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シナリオ詳細

<信なる凱旋>Stinking Knight

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●第三の騎士
 天義を揺るがす事となった一連の事件は海洋王国にも飛び火している。神託と共に姿を現した滅びの騎士が首都リッツ・パークに潜んでいる事が明らかとなった。第一の白騎士、第ニの赤騎士と続き、黒の冠を頂く騎士も到底歓迎できない狙いがあると踏んだ両国は奇妙な共闘状態にあるが自国の対処に忙殺され、依然として厳しい状況が続いている。
 海洋としては天義の神託に巻き込まれる形だが、本土の一部は既に遂行者の帳が降ろされ国内資源が著しく失われている。そのような中で商魂たくましく賠償を要求する余裕などもない。そして切羽詰まった時に頼るべき組合は周知の事実である。

●海からの贈りもの
 海洋王国の群島を全て監視下に置く事は容易ではなかった。帳が降りた場所を最重要視せねばならないが、次々とエリアを拡大せんとする遂行者の狙いが何処にあるのか、先手を打とうとも後手に回ろうともはっきりとした事はわからない。しかしそれが些細なものでも対処せねばならないのだ。国内の動きは慌ただしいものとなっている。

 首都リッツ・パークから黒騎士の目撃情報が届いた。小さな島々で悪巧みを働くと予想していた面々はいきなり裏をかかれる結果となった。見方を変えれば首都の危機をいち早く取り除くチャンスでもあるが、これほどまでに堂々とした進軍は遂行者たちの目論見もいよいよ危険なフェーズへと進んでいるものと見て間違いない。
 黒騎士は名の通り漆黒の鎧を身に纏う、滅びの騎士たちの一人である。潜伏する様子もなく露見するに至った過程として、彼から放たれる邪悪な気配を挙げることができる。海洋に属する騎士はもとより、流れ者やイレギュラーズにすらないその邪悪なエネルギーは彼が遂行者の切り札である事を知らしめ、周囲の食物を枯れさせる事となった。
 無論、この男は海洋への嫌がらせに留まるつもりはないだろう。届いた情報から廃滅病を使った何かを計画しているとローレットは推測した。恐らく海洋から天義への贈り物、廃滅病パンデミックの架け橋となる存在だ。黒騎士なる邪悪が天義に投入されない理由は其処にある。
 この推測が正しく、廃滅病パンデミックが起きた場合は両国間の関係は第三者がいるにも関わらず著しく悪化するだろう。神託に巻き込まれる海洋、廃滅病を持ち込まれる天義と穏やかではない対立すら生みかねない。それどころか拡散された場合そのまま押し切られるパワーゲームすら現実的な結末となる。

「脆弱な肉どもめ……我が病魔を恐れるとは! 神の国を築くのだ。これしきの使命を全うせずして騎士と言えようか! 我はカザン、偽りの歴史を正す殉教者の毒である」

 病原菌の温床と化しているカザンを止める事は並大抵の事ではなかった。黒騎士の魔力に魅せられた海洋の民は支離滅裂な言葉を話すと共に、彼を守るように集結するものだから一人の犯罪者に投入する為の戦力は膨れ上がってしまった。また、魔力に抵抗した兵士も多少は存在したが、死因や敗因が毒に置き換わる程度の事でしかなかった。
「ひ、退くな! 奴さえ倒せばこんな人数差などまやかしだ!」
「笑止、笑止、笑止! 蛮勇にて解決を望むとは! か弱き魚どもよ……己が罪を悔い、水たまりで怯え続けるが良い!」
 気付けばカザンの為の手駒を逐次投入する形となり、泥沼の状況が続いている。対処に駆り出された兵士たちに慢心があったとも思えないが、このような敵に対する解答を用意できていなかった事が致命的な結果へ繋がった。

