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シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>能ある鷹は虎を試す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●図書館とアトリエ
「ちょっとした好奇心でもいい、世界を救う手伝いをしたっていい、それから私の故郷を見に行ったって良い」
 『境界図書館館長』クレカ(p3n000118)は、そのようにイレギュラーズを異世界へと誘った。
 境界図書館から移行し、果ての迷宮であった場所――そこは異世界とつながる地と化し、プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)と呼ばれる美しい商店街への渡航が可能となっていた。
 ピラミッドの頂点に位置する混沌は、プーレルジールのような下位世界の情報を収集し、飲み込み統合する性質を有している。今回渡ることが出来る異世界『プーレルジール』も『いつかは飲み込まれる』世界なのだ。
 平野の地ばかりが広がり、村々が点在するプーレルジールの光景は、どこか見覚えがあるもののように思える。しかし、本来存在するはずのレガド・イルシオン(幻想王国)はその地にはなかった。また、プレールジールにもモンスターや盗賊などの脅威は存在する。
 幻想王国が存在しないということは、魔王を倒し建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達――『勇者』と呼ばれる存在も居ないということでは? それでは、魔王の存在は――? それらの疑問を解消するためにも、プレールジールを探索する必要がある。

「ようこそ、ギャルリ・ド・プリエへ」
 異世界に訪れたイレギュラーズを出迎えたのは、赤髪をなびかせるゼロ・クールと呼ばれる機械人形。
 境界図書館とをつなぐ扉は、プリエの回廊にあるアトリエ・コンフィーに通じていた。その内部は、ローッレトギルドと似通う点が多く見られた。
 通称ギーコと名乗るゼロ・クールの彼女は、マスター(創造主)である魔法使いからイレギュラーズのサポートをするように言いつけられたことを淡々と語る。
「――この世界は、滅びに面しています。異世界からの来訪者様の世界よりももっと早く、ずっと早く」
 機械人形は、魔法によってプログラミングされた知識や感情しか有しない――ゼロ・クールとは、『心なし』を現わす意味合いがあるという。その名の通り、ギーコはただ機械的にプーレルジールの現状を説明する。
「……ですが、この世界でも生きている者は居ります。廃棄された世界であれど、私達は存在しております」

 ――どうか、お助け下さい。来訪者様。

●こうして、イレギュラーズは異世界に親しむこととなった。
 イレギュラーズは境界図書館とつながるアトリエ・コンフィーを拠点とし、アトリエコンフィーの『お手伝いさん』として活動し始める。表向きは回廊の住人の困り事を解決するために動くのだが、プーレルジールのことを調査するための口実としては丁度いい。
 ギーコの仲介を経たイレギュラーズは、魔法使い──ゼロ・クールの職人の依頼である場所に呼び出された。

