シナリオ詳細
微睡みの居所
オープニング
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ヘスペリデスにベルゼー・グラトニオスの墓を作った。
それが珱・琉珂 (p3n000246)たっての願いであり、この黄昏の地とフリアノンの何方をも見守って居て欲しいという祈りを込めてのものであったが――
「なあ」
琉珂は背後を着いてやってくる竜種の娘に困惑していた。
「なあ、里長だろ」
口調は荒っぽいが少女だ。何処か不遜な態度の竜種の娘はご機嫌斜めである。
琉珂はゆっくりと振り返ってから「ええっと?」と首を傾げた。
「そう。私はフリアノンの里長の珱・琉珂よ。あなたは?」
「ぼくはオーリアティアだ。ラドンの友達で、ベルゼーのちょっとした知り合いだったぞ。
ぼくは『微睡竜』オルドネウムの系譜にして、眠ることが大好きな転た寝ドラゴンだ。おまえ、朱華は知っているか?」
「え、ええ」
「アレクシアは?」
「勿論」
「なら、美しすぎて怖くなる、っていうヴィルメイズもか?」
「美しすぎて怖くなるっていうならあのヴィルメイズさんね」
朱華(p3p010458)にアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)、ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)と名前を並べたオーリアティアは満足そうに頷いてから胸を張った。
「ぼくの頼みを聞け! 里長!」
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『転寝竜』オーリアティアはヘスペリデスでの戦いの際にも力を貸してくれた。その理由も『眠る場所を台無しにした魔種やレムレース・ドラゴンが気に食わなかっただけだという。
そんなオーリアティアは自身の寝床をきちんと整えるようにとイレギュラーズに頼んでいたらしい。
琉珂とて思うところはある。花の種を植え、ある程度の瓦礫は退けて墓を用意したが、それでも以前の美しさは取り戻せていない。
鮮やかな花が咲き誇り、人と竜が共に過ごす事の出来る場所を目指していたのであろう楽園の傷痕はありありと刻み込まれていたからだ。
「ヘスペリデスの立て直し、ね」
琉珂はぽつりと呟いた。そうする事でこの場所が栄え、竜種達の憩いになれば。
このヘスペリデスの管理人である竜種は何処かで忙しなく草木の世話をしているのだろう。
(……テロニュクスさんと前に一度話したけれど、害するわけじゃないならば好きにして良いと言われていたものね)
オーリアティアを手伝うついでに、少しだけ場を整えてやるのも良いだろう。
彼女の居所をきちんと作ってやらねばならないと彼女が指名したイレギュラーズに連絡を入れてみたが――
「な~るほど! 寝所作成RTAですね?」
「違うと思うわ」
ヴィルメイズが自慢げに頷いた。オーリアティアの寝所をどのようなものにするかは話し合わねばならない。
琉珂は折角ならば簡易的にでも道を整備して墓へ通い易くしたいのだと提案した(オーリアティアは「時間が余ったらだぜ」と拗ねていた)
被害を受けず、日常を取り戻したフリアノンと違ってベルゼーが壊したのは彼が作った唯一の場所だった。
(そういう所も、なんていうか……オジサマなのよね)
琉珂は嘆息してから捕まえて持ってきたデザストルブルーオオトカゲの尾を引き摺ってオーリアティアへと差し出す。
「これ、ランチ用にどうぞ」
「ああ。有り難う。うん。ブルーオオトカゲの肉は柔らかくてぼくは好きだぞ。
おまえたち人間は食べるのか? 食べられそうな木の実ならぼくが教えてやっても良いし!」
にこにこと笑いながらオーリアティアは寝所が作られることを楽しみにしているようであった。
るんるんでデザストルブルーオオトカゲの香り付け用の草を取りに行ったオーリアティアの背を見送ってから琉珂は皆へと向き直る。
「あのね、オーリアティアさんの寝所作りと、ヘスペリデスの片付けと。
それからちょっとだけピクニックをしようと思うの。食材は余り持ち込めるような場所じゃ無いから狩りの必要があるけど……。
そうやって、此処で楽しんでオジサマに見て貰いたいなあって。あ、これは私の考えよ。
オーリアティアさんは寝所を作る約束をしたって言って居るからそれを優先してね」
琉珂は慌てた様に告げてから、吹いた夏風に煽られた髪をそっと抑えた。
「さ、頑張って作業を始めましょうか」
少女の顔立ちは、少し大人になっていた。
- 微睡みの居所完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月16日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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ヘスペリデスに訪れた穏やな時間は、痛ましい傷を隠しているかのようだった。吹く風に煽られて『未来を背負う者』劉・紫琳(p3p010462)は目を伏せる。