●ようこそリッツ・パークへ!
 逃げ出す事に成功した商業組合の面々は土地の奪還などもう頭にないようで、国外脱出までもが真面目な顔で討論される諦めのムードが漂っていた。
「お待ち下さいダグラス様! あの不届き者は我々が必ず対処いたしますので! 商業組合の方々にはご不便を……」
「そうは言うがねキミ。我々市民の安全を守る勇敢かつ高潔な兵士諸君があのエリアに向かってどれほど経つ? 青い顔で足をもつれさせながら逃げ帰ってきた男から安全宣言が出たかね? 私は争い事については専門外だがいち商人として言わせてもらうとだね、どう見繕っても損な取引をしているようにしか見えないな」
 観光エリアへと避難させられた商人たちの不満は刻一刻と増えていく。場を提供する事となった観光業者としてもそれは有事にも関わらず、あまり良い顔ができないものである。黒騎士にぶつけようがない怒りが別の形で発散される瀬戸際であった。
「おい! 緊急事態なのはわかるがね、まだウチにも客がいるんだ。不安を煽らないでくれ!」

 人通りの多かったリッツ・パーク商業エリアの一区はもはや客一人、商人一人、猫一匹として歩いていない。鼻に残るひどく甘い香りが漂い、新鮮さを誇っていた売り物の数々は萎びれた残飯のような醜悪さを見せる。地面を血とも汚物とも判らぬ液体が浸し、立ち向かった者であった臓物が散乱している。そのような異様さに対し何事もないかのように異形の騎士は佇んでいる。

『リッツ・パークにて遂行者の企み有り 至急救援求む  ーネオ・フロンティア海洋王国』
 
 ローレットには手紙が届くのみで依頼人の姿も情報屋を準備する時間もなかった。
 火急の要件だ。両国の脅威を取り除くべく討伐チームが組まれる事となる。

GMコメント

●目標
 黒騎士の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 リッツ・パーク商業エリア(視界不良)
 現場に到着する頃は昼です。
 屋台や店が立ち並ぶ複雑な地形です。
 帳の影響か微弱な有害スモッグが発生しています。
 まともな住民は恐らく避難済です。

●敵
 黒騎士カザン
 突如現れた遂行者達を導く存在、黒騎士の一人です。
 廃滅病を身体に取り込み、天義にばら撒こうとしています。
 毒矢や麻痺薬を塗った剣で戦う卑劣な戦術を得意としています。
 カザンから致命的な被害を受けた場合、後述の『歴史修復への誘い』が判定されます。

 異言を話すもの
 狂気に陥ってしまった海洋の民です。
 カザンが廃滅病を蓄えた後の撤退を手助けするべく何処かに潜んでいます。
 気絶させる事で正気を取り戻せますが、何が何でも立ち塞がろうとしてきます。
 
●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <信なる凱旋>Stinking Knight完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
レッド(p3p000395)
赤々靴
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ

●腐りかけ
「コノ酷い有り様はなんっすかぁぁあっ?! バカンスの予定に考えていた折角の美しい場所がぁぁああ!!」
 『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が早々に吠える。リゾート地とは程遠く、考え得る最悪のおもてなしを彼女はその小さなおはなに受けている。泣きっ面に蜂とはこの事で、視覚に嗅覚そして触覚でリッツ・パークを満喫する事となった。
「何か腐ったやつ踏んだっす! 中から変なにょろにょろが!!!」
 腐乱したバザールは足の踏み場もない。その中を『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)は対照的にすいすいと歩いていく。
「この調子では敵方も不味そうだ。さっさとかたしてしーふーどでも食べにいこう。その回虫も案外いけるかもしれないぞ、レッド君」
「想像しただけで吐きそうっすけど!!」
 『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はそんなやりとりを横目に難しい表情をしている。
「奴さん方の狙いは廃滅病か……お前さんの悪食には頭も上がらねぇが、このメニューは海洋流じゃねえ。女王陛下に誓っても良い」
「食すは論外だが、この香りを吸い込むだけでも悪影響があるな。若干の違和感を身体に覚える」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が口元を覆いながら後に続いた。レッドは何故か食すポジションに立っている事に憤慨したが、アーマデルの注意を聞くと無駄な呼吸をしないように無理やり落ち着く事にした。
「息を止め続けるのも難しい話ね。これ以上、海洋で好きにさせてたまるものですか……!」
 『銀すずめ』ティスル ティル(p3p006151)は汚物に塗れた露店を見て決意する。これは私の知っている海洋ではない、こんな地で生まれ育った覚えはない。遂行者が歴史を書き換えるのであれば、私だってここを正しい海洋へと書き換えてやる。ティスルは足元に寄ってきた奇形のオタマジャクシを力強く踏み潰した。
「病魔を取り込み、ばら撒こうとする漆黒の騎士……ペイルライダーという存在を模倣しているのかしらね」
 『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が記憶を手繰り寄せる。敬虔な旅人から学んだ聖典、その中に今対峙している問題事に酷似している存在が記述されてある。人を殺す権威が与えられた騎士など許して良いのだろうか、このような騎士から神は守ってくれるとでも言いたかったのか。アルテミアはそこに疑問が生じたが頭を切り替える事にした。酷似していようともこれはこっちの世界の明確な脅威であり、海洋と天義を脅かす悪なのだ。
「今、報告で目にするのは赤騎士、白騎士、そして今度は黒。ブラックライダー気取りなのでしょうね」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)にも心当たりがある。彼らは何も鎧の色でそう呼ばれている訳では無い。支配、戦争、そしてこの色は飢えの色だ。取れぬ魚は無いと豪語してもおかしくないこの国、このバザールの有様はどうだ。だが、元凶はそれだけで満足もしないだろう。廃滅病は海洋の暗き歴史となったが、隠しても忘れてもいけないものだ、ましてやそれを再び世に解き放つなど海洋の民として見過ごしてなるものか。
 『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)がアルテミアとココロの話す騎士について反応した。
「本来騎士とは栄誉と矜持を胸に志した守護者! それが非道に手を染め、外道に堕ちた者が騎士を名乗るなど……!」
 ここには矜持も騎士道もない。あるのは緩やかに向かう死と腐敗、反吐が出る邪悪をぐちゃぐちゃにかき混ぜた災厄だけだ。騎士として、一人の人間として絶対に許せない。誓うべき王女は遠くなってしまったが構わない、この剣にそれを誓おう。この地に蔓延る悪を、いざ浄化せん。

●腐敗
「肥えた豚どもは無様に逃げ出した。何処へ行こうとも神国以外に縋るものなど無いと、何も理解しておらぬ」
 黒騎士はスモッグや囮を利用して時間を稼ぐつもりであったが、イレギュラーズの捜索網を抜ける事はできなかった。その間、ティスルに頭痛が走ったがココロとレッドに支えられ活力を取り戻した。
「豚であればもう少し滾ったのだが、疫病持ちの鼠が相手では困ったものだ。欲情はしないが害獣は害獣、それの駆除に是非もあるまい」
 愛無は痩せこけた老人、黒騎士に若干の失望を覚えた。どう見繕っても老獪な骨など喰いたい程の相手ではない。
「カザンってのはお前さんかい? 手土産もなしに人様の国に上がり込んで好き勝手するってのは、騎士の風上にも置けねぇと思うがねぇ」
 十夜が後ろから飛びかかってきた男を振り向く事なく打ち倒す。操られている海洋の民だろうが確認するまでもない。何をどう利用されようと自分はこの街とこの人々を守る為に、この男を裁くためにここにいるのだから。一つ、魚の意地を見せてやろう。
「毒はアンタだけのものじゃないのよっ!」
 ティスルが先程の目眩のお返しとばかりに強い毒が塗られた暗器を投げつける。海洋で跳ねる雑魚の強がり、説教を聞き流すつもりでいた黒騎士は突然の飛来物に驚き、刃が頬をかすめた。毒使いなら理解できるはずだ、この一投がどれほど致命的なかすり傷か。卑怯とでも喚くのか、苦しむのか、平然としているのか、どう反応したとて次の一手は準備してある。大丈夫、ティスルは自分にそう言い聞かせた。
「月並だが、包囲されているな」
 アーマデルが黒騎士から目をそらし、露店の残骸に注意を向ける。十夜の出方を伺った捨て駒の一を除いてなりを潜めているが、確実にそれらは其処にいる。十夜が迷いなく気絶させた事を見て心情に訴えかける作戦は破綻したのだろうが、即座にプランを切り替えて奇襲要員として温存していると思われる。
「いくら来ようと私は絶対に負けません。騎士道とは甘さではない、救える命を命がけで救ってこそ騎士なのですから」
「おっさんはそれを聞いてホッとしたよ。正直、何人か海に還っちまう事もやむ無しな状況だからな」