 すり鉢状の窪地になっているその場所は、崩落した古代遺跡の跡地のようだった。土砂や絡みつくツタの下に覆われた遺跡の一部があちこちに点在し、窪地の底に近い斜面には、地下洞穴の入り口らしき穴が覗いている。大人でも余裕で進めるほどの穴が広がっているが、その奥からは湿り気を帯びた生臭い匂いが漂ってくる。周辺に魔物が存在するのは確かなようだ。
「お待ちしておりました」
 窪地の前でイレギュラーズを出迎えたのは、3人のゼロ・クールだった。特徴的なゴーグルを身につけたゼロ・クール2人の間に立つもう1人は、イレギュラーズに謝意を述べる。
「この度は、KK‐067試験機の性能テストへのご参加を承諾していただき、誠にありがとうございます」
 恭しい態度でイレギュラーズに『性能テスト』に関する案内を続ける目の前のゼロ・クール。
「マスターから頂いた名称を名乗るなら、『リスタ』と申します」その口調は機械らしく、どこか人間味に欠けているものがあった。
 リスタの精巧な作りの頭部は、人間の15、6歳の女性そのものに見える。だが、リスタの体自体は人目で機械とわかる骨格などが露わになっている。
「――皆様には、有益なデータを収集するために、私とゲームをして頂きます」
 リスタが言うゲームとは――簡潔にまとめると、『旗取りゲーム』のことを指していた。
「遺跡周辺の各所に、計15本の旗を設置しました――」
 助手を務めるゼロ・クールの1人は大きな羊皮紙を取り出し、周辺の簡易的な地図をイレギュラーズの前に広げて見せた。
「印がある地図の箇所にこの旗が立っています」
 そう言って、リスタは手にした赤い手旗を掲げる。
「皆様には、私の相手をしてもらいます。この旗を誰よりも多く集めることを目標としてください」
 窪地の斜面上、すぐそばにある池のほとり、巨木を指し示す印――すべての印を覚える前に、あるいは即座に記憶できた者もいたかもしれないが、助手役は早々に地図を丸め込んだ。
 旗を奪取するための手段は問わないが、すでに相手が手に入れた旗を奪うことはルール違反とする。旗を手にするまでの妨害行為は咎めない。とルールを語るリスタは、イレギュラーズ1人1人が全力でゲームに挑むことを強く要望した。
「私があらゆる状況に対応するためのテストであるのと、皆様御一人御一人の行動データも参考にさせていただきます。しかし、本気の戦いとは言え、私のデータが収集、修復不可能になるまでの破損が生じるのは避けたいです。データ収集のためにもご理解ください」
 リスタがルールについて話す間にも、魔物の唸り声がどこからともなく響き渡る。
 リスタの話によれば、特に池のほとりは凶暴な魔物の縄張りとなっていると――魔物に遭遇するかもしれない事態は折り込み済みであり、それも含めて実力を測ることがテストの目的なのである。
「では――準備はよろしいでしょうか?」
 リスタ以外の2人は小型のドローンを飛ばし、審判役として行動を共にする姿勢であった。
 周囲に感じる魔物の気配に加え、そこはかとなく幻想に似た既視感を覚える未知のはずの土地、ゼロ・クールの未知の実力――。様々な思いが過りつつも、イレギュラーズは動き出す。
 魔物の気配ではあるのだが、イレギュラーズはそのどこか不穏な気配に『魔種』と似通ったものを感じていた。それはこの異世界、プーレルジールが滅びへと向かっている一端、『滅び』の気配そのものなのかもしれない――。

GMコメント

 対戦闘機であるリスタに戦闘経験を積ませ、データを収集できるよう、全力でゲームに挑みましょう。

●成功条件
 旗取りゲームに全力で挑み、リスタに有益な経験をさせること。(リスタが満足する結果であれば、誰が勝者でも不問)

●失敗条件
 リスタが満足のいくデータを収集できなかったと判断した場合、あるいは、リスタが魔物などに破壊される。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●リスタ、ゼロ・クールについて
 リスタはそれなりの戦闘機能を備えているが、他のゼロ・クール2人は審判役など、リスタをサポートする以上の能力はない。魔物に襲われても自力では対処できない。
 リスタは目標の旗を奪取することのみに集中する。妨害行動に出る場合、発光弾(神遠範【不殺】【乱れ】【暗闇】)を用いる。また、警棒(物近単【不殺】)を使用した近接戦闘も得意とする。
 基本的にマスターである魔法使いからの命令を遂行するだけの存在であり、人情味に欠ける面もある。イレギュラーズの質問に対して、「そのようなサポートは指示されておりません」と機械的に返答するだけの場合もある。

●魔物について
 12体の魔物が池や窪地を住処にしている。池のほとりにいる姿は確認できるが、洞穴にいるかどうかは不明。縄張りに入る者を排除しようとする凶暴性を持つ。
 亀のような甲羅と頭、ゴリラのような手足を持つ。強烈なパンチ、鉄鋼のように硬い甲羅を生かしたタックル(物近単)で相手を攻撃する。自らの体液を甲羅の間から水鉄砲のように噴出させることもでき、強い毒性(神中範【痺れ】【猛毒】)を持っている。

