペ様はゼロ・クールに優しいって有名なんだ」
 ミーリアの答えは「わかりません」になってしまうから、ほとんどの受け答えはユグムが担当だ。
 ジュゼッペについての会話に少しだけ花を咲かせている間に、オーブンからはクッキーが焼ける良い香りが漂ってきた。
「ゲオルグ様のそれは、猫、ですか?」
「そうだ」
 オーブンから取り出したクッキーを冷ましているミーリアは、ゲオルグの手元をひょこりと覗き込む。まぁるいフォルムの猫たちはにゃんたまという猫で、柄もいくつか違いがある。
「猫がお好きなのですか? ゲオルグ様はとてもお上手です」
 にゃんたまたち、それからふわふわ羊のジーク。
 ゲオルグの大きな手からは愛らしい動物たちが生み出されていく。形成が難しくとも何のその。ゲオルグはふわふわ愛から日々その造形を再現することに余念がない。
 基本もしっかりとマスターした上で丁寧に、菓子への敬愛とリスペクトを籠めて作る姿勢にはユグムも思うところがあったのだろう。ふたりのゼロ・クールたちはゲオルグのことをジッとよく観察――見て、学んでいた。
「よし、やるか」
 レシピ通りのクッキーを焼いてから、これでは普通すぎる! と買い出しに行っていた世界が帰ってきた。彼の前に並ぶ材料は――
「それはクッキーにならないぞ?」
 クッキーの範囲から外れそうな場合は、ユグムが指摘入れているらしい。今日は皆で『クッキーを作る』依頼(お手伝い)なのだ。外れることは『お手伝い』をこなしたとは言えない。クッキーがパフェになるわけがなく、逆もまたしかり、だ。
「でもソフトクリームやクリームを挟んだクッキーは美味そうだな」
「クリームと言ったか?」
 ユグムの言葉に三角の耳を傾けた汰磨羈が反応をする。それならばバターや甘いクリームを挟んだクッキーも食べたい。世界はそのリクエストに応えることにした。
「ありがとう、借りるね」
「みゃー」
 祝音から猫の型を借りたヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はプレーンとココア味の猫クッキーを作っていた。このクッキーは親友たちへプレゼント予定だ。
「星も……型がないと難しいかな?」
 誰か持っていないかなと、型を持ち込んでいる人たちのクッキーを覗きに行く。
(ふふ、皆楽しそう)
 こういう機会がまたあればいい。そう思いながら。
「アラ雨泽、いいところに」
 通りがかった雨泽にジルーシャ・グレイ(p3p002246)が声を掛けた。
「どう? 可愛くない?」
「可愛い。上手だね」
 星型、ハート型、猫の型のアイシングクッキー。それはどれも可愛くて、雨泽が運んでいる鉄板の上に並んでいる支佐手産クッキーとは程遠い。
「ホラ、口開けて。アンタ最近元気がないみたいだから、甘いもの食べて元気になりなさいな!」
 味見よ、と両手が塞がっている雨泽の口へと放り込んだ。
「美味しい。こっちのも食べる? 焼きたてだよ」
「……気持ちだけもらっておくわ」
「そう。食べたくなったらいつでもどうぞ」
「雨泽様、サマーァ様、味見をお願いします!」
「任せて! はい、雨泽」
 ニルのチョコチップクッキーを受け取ったサマーァが、両手が塞がっている雨泽の口へとクッキーを放り込む。
「あまーい!」
「チョコチップって好きだなー」
「ミーリア様、こちらが『おいしい』のかお、です!」
「なるほど、勉強になります」
 ニルはちょっぴり先輩のような気持ちで、ミーリアへと『おいしい』を教えているようだ。
「支佐手ー、クッキー焼けたよー」
 その姿を微笑ましげに笑い、雨泽は鉄板を運んでいった。
 ……のだが。
「わしは……わしはどうして、このような忌み子を……」
 がくりと項垂れる支佐手の前には、泣いているような笑っているような、虚ろな表情をした異様に不気味なアイシングクッキー……もどき。
「言い忘れてたんだけど、アイシングって焼いたクッキーの上にやるんだよ」
「なっ!?」
 シレッと告げた雨泽は手元のクッキーにアイシングを施している最中だ。
「雨泽殿!? おんし、何をひとりで!」
「うわっ、揺らさないで揺ら……あーっ!」
「次こそは何があっても成功させますけえ! 付き合うてもらいますよ!」
「あああっ力作の猫が……!」
「……一部うるさいが、そろそろ焼けているようだな。どれ、お茶を用意するか」
 買い物から戻ってきた汰磨羈はチラッと豊穣男子(失敗の道連れを作った支佐手と道連れにされた雨泽)を見て、あそこは焼き直すだろうがお茶の準備を始めていても良いだろうと判断した。
「俺は珈琲を担当しよう」
 ヤツェクがゴリゴリと豆を挽き始めればふわりと珈琲の香りが漂って、コーヒークッキーも良かったかもね、なんて声が聞こえた。他の皆の好みを聞いていないからわからないが、珈琲を口にするのはヤツェクとバクルドだろうか? ひとまずふたり分抽出出来れば良い。
「私はお湯を沸かしておくか」
 この人数だ。ティーカップを温めるのにもお湯が沢山必要になる。そして紅茶ごとに合うお茶を飲んでもらいたいと思う汰磨羈は、通常の人数分よりも多く用意する必要があった。
(バタークッキーにはストレートティー、チョコクッキーにはミルクティー。和風なものがあるなら、ほうじ茶や緑茶を用意してもいいな)
 さあ、このテーブルを彩るクッキーたちはどんな姿をしているのだろうか。
 様々なクッキーを予想して皿を用意してはあるが、場合によっては追加も――?

