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シナリオ詳細

<信なる凱旋>ニブルヘイムへの招待状

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 イレギュラーズの協力を得て遂行者たちにによる襲撃を退けることに成功した聖都フォン・ルーベルグへ、一台の馬車が向かっていた。
 装飾の施された馬車とそれを護衛する聖騎士が複数いることから、身分の高い人物が乗るものだと一目で分かる。
「むぅ……。これほどとは……」
 馬車の中でたっぷりと蓄えられた白髭を撫でつけながら唸るのは、教区司教を務めるブランドンだ。聖都が襲撃されたと聞いて、状況の確認と何か手伝えることがあればと駆け付けたのだが、襲撃者との戦闘による惨状は想定以上だったのだ。
 純白の城壁は戦火で一部煤けており、聖都近辺に広がる平野は戦闘の後で荒れている。襲撃者側も相当な戦力を投入していたことが伺える。
 こうなってくると、聖都の中も心配だ。人的被害はかなり小規模ではあったと聞くが、襲撃をうけたという事実からくる民たちの不安はいかばかりか。
 自分一人で出来ることは少ないかもしれないが、それでもと急ぐように御者へ声を掛けたその時だった。
「ぬぉおお! 何が起きたのだ!?」
 凄まじい衝撃が馬車を襲い車体が二転三転して、中にいたブランドンは混乱に陥る。
 回転が止まった後、車内で体を打ち付けた痛みに耐えながら真上に来ていた扉を苦労して開けると、そこから上半身をを出してなにが起きたのかを確かめる。
「あ、生きてる生きてる。よかったー。一瞬、殺したかと思ってちょっと焦ったじゃん」
「ドゥーエがいきなりあんなことしなければ……」
「クワトロは黙ってよ。それより、ちゃんと仕事はしたんだよね? 今回も失敗なんてことは……」
「大丈夫です! ちゃんとやってきましたよ~!」
 ブランドンを襲撃したのは三人。
 双子のように瓜二つな二人組と、その奥にどっしりと構える青い鎧。どうやら、馬車を横転させたのはドゥーエと呼ばれた者らしい。
 おどおどとした様子のクワトロが苦言を呈するが、ひと睨みで黙らせると取り出した似顔絵とブランドンを見比べ、にやりと笑うと拳銃を突きつけてこう言い放つ。
「選びなさい。私たちと来るか、それとも死ぬか」
「何を言っておるか! 例え命を落とそうとも、儂はお主らのような輩に協力はせんぞ!」
「って言ってますけど、どうしますか……?」
「縛って馬車の中にでも放り込んでおけ」
「はぁ~い」


 ブランドンが襲撃される少し前。
 ローレットの天義支部に三通の手紙が届いていた。
 『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)、『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)の三人は知らせを受けて顔を出すと、それぞれに羅針盤を模した封蝋で封が捺された手紙が渡される。
「羅針盤!? まさか……!」
「見てください、差出人の名前!」
「クワトロくん……」
 差出人の名前はクワトロ。三人がよく知る致命者の一人だ。
 勢力的には敵対関係であるものの、どこか憎めない人柄であり諸事情によって基本的に無害であるため、直接敵として対峙することはなく交流をしていた。
 しかし、いつまでもそういう関係が続くという訳ではないのだろう。
『皆さんにお話しがあります。同封した地図にある場所まで来てください』
 手紙に書かれていたのは短い一文だけであったが、線が震えておりクワトロが葛藤しながら書いていただろうことが察せられる。
 どのようなつもりで呼び出されたのかは不明だが、少なくとも三人だけで来いとは書かれていない。何か嫌な予感を覚えた三人は、仲間を募り地図に示された場所へと向かうのだった。

GMコメント

●ご挨拶
本シナリオは
・『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)様
・『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)様
のアフターアクションとなりますが、クワトロと関係の深い
・『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)様にも優先を出させて頂きました。