●旗取りゲームについて
 相手が取得した旗は奪わないこと、という以外は大体ルール無用。すべての旗15本が抜き去られた時点でゲーム終了となる。最も多くの旗を所持していたPCがMVPとなります。
 スタート地点、窪地の南側から右回りに一周した場合、
斜面の4本の旗→岩盤に突き刺さって抜けにくい旗3本→巨木の幹に突き立てられた旗2本(頭上3メートル付近)→鬱蒼とした茂みの中の旗3本→池のほとりの旗3本
の順に回ることになる。
 最も取得しやすいのは斜面の旗であり、他の旗に関しては抜けにくい、見つけにくい、魔物の縄張りに突っ込むなどの悪条件がついてくる。

 スキル『瞬間記憶』を活性化している場合、地図の内容を完璧に覚えられたとしてボーナス補正があります。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。


どこの旗から狙うか?
最初に奪取する旗の場所を決めてください。
(※選択ミスによって、選択肢とプレイング内容が矛盾した場合は、プレイングを優先します。判定が不利になることはありません)

【1】斜面の旗
計4本。窪地の斜面に突き立てられているだけの旗で、誰にでも引き抜ける。周囲には崩れた古代遺跡の一部が目立つ。

【2】岩盤の旗
計3本。窪地から少し離れた場所に岩盤があり、その上に3本の旗が大きな三角形をなぞるように打ち付けられている。人並の力で引き抜くのは難しい。

【3】巨木の旗
計2本。頭上3メートルに位置する幹の部分に旗があるのが見える。うまく引き抜くにはそれなりの身体能力を要する。

【4】茂みの中の旗
計3本。地図では茂みの辺りが示されているが、1メートルを越える草むらの向こうを覗いただけでは旗を確認することはできない。

【5】池のほとりの旗
計3本。凶暴な魔物の縄張りであり、戦闘を避けるのは難しい。

【6】ひたすらに妨害
ただ相手をするだけでは面白くない。立ちはだかる試練となってリスタを鍛えよう。


発生イベント選択
 ゲームに挑む中で、次のような事態に直面するかもしれない。(選択肢の人数が偏ったとしても、結果に影響はありません)

【1】審判役のゼロ・クールが魔物に襲われている
リスタは助手のゼロ・クールに関しては無関心なようで、ゲームを優先しようとする。あなたはどう動くか――?

【2】旗を持ち去る魔物を目撃する
放っておけば洞穴に入り込んでしまう。あなたはどう対処するか――?

【3】リスタとのゲームに集中する
真剣にゲームの相手を続けた。

【4】その他
あらゆる事態を想定しつつ動こう。

  • <英雄譚の始まり>能ある鷹は虎を試す完了
  • ゼロ・クールの性能テストを兼ねた、旗取りゲーム……?!
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月15日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
イロン=マ=イデン(p3p008964)
善行の囚人
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)
島風の伝令

