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シナリオ詳細

再現性東京202X:父さんな……サラリーマン辞めてASMR配信で食っていこうと思うんだ……。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●父さん! やめてよ! 無理だよ!
「できるわけないよほぉ!!」
 少年が涙ながらに訴えた。
 とある、一般家庭である。
 LEDライトに照らされた食卓は、思った以上に明るかったが、それでものしかかる空気は重く暗い。
 父はもうすぐ50になる。
 ひげを蓄えた立派な男であった。
「でもな……男のASMRも需要があると思うんだ……」
「あるよ! でも父さんにはないよ!!」
 少年が必死に訴える。
 少年は中学生である。
 来年には高校受験を控えていた。
 言い方は汚いが――金のかかる時期であった。
 そんな時期に、安定した職であるサラリーマンをやめて――。
 ASMR配信者だと!?
 何を――。
 言って、いるのか。
「でもな……父さん、夢を捨てきれなくてな……。
 ほら、この変なモアイみたいなマイクも買ったんだ……」
「買わないでよ父さん! いや、えっぐ! これ百万くらいするよ父さん!!
 いや、父さんの夢でASMR配信したかったなんて聞いたことないよ! どうなってるの!」
「昨日、VtuberのASMR配信を聞いてからの、夢だったんだ」
「浅いよ父さん! 変だよ父さん!!」
 確かに変である。父の趣味といえば、釣りと、模型と、読書である。
 インドアで、寡黙な父だった。
 寡黙ではあったが、人当たりの良い父だった。
 穏やかで優しく、現実を見据えた父だった。
 それが、どうして、こんなことに――。
「父さん! いったい何が……いや、その背中のもやもやは!」
 少年が、気づいた。
 父の背中に、なんか露骨にあからさまに、この世のものとは思えないもやもやしたものがとりついていたのだ。
「あ、夜妖だ。ASMR配信したくて未練を残して死んだタイプの――」
 少年が、なるほどね、という顔をした。
 この街でおこる変なことは、大体夜妖のせいである。
 少年はうなづくと、カフェ・ローレットに連絡したのである――。

●ASMR配信してください。
「ASMR配信してそうな洗井落雲のNPC三人を連れてきたよ」
「ASMR配信してそうな洗井落雲のNPC三人!?」
「一人目、まだ声帯持ってなかったの? みんなにやさしいギャルASMRの化身、マール・ディーネー(p3n000281)」
「なんかよくわからないけど、よろしく!」
「二人目、まだ声帯持ってなかったの? その服装で清楚系は無理でしょASMRの化身、メーア・ディーネー(p3n000282)」
「よくわかりませんけど、よろしくお願いします」
「三人目、絶対ウィスパーボイスだとおもうんだよねASMRの化身、ザビーネ=ザビアボロス(p3n000333)」
「理解できかねます」
「そしてASMR配信に似合いそうなローレット・イレギュラーズの皆さん――。

 トール=アシェンプテル(p3p010816)
 ニル(p3p009185)
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
 華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
 綾辻・愛奈(p3p010320)