この地で様々な課題をこなす事が、荒れてしまったヘスペリデスの再建に繋がるのではないかと考えた。それが『里長』珱・琉珂(p3n000246)と共に、覇竜の未来を背負う事に繋がっていくのだ。
「皆でここを以前よりも素敵な場所にしていく為の大切な一歩ですね」
「ふふ、そうね。頑張りましょうね!」
心を躍らせた琉珂に「ドラゴンさん達の憩いの場に出来れば良いな……です」と頷いたのは『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)。この後にでもベルゼーの墓参りに行きたいと願えば「皆で行きましょうね」と琉珂は微笑んだ。
「む」
楽しげなイレギュラーズの様子をまじまじと眺めていたオーリアティアが唇を尖らせた。
竜種であるオーリアティアは基本的に自身の欲求には素直だ。自身の寝床を作ってもらうと言うのがオーリアティアがイレギュラーズに望んだ唯一無二であり、それを果たすまでは「ぼくを優先しろ」と言う事なのだろう。
余りに素直な様子に『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は思わず笑みを零した。
「やっほ、オーリアティア君、なんというか相変わらずだねえ。
とりあえず、寝床はバッチリ作るから安心して! 折角だから、伝説になっても語られるくらいのにしたいねえ!」
「うん、うんうん! アレクシア、それはぼうが伝説の竜種になるってことだな。
ふふー。ぼく程の竜なら伝説にはなるだろうからね。思う存分素晴らしいん何処を作るんだぞ」
自信満々なオーリアティアにアレクシアは『可愛らしくて面白い友人』という印象を受けていた。その言葉はその通りだ。本人は友人ではないと言うだろうが接し方は友のそれである。
「枕が変わるだけでも眠れなくなる者はいるというし、寝床が荒らされてしまったのなら、早めに元に戻したい気持ちはわかる。約束もしているというならば早めに寝所は作ってやらなければな」
任せて欲しいと頷いた『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)へとオーリアティアは「ぼくは凄い寝床が良いぞ」とうきうきとした様子で告げる。
「ええ。ええ。荒れましたね。ヘスペリデス、戦いで荒れてしまいましたが……皆で少しずつ整えて美しくなると良いですね、生きる至宝たる私のように」
「相変わらずだ」
「相変わらずはお互い様ですよ。常に尊大で御可愛らしくあられる。
おっと、約束を守らぬ者は美しくありませんのでね、オーリアティア様のファビュラスな寝所を作りましょう」
きらりと輝かんばかりの笑みを浮かべた『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)にオーリアティアは「竜はそう簡単には変わらないからな」と頷いた。
「ぼくの枕は替わってしまっても仕方が無いけれど、眠りが大好きなことは生まれてこの方一度も変わったことが無い。
だから、ぼくは寝床を害するヤツを赦さないし、寝床を作るやつは良いヤツだと思ってる。睡眠は命の次に大事だぞ」
「寝床ね、寝床は大事よね。健やかな睡眠には色々と必要なものがあるけれど、良い寝床は最たるものだわ。
ええ、任せなさい。わたしは夜守の魔女。夜を、即ち眠りを守る魔女でもあるの! きっと素敵な寝床を作ってみせるわ」
自信満々に告げた『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)にオーリアティアがぴたりと動きを止めた。
「セレナっていうのか」
「え、ええ」
「眠りを守る魔女だというなら、ぼくにとっては一番大事な存在だ。ぼくの眠りを妨げたやつを滅ぼそう」
「え、ええ……」
余りの勢いで告げるオーリアティアにセレナはたじろいだ。アレクシアが「相変わらずだねえ」ともう一度、心の其処からの言葉を吐き出した。
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「さて、オーリアティアの寝床か。お前も『おねむちゃん』の血縁なのかね」
オーリアティアの様子を眺めていた『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)に「おねむちゃんって、オルドネウム?」とアレクシアは聞き返した。
「ああ。境界図書館で『そうとは名乗ってない』竜と逢ったんだ。眠るのが好きなおねむちゃん、だそうだ」
「おねむちゃん。ぼくのご先祖様もそうやって名乗っていたらしいぞ。
ま、まさか、偉大なるオルドネウムと友達なのか? なら、おまえはきっと立派な男だな! 寝床作りもうまそう」
眸を煌かせるオーリアティアに『未来を背負う者』煉・朱華(p3p010458)が思わず吹き出した。
「ええ、ええ、きっと上手よ。ティアとの約束、しっかり守らなくっちゃね!