リプレイ

「それでは──」
 審判役であるゼロ・クールの1人が、開始の合図を告げようとする。
 戦闘機としてのリスタの性能をテストするために集められたイレギュラーズ一同は、一斉に身構えた。
「ゲーム開始です」
 無機的な音声が流れた直後、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)以外のイレギュラーズは、金縛りのようなプレッシャーを感じた。それは、イズマが発揮した呪術が体を蝕む兆候であった。イズマは1人颯爽と青いワイバーンにまたがり、その場を後にする。
 ──ここで足止めしておかないとな。先に行かせてもらうぞ!
 イズマはその言葉通り、多くがルール無用のゲームで手加減するつもりはなかった。
 始まる直前まで、「恨みっこ無しで競おう」と爽やかな表情を見せていたイズマの姿が、皆の頭の片隅にちらついただろう。
「機動力 最強 機動力 最強」
 単語を羅列して話す『島風の伝令』島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)は、機動力とスピードで挽回しようと動く。駆け出したその1歩から瞬時に加速し、島風の姿は飛ぶように遠ざかる。
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)も、すでに目を見張るような速さで他の者を置き去りにしていた。すでにカラスの使い魔──ファミリアーを飛ばしたウェールは、全域の状況を把握できるように対処していた。
 イズマに出鼻をくじかれたものの、即座に旗の場所へと向かう者らの動きはそう遅くはなかった。木々の間を突き抜ける疾風と化した島風は、スタート地点から最も近い斜面の旗の奪取を目標としていた。
 飛行種である『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)は天使のような純白の翼を広げ、島風の頭上を一瞬で飛び越える。島風が斜面を降りたのが先か、飛翔したメリッサが急降下したのが先か――2人はほぼ同時に1本目の旗を手にする。
 互いに旗を取った姿を認めた2人は、残る2本の旗を狙って身構える。しかし、リスタはそこへ閃光弾を放った。2人の動きを鈍らせたリスタは、もう1本の赤い旗を入手する。しかし、島風は止まることなく、斜面を削る勢いでリスタへと迫った。リスタはほんのわずかな差で反応し、後方へと身体を宙返りさせる。その直後、島風はリスタの前髪の先が自身に触れるのを実感した。
 凄まじいスピードで急旋回する島風は周囲に土砂をまき散らす。メリッサが次に島風の姿を目にした時には、すでに2本目の旗がその手に握られていた。
「当方 艦姫最速」
 島風は捨て台詞のようにその言葉を残し、次の目標に向けて移動を開始した。その後に全力で続こうとするリスタの後ろ姿も認め、メリッサは2人の足止めを図る。
 「どうせなら優勝するつもりでがんばりますよ!」と心中で意気込むメリッサは、熱砂の嵐を巻き起こす。たちまち砂嵐が2人の周囲を覆い、メリッサは2人との差を縮めるために奮戦する。
「これも勝つためです、恨まないでくださいね!」

 メリッサたちが審判役のゼロ・クールの存在に気づいていたかどうか定かではない。そのゼロ・クールは、ウェールが式神を使役して作り上げた存在であった。更に上空からもファミリアーを通して目を光らせていたウェールは、斜面にあった旗の行方を把握する。
「……さすがに速いな」
 あわよくばゼロ・クールの姿をした式神に旗の1本を取ってこさせようとしていたウェールはつぶやく。
 1本目の旗を取ろうとするウェールの頭上には、巨木の幹に突き立てられた旗2本がある。巨木の前に他の者はいなかったが、ウェールは気配を感じ取った。
 ウェールは即座に幹の旗を引き抜こうと飛び上がる。次の瞬間、隣りの旗をつかむ手が現れた。  攻撃を避けるため、両者は旗を引き抜くと飛び退いた。
「来ておったか……まあ、1本くらいはくれてやろう」
 同時に旗を手に入れた『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は微笑む。
 ――リスタの性能チェックとやら、バッチグーに仕上げてみせるぞい!
 どこかゲームを楽しんでいる様子のニャンタルは、リスタがいないことを確かめて次の地点へ向かった。

 刻々と戦況が変わる中でも、ウェールはファミリアーを通して『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)、『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)、『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)らが向かった場所を窺う。そこは茂みが生い茂る場所で、冥夜の腰まで雑草が伸びていた。3人は草原で旗の捜索に集中する。
 鷹の飛行種であるアクセルは上空から草原全体を捉える。その広い視界には冥夜とイデンの姿も映った。
 高身長ではないイデンは頭だけが草葉から飛び出している。草原をかき分けて赤い旗を探し回るイデンは、ふとプロペラの駆動音に気づいた。それは審判役のゼロ・クールが放ったドローンによる音だった。行動分析やデータ収集とやらのためなのか、もしくは審判の目としてゲームの行方を見守っているのか、あるいはその両方なのだろう。
 イデンはわずかな間、ドローンが上空を旋回する様子を見つめていた。その眼差しはどこかゼロ・クールに対する思い入れを感じさせた。その理由は、「ワタシが秘宝種だからなのでしょうか?」とイデンは考える。
 イデンの中で、忘れ去られた過去に対する思いがじわじわと膨らみかける。だが、今は依頼に集中するのみとばかりに行動に移る。
 ──アクセルさんや冥夜さんよりも視点が低い私なら……それを利用して、旗の脚を探せばいいのです!
 自身にしかない利点を生かそうと、イデンは懸命に旗の捜索を続けた。
 冥夜はあらゆる得物を駆使し、人海戦術を展開する。歯車仕掛けの兵隊、ロバ型ロボット、自らが操るドール、式神である紙人形を投入する。
 いつの間にか姿を現し冥夜と共に行動するのは、一見スーツ姿の凛々しい男性であった。彼、『蓮』も冥夜の式神であり、相棒として旗の捜索に協力する姿勢を示した。
「見つけ次第、すぐに報告します」
 捜索範囲を見極めようと草原上空に飛び立つ冥夜のことを、蓮はそう言って見送る。
 捜索の手を広げる冥夜、草原に旗を探す者らが集中した状況──それに対処しようとする者の気配があった──。