 以上、順不同敬称略でおよび致しました」
「なんで?」
 トールが困惑した表情を見せた。
「なんで???????」
「これはあれだわ、洗井落雲がボイスを聞きながら好みの声を並べただけなのだわ」
 華蓮ちゃんが的確なことを言ったのへ、先ほどから妙なことを言っている、カフェ・ローレットの従業員=情報屋、が言葉を続ける。
「そうは言わないでください。危うく優先参加者が10を超えるところだったのです」
「その理性をこのシナリオを作る段階で発揮してほしかったのですが」
 愛奈が頭を抱えた。
 というわけで、お仕事である――。
 なんでも、ASMR配信したくてしょうがない夜妖がいて、それが人にとりついて、家庭崩壊の危機なのである。
「ASMRとは」
 ニルが小首をかしげた。
「なんなのでしょうか?」
「えっと、耳に気持ちのいい音……かしら?」
 ココロが説明書を読みながら言う。
「みみをふーってしたり、ささやいたり、刃物を研ぐ音だったり、スライムをザクザクしたり……これといって、特定の音というわけではないのね。きもちいい、と思えば何でもいいのね……」
「見境がないのですね。でも、この場合、求められているのは最初の方……みみをふー、とか、ささやいたりとか、の方な気がしますが」
 愛奈が言うのへ、トールが頷いた。
「というか、こんな変なシナリオに呼び出されていいいんですか? ザビーネさん。
 参加シナリオ一覧に、『父さんな……サラリーマン辞めてASMR配信で食っていこうと思うんだ……。』とか言うデジタルタトゥーが刻まれちゃいますけど」
「参加シナリオ一覧……? デジタルタトゥー……?」
 ザビーネが小首をかしげた。
「…………? ムラデンかストイシャなら知っている言葉でしょうか……?」
「しまった! このドラゴン与太慣れしていない!!」
「嫌なのだわ、与太慣れしているドラゴンとか」
 華蓮が肩を落とした。
「えっと、とにかく、ニル達はどうすればいいのですか?」
 ニルが尋ねるのへ、情報屋の男が頷く。
「とにかく、皆さんは真のASMRを披露して、夜妖を弱体化して、ていやーってすればいいと思います。
 そうすれば、なんやかんやで解決するでしょう。
 ASMRをするのは、皆さんでも、皆さんがプロデュースした『ASMR配信してそうな洗井落雲のNPC三人』でも構いません。
 とにかくASMRしてください。そうすることで、救われる家庭があるのです」
「家族が、ばらばらになってしまうのは、かなしい、です」
 ニルがしゅんとした。そう、きっかけは訳が分からないが、家庭崩壊というのは悲しい。悲しいのである。
「まぁ、困ってる人がいるなら、助力は惜しみませんが……」
 愛奈が言う。究極的に言えば、お仕事である。やるしかないのだ。
「はぁ……わかったわ。ASMR、しましょう」
 ココロが嘆息しつつ、しかし力強くうなづいた。
 というわけで、ASMRである!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 この間ASMR専用チューニングという触れ込みのワイヤレスイヤホン買いました。

●成功条件
 ASMRして、夜妖をわからせたあとていやーする。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●夜妖<ヨル>とは――。
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
 変なことが起きたら大体こいつのせい。

●状況
 ASMR大好き夜妖が、お父さんにとりついてしまいました――。
 お父さんは変なモアイみたいなASMRマイクを買って、仕事をやめてASMR配信者で食べていこうとしています。
 止めましょう。
 というわけで、皆さんはお父さんからASMR夜妖を引きはがした状態です。
 ここで、皆さんが真のASMRをASMR夜妖に聞かせて、弱体化させるわけです!
 真のASMRは、皆さんが渾身のシチュでASMRしてもいいですし、『ASMR配信してそうな洗井落雲のNPC三人』をプロデュースしてやらせてもいいです! なんでもありです! 好きにASMRしてください! あとでボイスも頼んでください! 僕が聞きます。
 そして、真のASMRを聞かせて夜妖を弱体化したら、適当にていやーすれば倒せるので、そう言う感じでお願いします。
 プレイングには、ASMRのシチュ、セリフ、別の人に言わせたいセリフとカを書けばいいと思います。皆さんのリビドー的なものを期待しています。洗井落雲も楽しみです。

●敵
 ASMR大好き夜妖 ×1
  きっと洗井落雲みたいなやつなんだろうな……親近感を覚える……。
  ASMRを聞かせると弱体化します。充分弱体化させたら殴って消滅させてください。

●同行NPC
 ASMR配信してそうな洗井落雲のNPC三人
  洗井落雲が独断と偏見で選んだ三人です。

 以上となります。
 それじゃあ、新調したイヤホンでお待ちしています。

  • 再現性東京202X:父さんな……サラリーマン辞めてASMR配信で食っていこうと思うんだ……。完了
  • ASMRボイスください……。
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