よろしくお願いします。

●目標
 1.ブランドン及び聖騎士4名の救出
 2.青騎士の討伐もしくは撃退
 3.ドゥーエ及びクワトロの討伐もしくは撃退

●フィールド
 聖都フォン・ルーベルグ近郊の平野です。
 開けた場所で天候も良好であり、地形が戦いの邪魔になることはないでしょう。
 しかし、青騎士によるものか周囲一帯に冷気が立ち込めており、戦闘には影響が出ない程度ですが肌寒さを感じます。

●エネミー
 青騎士 インディゴ×1
 『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーより各遂行者に与えられた戦力の一つで、『死を齎す』とされる青騎士の一人で、聖痕を持たない者を殺そうとする性質を持ちます。
 出自が異なるため、致命者であるドゥーエやクワトロとは全く異なる存在です。
 外見はその名前の通り青い騎士鎧で身を包んだ騎士であり、同じく青い装甲を纏った馬に騎乗しています。
 天義の有力な聖職者やローレットのイレギュラーズなどを勧誘し、戦力の拡充を狙っているようです。
 非常に強力なユニットで、総合的な戦闘力はドゥーエやクワトロよりも上となります。
 ステータス傾向としては、HP、防技、抵抗、EXFが高く、回避、反応、機動力、EXAが低い、物理タンクタイプとなっておりますが、後述のパッシブで一部弱点を相殺しています。
 また、主な攻撃手段としては以下のようになります。

 『ランス』
 馬上槍による近距離物理の通常攻撃です。

 『ポイントショット』
 鋭い突きによる衝撃を飛ばす、遠距離物理の通常攻撃です。

 『シールドバッシュ』
 大盾によって殴打する、近距離物理攻撃です。
 【ブレイク】【飛】を持ちます。

 『アイシクルスラスト』
 冷気を纏わせた刺突によって、近距離扇へ物理攻撃します。
 【凍結】系統のBSが付与される可能性があります。

 『コンプレッション』
 冷気と死の気配によって威圧し、自域に【怒り】を付与する可能性があります。
 【識別】を持ちます。

 『???』
 現時点では不明です。

 『???』
 現時点では不明です。

 『ナイト・オブ・プライド』(パッシブ)
 ルスト・シファーより与えられた加護で、防技・抵抗が上昇します。
 また、【凍結】系統のBSを無効化します。

 『コバルト』(パッシブ)
 青騎士が乗るコバルトブルーの装甲を纏う白馬で、反応・機動力が上昇し、騎乗状態になっていますが、倒すことで無効化出来ます。

 『???』(パッシブ)
 現時点では不明です。

 ドゥーエ×1
 遂行者ティツィオ配下の致命者です。ティツィオに指示され、青騎士の手伝いとして遣わされました。
 クワトロを始め他のティツィオ配下と同じ容姿をしていますが、性格は嗜虐的で少し感情のブレーキが利きにくくなっています。
 既に治療し元通りになっていますが、セシル様に右腕を斬り落とされたことは根に持っており、戦闘となった場合には優先的に狙ってくるでしょう。
 また、力を解放しており平常時に比べて各種能力が上昇しているほか、背中には天使の翼が、頭上には天使の輪が出現しています。
 ステータス傾向としては、反応、回避、EXAが高く、HP、防技、抵抗が低い、速さと手数で押すタイプの両面アタッカーとなります。弱点を後述のパッシブにて補っていますが、相殺するほどではありません。
 主な攻撃手段としては以下のようになります。

 『信仰と忠誠』
 物理弾を放つ『信仰』と神秘属性のエネルギー弾を放つ『忠誠』という二丁拳銃による、中距離通常攻撃です。
 また、これにより全ての攻撃スキルが物理・神秘の両属性を持つようになります。

