PandoraPartyProject

シナリオ詳細

これは猫ですか? 或いは、いいえ、それはにゃる様です…

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●猫がいますね
「ねこです」
 どこかぼんやりとした表情で、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)はそんなことを言う。
 ところは豊穣。
 山中に半ば埋もれるような形で残る、古い城跡の前である。
「ねこがみえますか? 右にも左にも、上にも下にも後ろにも前にも、ねこがいます」
 抑揚のない声でエントマは言う。
 虚ろな眼差しが、ゆらゆらと左右に揺れている。目の焦点は合っていないし、そもそも正気であるようには見えない。
 まるで夢でも見ているように、白昼夢のただ中に取り込まれているようにも見えた。そんなエントマであるが、不安極まる眼差しに対して言動だけははっきりしている。
 言動だけがはっきりしているという事実が、また一層と見ている者の不安を掻き立てるのである。
「にゃる様が言っています。ねこは溢れました。ねこは増え続けます。この世界がねこで埋め尽くされてしまうまえに、ねこを仕舞わなければいけません」
 くるり、とエントマは踵を返す。
 それから、渓谷にかかる壊れかけの橋を渡って、城跡の方へ歩いて行った。
 ゆらゆらと上半身が揺れている。
 その割に、足はしっかりと橋板を踏んでいる。
 足音がしない。猫のような忍び足。
 時々、何かを避けるようにひょいっと跳ねたり、右や左に逸れたりしながら去っていく。何を避けているのかと言えば、それは“ねこ”に決まっている。橋の上にいるねこを、欄干で寝そべるねこを、どこかから現れ城門の方へ消えていくねこを、エントマは踏まないように避けているのだ。
 ねこなんて、どこにもいなかったはずなのに。
 否、どうだろうか。ねこは溢れたと言っていたから、ねこはどこにでもいるのかもしれない。どこにでもいるからねこなのかもしれない。
 そうだ。ねこはいるのだ。
「門を閉じましょう。門を閉じればねこはどこかへ帰っていきます。門が開いていて、繋がっているところはねこの住むところだからです」
 エントマは立ち去っていく。
 けれど、その声だけははっきりと皆の耳に届いた。
 そうして、視界にはねこだけが残った。
『……ねっこ』
 あなた達を呼ぶように、脳髄の奥にそんな猫の鳴き声が響いた。

GMコメント

●ミッション
門を閉じましょう。門を閉じればねこはどこかへ帰っていきます。

●ターゲット
・エントマ・ヴィーヴィー
虚ろな様子で城跡の中に入って行った。
どうやら何かに操られている風である。放置しておくのもアレなので、とりあえず保護しよう。

・にゃる様(妖)×1
闇よりも黒い化け猫。
遠目に見ると、目や鼻、口などが無いようにも見える。
猫らしく非常に俊敏で、気づけばどこかへ消えている。
『ねっこ』と、脳に直接響く鳴き声を発する。
豊穣では知る人ぞ知る化け猫であるが、猫かどうかは議論の余地がある。

●フィールド
豊穣の城跡。
半壊した橋を渡った先にある半壊した城跡。屋根や床、壁には穴が開いている。危険なため、基本的には立ち入り禁止だが、エントマは立ち入ってしまった。
城の周囲には、幾つもの家屋や倉庫が並んでいるが、どれも半壊している。
そして、ねこがいます。そこら中にねこがいます。最初はねこに気が付かないかもしれませんが、1度、気が付いてしまえばもう手遅れです。ねこがいますので、あまり大きな音や声は出さないように気を付けましょう。ねこはのんびり過ごしたいので、びっくりすると逃げてしまいます。そしてねこはどうやら城跡のどこかにある“門”の中から溢れて来たようで、ねこはやがて世界を埋め尽くす予定です。“門”で繋がっているところはねこの住むところだから当然です。なので門を閉じてねこを帰してあげましょう。それがにゃる様の望みです。
🐾
『……ねっこ』


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに誘われた
「立ち入り禁止の城跡を探検しよう!」そんな誘いを受けて城跡を訪れました、当のエントマがあの様です。ねこに見られている気がします。

【2】不穏な気配を感じて来た
虫の知らせというやつでしょうか? 不穏な気配を感じ、城跡に足を運びました。脳裏のねこの鳴き声が聞こえています……『ねっこ』

【3】ねこが見える! ねこが見えるよ!
ねこがたくさん見えています。ねこ可愛いね。ねこを追いかけて、城跡に来ました。あなたもねこですか?