サポートNPC一覧(3人)

マール・ディーネー(p3n000281)
竜宮の少女
メーア・ディーネー(p3n000282)
竜宮の乙姫
ザビーネ=ザビアボロス(p3n000333)
バシレウス

リプレイ

●ASMRのたつじん
 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)
 『華蓮の大好きな人』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
 『ココロの大好きな人』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
 『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
 『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)
 『あたたかな声』ニル(p3p009185)
 『航空猟兵』綾辻・愛奈(p3p010320)
 『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)

 以上八名がASMRを披露してくれるぞ――!

 というわけで、イレギュラーズたちの目の前には、モアイみたいなやばいくらいに高いマイクが設置されている。これが夜妖である。
「このモアイみたいなマイクにフーってすればいいの?」
 と、マールちゃんがつんつんするのへ、メーアが小首をかしげた。
「そもそも、ASMR? というのがよくわかりませんが……」
「MLRSなら知っているんだけど」
 オニキスが小首をかしげた。
「ミサイルは関係ないよな……?」
「ASMRっていうのはね」
 華蓮が言う。
「耳に心地のいい音の事なのだわ。
 まぁ、でも、多分この場合は、耳元で可愛くささやいたりすることを望まれている気がするのだけれど」
「でも ASMRをご所望 ですから
 ジャンルの指定は なかったですの」
 ノリアが、うんうんとうなづく。
「洗井落雲さんは 絶対 『そういうの』をご所望でしょうけれど
 依頼の内容は あくまでASMR ですの
 ですから どんなものでも 大丈夫ですの」
「確かにそうなのよね」
 ココロが、ふむふむ、とうなづいた。
「なら、今から予定を変更して、皆でスライムをぱちぱちする感じのものに」
「ダメなのだわ」
 華蓮が力強くうなづいた。
「でも」
「ダメなのだわ」
 華蓮が力強くうなづいたので、ココロが気圧された。
「わ、わたし、清純派なのに……」
 清純派の子がASMRするの、すごくいいよ……。
「ねぇ、俺いる?」
 アルヴァがここぞとばかりに手を上げた。
「ねぇ、俺、要る?」
「要りますよ、アルヴァ」
 ザビーネが頷く。
「あなたの蒼穹の様なASMRを」
「それ相談の時にも聞いたけど、蒼穹の様なASMRって何なんだよザビアボロス。スカイダイビングか?」
「まぁ、隊長。諦めてください」
 肩を震わせながら、愛奈がいった。たぶん笑いをこらえている。
「たぶん、洗井落雲は疲れているんでしょう。シリアスな依頼とか、全体依頼とかが続きましたから。
 最初これ、リクシナかと思ったのですけれど。そうではなかったのですね。
 というわけで、労ってあげてください。もう夏も終わったのですから」
「洗井落雲? 様はわかりませんけれど。井様がいないのは、不思議なのです」
 と、ニルが小首をかしげた。
「井様はこういうの詳しそうで。
 ぎゅるんぎゅるんしながらニルにいろいろ教えてくれそうな気がするのです。
 ……は。こういうのは、へんけん? っていうのでしょうか?」
「間違いなく事実ですよ」
 トールが頷いた。
「でもほら、井さんがいると、ほんと、収拾つかなくなっちゃうので……。
 1シナリオに変態は一人まで、みたいな不文律ってあるじゃないですか……。
 洗井落雲と井で変態がかぶってしまったな、みたいな……」
 ほんと収拾がつかなくなってしまうので……。
「そうなのですね。ニルは井様がいなくてもがんばります」
 ニルが納得したように頷いた。ありがとうございます。
「それじゃあ、とにかくやってみようか」
 オニキスが言う。
「こう……各員、おもいおもいのASMRやってみる感じで。あとは●がついてソロパートっていうか……」
「そうね、いつものパターンね」
 ココロがうんうんとうなづいてから、眉をしかめた。
「わたし清純派なのに、どうして『いつものパターン』なんて言えるようになってしまったの?」
「清純派だからこそ巻き込まれるのでは……?」
 愛奈が言う。
「私も絶対、こういうタイプではないのですが、何故かよく、こういう場にいる気がします……」
「何か絶対者の意思を感じるのだわ。第四の壁を粉砕したくなるような妄想――」
 華蓮が続いた。とはいえ、それを感知したところでどうにかなるものでもあるまい。
「とにかく、ASMRというものの披露をお願いします」
 ザビーネが言った。
「貴方達の実力、見せてください」
「この場面でそういうの言われたくなかったな……」
 アルヴァが嫌そうに言った。
「竜に ASMRの実力を みせる……?」
 ノリアも困惑気味である。
「ニルは、ASMRについて詳しくないですけれど、がんばります!」
 ニルは素直でよろしい。
「じゃあ、とにかくやってみましょう。あとは流れで」
 トールがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
 というわけで、ASMRです!