ラドンもよければティアの寝所を作るのを手伝ってくれないかしら?
……こういう時は少しでも体を動かしてこそ、よ。勿論、迷惑だとかじゃ無ければだけどね」
「構わない」
頷いたのは竜種、ラドネスチタであった。ラドンと綽名された竜種はオーリアティアを真似ているのだろう幼い子供の姿を取り、緩やかに頷く。やや表情が硬いのはラドネスチタ自身にも思うことがあるからなのだろう。
「ラドンさん」
その名を呼んでからLilyは視線を右往左往とさせた。ラドンの現状については耳にしている。Lilyはすうと息を吸ってから――
「私が言うのも変なのかもだけど……言いたいの、です」
「声をかけてくれるのなら、嬉しいわ」
琉珂にLilyは頷いた。真剣な表情を作ってから「ラドンさん」ともう一度呼びかける。
「……どうした、イレギュラーズ」
「その……ラドンさんが今は悲しいのは判るのです。友の死を悲しまない者は居ないのです。
私も大切な人が亡くなったら心に穴が開くかもです……だけど、友の元気な姿をベルゼーさんは望んで居たと思うのです」
朱華に誘われ、手伝うといっても俯いてばかりではラドネスチタにとっては無為に時間を過ごすだけだ。
ならば、顔を上げてほしかった。ラドネスチタという竜にとってこの日が良き日となるように。
「ラドンさんに、ううん“親友”に未来を託したんだと思うのです。だから、えっと……」
Lilyは思わず言葉に詰まってから、慌てた様子で「……とりあえず、元気になってほしいの、です」と紡いだ。
目の前の少女が――少なくともラドネスチタから見れば随分と年下となる。竜種はうんと長生きなのだ――己を思って、叱咤し激励を送っている。その状況に竜は思わず「はは」と声を漏らした。
「そうだぜ、ラドネスチタ。久々だな。
落ち込むなとも今すぐ元気出せとも言わねえよ。お前は優しい奴だから、ダチが死んだら人一倍悲しいだろうからな」
ラドネスチタの肩を叩いたルカの唇が釣りあがる。ラドネスチタはルカを見てから僅かに目を見開いた。
青年の目許が『璃煙』に良く似ていたからだ。彼が、ベルゼーが言っていた『冥家の血を引いたイレギュラーズ』ならば――彼は母を失っただろうに。
「すまない。我も子供の様に悲嘆に浸っていたな」
「いいや、Lilyも言っていたろ。元気にな。それで、頼みが2つあるんだが、構わねえか?」
ラドネスチタがオーリアティアの寝床作りだろうと問えば、オーリアティアは「そうだぞ」とさも分かった様子で言う。
「違ェよ。1つは俺とダチになって欲しい。お前は強くて優しい竜だ。俺はそんなお前の事が好きだ。
……もう1つ、ラドンって呼んでも構わねえか」
「人の子と友人となる事は我にはまだ歩み寄るにも少しずつではあるが。ラドンと呼ぶのは構わない」
ふいと視線を逸らした彼にオーリアティアは「照れたのか? おまえ!」と叫んだ。相変わらずのオーリアティアは「ラドン、照れる前にぼくの寝床を作れ!」とわがまま放題である。
「ならヒアリングに付き合ってくれ、オーリアティア。どんな寝床がいい?」
「雨風を凌ぎたい」
基本過ぎるとゲオルグは思ったが、それが当たり前ではな場所であることをふと、思い出す。
「えっと、程よい風通しと日除けの所は、あった方が良さそう、だよね?