 『格闘』
 格闘と銃撃を組み合わせた、近接通常攻撃です。

 『連弾』
 二丁拳銃による素早い連射を行う、中距離攻撃です。
 【出血】【足止】系統のBSが付与される可能性があります。

 『制圧』
 残像が出来るほどの高速移動を行いながら前後左右、様々な方向から銃撃を行う中距離範囲攻撃です。

 『???』
 現時点では不明です。

 『天使の翼』(パッシブ)
 反応を上昇させ、【飛行】が可能となります。

 『天使の輪』(パッシブ)
 輪から降り注ぐ加護の光がドゥーエを守ります。
 防技・抵抗が上昇しています。

 クワトロ×1
 遂行者ティツィオ配下の致命者です。ティツィオに指示され、青騎士の手伝い及びイレギュラーズの勧誘に遣わされました。
 ドゥーエを始め他のティツィオ配下と同じ容姿をしていますが、努力に反してドジや不運が重なり任務達成率0%を記録する不憫な子です。
 今回、史之様、イズマ様、セシル様を手紙で呼び出した張本人です。
 力を解放しており平常時に比べて各種能力が上昇しているほか、背中には天使の翼が、頭上には天使の輪が出現しています。
 ティツィオの指示には逆らえないため戦いには参加しますが、本人は戦うことに乗り気ではなく迷いを見せているようです。
 ステータス傾向としては全ての能力が高い水準で纏まっているオールラウンダータイプですが、代わりに後述の『死兆星』とは別にFBが極端に高くなっています。
 主な攻撃手段としては以下のようになります。

 『双短剣』
 二つの短剣を使った至近物理攻撃です。

 『光闇刃』
 短剣から光と闇の斬撃を飛ばす遠距離神秘攻撃です。
 【毒】【麻痺】系のBSが付与されることがあります。

 『連斬』
 二刀流による素早い連撃を行う近接物理攻撃です。
 【連】を持ちます。

 『???』
 現時点では不明です。

 『天使の翼』(パッシブ)
 反応を上昇させ、【飛行】が可能となります。

 『天使の輪』(パッシブ)
 輪から降り注ぐ加護の光がクワトロを守ります。
 防技・抵抗が上昇しています。

 『死兆星』(パッシブ)
 常に解除不可能な【不調】【不遇】【不発】【奈落】【不吉】【不運】【魔凶】【塔】が付与された状態となります。

 『???』(パッシブ)
 現時点では不明です。

●人物
 ブランドン
 天義の教区司祭を務める高齢の男性です。
 私財を使って炊き出しや孤児の教育を行うなど、優れた人格者として知られています。
 聖都フォン・ルーベルグが襲撃されたと聞いて駆けつけてきましたが、既に一度目の襲撃は終わった後でした。
 それでも状況の確認や復興の手伝いなどのために聖都を目指し、もうすぐ到着という時に青騎士や致命者に襲撃されました。
 勧誘は一度断っていますが、イレギュラーズたちが敗れる姿を見せれば心が折れて従うだろう、と青騎士によって聖騎士たちと共に捕らえられています。命に別状はありません。

 聖騎士×4
 ブランドンの護衛としてついてきた聖騎士です。
 青騎士及び致命者による襲撃によって戦闘不能となりましたが、気絶しているだけで命に別状はありません。

 ●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●サポート参加
 当シナリオではサポート参加が開放されています。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <信なる凱旋>ニブルヘイムへの招待状完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬越 弾正(p3p007105)
終音
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ


 手紙で呼び出されたのは三人であったが、敵からの呼び出しに対して素直に応じることはない。
 呼び出された『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)、『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)に加えて六名。総勢九名で地図に記された場所へ向かうと、そこにはもはや見慣れた同じ顔立ちの二人組と、始めて見る青い鎧に身を包んだ騎士が一人。
「――呼び出しに応じて下さりありがとうございます。それで、返事は……?」
 クワトロは三人の奥にいる他のイレギュラーズを一瞬だけ気にしたようだが、ひとまずは返事を聞くことを優先したようだ。
「クワトロさん、手紙ありがとう。真剣に考えて書いてくれたのだと解ったよ。
 でも聖痕は……悪いな、断る。俺は歴史修復に与しない」
 今の世界を生きていたいからというだけではない。短い期間ではあるとはいえ、クワトロとの時間は今の歴史でしかありえなかった。
 それは決して嘘や間違いではないのだと、イズマは固い決意を口にした。
「君達が天義を荒らそうとしてるなら僕は許しません! その為に僕は君達と戦います」
 続くセシルの答えもまた拒絶であった。
 クワトロのことは決して嫌いではない。しかし、セシルには守るべき人がいてそれを譲ることなどできないのだから。
「僕は君たちの聖痕、受け入れてもいいと思っているよ。でも、その前に捕らえている人たちを解放して貰わないとね」
 史之の意外な答えにクワトロは目を見開く。しかし、交換条件が提示された。これにはどうするべきか。
 後ろを向くと、青騎士は既に臨戦態勢を整えていた。
「交渉の余地などあるものか。貴様らは我々と共に来るか、この場で死ぬかしかない」
「交渉決裂~。てなわけで……あの時の恨み、晴らさせてもらうから!」
 青騎士に続きドゥーエも二丁拳銃を引き抜き既に攻撃態勢に入っている。もはや衝突は免れないと理解したクワトロは、腰に差していた二本の短剣を引き抜くと史之に向かい合う。


「こちらからいくよ」
「くっ!」
 抜刀と共に放たれる赤き雷光。防御をしようとするクワトロだが間に合わずに直撃を受ける。
 表皮が焼かれると共に、込められた術式が精神に負荷をかけて史之以外が眼に入らないようになっていく。
 抗えない衝動のまま短剣を振るうが、結果は既に見えているようなものだ。空振り、空振りと続き、ならばと渾身の力を込め更に一歩踏み出したところで、飛行する史之が高度を上げて回避すれば勢い余って転んでしまう。
 立ち上がろうとしたクワトロを鋭い一閃が背中を深く斬り裂き、鮮血が周囲に飛び散った。
「うぅ……」
「そんなものかい? 俺を連れて行きたかったら、それだけの力を示して貰わないと」
 赤き雫の滴る切っ先を向けながらそう言うと、クワトロは素早く起き上がり再び攻勢に出る。
「うわぁああああ!」
 雄叫びを上げながらの連続攻撃。だが、そこは既に史之の掌中である。
 いつの間にか展開されていた幻影をいくら斬っても史之には届かない。それどころか、その隙を突いて史之は更に刃を振るいクワトロの傷が増えていく。
「俺ね、クワトロ君が見ている景色が見てみたいよ」
 驟雨の如き斬撃によってクワトロに深手を負わせた史之はそう言った。
 これまでの冒険や遊んだ思い出は嘘ではない。なにより、愛しい人がクワトロの事を心配している。だからこそ、史之は敢えて聖痕を受け入れクワトロの側にいようと考えたのだ。
「はぁ、はぁ……。その気持ちは嬉しいです。でも、”こちら側”にくれば、もう二度と”そちら側”には戻れませんよ。
 私から誘っておいてこういうのもなんですが、本当にその覚悟がありますか?」
「……」
 傷口を押さえながら立ち上がりクワトロが問いを投げかければ、史之の動きが止まり言葉も詰まる。
 自分の命よりも大切な愛する存在。彼女に二度と会えなくなるという事は考えるだけで恐ろしい。
 だが、黙っていることも出来たはずのこの事を敢えて伝えたのは、クワトロなりの誠意なのかもしれない。
 クワトロたちはティツィオの命令に逆らうことは出来ない。そのように作られている。
 故に、命令に反しない範囲でせめて交流のあった史之たちには誠実に向き合おうと。
「……無駄話はこれくらいにしましょう」
「クワトロくん……」
 これ以上は命令違反になるのかもしれない。クワトロが呼吸を整えてから短剣を構えると、史之もまた太刀を構え直しそれを迎え撃つ。