●ASMRに一家言のある人たち
「ココロです、この度はご指名ありがとうございます」
「華蓮なのだわ、この度は御指名有難う御座いますのだわ」
 と、二人が三つ指ついて、ほほ笑みながらご挨拶。ちょっと待って、これほんとにASMR? もっとやばい奴じゃなくて?
「大丈夫よ。PPPは全年齢向けだから」
 そっか、なら大丈夫だね! そんなわけで二人は、モアイ(洗井)を挟み込むように移動する。定番である。左右からささやきかけるやつ。僕も好き。
「さあ、洗井さん……楽しい時間の始まりなのだわ……」
「さあ、洗井さん……楽しい遠足の始まりですよ……」
 左右より、同時に、別々の言葉を。
「どんなって? 甘く蕩ける砂糖菓子の様な時間へ」
「どこにって? 夢の世界に」
 投げかける――するとどうなるか。脳が混乱するのである。その混乱が、また心地よい。
「仕事とか辞めて夢の世界に浸りましょうよ、二人がいつも一緒ですよ……」
「良いのだわよ……幸せな時間に浸っていても、二人でいつでも癒してあげる……」
 こういった手法は非常に良い。とても良い。はじめは混乱するかもしれないが、ただあるがままを受け入れるだけでよいのである。だまされたと思って聞いてみて。
 と、ふとココロは華蓮の耳たぶに視線を移した。そのまま、ゆっくりと、唇を近づける。
「かわいい横顔ですね、ちゅーしちゃいましょうか」
 ささやくように。無論、マイクは意識して。
「ひゃん♪ はう……ドキドキしてしまうのだわ……でも嬉しい……」
 どこか恍惚とした様子の声、熱い吐息。そういうものを、マイクへ。あなたの耳へ。
「なーんて、あなたにはやりませんよ……ふふ、音だけです」
 時にこうしたいじわる、じらしもまた、テクニックの一つである。完成度が高い。
「ふふ……羨ましいかしら? これだってドキドキしちゃうでしょ?」
 めっちゃする……。
「あなたにはこちら……」
「これならしてあげる……」
 首筋に、ふー。そして、頭をなでてあげる。実際にはモアイを撫でているのに、音が、感触を呼び起こすのである。ASMRの不思議なところだ。
「今日はいっぱい、蕩けちゃいましょう……」
「甘えてくれていいのですよ」
「ほら、こちらにくればこんなこともしてもらえますよ……」
「はぁ……これ以上の事を、したくなってしまうのだわ……」
「好き、ってたくさん言ってもらえるし言えますよ、ほぉら、言葉に出してみましょうか、好き。そう。好き。言ってみるだけでも楽しい気持ちになりませんか?」
「好き……好き好き大好き♪」
「好き、好き……わたしのこと、好き?」
 言葉の洪水。音の洪水。好き……。