周囲には、優しくて心が落ち着くような香りのお花を植えてみたいかも、です。どうでしょう?」
恐る恐ると問うたLilyに「うん!」とオーリアティアは瞳を輝かせた。
「なんにしても必要になりそうなのは布や、あとはクッションに使えそうなもの、木材も必要そうだし……やる事は多そうね」
雨風を凌いでクッションがあれば、一先ずは寝床の用件を満たせるだろうかとセレナは考えた。元々、イレギュラーズがオーリアティアの寝床のためにと使用していた布を見つめてから紫琳はふと思い悩む。
「睡眠は日々の活力を得るために必要不可欠ですからね。私はつい疎かにしてしまいがちですが……。
それはともかく、この残った布は使えないでしょうか。何枚か縫い合わせれば、再利用も出来そうですね」
「裁縫をしましょうか。このファビュラスでユーモラスな私が!」
堂々と告げるヴィルメイズに紫琳は「お願いします」と微笑んだ。何枚か縫い合わせ、蔦やロープを利用すればハンモックのように揺られながら眠れるのではないかと提案した。
「まあ日々の寝床というより晴れた日のお昼寝といった用途かもしれませんが……いかがでしょう?」
「そうしたいぞ!」
オーリアティアはにこにこと微笑んでから頷いたのであった。
●
好き勝手に理想を追求する事になりそうだと朱華は周辺の部材を片付けてから「これって邪魔ね」と呟いた。
「ティア、この重たい石を避けることは出来る? 私たちは細かいトコを続けていくけれど……
今日一日で全てを仕上げられるか分からないし、先ずは寝れる場所を何とかしていきましょっか」
片付けにも骨が折れる。或る程度の素材を集める役割を担っている仲間たちを一瞥してから朱華は「うーん、どうしましょうね」と呟いた。
「しかし、あの時は時間がなかったとはいえ荒れ放題だなあ。自分でお掃除とかはしないの……しなさそうだね」
アレクシアはいそいそと掃除を行いながらクッションだけでは寝具にはなれなさそうだと首を捻る。
掃除などには余り馴染みがなさそうなオーリアティアを思えば、掃除を中心に軽く整えてやるのがよさそうだろうかとオーリアティア(竜形態)を考えてある程度の『幅』を確保する。
「広いほうが良いな。ラドネスチタも住めるように……。
あと他に誰かが来ても住めるように出来る限り大きい家のが良いだろう? 琉珂は綿とか探してくれ」
「お布団を作るのね! 楽しそう」
うきうきとした琉珂に布団の材料を集める事を頼んだルカは「あいつは物干しぐらいは出来そうか?」とアレクシアに問うた。
「五分五分かな。できるかもしれないけど……うーん」
「ま、あればラドネスチタが出来るかもしれないしな。ラドネスチタ、折角だから一緒の家に住んだ方が便利だろ?
ベルゼーもラドネスチタがそうやって暮らしてるのが見えた方が安心だろうしな」
頷くルカはちら、と後方を見た。寝具にこだわろうとしている朱華に琉珂は「何を使う?」と問う。
「私達のトコだとデザストルホワイトグースがいいんじゃないかしら。
アレの羽毛ならいい感じの枕だとか布団とか作れると思うし……ちょっと大変かもしれないけど」
「ついでにお肉も食べましょうよ!」
うきうき亜竜種ガール達にゲオルグは「琉珂に全てを任せていられないな」とゆっくりと立ち上がった。彼女が先程引き摺って来た『食材』を見る限り、ある程度は手伝っておいたほうが良いだろう。
「デザストルブルーオオトカゲだけってんじゃキツイしな……」
ぼやいたルカに紫琳が首を勢い良く振った。朱華はそうねと息を吐く。
「琉珂、手伝うのはいいけど今日は料理に変なものを入れるのはナシよ。……約束出来る?」
「うん」
「目を逸らさないで。私や紫琳はまだいいけど他の連中は動く子に慣れてないんだからね!」
びしりと指を差した朱華に琉珂は「大丈夫」とまたも目を逸らした。
「ああ……心を鬼にして、琉珂様を止めなければ……!