「さあ、ドゥーエさん以前の続きをしましょう! どちらが上か勝負ですよ! 僕は絶対に負けませんから!」
「今度はあんたの腕を落としてやる!」
 イレギュラーズへと襲い掛かろうとしたドゥーエだったが、先手を取ったのはイレギュラーズの方だった。
 最速を誇る『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が先駆けとなり、仲間たちの速度を引き上げたのだ。
 加速したセシルがマーニーと名付けた相棒のトナカイが轢くソリの上から、虹色に瞬く星を放ちドゥーエの気を引こうとする裏でさらに別の影がドゥーエに迫る。
「あなたの相手はまだいますよ!」
「ちぃっ!」
 底冷えするような冷気を纏いながら、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が輝く細剣を振るえば炎の花弁が咲き乱れる。
 翼を羽ばたかせそれを躱そうとするドゥーエだが、乱舞する焔は空間へと広がっていき回避は容易ではない。
「いいよ! 纏めて相手してやる!」
 とはいうものの、やはり狙いはセシルなのだろう。一度距離を取ったドゥーエは残像を残すほどの超加速で戦場を飛び回ると、セシルを中心に定め二丁拳銃を乱射し銃弾をこれでもかと撃ち込んでいく。
 荒れ狂う嵐の如き乱射は確実に体力を削り取っていくが、その攻勢に耐えながらブランシュがドゥーエを睨む。
「もういいのか?」
「あぁ、死神の前に立ったことを後悔させてやろう」
 システムをフル稼働させて体勢を整えていたブランシュ。その傍らに立つ『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は魔力によってブランシュのシステムに干渉し、一時的にエネルギー効率を高めるように操作していたのだ。
 コアから生まれるエネルギーを限界まで高めたブランシュが一歩を踏み出せば、次の瞬間には乱射を続けるドゥーエのすぐ横に現れていた。
「なっ――」
「セイッ!! ハアアアアァァッ!!」
 裂帛の気合と共に放たれた飛び蹴りは、ドゥーエに僅かな反応をすることも許さずその胴体へと突き刺さった。
 速度とは即ち破壊力である。この場の誰よりも疾く飛ぶブランシュが放つ一撃は凄まじく、ドゥーエはきりもみ回転しながら吹き飛ばされ地上へと落下していく。
「今だ、続けぇっ!」
 ブランシュの一撃を見届けたセレマが魔力を込めた声で号令を轟かせると、即座に反撃へと転ずる。
「あなたにはやるべき使命があるのかもしれません
 でも、罪の無い人々を攫ったり攻撃したりするのは許しません!」
「いい子ちゃんぶって!」
 ドゥーエの落下地点で待ち構えていたセシルが氷刃を伸ばし鞭のように変化した剣を乱舞させる。
 対するドゥーエは受け身を取って着地すると、即座に横へ跳び初撃を避けると弾幕の如き剣閃を避けながら銃撃による反撃に出た。
 激しい乱打戦は互いに一歩も引くことはない。
 天義で生まれ育ったセシルには、この地に家族や大切な友がいる。それらを守るためには決して負けることは出来ないのだと、強い決意を宿した瞳でドゥーエを捉え続けていた。
「彼にばかり気を取られてていいのですか?」
「またあんた!?」
 乱打戦を繰り広げているセシルにシフォリィが加勢する。
 ドゥーエの意識がセシルに向いていた隙に接近することの出来たシフォリィは、再び細剣を振るい紅き花弁を散らす。
 二人掛かりの攻撃にはさすがのドゥーエも対処しきれないらしく、遂にシフォリィの放った花弁の一つがドゥーエに触れ灼熱の炎が広がる。
 見た目こそ美しい炎の花吹雪であるが、その実内側に秘めたる熱量は膨大なのだ。
「一気に畳みかけるとしようか」
 『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)は、極めて高い集中によってすべてがスローに見える世界の中で、ワイバーンを駆り上空から急降下すると、地表すれすれを飛びながらドゥーエに仕掛けた。
 すれ違い様に弾正の操る蜘蛛型の兵器が爆発を巻き起こすのだ。
 巧みにワイバーンを操ることで、素早く切り返しながら爆破を連鎖させドゥーエを飲み込んでいく。
「……そこだ」
 遥か彼方。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が狙撃の機会を伺っていた。
 今が好機と見れば動きは速い。犬の描かれたカードの束から一枚を抜き出しそれを宙に投げる。
 すると、犬と共に描かれたライフルが現出しウェールの両手に握られていた。
 スコープを覗き慎重に狙いを定めたら、呼吸を止めて引き金を引く。銃弾は音を超える速さで突き進みそのまま爆炎を貫きドゥーエの側頭部へと直撃した。
「やってくれるね……。もう許さない!」
 流石というべきか、銃弾を頭部に受けてもドゥーエは倒れなかった。
 しかし、これまでの戦闘による消耗も重なり満身創痍といって過言ではない状態だ。頭から血を滴らせながらも、怒りに燃える瞳でイレギュラーズを睨みつけると翼を広げて飛翔する。
 ドゥーエの翼と天冠が一際強く輝くと、数え切れないほどの銃が空中に出現していた。
「はぁああああ!」
 両手の二丁拳銃が火を吹くと無数の銃口からも一斉射撃による蹂躙が開始されたのだ。
 だが、イレギュラーズもただやられるだけではない。空間を埋め尽くすような銃弾の乱舞だが僅かに偏りがある。やはり、ドゥーエとしてはセシルに意識を向けざるを得ないのだろう。
 その僅かな隙を突いてブランシュが動いていた。
「チェストオオォォッッ!!!」
 咆哮と共に放たれる蹴りが腹に突き刺さり、ドゥーエが体をくの字に折り曲げて吐血する。
 そのままマシンガンガンのような眼にも止まらぬ連続蹴りをお見舞いすると、最後には上下に体を回転させて踵落としで地面へと叩き落してやる。
「艱難辛苦の果てに歌い紡がれた終曲よ、紫電となりて希望を掴め――我こそは夜明けの求道者!」
 ドゥーエが落とされたそこは、弾正が構築していた術の中心である。
 落下したドゥーエに呪いが込められた雷撃が襲い掛かり、更に音によって振動させ刃の鋭さを得た手刀を振るって十字の傷を刻むのだった。
「あーあ。……負けちゃったかぁ。マスター、ごめんね……」
「ドゥーエさん!」
 もはや限界だったのだろう。倒れたドゥーエの身体が光の粒子となって消え始めていた。
 セシルが駆け寄るも、ぐったりとして動く気配がない。
「せめてあんたに一泡吹かせたかったんだけどなぁ……」
 自分に視線を向けながらそう呟くドゥーエにセシルは何を思っただろうか。
 過去にドゥーエたちが行ったことは到底許せるものではないし、今まさにしていたこともそうだ。ティツィオの命令に逆らえないとしても、クワトロのようにどうにかして抗う術を探す道だってあったにも関わらずそれをしなかった。
 客観的に見れば同情の余地はないのかもしれない。だが、セシルはドゥーエの体が動かなくなるその時まで手を握り続けるのだった。