「もうあいつらだけでよくないか」
 アルヴァが言う。そんな気もする。
 とはいえ、まだまだここからが本番である!
「俺の番か……そうか……そうだな……じゃあ」
 がさっ、と紙袋を被る。こほん、と咳払い。あー、あー、と喉の調子を整える。クローンボイス。声を複製する。
「愚かな人類♡  今から私の廃滅で侵して差し上げましょう♡  ふぅぅ」
「……私の声ですか」
 ザビーネがぼそりとつぶやいた。そう! ザビーネの声をクローンしたのである!
 これぞアルヴァの自給自足ASMRボイス! 自分でシチュを指定して自分でやれるのである! あとは録音してあとから聞きなおせばよい! 愛奈の視線がちょっと痛いぞ!
「貴方という人間は、随分と甘えん坊なのですね。
 さぁ、おいでなさい。添い寝、したいのでしょう?」
 甘えさせるように――ささやく。
「今更、何を躊躇っているのですか。ほら、もっと近くに来て――いい子です」
 包容力を魅せるように――言葉から生まれるのは、その両手を広げる幻視か。
「明日、幻想の町まで一緒に出かけてはくれませんか?
 美味しいものがあると聞きましたし、もっと人のことを知りたいのです」
 そう言われれば、断れるはずもない。アルヴァには。
「ふふ、ありがとうございます。
 では、おやすみなさい」
 優しく……寝かしつけるように。それで〆る。がさっ、と紙袋をとった。ザビーネの視線が痛い気がした。
「見事です」
 なんかザビーネが言った。
「なるほど――不慣れな私への、サンプルの提示ですね。見事です、アルヴァ」
「やべーぞ、この竜与太慣れしてねぇ」
「嫌ですよ、与太慣れしてる竜とか」
 愛奈が嫌そうに言った。
「愚かな人類♡ 私の毒で身も心も侵してあげましょうか」
「ザビーネさんもやらなくていいですから!」
 愛奈が慌ててそういった。

「要は男の子が喜ぶことをなんやかんや囁いたりすればいいらしいとのこと。
 男の子にはロボットに乗りたい欲求もあるらしい(要出典)
 つまり……なんかパイロットのことが大好きな美少女戦闘支援AI……!」
 うん、とオニキスが頷く。わかる~~~~(わかり手)。
 こほん、と咳払い、なるべく抑揚を抑えつつ、
「『メインシステム。戦闘モードを起動』
 『今回のミッションは企業の保有する前線基地への襲撃です』
 『敵機を複数確認。問題なく突破可能です。あなたと私なら』」
 目の前に、武骨なコックピットが広がったような気持すらする。美少女戦闘支援AIいいよね。そうなると妄想は止まらないものである。一機撃墜するごとに、オニキスがパイロットの腕をほめてくれる。その声を聞きたくて、俄然やる気も上昇する――そして現れる大型敵。
「『接地アンカー射出。砲撃形態に移行。砲身展開。バレル固定。超高圧縮魔力弾装填。
 8.8cm大口径魔力砲マジカル☆アハトアハト――――――撃てます』」
 大地を揺るがす、号砲。強力な、必殺の一撃。それが放たれれば、周囲に敵の残影は見受けられず。
「『砲撃命中。敵兵器沈黙。周囲に敵影無し』
 『戦闘終了。お疲れさまでした』

 『あなたとの戦闘経験が蓄積される度、私の中に肯定的な変化が確認されます』
 『戦闘支援AIには不要なはずですが……もっとたくさんの変化を、あなたから得たいと思考してしまいます』
 『……これは、故障なのでしょうか?』」
 わかる~~~~~~~(わかり手)。AIがなんか感情的なものに戸惑ったり、好意みたいなものを自覚して戸惑ったりするのいいよね。もう結婚するか! 結婚した! AIちゃんと結婚したぞ!!!