 イズマは島風たちが旗がある斜面に向かうのを見て、その場所に見切りをつけた。ワイバーンを駆るイズマは、進路上を覆う雑草に足を取られることもなく、悠々と岩盤の旗の入手を目指す。目的の場所には2本だけ旗があり、もう1本は抜き去られた痕跡だけがあった。
――どうして1本だけ持っていったんだ?
 イズマは疑問を抱きつつも、残されていた2本を回収しようとする。地表の下の岩盤に杭のように打ち込まれた支柱を抜くのは、容易ではない。イズマはそれを見越して岩盤ごと破壊する行動に出る。イズマは結界を展開する能力を駆使し、旗だけは無傷を保てる方法を編み出す。
 イズマが放った強大な魔力は、砲撃そのものとなって岩盤を砕き、イズマは2本の旗を回収する。
 ふとイズマは茂みの向こうに気配を感じ、視線を向ける。茂みの向こうから覗く巨大な亀の頭──周辺を縄張りにしている魔物の姿を認めたイズマは、3本目の旗の行方を知った。その魔物――カメは赤い旗をくわえ、わずかな間イズマと睨み合う。
 茂みから飛び出してきた魔物は、分厚い甲羅を備えたゴリラのような特徴もあり、すばやい動きを見せる。崩れた岩盤を迂回しようとする魔物の進路を予測したイズマは、躊躇なく攻撃を放った。イズマが放った魔力の凄まじさにおののき、魔物は咄嗟に反対方向へと逃げ出した。
 旗をくわえたまま茂みの奥へと分け入る魔物の後ろ姿を目で追うイズマだったが、旗が抜き去られたその場所に、ある細工を施すことを思いつく。
「これでも少しは時間稼ぎになるだろう――」

 イズマが魔物を追って移動した直後、リスタは岩盤付近に姿を見せる。メリッサが発生させた砂嵐に阻まれつつも、リスタは岩盤の旗の入手を狙っていた。しかし、リスタはそこでニャンタルと鉢合わせる。
 ニャンタルは崩れた岩盤の傍に転がっている旗を入手しようと、迷いなく飛び出した。
 旗を手にしたニャンタルは、攻撃に備えるために瞬時にリスタへと向き直る。
「よぉ! お主の様子はどうじゃ? 我に勝てるかの? ムフフ♪」
 小憎らしい一言と共に笑みを浮かべるニャンタルに対し、リスタは即座に踵を返す。ニャンタルを無視して次の地点を目指そうとしたリスタだったが、
「その旗は偽物です。それは得点として無効になるのでご注意ください」
 ニャンタルが手にした2本目の旗を見つめ、リスタは言った。そう指摘するリスタの言葉にはっとしたニャンタルは、新たに手にした旗と1本目の旗をよくよく見比べる。似たような赤い旗ではあるが、支柱の材質、旗の生地の質感も微妙に異なるものである。
「んなっ?! 誰の仕業じゃ!! 小賢しい真似をしおって!」
 ニャンタルが苛立ち紛れに旗を投げ捨てる間にも、リスタはその場から遠ざかっていった。