 戦闘開始と共に何かを仕掛けようとしたらしいインディゴであったが、ブランシュによって加速した『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が先手を打った。
「させへんで?」
「ぬぅ……!」
 明けの空に輝く星の名を冠する矢は、光の尾を引き流星雨の如くインディゴへと迫る。身を隠すほどの大盾によってそれは阻まれるが、機先を制しインディゴの狙いを潰すことは出来たようだ。
「お前の相手は俺だ。青い者同士仲良くやろうか?」
 続くイズマが青い髪をなびかせながら細剣を構え鋭く二度突き出される。
 その先端より発せられる魔性の旋律がインディゴのを貫き、直後に自身へと殺気が向けられた事に気付いたイズマは更にもう一手。
 魔力の波動を放ち、騎馬ごとインディゴを吹き飛ばす。
 ドゥーエやクワトロと引き離し各個撃破していく。それがイレギュラーズの作戦だったのだ。
 まずはドゥーエを倒すべくそちらに戦力を集中させているが、やがて仲間たちが合流してくれるはず。今はそれまでの時間稼ぎだ。
「なるほど、そういう事か……。ならば!」
「くっ!」
 その考えはインディゴもすぐに察知した。
 であれば、この二人をどうにかしてドゥーエと合流するのがいいだろう。
 槍を突き出すとその衝撃がイズマに襲い掛かる。が、イズマも相応の覚悟を持ってこの足止めを行っている。その守りは固くそう簡単には隙は見せない。
 インディゴの僅かな体の動きを見て即座に狙撃を行う彩陽と、自己治癒を行いながら鋭く突き刺さる旋律の魔術で注意を引くイズマ。
 対するインディゴも重厚な守りの中から冷気と槍術によって反撃をするが、互いに決め手を欠く状態が続くと、焦れたインディゴは勝負に出るようだ。
「駆けるぞ、コバルトよ……」
「なにか仕掛けてくるみたいやで!」
「守りを固めるんだ!」
 死を予感させる昏い魔力が凍てつく風に乗って届いたその時、二人は強烈な衝撃と共に宙へと撥ね上げられた。全身に感じる痛みと体表を覆う氷は間違いなくインディゴによるものだろう。
 大地へと落下すると、そこには一直線に伸びる氷の道が出来ていた。
 そして、その先には馬上から睥睨するインディゴの姿。恐らく、凄まじい速さによる突撃を行ったのだろうと、この瞬間初めて二人は理解する。
「どうした、俺はまだ死んでないぞ? 預言はその程度か!」
「ほう、あれを耐えるか。ならば、もう一撃当てて引導を渡してやろう」
 携行食として持ち込んでいたパンには傷を癒す不思議な力が宿っている。それを口に含みながら立ち上がるイズマに、インディゴは再び槍の切っ先を向けた。
「チェストオオォォッッ!!!」
「ぬぉ!?」
 インディゴが動き出すよりも疾く。薩摩隼人もかくやという叫びと共にブランシュが突撃し、馬の横腹を抉るように怒涛の連続蹴りを放った。
 これまでの蓄積もあり、この痛烈な連打を浴びて馬は消滅しインディゴは地面へと投げ出される。
 そしてこれは、ドゥーエとの決着がついたという福音でもある。
「無事みたいだな?」
「おおきに。何とか耐えたで」
 セレマが声を掛けると、彩陽とイズマの体表に張り付いていた氷が砕け、凍えていた身体に熱が灯る。
 ここからはもう時間稼ぎする必要はない。あとはインディゴを倒すのみだ。
「ティツィオめ、使えぬ駒をよこしおって!」
「あなたは何という事を!」
 消滅しかかっているドゥーエの姿を見て吐き捨てるようにそう言って槍を構え直すと、その言いぐさに激怒したシフォリィが迫る。
 輝く細剣の乱舞はその激情を表すかのように、赤き花を咲き乱れさせ青い鎧を焼いていく。
「流石に俺もカチンときたわ……!」
「お前は一体何様のつもりなんだ!」
 怒ったのはシフォリィだけではない。
 浮遊霊より借り受けた霊力を込めた矢が放たれ、怒りにあってもなお変わらぬ鋭い旋律が同時に襲い掛かった。
「使えぬ者に使えぬといって何が悪い!」
 数々の攻撃を盾で凌いだインディゴが、地面を抉るように槍を振り上げると吹きすさぶ冷気が広がっていく。
「貴様のような下種に相応しい死をくれてやろう!」
 冷気に包まれながらもコアの出力を臨海まで引き上げたブランシュが突撃し、咄嗟に構えたインディゴの盾と衝突するが、不十分な態勢による防御など容易く貫けるだけの威力がある。
 砕かれた盾を投げ捨てたインディゴが反撃に出ようとしたところに再びシフォリィが現れた。
 槍と細剣、冷気と火焔。二つの力が激しくぶつかり合い、辺りには蒸気が立ち込めていく。