琉珂様……その動く野菜のようなものは一体……いえ、流石にそれを入れるのはやめた方が……」
「えっ、紫琳も止める?」
「うっ、そのように残念そうな顔で『ダメ?』と言われても私は……! ど、どうしましょう朱華さんっ!?」
慌てた様子の紫琳に朱華は「意地でも止めるわよ!」と琉珂の手を掴んだのであった。
●
いそいそと準備を行ったセレナが汗を拭う。寝具をしっかりと整え、洞穴の周辺にも飛び切りの『家』を作ったのだ。
「気に入って貰えると嬉しいんだけど、今晩はきっといい夢が見れると思うわ……きっとね!」
工作の知識が乏しくてもしっかりとした寝所が出来たと自負できる。オーリアティアも「最高だ」と手を叩いて喜んでいた。
「ティア君、これをさ、洞窟の入口のところに植えておくの。ちゃんと育つようにね。
洞の主の名前にちなんだ花が入り口に咲いてるって、ちょっと『それっぽい』感じがしない?」
摘んできたリアティーの花を眺めていたオーリアティアは「アレクシアが花を植えたら育ちそうだな」と笑った。
辿り着いたのはティロニクスの作った花園だ。アレクシアの視線の先にはしっかり食事を注意された琉珂が立っている。
(琉珂君がとんでもないもの作ってないといいけれど……)
アレクシアの心配にこてんと首を傾げたLily。セレナは「……琉珂さんの料理って、その、すごくアグレッシブと聞いてるんだけど、大丈夫かしら……?」と呟いた。
「そんなに、です? 食べられる木の実や野菜、卵等を集めて、料理する、です。
サンドイッチ風の物なら、手軽ですし多分作れるの、です。出来上がったら皆で楽しくピクニック、です。
頑張るぞ♪ えい、えい、おー♪」
るんるんと拳を上げた彼女は突如として起きた大騒ぎに目を丸くする。セレナの怯えた表情にLilyは「あの料理、動いている、です」と呆然と呟いた。
「大丈夫よ、Lilyさん! セレナさん! 食べられるわ!」
「どんな食材も火を通しておけば大抵どうにかなりますよ。
里長様にお任せすると大変なことになりますので私が……里長様! 困ります! あーっ! いけません! あぁーっ!!」
ヴィルメイズの悲痛なる声音が響くーー!
慌しい料理の様子にLilyが「ワァ……」と声を漏らした。ルカと朱華、紫琳に動きを食い止められた琉珂の「折角なのにぃ」という声音にヴィルメイズが「危ないところでした!」と汗を拭った。
腹を満たせばよい眠りが遣ってくると笑うセレナの隣にオーリアティアは座っていた。
料理を取り分けてからアレクシアはその横へと腰掛ける。
「覇竜の騒ぎは一段落ついたけど、オーリアティア君はさ、これからどうするの?」
「普通に過ごすんだ、ぼくは」
「……うーん、そうだ、時々寝床のお掃除したりしにくるからさ、何か困ったことがあったら、気が向いたら手伝ってよ。
何か深い理由があるわけじゃないよ。ほら、竜と約束した魔女、ってなんかカッコイイじゃない? ふふふ」
「構わない。アレクシアもぼくの花の世話を時々してくれよ」
勿論だと微笑めば、するりと滑り込むように美しすぎるヴィルメイズがやって来た。
「オーリアティア様、巷では寝床でパジャマパーティーなる催しを開くそうです。
寝所が完成した暁にはラドン様もお誘いすれば幾分気晴らしになるかと。
竜種の寿命は長いですし、多少の楽しみは作っておかないと退屈ですよ〜」
「ラドンと住むなら日常になる。他の誰かを呼ぶか」
オーリアティアにラドネスチタが「我と住むのか」と聊か不安そうな顔をした。
「ちなみに私をお呼びいただいた際には、この美しさを千夜一夜語らせていただきますね。
いいではないですか、ラドン様! きっと楽しい毎日になりますよ。
ラドン様もベルゼー様を亡くしてからはお辛いでしょうから。少しずつ元気になって下さると良いですね。