 黒騎士がティスルに付けられたかすり傷を確かめようとした次の瞬間にはアルテミアが斬り込んでいた。相手の出方を伺っている時間的余裕もない、そして奴に何もさせずに倒せればそれが一番良い。何か策を弄するつもりでも、その上を行く速度でねじ伏せてみせよう。
「あなたを仕留めれるのならば重傷を負っても安いものよ! そんな遅さで受けきれるのっ!」
 対面から自分へ向けて落ちてくる雷光、アルテミアの剣技はそう表現するよりない馬鹿げた速度で黒騎士を狙う。搦手を専門とする者などこんなものかと、誰もが数秒後に崩れ落ちる黒騎士の姿を思い浮かべた時に事態は急変する。
 神速の刃が黒騎士を貫くと同時に傷口からグレープジュースのような液体が噴出し、霧散したと思えば地に崩れているのはアルテミアの方だった。やられた、死角からの毒矢や高度な剣技は覚悟していたが反撃の術を体内に隠しているとまでは読めなかった。
 トールも同様に黒騎士を斬り裂くビジョンを持っていたので初見であれを受けることを想像すると寒気が走った。
「イレギュラーズには卑怯卑劣な戦法を用いる人もまあまあいます。彼らに比べれば、この程度は卑怯の範疇に入らないですね」
「それでもアレを喰らうのは御免っすけど……」
 ココロが即座に炎のエネルギーを治癒の形としてアルテミアに放つ。一撃で仕留められた訳ではないが、あれは放っておくと不味いだろう。レッドは自分の位置にまで飛んでこない事を願って地獄の爪を解き放った。この手の敵は効いているのかいないのかさっぱり理解らないが、不死の存在などいるはずもない、海洋に左遷された騎士の面汚しなのだとそう思い込むしか恐怖に打ち勝つ術はなかった。
「ええい、悪の毒々モンスターめ!! 全部垂れ流すがいいっす!!」
「我に近付いたと思えば仕置きを恐れる童のように散りおる。赤毛、次は貴様ぞ」
 無防備に背を向けてレッドへと歩みを進める黒騎士に、アルテミアは追撃を行おうか迷ったがひとまず距離を取った。
「レッドさん! 絶対に近づかれちゃ駄目よ!」
 愛無はこれまでの流れからこの男を精神面でコントロールする事は不可能だと考えた。ならば、物理的に阻害してやろう。アルテミア君には悪いが、正攻法の目処がついた。
「ぐれーぷじゅーすは悪くないが、他の面々はあまり飲みたがらないので邪魔をさせてもらう」
 愛無の尻尾が思い切り黒騎士の足を払う。単純明快な卑怯、戦士の術によって鬼有利な鬼ごっこは中断させられた。愛無はあの毒噴射を直撃されながらも戦う自信があったが、それはひとまず最後に残しておこう。好みではないデザートだ。
「普通に見れば好機だが、慎重に攻めるべきだろうか」
「窮鼠猫のそれもある。最悪の場合は僕が喰うので好きにやってくれ」
 アーマデルは蛇鞭剣ダナブトゥバンを握り直し、軋る刃で黒騎士へ攻め込む。英霊の未練を纏う不協和音がこの男にも届いているかはわからない。この付かず離れずの攻防がいつまで続くか、何時まで続けれるか。時間の重みを僅かに感じ始めていた。
「私の先制攻撃を呼び水に利用したわけね、痛がるフリとかやってくれるじゃない」
 ティスルは炎の花吹雪を繰り出す。毒が効かないなら次は燃やしてやる。毒、汚染、廃滅病すべてをここで浄化してみせよう。
「毒に炎に……それは槍か? 貴様も道は違えど毒を極めんとする者と評価したい所だったが、一つの物事に取り組む事ができぬ半端者であったか」
「言ってなさいよ、その半端な炎で黒焦げになると良いわ」