 青騎士インディゴは強靭な生命力と、盾を失ってなお強固な守りでイレギュラーズの攻撃に耐えてしぶとく立ち続け、昏い冷気を宿した反撃の数々は一撃一撃が重く脅威である。
 だが、それでも戦い続け遂にその時が来たのだ。
 他のイレギュラーズの攻撃に圧されたインディゴの隙を突いてセレマが向かったのは、後方で横倒しになっていた馬車である。
 そこにはブランドンと聖騎士たちが捕らえられており、彼らの救出も任務の一つである。
 しかし、それにも関わらずセレマは馬車を”攻撃した”。伸ばした手の先から広がる光に飲み込まれた馬車は粉微塵となり、光に焼かれたらしいブランドンたちはその場に倒れている。
「仕事は上手くいきそうか? こっちは随分楽になった」
「貴様っ!」
 救出の必要がなくなった、と笑って挑発するセレマにインディゴは怒気を発する。
 インディゴに与えられた任務はもはや潰えたといっていいだろう。
 救出という重荷がなくなったイレギュラーズは、このまま畳みかけてインディゴもここで仕留めようと動く。
 だが、そこに乱入者が現れた。
「その方をやらせはしません! はぁああああ!」
「何をするつもりなんだ!?」
 史之との激闘(?)を経て満身創痍となっていたクワトロである。
 恐らく、ティツィオによる命令なのだろう。腰の辺りで両手を合わせ掌の間にどす黒い暗黒の球体を生み出すと、気合の声と共にそれを放つ。
 何か危険な気配を感じ取った史之がそれを防ごうと立ちふさがれば、直撃と共に暗黒の爆風に飲み込まれた。
「……痛くない? 目くらましか!?」
 全く痛みを感じず、体調にも変化はない。その隙にクワトロが脇を通り抜けようとした事もあって、目くらましと断じた史之であったが、クワトロを追おうとした直後に急な突風に煽られ体勢を崩してしまった。
「このままでは不利です。撤退しましょう!」
「チッ! ……仕方あるまい」
 合流したクワトロの言葉で冷静になったインディゴは、渋々といった様子で引き下がろうとする。
「この死神から逃げ切れると思っているのか?」
 クワトロとの合流を許してしまったが、総力戦を仕掛ければ十分に勝機はある。が、ここでもう一つのイレギュラーが発生する。