せっかくの命、明るく楽しく生きたほうが得でございますよ。さあ美しい私を見て心をお慰めください」
「……」
どうした事かと言いたげなラドネスチタの視線に琉珂は「ほら、美しいから心の慰めになるでしょう?」と面白おかしく笑って見せた。
竜種と人間は、別の存在だ。だからこそ、分かり合うことが難しいとベルゼーは考えていたのだろう。
それでも、同じく危機を乗り越えたならば、分かりあうことは出来る筈なのだ。
「今回はオーリアティアの寝所を作る約束のついでという形だったが、少しずつ、崩壊したヘスペリデスの復興を進めていかないか。力を貸してくれる者は私を含めて多くいると思う。
……きっと、長い時間がかかるだろうがいつの日か、今はただのヘスペリデスでしかないこの場所を人と竜を繋ぐ園にしていきたい」
「ええ。それが出来るなら……」
琉珂はそういってから「出来るわよね、頑張れば」と思い直したように言う。
「そして、ベルゼーに見せてやろう。人と竜が共に生きる、それは夢物語でも絵空事でもない。現実に叶うことなのだということを」
セレナは一人、夜を飛ぶ。ささやかな祈りは、この地の全ての安寧を望んでいた。
――今宵は、全ての生き物が……眠るものたちが、安らかに眠れますように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。ヘスペリデスにも日常が取り戻されていっているようです。
GMコメント
●成功条件
オーリアティアの寝所を作ること
オーリアティアと楽しいランチを楽しむこと
●『眠竜の寝所』
イレギュラーズが整備して上げたオーリアティアの居所です。が、レムレース・ドラゴンに荒され放題されました。
今は壊れたテントや引き裂かれた布などが散らばっており、取りあえず布に転がってすやすやと眠っていたようです。
ラドンの罪域にも程近くラドネスチタにも声を掛けることは出来そうですが……。
また、ベルゼーの墓からは見下ろされる位置となります。
食材はワイバーンやそれなりの生物が存在して居ますので狩りを行なって下さい。川にはお魚も居ます。
出来るだけヘスペリデスにあるものを利用してあげて下さい。
一応ですが、資材や調理器具は持ち込めます。ある程度の調味料も持ち込みが可能です。
●『転寝竜』オーリアティア
この地に棲まう幼竜。長い時間を眠ることで知られる『微睡竜』の系譜であり、オーリアティアもよく眠る。三度の飯より眠るのが好き。
竜としての姿は暗褐色に近い。今回は人間の姿をしています。一人称は「ぼく」口調も男の子っぽいですが、女の子です。
眠り続ける為に堅牢な肉体を有しています。お手伝いは寝所のためならなんでもやってくれます。
基本的に眠りを肯定してくれる相手はどんな生物であれど好みます。特に寝所を作ってくれる相手に対してはハッピーな位に好意を向けてくれるようです。
●『狂黒竜ラドネスチタ』
通称をラドン。ベルゼーの友とも言える存在です。オーリアティアに併せて子供の姿をしています。呼び掛ければ出て来ます。
強大な竜ですが、ベルゼーを喪ってからはぼんやりと生きているようです。オーリアティアが振り回してくれているので退屈はしなさそうですが……。
●NPC『珱・琉珂』
フリアノンの里長。少しだけ成長した女の子。
皆さんと一緒にオーリアティアの寝所を作るほか、ランチタイムも手伝おうと考えて居ます。
レシピをアレンジする癖と覇竜領域特有の食材を持ち込み混ぜる悪癖があります。料理が動き出すことが多いですが、大丈夫、食べれますよ!
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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