 トールが海洋の民に囲まれる。やはり正気を失っているようで口を開いても理解できない造語のようなものばかりが飛び出てくる。こんな状態から元に戻るものなのか、不安が心を苛むが騎士として今やれる事は一つだけ。誰一人として見捨てない。
「良いでしょう。訓練を受けた者の剣技がどれほどの物か、お見せします!」
 掴みかかろうと全員が飛び込み、団子状態になりながらもトールは器用にその隙間から抜け出し一人ずつ気絶を狙っていく。鋼覇斬城閃を放とうものなら正気に戻るべき肉体が大損壊してしまいかねないのが厄介だが、裏を返せば峰打ちで何とかなる相手だ。数さえ凌ぎきれば。
「それじゃあ、おっさんはそろそろアレのお仕置きに行っても良いかね?」
 十夜はトールを狙った攻撃、その飛び火を涼しい顔で受け流しながら言う。
「はい、この程度は何の障害にもなりはしません! 任せておいてください!」
「海の男がそれじゃちょっと困るんだがねぇ。おい、もう少し気合いれな?」
 トールは敵に激を入れる十夜に何とも言えない気持ちになったが、同胞を利用されている十夜の心境は穏やかではないだろう。仲間に冗談を言う余裕がまだ残っている事に若干の安堵を感じた。その上、気合を入れろと言っておきながら信じられない速度で一人を気絶させたのだ。

「空気が汚れてきましたね、そろそろ退場させないといけません」
 ココロが周辺に漂う毒素を分析する。レッドを追い詰めんとする黒騎士は愛無の足払いによって無力化されているが、この地は事態を好転させるつもりがないようで、身体にたまる毒によって一定距離を保ち続け難くなっている。
「ボ、ボクがそこのベンチに退場したいっすけど……」
「座らない方が良いですよ、何か染み込んでブヨブヨになってますから」
 ココロに注意されるとその瞬間だけはレッドも素早くなったが、イレギュラーズの疲労は無視できないものとなってきている。ココロが献身的にカバーしているが、このままでは減ってはいけないものが赤字になってしまう。
「黒騎士を退場させるのは賛成ね、もう一度斬り込んで来るわよ」
「その自信は次は避けるという事で宜しいか。僕もそれに乗っかろう」
 アルテミアと愛無は黒騎士に飛び込んでいく。次は行く手に毒液が降り注いだが読み通りだった。毒噴射を警戒しすぎた所を狙ったのだろうが、そうはいかない。アルテミアは持ち前の速度でそれを回避し、愛無は他人事のようにそれを真正面から被って突き進む。
「ええい、何が来るかわかればボクだってやれるっす!!」
 レッドもそれに続く事にした。追いかけ回されるのはもう終わりだ、魔剣であの世に吹き飛ばしてやる。

「足を止められただけで終わるとは思っていなかったが、これが狙いか」
 アーマデルが蛇銃剣アルファルドに武器を切り替える。こちらの優位を演出しておいて時間の感覚を狂わせた。後少しで倒せるという期待は焦燥に変化し、死に至る。この場に必要なのはリスクを回避する安全な策ではない、肺が悲鳴をあげようとも攻め続ける闘志だとアーマデルは判断した。
「臆病風の代償は支払うとも」
「今更遅いとは思わぬか。良かろう、せめてもの情けだ。神に歯向かいし悪魔の軍勢として貴様らを語り継いでくれよう」
 黒騎士は濃い紫色の剣を構え、四方八方から攻め込むイレギュラーズを相手に構えた。

「騎士の仮装をしているだけの男と思ったが、なかなかの腕前じゃねえか? 毒虫やらせとくには勿体ないねぇ」
 十夜がワダツミで薙げば毒剣が進行を妨げ、刀を戻す動作に呼応して黒騎士が突き返す。いくら斬り刻んでも汁が溢れるばかり、そのくせ敵方の斬撃はかするだけで焼け付く痛みが走る。アンフェアな相手だが白兵戦になった以上、これは意地と意地のぶつかり合いだ。海洋の魚はそう簡単に素人に捌けるものではない。
「斬ると同時にっ!」
 アルテミアが光の拳を打ち込む。噴出する毒液を押し返すには華奢な腕だが、纏った光が毒液を蒸発させる。一歩タイミングを間違えれば再び視界が暗くなるだろうが、火がついた彼女の集中力を前にすれば些細な失敗など起きるはずもない。
「恐怖を支配したか。では、これはどうかな?」
 アルテミアは既に回避行動に移っていたが、噴出するはずの毒液が渋っている。何かをしてくる。爆発か、各々が身構えると黒騎士は予想外の位置へおびただしい量の粘液を放った。
「これは僕も感心しないな、下衆はとことん下衆という事か」
「一線を越えたなお前さん」
 猛毒が向かう先は黒騎士の予備兵力、海洋の民が呆然とそれを見ている。