城跡探訪
城跡を探索します。

【1】エントマを探す
エントマを放置してはおけません。まずはエントマの痕跡を辿ってみましょう。

【2】“門”を目指す
にゃる様の指示に従って、“門”とやらを閉じに行きます。

【3】ねこと戯れる
ねこと戯れましょう。ねこだけがすべてを凌駕します。世界の平和と安定はねこによってもたらされます。

  • これは猫ですか? 或いは、いいえ、それはにゃる様です…完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月30日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ

●門のあるところ
「貴様か――!」
 城へと渡る橋の途中で『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は叫ぶのである。鬼気迫る大音声ながら、どこか嬉々とした様子でロジャーズは空へ絶叫してみせたのである。
 空か。
 それとも、空の向こうにある何か別の空間だか世界だか、この物語を書き記す何者かへ向け叫んだのである。
 そうだよ、お前だよ。にゃる様とお前とは、同一の起源をもつ存在であるのだよ。
 そんな声が聞こえた気がした。
 だが、確かなことは1つある。
『……ねっこ』
 ロジャーズの脳裏に、黒猫の声が聞こえたのである。
「私!」
 哄笑をあげながら、ロジャーズは橋を渡って行った。

「笑っているな」
 そこらの猫へそっと手を差し出しながら『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)はそう呟いた。
 胡乱な目をした白猫である。くぁぁ、と欠伸をひとつしてふいっと大地から目を逸らす。
 愛猫ウルタールの行方など、白猫殿は知らないらしい。
 さもありなん。
 そもそもこの白猫は、そこに居るのか居ないのかさえ判然としない存在なのである。
 見よ、橋を渡るロジャーズは猫になど目もくれずに城へ入っていくではないか。
「見なかったことにしておケ」
「あぁ、うん。そうだな。きっと何かしら“認知しない方がいい”案件なんだろう」
 世の中には、稀にそう言う事があるのだ。
 そう言う稀な存在が、身内に大勢いるのだが。

 心地が悪い。
 ひどく心地が悪かった。
『斬竜刀』不動 狂歌(p3p008820)は頭を掻いて、城門を潜った。
「禁則地の森の次は立ち入り禁止の城跡って大丈夫かよ」
 上から、右から、左から、下から、或いはどこか別の場所から何かに見られている気配がする。猫だろうか、猫に決まっている。猫しかいない。
「……いや、既に何か取り憑かれてるから大丈夫じゃないな」
 視界の端に猫がいるから。
「さっきまでいなかっただろうが」
 だが、猫がいるのだから仕方ない。そこに猫がいるという現実は変えようがない。
「懐かしい声がしたんだ。俺に優しくしてくれた白猫がいる気がするんだ」
 日向に寝そべる『ラッキージュート』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)もそう言っている。猫はいるのだ。
 瞳をうっとりと細くして、虚空を撫でている風にしか見えないが、きっとその手のあるところには猫がいるのだろう……狂歌はそう納得することにした。
「だって俺は、ねこだから」
 アンタは猫じゃないだろう。そう思ったが、口にはしない。
「にゃぁ」
 狂歌の耳に猫の鳴き声が響く。
 “あなたも猫ですか?”と、そんな風な問いかけだったような気がする。
 鳴き声のした方へ目を向ければ、そこには『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)と1匹の焦げ茶の猫が向かい合っている。
 対話……だろうか。
「あぁ、[ねこ]だガ?」
 壱和が答えた。
 そうだな、アンタは確かに猫だ。
「あぁ、うん。これはアレだな。きっとどうかしちまったんだ」
 どうかしたのは自分の頭か、それとも世界か。
 そんなことを考えながら、狂歌は城跡へと向かう。その足元を、1匹の猫がするりと擦り抜けていった。