『インディゴ殿が危うくなれば、命を賭して守り抜きなさい。それが最優先命令です』

 ドゥーエの魂に刻まれたティツィオの呪いとも言えるような命令が作動したのだ。
「ドゥーエさん!?」
 もはや消えゆくだけだったと思われたドゥーエは、意識のないままにセシルの手を振りほどいて飛翔すると、残された力の全てを使って無数の銃口を召喚し砲撃を開始した。
 突然の弾雨に守りを固めるイレギュラーズだったが、数秒程度でドゥーエの完全消滅と共にその攻撃も止む。
 しかし、その数秒で十分だった。弾幕で遮られた先で、インディゴとクワトロはいずこかへと消えていたのだ。


「イタタタ。仕方なかったとはいえ、これはなかなか……」
「すまない、これが最適解だと思ってな」
 インディゴたちが去った後、ブランドンたちがむくりと立ち上がった。
 そう。セレマはしっかりと手加減していたのだ。
「ブランドンさん、聖騎士さんたちも。ご無事ですか?」
「安心しろ。見た目ほど傷は酷くねぇ」
 この仕掛けに関わっていたのはセレマだけではない。
 イズマは眷属や歯車兵をこっそりと派遣しており、弾正はスモーキーという自称探偵に救出と護衛を依頼していたのだ。
 作戦を聞いてブランドンはそれに乗ることを決めると、セレマの攻撃を受けると同時に死んだフリをして今まで息を潜めていたという訳である。

 その後、ブランドンや襲撃で負傷した聖騎士たちの応急処置をすると、聖都へと送り届けイレギュラーズは無事に依頼を達成したのであった。

成否

成功

MVP

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

状態異常

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)[重傷]
タナトス・ディーラー
火野・彩陽(p3p010663)[重傷]
晶竜封殺

あとがき

大変お待たせしました。
ドゥーエは撃破され、インディゴとクワトロは撤退し依頼は成功です。
お疲れ様でした。

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