「……とは」

 朦々と毒素を帯びた蒸気があがる絶望の中にそれは立っていた。
「騎士とは! 栄誉と矜持を胸に志した守護者だっ!!」
 馬鹿な。過剰な程に撃ち込んだはずだ。高貴なお嬢さんを大戦犯に仕立て上げ、心に影を落とさせるつもりだった。それがどうだ、肉が爛れ落ちるはずの海洋市民は其処にはいない。小生意気な騎士騎士騎士騎士と五月蝿い小娘が防いだとでも言うのか。
 トールが守った海洋の民はすかさずトールを殴りつけ、昏倒させた。当然だ、この場において彼らは敵なのだから。
 それでも良い、守るべき敵にやられようが、自分は仲間を信じている。
「あんなのを見せられたら目眩や咳なんて言ってられないね」
 聖槍セン・プリエールを構える。穿つは邪悪、黒騎士カザンその一点。
「同感だ。僕は特に異常はないが」
「愛無さんの身体っていったいどうなってるのよ」

 黒騎士は最悪、イレギュラーズが仲間を気遣いに向かった辺りで消えようとしていた。廃滅病の蓄えも十分である。イレギュラーズに時間的な余裕が無かったように黒騎士側も手持ちのトリックが底をつこうとしていたからだ。
 しかしこれも読みを外される。化け物はともかく、毒をまともに喰らった女や医療士と思われる女までもがこちらに向かってくる。あの小娘は見捨てたのだろうか。やはり神の国は間違っていない、このような非情さが許されて良いわけがない。

「非情と思います? 私はあなたを討ちますし、トールさんも助けますが」
「ボクたちにはそれができるっす」

 二つの魔剣が黒騎士の前に聳える。神を屠らんとする悪魔の剣。これを止めねばこの二人は必ず神の国を脅かす。しかし今は退くしかない、何人か海洋の民を盾にして逃げるのだ。今呼べば間に合う。幸い、こいつらは魔剣を振るうまでに距離がある。
「今こそ殉教の時ぞ! 我が盾と」
「誰を盾にするってんだよ? え?」
 十夜がトールを抱えながら言い放つ。足元には手駒すべてが転がっている。
「あと、あなたの馬が隠してある場所も私のファミリアーが偵察済みだからね」
 ティスルが追い打ちとばかりに黒騎士の逃走経路を先読みする。アルテミア、アーマデルの猛追から逃れる事は不可能だろう。

「それにっす」
「殉教するのはあなたひとりで大丈夫です」
神滅。その絶剣が男を斬り裂いた。

●毒のち晴れ
「さて、かいせんどんでも食べにいこう」
「ぐえぇ……あんなスプラッターバトルの後によく食べにいけるっすね」
 レッドは魔剣を振るう事にためらいはなかったが、後になって毒液を勢い良くかぶる可能性があった事に恐怖した。
「黒騎士がペース配分を間違えてて助かったわね、数時間は身体を洗う必要があるわよ……」
 アルテミアが不機嫌そうに言う。もう一人の数ガロン以上かぶった者は未だ十夜が抱える必要があるが、ココロがいれば大丈夫だろう。
「本当に一人も犠牲を出さないつもりだったとはねぇ、根性がある奴だ。今はゆっくり眠っておきな」

 トール=アシェンプテルは騎士道を全うしたのだ。

成否

成功

MVP

トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

状態異常

トール=アシェンプテル(p3p010816)[重傷]
ココロズ・プリンス

あとがき

ご参加ありがとうございました!
毒って緑色と紫色のイメージがありますね!
緑色は死霊系に使われる事もある色のようですっ

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