「ねこはいますよろしくお願いします」
「……めぇ?」
 『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)が何か言いだした。メリーノが何を言っているのかは『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)には分からない。
 メリーノの目がぐるぐるしている。
 どこか虚空を見ている気がする。
『ねっこ』
 脳裏に猫の鳴き声が響いた。
 知っている声だ。この声に導かれて、メイメイは城跡へ足を運んだのだ。
「めぇ……このお声はにゃるさま、です、ね」
『……ねっこ』
「わかり、ました。ええ、ええ」
 にゃる様の姿は見えない。だが、声だけは聞こえる。なんとはなしに、にゃる様の意思が、指示が理解できた。“理解”できてしまった。
「門を、閉じましょう」
「門は閉じなければいけないのですか。そうですか」
 にゃる様の声が、メリーノにも聞こえているようだ。メリーノは目をぐるぐるさせながら、友達にそうするように片手をあげた。
 片手をあげて、にへらと笑った。
「それはねこですね」
 あぁ、“ねこ”とは一体なんだろう。
 メリーノにはそれが“理解”らない。

●幸いなる葬送の列
 猫とは液体であり、個体であり、生物であり、“かわいい”の概念である。
 猫とはどこにでもいて、どこにでもいない存在だ。
 猫はひどく怠惰で、自由で、その脳の中には「食事」と「睡眠」以外が無い。この世の全ての中心は自分で、自分の好きに、自由に生きて、喰って、眠るだけが全てである。
 さて、では皆さんに1つ、聞きたいことがある。
 あなたは、猫ですか?

※シージ・スキャンパー著『あなたの心にねこはいますか?』より

 そこら中に猫がいる。
 だが、2本の尻尾と鱗を持つ猫はどこにもいない。
「プププ、またウルに逃げられてやんノ」
 腹を抱えるようにして、大地はくっくと肩を揺らした。
 かと思えば、真顔に戻ってすっと背筋をまっすぐ伸ばす。
「猫はそういう生き物だから仕方ない。古典にも書いてある」
 吐き捨てるみたいにそう言って、大地は周囲を見回した。城跡のいたるところに猫がいる。猫が見える。猫しか見えない。
 歩いている猫、眠っている猫、毛づくろいをしている猫に、ジュートの翼で遊んでいる猫。
 猫、猫、猫、猫、猫の群れ。
 けれどどこにも、たった1匹、大地の愛猫ウルタールだけはどこにもいない。
「で、どうするんダ?」
「“門”を目指そう。にゃる様の言う門を目指せば、あいつも必ず居る……気がする」
 “門”のところにいるのはなにか。
 何があるのか。
 猫か、それとも別の何かか。
 少なくとも、そこに“安息”は無いのだろうが。