 数の力で草原の旗を見つけ出そうとする冥夜に対し、アクセルは容赦なく妨害を仕掛ける。激しく瞬く閃光が冥夜を襲ったが、冥夜が反撃に転じたのは瞬く間の出来事であった。
 魔力を引き出した冥夜が自在に張り巡らせた無数の糸は、刃のような切れ味を持つ。その糸はアクセルを捉えるために、草原をどこまでも縫い付けるかのように思えた。
 イデンは妨害行為に構うことなく旗を探し続けるつもりでいたが、うかつに手を出せない状況に陥る。冥夜は器用に魔力の糸を操り、蓮たち式神に危害が及ぶことは一切なかった。
 殺気にも似た気迫をまとう冥夜と、アクセルは互角の駆け引きを続ける。しかし、しばらく経ったところでアクセルは何かを察知したように顔色を変える。「大変だ!」と声を上げると、脇目も振らずに飛び立ち、草原を後にしようとする。アクセルのただならぬ様子に気づき、イデンは飛び立つその姿を目で追った。何やら胸騒ぎを覚えたイデンは、アクセルの後に従うことにした。

 ファミリアーであるカラス2羽を飛ばすウェールはその視界を共有し、審判役のゼロ・クールたちが定期的に旗のある場所を巡回している様子も捉えていた。
 巨木から離れ、ウェールも冥夜たちのいる草原に向かおうとしたが、そこで窮地に追い込まれたゼロ・クールの存在に気づいた。その1人のゼロ・クールは魔物と鉢合わせすることのないよう、慎重に林の中を進んでいたが、背後から現れた魔物に襲われる事態となった。
「まずいな……」
 そいつぶやいたウェールは、ゼロ・クールを助けるために行動を開始する。
 ゼロ・クールを襲う魔物の注意を引きつけたり、応援を呼び込むためにウェールはファミリアーを利用する。更に飛行能力を駆使するウェールは、ゼロ・クールの下に急行した。同時に、ウェールはその場に接近しているアクセルの姿にも気づいた。鋭敏な聴覚によって、離れた草原から遠くかすかな音を捉えた冥夜も状況を理解し始める。
 ゼロ・クールはしばらくの間周囲を見回す魔物の前から、必死で逃れようとする。声ひとつ上げることのないゼロ・クールだが、装着されたゴーグルにはヒビが入り、片足は痛々しい方向に折れ曲がっている。這いずりながら動くその姿に気づき、魔物は再度ゼロ・クールの前に影を落とした。
 特殊なカードから実体化させた拳銃を瞬時に構え、ウェールの銃口は魔物に向けて狙いを定めた。木立の影から飛び出してきたウェールに不意を突かれ、魔物はウェールの銃撃をまともに食らう。そこへ続々とアクセルやイデンが駆けつけ、魔物は一層うなり声をあげた。
 草原の付近まで接近していたメリッサもウェールの念話、呼びかけに応じてその場に駆けつけた。
「もうその子は傷つけさせません! 私たちが相手です!」
 強い口調で言い放つメリッサは、即座に魔力を発散させる。メリッサが放つ魔力の糸は、魔物の体に無数の切創を刻んだ。メリッサの攻撃に魔物が怯んでいる隙に、冥夜はゼロ・クールの救出に乗り出す。ゼロ・クールの体を抱え上げた冥夜は、他の4人に魔物を任せてその場から退避しようとする。その直前に、ゼロ・クールはノイズ混じりの音声を発してイレギュラーズを促す。
「皆s……ゲー……を、優センして……構う……ありマせん」
 ボロボロの体になっても命令を優先しようとするゼロ・クールに対し、イデンは威嚇を繰り返す魔物と対峙しつつ応えた。
「全力で試合に挑むのが依頼ならば、試合の進行の障害となるものは全力で排除すべし! そこに私情は……少なからずありますが……それだけでは無く、依頼上の理由もちゃんとあるのです!」