●さくさくくっきー
「いただきます」
 それぞれの眼前に置かれたとりわけ用のお皿と、皆が焼いたクッキーを並べた大皿。ふんわりとバターやチョコレート、甘い香りを胸いっぱいに吸い込んで、メイメイは幸せな気持ちで手を合わせた。
 楽園が……楽園が眼前に広がっている!
 ぱくり。さくさく。ごくん。一口口にする度、メイメイの口内にも楽園が訪れる。
「メイメイ様は『おいしい』ですか?」
「はい、美味しいです」
 ふにゃりと幸せそうな笑みは『おいしい』の顔。さっきニルから教わったから、ミーリアは確認をしたようだ。美味しいの笑顔とじいっと見られては少しだけ照れてしまう。
「ジュゼッペさまの幸せなご様子が見れると良いですね、ミーリアさま」
「はい、ミーリアはジュゼッペ様を『おいしい』で笑顔にしてみせます」
 汰磨羈が淹れてくれた紅茶を手に、皆和やかにクッキーを食んでいる。
 そうして汰磨羈はというと、食器もいい感じだしお茶も合うしクッキーは美味しいし、と言うことなし。
「私はこのクリームを挟んだクッキーが一番だ」
 リクエストした甲斐もあり、世界にクリームを挟んだクッキーを用意してもらった汰磨羈は機嫌良さげに尾を揺らした。
「うむ、こりゃ旨いな」
 誰かが作ったバタークッキを手にして、バクルドは満足気に口の端をあげた。バタークッキーはコーヒーと合わせて食べると甘味と苦味がいい感じにバランスが取れていた。美味しい珈琲を煎れてくれたヤツェクへとカップを持ち上げて感謝を伝えれば、同じ所作で返される。
 どのクッキーもサクサクで、ホロホロと崩れてしまうものまである。硬い放浪向きで硬いクッキーを美味しく食べる方法も知っているが――この場でそれを告げるのは野暮であろうと、バクルドはその場のクッキーと珈琲を楽しむ。
「さくさくクッキー、おいしいね」
「思い思いのクッキー……見るのも、食べるのも楽しい」
 祝音の前にはホットミルク。火傷しないようにねとかさねに声を掛けられながらも、皆と笑顔を交わし合う。
「ミーリア、この子はジークという」
「こんにちは、ジーク様」
 よければどうぞと手渡した羊型のクッキーはチョコでつぶらな瞳が描かれており、ジークにそっくりだ。ミーリアは手にしたクッキーとジークを見比べ、それからゲオルグを見上げた。
「ジーク様を食べても大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、姿を模してはいるがクッキーだ」
「……ジーク様が『いたい』にならないのでしたら、よかったです」
 当のジークは気にせずサクサクとクッキーを楽しんでいる。どこから食べようか悩んだミーリアはもこもこ部分から口にして、「ジーク様はサクサク……」と零していた。