 かつて、頬を濡らす熱い涙をそっと舐めて、慰めてくれた猫がいた。
 ジュート=ラッキーバレットという田舎生まれの放浪者が猫のすばらしさを知った日の出来事である。
 あぁ、猫は実に素晴らしい。
 こうして、陽だまりで眠っていれば猫はどこかからやって来て、腹の上や胸の上、顔の横に、足の間と思い思いの場所に位置取り、身動きできないという人の迷惑さえも微塵も考えないで、すやすやと安心したような顔で眠るのだ。
 この世界にあるあらゆる不幸や不安の種など、猫がいればすべて終わらせてくれる。
 誰にも言えない孤独であったり、不安であったりを終わらせるために遣わされた至上の存在が猫であるのだ。
「世界がねこであふれたら、きっと幸せだ」
 いつでも、いつだって、この世界には光と闇があるのだ。
 けれど、今、このようにしてジュートと猫の身を包む暖かな光が差し込まないところだってあるのだ。光なんて見えないで、暗闇の中で不安と孤独に苛まれ、誰にも届かない慟哭を響かせている者もいるのだ。
そんな世界を、猫が終わらせてくれるかもしれない。
 だが、同時にジュートは自分に問う。
 この世界の悲しみを、不幸を、不安を、恐怖を、あらゆる災いを終わらせるのは猫の仕事か? 猫に負担を押し付けて、自分は暖かな陽だまりで午睡を貪るなんて真似をしていいのか?
「にゃぁお?」
「あぁ……お日様みたいな肉球のにおいに包まれるの、俺きらいじゃないぜ」
 全ての不幸が終わった後に、猫に包まれ眠るのはさぞ気持ちがいいだろう。
 だが、猫にすべてを押し付けるのは違う。
 この世に生まれた存在として、世界をこのような有様に変えてしまった1つの種として、猫にばかりすべてを押し付けることは違う。
「だから、少しだけ……」
 胸に上がって来た猫を、そっと優しく撫でて呟く。
 白い猫だ。
 その瞳に見覚えがある。
「また、歩き出すから」
 今日だけは、今だけは。
 不運を背負って生まれて来た哀れな身の上のジュートなれど。
 世界の悲しみのすべてを忘れさせてくれ。

「まず、1つ確かなことがある。それは、この不安定な世の中にあって、永久不変のたった1つの真実であると知るといイ」
 壱和は語る。
「……はァ?」
 ウルタールを見ていないか?
 そう問うただけなのに、大地は何を聞かされているのか。
 まぁ座れ、と促され崩れた城壁の破片の上に腰かけた。壱和の膝にも、大地の肩にも猫が乗っている。バランスをとって遊んでいる。
「究極の美の体現にして、アイらしいけもの。それがねこダ」
 壱和は、膝に座る猫の脇に手を入れ持ち上げた。
 にゅるん、とまるで骨など無いかのように猫が伸びる。
「このように、ねこは伸びル。美しさゆえダ。その気高さゆえダ」
「いや……いやぁ」
 そうではないんじゃないかなぁ? と、大地は思った。もちろん、口には出さない。
 口ごもる大地に何を思ったか、壱和はうんと納得したように頷いた。
「美しさの前には言葉さえ無用というわけダ。言葉が出ないというわけダ」
「いや……」
 そうでない。
 そうではないのだ。
 そもそも、何が起きているのかを理解していないのだ。だが、壱和は構わずに猫を大地の眼前に突きつける。お日様の匂いがするではないか。
「にゃぁお」
 にゃぁお、ではない。
「つまり、何が言いたい?」
 大地は問うた。
 壱和は笑う。驚くべきことに、と言うべきか。壱和らしくないというべきか。悪心の欠片も無い、春の陽気のように暖かな笑みでこう言った。
「汝、猫を待テ。帰って来たくなったら帰って来るだろうサ……[ねこ]もねこもそういうモノだからナ」
 壱和が何を言っているかは分からない。
 分からないが、1つだけ「あぁ、なるほど」と直感で理解したことがある。
 それは、つまり……。
「お前、ウルタールの居場所を知っているな?」
 壱和は何も答えずに、唇の端を猫のようににぃと上げて笑うのだった。