「どうして助けたのですか?」
 気が付くと、損傷を負ったゼロ・クールを見下ろすリスタがそばに立っていた。
 冥夜はゼロ・クールを視界の届く範囲で安静にさせていた。再び草原の旗の捜索に戻った冥夜と顔を合わせたリスタは、開口一番そう尋ねた。
 表情に乏しいリスタの反応から真意を推し量ることはできないが、冥夜は真摯に答える。
「一人では困難な状況でも、仲間と連携すればこんなにも早く目的を達成できるのです」
 そう言って、冥夜は式神たちの協力を得て探し出した2本の旗を掲げた。
「連携に必要なのは仲間同士の信頼。それは単純に命令を聞くだけでは得られない。自立し、思考して他者を思う必要が――」
 リスタを諭したのはいいものの、当の本人は何かを見つけたように話の途中で走り去っていく。
 虚しくもリスタの後ろ姿を見送る冥夜だったが、冥夜の行動に興味を示したのは、大きな変化と言えるのかもしれない──。

 リスタは冥夜を放置し、旗をくわえて林の奥へと向かう魔物を追いかけていた。木々の間を駆け抜けたその魔物は、大きな樹の上に登る。その様子を見上げるリスタに気づいた魔物は、思わずくわえていた旗を落とした。
 リスタは地面へと落下する旗を取ろうとしたが、手を伸ばしたリスタの目の前に魔物も着地する。
 振り回された毛むくじゃらの太い腕が、リスタの右側頭に直撃した。一瞬視界が揺らぐほどの衝撃を受け、薙ぎ払われたリスタの身体は地面に投げ出される。身構える間もなく魔物がリスタに突進しようとした直後――。
「危ない!!」
 アクセルの鋭い声が響くと、魔物も動きを止めた。急降下したアクセルは、魔物に向けて衝撃波を放つ。青い衝撃波に包まれた魔物の体は吹き飛ばされ、木の幹に甲羅が激突する音が響いた。
 頭を押えるリスタは、ふらつく体で立ち上がりながらも警棒を構え、魔物に対処しようとする。
「大丈夫? 1人で無茶したら危ないよ」
 そう声をかけるアクセルにリスタは反応せず、魔物の足元にある旗を見つめる。
 アクセルは1人草原の向こうに消えていくリスタの姿に気づき、放っておくことができずに追いかけてきたのだ。リスタを助太刀しようと、アクセルは共に目の前の魔物との戦いに臨む。
「困ったときは、一緒に協力すればいいんだよ!」

 草原にあった最後の旗を根気よく見つけ出したイデンは、生い茂る雑草の中からようやく抜け出す。その拍子に空を見上げ、悠々と翼を広げるワイバーンと、その背にまたがるイズマの姿を認めた。赤い旗を握り締めたイデンも、自ら挽回のチャンスを引き寄せようと池のほとりへと駆け出していく。
 残された旗も少なくなる中、島風は一足先に池のほとりへとたどり着く。
「第一戦術 rd」
 戦艦の能力を発現させる島風は、赤い旗の周りに集まる魔物らに向けて魚雷を放った。旗ごと四散しかねない爆発が巻き起こり、付近の地面一帯は激しく吹き飛び削られる。
 池のほとりの旗を狙うのは島風だけではなかった。イデンやメリッサ、アクセルらと共に魔物を退けたウェールも、爆破の起きた現場に追いつく。
 銃口を定めたウェールの気配を察知したように、島風は即座に身をそらした。低空飛行を維持する島風は、ウェールの射程外となる距離まで急加速する。
 ウェールと島風が旗を取り合う間にも、新手が魔物らの前に姿を現す。
「いただきじゃ~~!!」
 声高に声を上げるニャンタルは旗を手に入れようと、果敢にも魔物の群れへと突撃していく。