「雨泽、これ」
 よかったらアイシングに使って。まだ失敗作を摘むくらいしか出来ていない雨泽のところへ、チックが小さなコルネをたくさん作って持ってきてくれた。コルネとはポリやクッキングペーパーを巻き上げて作る小さな絞り器のことだ。二度目の生地作りと無惨なアイシングの亡骸に悲しい気持ちの雨泽には正に天の助けのようであった。
「ありがとう、チック。今度お礼をするね、……支佐手が」
「わしですか……」
「……誰のせいですか?」
「……わしですが」
「お礼、大丈夫。頑張って……ね」
 雨泽が作ったクッキーも食べたいから、チックは少しだけ皆とクッキーを食べてからまた作業台へと戻っていったようだ。家で待っている子どもたちへのお土産用に可愛く包むのだ。
(ふふっ、異世界で作ってきたクッキーだと聞いたら、驚かれるでしょう、か)
 ごちそうさまと一旦手を合わせたメイメイも、ふたつのお土産を用意しに作業台へと向かっている。今日みたいにクッキーとお茶を。そしてお土産話も添えてお茶会をするのが今から楽しみだ。
「称えよサクサククッキー、称えよほろほろクッキー……」
 丁度その時、クッキーを片手に、唐突にヤツェクが歌い始めた。
「何の歌でしょう? 有名な歌でしょうか?」
 ミーリアの視線が他の皆へと向かうが、全員の顔には『知らない』と書いてある。
「クッキーに捧げる即興曲だ」
 ヤツェク曰く、歌はどんな作業も苦難も楽しくする人間の魔法、とのことだ。
「歌……」
「なんならば、教えるぞ、歌」
「……ミーリアにはまだ早い、と思います」
「早い?」
 ゼロ・クールに心はありませんから、心を込めて歌えないので。
 何でもない顔でミーリアはそう告げて、サクッとクッキーを食んだ。
「あー、多少焦げたもんはこっちに回してくれ、ちとばかし苦いもんも欲しくなってきたところだ」
「助かるよ、バクルド」
「おう、任せ……ってなんだこりゃぁ」
「支佐手の忌み子」
「雨泽殿! ……バクルド殿、見た目はちいと悪いかもしれませんが、味は普通ですけえ」
「精神を鍛えられるよ」
「お、本当だな。味は悪くない……甘すぎるくらいだから放浪に丁度いいかもしれんな」
 しっかりとユグムが窯を見ていたからか、焦げた物は無さそうだ。けれども『献上品に相応しいあいしんぐくっきー』を追求していた試作品は多く、バクルドが貰ってくれる事となった。
「バクルドさん、これも持って行って」
 サマーァがリボンを結んだ包みを手渡した。中身はジャムが中央に塗られた花型のクッキーだ。境界世界へ『任意』で来られるのはイレギュラーズのみで、養子を連れてきたかったが連れてこれなかったバクルドへのお土産用だ。
「ミーリアも、たくさん焼きました」
 全部一人で作ったジュゼッペ用は、ミーリアの瞳の色のリボンを結んで区別をして。他の――皆と一緒に型抜きをしたクッキーはたくさんあるから、ニルと一緒に此処に居る人数分を包んだ。持って帰れるお土産用だ。
「僕も貰ってもいいの?」
 祝音の分だけじゃなくてかさねの分もあって、かさねが目を丸くした。
「勿論です。今日はミーリアのために来てくださってありがとうございます」
 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
 けれどもゼロ・クールたちの中に流れる時間は時間のようで、彼等はただ時間を見て「そろそろ」とお別れの挨拶をした。
「皆様、今日はミーリアとクッキーを作ってくださってありがとうございます。ジュゼッペ様もきっと喜ばれることでしょう」
「どうだろう。楽しく、そして美味しいひと時は過ごせたかな?」
「ミーリアにはわかりません」
 ゼロ・クールは人形で、楽しいと感じるような感情はエラーだ。
 感情があるように見えるゼロ・クールは『そう』プログラミングされているに過ぎない。
 けれど。
「ですがミーリアは」
 琥珀色が揺れるコップをテーブルに戻し、ミーリアは真っ直ぐに前を見た。
「皆さんのが笑顔でいることは『たのしい』場であること、そして『おいしい』の証だと教わりました。ですのでミーリアは――とても『たのしく』『おいしい』です」

 ――ジュゼッペ様にもそんなひとときとお届けしたいです。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

さくさくクッキーもホロホロクッキーも、全部違って全部いいですね。
皆さんとクッキーを作れて、ミーリアはきっと『たのしい』になったはずです。
心がないからこそ、目にする皆さんの表情や態度が全てです。

お疲れ様でした、アトリエ・コンフィーのお手伝いさんたち。

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