 俺は何を聞かされている?
 狂歌の脳裏は疑問が大渋滞していた。
「我らは無貌! 何者でも無い存在! けれど、何者でもある存在!」
 列をなす先頭にはロジャーズ。巨躯をまっすぐに伸ばし、堂々と演説している。黒く長い腕を振り上げれば、そこかしこから猫が唱和するように鳴いた。
 つまり、にゃー、と。
 もう1度、繰り返す。
 俺は何を聞かされている?
「ねこです。ねこはいます」
 メリーノは目をぐるぐるさせながら胸の前で手を組んだ。神に祈りを捧げる敬虔なる信者の姿そのものであった。
 アンタは何を言っている?
 と、言うよりも、自分が何を言っているのか理解しているのか。
「汝らは猫か? 猫であるか? 猫で無いのか? その答えは決まっている、猫である! 愛らしき毛玉! 愛しく小さき獣である!」
「ねこです、ねこです」
 感極まったというように、ロジャーズの隣にメリーノが駆け寄っていく。先頭が2人になった。猫たちの数は増えている。どこにこれだけの猫がいたのかは知らないが、既に100を超えている。
 今しがたなど、狂歌の視界の端で、廊下の角から滲むようにして現れた。
「……めぇ?」
 メイメイは困惑している。
 そうだ。
 それが正しいのだ。困惑するのが正しい在り方なのだ。
 そう言いたいが、言えなかった。
「うわっ……!」
 狂歌の顔に、さび色の猫が飛びかかって来たからだ。爪を立てるようなことはせず、狂歌の顔に纏わりついているのだ。
「郷に入っては郷に従えといいます……めぇ」
 それは駄目だよ。
 そう言いたいが、間に合わなかった。メイメイもまた、ロジャーズの元へ向かった。
 アンタ、雰囲気に流されてるよ、と言いたい。
 口もとに猫が纏わりついていなければ、そう言っただろう。足元にも、背中にも、気づけば全身を猫に飲まれていなければメイメイの背中に手を伸ばしただろう。
 じゃれつく猫を、懐いて来る猫を無碍に追いやることなど狂歌には出来なかったのだ。
「めぇ……にゃぁ」
 郷に入るとはそうではない。
 言えなかったが。狂歌は既に足を止めている。おそらく“門”のあるところへと向かう3人と猫の背中を見送ることしかできない。
 そんな狂歌を慰めるように、1匹の猫が鼻を寄せる。
 2本の尾に、エメラルドのように煌めく鱗を持つ猫だ。
「いや……猫か、お前?」
 狂歌は知らないことだが、その鱗を持つ猫こそが大地の探すウルタールである。

 わたしは猫である。
 メリーノ・アリテンシアは生まれながらにして猫である。
 潮騒の音と、毛づくろいしてくれる母の舌。暖かな母の胸に抱かれて、地域の人から魚を貰ってすくすく育った猫である。
 幼き日の幸せな記憶を今も忘れたことは無い。
「ねこはいます」
(わたし、わたし、これをいわされてる の かしら)
 足元に猫がいる。
 ロジャーズと肩を並べて、城の奥へと進んで行く。その後ろには100を超える猫が続く。
 百鬼夜行の行進である。猫の行進である。何者にもそれを妨げることは許されないのである。
(わからない わからないわ)
 なぜ、猫に紛れて列をなしているのだろうか。
 わたしは何処を目指しているのか。
 何も分からない。
 何も分からないが、自分がまったく正しいことをしているという確信はある。自分がねこであることに疑いはなく、そしてそれが幸福であることは分かる。
 世界が猫であればいいのに。
 あぁ、世界中の誰もが猫であればいいのに。そうすれば幸せであるのに。猫で無い者のなんと悲しいことだろう。
 世界を変えさせてくれ。猫に世界を変えさせてくれ。
 この世界にある憂いを全て払わせてくれ。
 生きることは、悲しいことの連続だ。この世界には不幸が満ち溢れている。
 愛と平和なんてものは戯言だ。
 1つのパンを巡って争う幼子を見たか? 食べるものが無いからと我が子の首を絞める母親を見たか? 武装した軍人が、飢えて細った老婆を撃ち殺すところを見たか? 涙を流し、祈るように手を組んで、息絶えた哀れな男を見たか?
 四肢を失い、路傍で物を乞う少女を見たか?
 あぁ、わたしは見た。この目で見て、そして手を差し伸べることは出来なかった。手を差し伸べて、それが何になるのかと、何にもならないと知っていたから。
 愛も平和も無いと知っていたから。
 けれど、もしも、愛と平和がこの世にあるというのなら、世界はきっとそれを“猫”と呼ぶのだろう。そんな想いを込めてメリーノは声も高らかに叫ぶ。
「ねこはいます」