 アクセルはリスタと協力し、魔物を倒した。
「よかったね! 他の旗も急いで見つけないと――」
 そう話すアクセルだが、リスタの足元に落ちたままの旗を拾う素振りは見せなかった。リスタは何を思ったのか、アクセルの足元に向けて旗を蹴り出した。地面の上をスライドしてきた旗に気づいたアクセルは、リスタの方を見て目を丸くする。
 「え……いいの?」とアクセルは迷いながらも旗と無表情のリスタを交互に見つめ返したが、ありがたく旗を受け取ることにした。
「えへへ、ありがとう!」
 ――これで少しは、戦い以外の面でもリスタが成長したことになるのかな。
 初めてリスタが人間らしい一面を見せたことで、礼を伝えるアクセルは思わず表情を綻ばせる。無言のままのリスタはアクセルが旗を受け取ったのを見届けると、移動を開始する。アクセルもリスタの後に続くように、池のほとりへと向かった。

 ワイバーンの『リオン』にまたがるイズマが池全体を見下ろせる位置まで来た時、メリッサもまた池のほとりの旗取り合戦に加わろうとしていた。
 魔物の群れをまとめて仕留めようとするメリッサは、熱砂の嵐を発生させる。激しく巻き起こる砂嵐は、魔物たちの動きを封じ込めた。発生した砂嵐に乗じて、ウェールやニャンタルも魔物に向けて攻撃を畳みかける。そこへ更にアクセルとリスタも合流し、縄張りからイレギュラーズを追い払おうとする魔物との戦いは熾烈さを増していく。
 乱戦状態の最中、ウェールやニャンタルは果敢に魔物の群れに切り込み、それぞれ2本目の旗を手にした。いよいよ最後の1本だけが残された状況で、草原を隈なく探していた冥夜やイデンも池のほとりに姿を見せる。凶暴な魔物たちの勢いは未だ衰えず、勝敗の行方は混迷を極めていた。
 島風は池の周りを大きく回り込み、魔物に邪魔されない位置取りを定めて最後の旗の入手を狙う。しかし、リオンに乗って上空を旋回していたイズマも、旗の下に向かう動きを見せた。
 島風がイズマのいる対岸にたどり着こうとしたとき、魔物によって投げ飛ばされたリスタの姿が進路上に飛び出してきた。島風は咄嗟に向き直り、がむしゃらにリスタを受け止める。リスタの腰を抱くような形になった島風は後方へ倒れ込みそうになるが、背後で何かに体を支えられる。その何かの鼻息を感じた直後、イズマの声が頭上から聞こえてくる。
「大丈夫か?」
 島風を受け止め支えたのは、リオンの巨体であった。イズマはリスタに向けて言葉をかける。
「――無茶をダメとは言わないが、周りは見た方が良いぞ」
 イズマの手には、すでに最後の旗が握られていた。

「皆様、ご協力感謝致します」
 イレギュラーズは完全に魔物らを討ち払い、静かになった池のほとりで改めてゲームもといテストの結果を報告し合う。
 イレギュラーズに謝意を述べたリスタは、淡々と今回のテストの所感について語る。
「当機の性能にはまだまだ改善の余地があることがはっきり致しました。マスターにもテストによる充分な成果が得られたことを報告できます。ゲームにおいて最も優秀な結果を残されたイズマ様、ならびに皆様の――」
 堅苦しい口上を続けるリスタに対し、ニャンタルは軽く肘でつつきながら「このこの〜。負けて悔しいのではないか〜?」とちょっかいを出す。
「我は楽しかったぞい! サンキューじゃ!」
 ニャンタルは快活な一言と共に手の平を掲げ、リスタにハイタッチを求めてきた。が、リスタはニャンタルのことを無言で見つめるばかりで、気まずい空気が流れる。しかし、島風の突飛な行動によってその気まずい空気は払拭される。
「高速航行景色 遊覧 是非」
 そう言って、島風は半ば強引にリスタを背負う。どこかふてぶてしくも終始無表情のリスタを背負った状態で、島風は池の上をびゅんびゅんと飛び回り始める。
「遊戯再戦 希望 v」
 無反応のリスタを乗せた奇妙な交流はしばらく続いた――。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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