「むむ、皆様、さすがです」
 ニルがむー、と真面目にこくこくとうなづいた。レベルの高いASMRを確認し、それを頭に焼き付けて学ぶ――学ばせていいのか、こんな子に。アルヴァの性癖を……。
「皆様は、みみをふー、とされるのが気持ちいいのですか?
 ニルも、試してみたいです」
「あ、じゃあ、あたしがやってあげる~」
 と、マールが近づいてきて、ニルの耳元に、ふー、と息を吹きかけてみた。くすぐったそうに、ニルが目を細める。
「はわわ、くすぐったいです。皆さま、こういうのがお好きなのですね」
 うんうんとうなづく。
「では、私も」
 ザビーネが手を上げたので、メーアが苦笑しながら制した。
「ザビーネさんのは、その、攻撃力と毒のBSが出てしまいそうで。慣れてからにしましょう」
「なるほど?」
 そんな様子を見ながら、ニルはさっそくASMRを準備する。
「ニルがきもちいい音……好きな音。
 ソーダのしゅわしゅわする音、じゅわーぱちぱちっていう油の跳ねる音、カツを切るときのサクッていう音……みんなでごはんをたべるときの音。
 「おいしい」の音は、ASMRですか?」
 もちろん、こういうものも立派にASMRである。ソーダの炭酸、カツの衣を切る音……或いは、皆で楽しくご飯を食べる、そんな空気。
 耳にはもちろん、心にも心地好い。
「ならニルはたくさんたくさんごはんを用意して、たべますね?」
 さくっ、と、フライを切る音。そしてかじるおと。あふ、と、熱さに思わず吐息を漏らす、ニルの声。『おいしい』とは、ASMRなのかもしれない。それは、耳だけでなく、心も満たしてくれる――そういうもの。
「ふたりでたべると、おいしいですね」
 そういって、ささやく(ささやき声がいいと聞いたので真似してみたのだ)。こう、その瞬間、洗井落雲の脳裏に浮かんだ『存在しない記憶』。二人で食卓を囲み、一緒に美味しいご飯を食べた。食べたわ。っていうか一緒に暮らしてたわ。ニルくんが健やかに成長するのを見守ってたわ。頭撫でてあげたわ。生活してたわ。僕、ニルくんと生活してたよ……。

「はい。今日もお仕事お疲れ様です。
 今日も沢山働いて…えらいですよ。よく頑張りました。
 ご褒美に……今日はお膝を貸してあげましょう。膝枕ですよ」
 バイノーラル音声です。というわけで、僕は家に帰って愛奈に癒してもらうことにしたのだ(シチュエーション)。
「はいこっち……よしよし。お疲れ様」
 ぽんぽん、と頭をやさしくたたいてくれる。なに? 叩いてるのはモアイみたいなマイクだと? うるせー! 僕の頭をポンポンしてくれてるんだぞ!
「はい……寝ちゃってもいいんですよ。今日はもうお仕事も終わり。休んでくださいな。
 折角ですし耳かきしましょうか。はい、ほら右耳貸して」
 と、愛奈は僕の耳元にですね、顔を近づけてですね。うるせー! 近づいてるのはモアイじゃないんですよ。わかってくださいよ。そして耳かき。ASMRでは王道である。王道を行く……英雄なのか……ASMRの英雄……。
「この梵天付き耳かきで……はい、かりかり……もふもふ…… はい、ふー……。
 次は左を……かりかり。かりかり……はい、綺麗になりました」
 この耳かきってすごくいいので、皆もよいイヤホン買って試してみてほしい。一緒に楽園に行こうよ。
「よしよし……あら、お眠ですか?
 じゃあはい……ぎゅー……」
 と、僕の頭(モアイ)を抱きしめてくれる、愛奈。いいよね、心音ASMR。こう、いいよね。すごくいい(語彙力の消失)。
「落ち着きますか……? よかった。ゆっくりおやすみなさい……良い夢を見られますように」
 ありがとう……この音声買います……。