●にゃる様の門
 城の奥。城主の住まう場所だったところに、1つの黒い門があった。
 門は開いていて、その中にはただ闇だけがあった。
 門の前には、1匹の黒猫。目も口も鼻もない、黒い黒い、闇を塗り固めたような猫。
『ねっこ』
 実のところ、猫じゃないんじゃないかなぁ? と誰もが思っている。
 思っているが、本人が『ねっこ』と鳴くのだから、まぁ猫なのだろう。
「め……にゃぁ、にゃぁ」
 メイメイが何かを告げる。
 付いて来た猫たちが、そっと門から離れていく。
 メイメイの傍には、1匹の鳥……鳥か? 鳥らしき生物が残った。黒い猫の着ぐるみを着た(╹v╹*)。ミニペリオン様とメイメイが呼ぶ何かである。
『ねっこ』
「はい……えぇ、門を閉じます」
 メイメイとミニペリオンは門に近づく。
 その様子を眺めながら、ロジャーズは問う。
「門の創り方、使い方が雑なのではないか?」
『……ねっこ』
「まったく! 想像していた以上のものを創造して騒々しくしおって!」
『ねっこ』
「嗚呼、嗚呼! 勿論、私は貴様故に、貴様の事は容易に『理解』出来る! 貴様も私の事を『理解』した筈だ!」
 にゃる様は何も答えない。
 ふん、と鼻を鳴らし……鼻があればだが……ロジャーズは腕を組んで、にゃる様の方へ顔を寄せる。
「混沌よ」
『ねっこ』
 ごめんね? と。
 にゃる様はきっと、そう言った。

 猫の視線を感じている。
 応援してくれているのだ。メイメイを、猫たちの小さくてふわふわとした友達を、その視線でもって応援してくれているのだ。
 にゃる様もまた、見守るような視線をメイメイへと向けている。
 メイメイは、その小さな手に力を入れて、扉を押した。
 この不可思議な門を見るのは2回目だ。
 この不可思議な門が何なのかはメイメイも知らない。知らないが、メイメイはそれが親しきにゃる様の頼みであれば閉じるのだ。
 にゃる様が何者なのかはメイメイも知らない。分からない。理解できないし、理解したらちょっとまずいんじゃないかな? とさえ思っている。
 思っているが、それはそれとして、頼みを聞くのだ。豊穣のとある催しでは、メイメイを応援しに来てくれたではないか。
 だから報いるのだ。友情に報いるのだ。
「にゃぁ……」
 扉が重い。
 あと少しと言うところで、何かに抵抗されるみたいに閉まらない。
 自分の非力を嘆きそうになる。
 けれど、しかし……。
「わたしはねこです」
 メリーノ。自分を“ねこ”と呼ぶ不可思議な女性が、メイメイの手に己の手を重ねる。
 ぐぐ、と扉が動いた。
 そしてついに、門が閉まった。

「ウルタール! ウルタールが帰って来た!」
 胸に飛び込む二尾の猫を大地が胸に抱き留める。
 既に、古城に猫はいない。
 門が閉じて、猫たちはどこかへ帰って行った。それが少し、寂しかった。さっきまで猫のいた場所を見て、ジュートは唇を噛んでいる。
「本当なら[ねこ]もそっちに行きたいがナ」
 なんて。
 門があった場所を見て、壱和はそう呟いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

猫とは一体何なのでしょう?
皆さんは、そんな疑問を抱いたことがあるでしょうか?
私はあります。
私は昔、犬派でした。もちろん、今でも犬は好きです。というよりも、私に害を加えない限りだいたいの生き物は好きです。
ですが、犬に対する好きと猫に対する好きとでは、物が、質が違うのです。
猫はなぜ、あぁも可愛いのでしょうか。
それが理解できる日は来るのでしょうか。
私はこう思います。

猫とはきっと、世界中にある“かわいい”の概念を、どこかの誰かが1つにまとめて、煮詰めて作った存在であるのだと。
皆さんは猫が好きですか?
あなたの心に猫はいますか?

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