「王子様……今日は月が綺麗ですね。
 今宵は多忙な王子様を労い癒す為にやって参りました。

 綺麗なオーロラのドレス、銀のティアラにガラスの靴……。
 いつかの舞踏会でお会いした時と同じ、シンデレラとしての姿で」
 シンデレラである。トールちゃんはシンデレラである。シチュエーションをしっかりと明記するのは良い。とても良い。色々なシチュがある。その中でも童話モチーフというのもよい。想像力がわく。できておるのう……。
「実はお土産があって……じゃんっ、特製の枕(携帯品)とシンデレラスライムを持って来ちゃいました。
 このスライムを枕元に置いておくとヒンヤリして夏場でも気持ちよく眠れちゃうんです。
 それに音にもリラックス効果もあるんです。試しに聞いてみますか?」
 これ皆には伝わらないと思うんですけど、この「じゃん」って所とかすっごくかわいいんですよね。音声で聞くと。音声が存在しない? 嘘謂わないでくださいよ、じゃあ僕の頭の中に流れているこれは何だっていうんですか。
 それにほら、トールちゃんがぎゅーってスライムを握ってくれてるわけじゃないですか。このぎゅっぎゅっっていう不思議な音も存在しないっていうんですか皆さん。してますよ。僕には聞こえる。
「ふふ、じっと音を聞いていたら眠くなってきましたか?
 瞼がとろんってなっちゃってますよ。
 頭をそっと優しく撫でながら胸をとんとんってしてさしあげますね」
 とんとん、と僕の胸を……モアイじゃないよ! 僕の胸なんだよ! それをトールちゃんがトントンしてくれてるんだよ!
「まるで子供みたいに健やかな寝顔……。
 目を瞑っている王子様の耳元に口を近づけて、耳元を、ぱく、ぱく」
 耳元で、パクパクしてくれてるこの音声も実在しないっていうんですか皆さんは。してますー。ちゃんとしてますからー。
「オノマトペって言うんでしたっけ?
 王子様の寝顔がとても可愛らしかったので、出来心で耳をぱくぱくしちゃいました……ふふっ♡

 以前は大切な約束があって24時までしかご一緒できませんでしたが。
 今日は王子様がぐっすり眠り、お目覚めになる時までお傍にいさせてください。

 もう魔法が解ける心配はありません。
 だってもう、恋の魔法にかかってますから……」
 えっ、やば、もうむり、結婚しよ……。

 海の音。
 海の音が、聞こえる。
 波か。あるいは、ごぽごぽという、泡の音。
 それから、クジラの鳴き声。ふぉーん、というような、クジラの、声。
「わたしが 心地よいと おもうのは いとしのゴリョウさんに まつわることをのぞけば
 やっぱり 海の 音ですの
 それも 水面ちかくの 喧騒をはなれた
 ふかい海の しずかなメロディ」
 ノリアが選んだそれは、穏やかな海の音。ASMRは心地よい音なので、海のそれも実に正解である。
 実際、心を落ち着かせる、という点で見れば、これ程良い音声もないだろう。ドキドキしていた胸が落ち着く。穏やかな、海のように。
 というわけで、僕はお風呂に沈められていた。文字通りに。なんかこう、「海を再現しましたの」って言われたので、再現されたならしょうがないな、と思って。最高の音を感じるには、多少の犠牲はね?
 ノリアの工夫は見事である。お風呂に水をため、そこからホースを伸ばし、遠くのコップにつなげる。こうすることで、遠くの水面からの音が響くような状態になっているわけである。
「これで のんびりしてほしいですの」
 クジラの声。ノリアが奏でる音は、心を落ち着かせてくれる。それは、体内回帰の気持ちにも似た。
 穏やかな、世界。
「まんぞくしましたの?」
 しました。
「よかったですの」
 そういって、ノリアはにっこりと笑って、熱水噴出杖を構えた。
「ていやーするまでがおしごとですので」
 にっこりと笑って。
 夜妖に、無言でお湯を射出したのであった――。

 めでたしめでたし。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 音声出たら全部買います。

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