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シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>捨てる『神』あれば拾う『悪魔』あり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『魔法使い』とは、プーレルジールにおいてやや特殊な意味を持つ。
 魔法を使う者である――というだけではなく彼らは『ゼロ・クール』と呼ばれる『しもべ人形』を制作出来る者である、という意味も持つのだ。そしてプーレルジールには各所に、彼らが制作しえたゼロ・クールが存在している。
 ゼロ・クールは戦士として利用される事も多く、魔法(プログラミング)化された知識と感情によって人の役に立つように設定されている。練達風に言うなら彼らはロボット、とも言えるだろうか?
 ……しかしゼロ・クールとはいえ無限の時を動き続ける訳ではない。

「ガガ、ガ……」

 プーレルジールが一角、セテラト遺跡に――廃棄されたゼロ・クールが在った。
 それは元々人間の警護用に生み出された者達だ。しかし戦闘で負傷したが故か、それとも何か故障したのか、主と逸れたのか……とにかく彼らは朽ち果てる寸前の状態に陥っている。こういったゼロ・クールも、珍しい訳ではない。
 世界のどこかには、新たに生み出されるゼロ・クールもあれば。
 世界のどこかには、人知れず朽ち果てていくゼロ・クールも――いるのだ。
 ……彼らもまたその一つ。
 悲しくはない。そんな感情はプログラミングされていないのだから。
 彼らにあるのはただただ己が命に宿された役割を遂行する事のみ――
 だが、あぁ。
 もしも叶うなら、もう一度だけ。
「御役目を――」
 果たした中で、滅びを迎える事が出来たのならと。
 空に手を伸ばそう。
 蒼き美しい空へ。何も掴めぬ手だとしても、どこまでも『もう一度』と――

「――ではその望み、叶えよう」

 されば、掴む手があった。
 だがそれは自らを創造しえた神による救いの手にあらず。
 その手を取ったのは――『悪魔』であった。


 プーレルジール探索の拠点となっているアトリエ・コンフィーに一つの依頼が舞い込んだ。それは――セテラト遺跡で生じている異変の解決。
「たしか、妙な気配が生じているという事だったが……」
 もしかすれば魔種の類だろうか、とイレギュラーズの一人は想うものだ。
 この世界の住民と話してみて分かったのだが――どうもこの世界では『魔種』という存在が知れ渡っていないらしい。何か気持ちの悪い気配を醸し出す存在はいると、そういう認識はあるようだが……
 だが、そういう滅びの気配を纏っているのは――『魔王の配下』と呼ばれているのだとか。
 それらの暗躍があったのかもしれない。
 いずれにせよプーレルジール探索の為にも依頼を受けて歩みを進めれば……

「おっと。アレか――? 何か、様子がおかしいドールがいるな……?」

 見えた。セトラト遺跡……朽ち果てた古代遺跡の一角に、魔物らしき影が見える。
 一つはまるで首なし騎士……デュラハンの如き姿を持った個体。
 そしてそれらの周囲には――ゼロ・クールと思わしき人形が幾体か見えようか。
 しかしそのゼロ・クールの様子が妙であると感じる。
 動きがぎこちない。よく観察してみれば……背中側に何かが張り付いていて……
「何か、寄生しているのか……?」
「無理やり身体を動かされてるんだろう――可哀想に」
 スライム、だろうか? 粘液の様なモノが、人形らの背中側に在る。
 ――それらから感じるのは、やはり滅びの気配。
 『終焉獣』と称される個体共だ。
 滅びのアークによって造り上げられたモンスター。ラグナヴァイス。こんな所にもいるとは……たしか終焉の地に住まう魔物であると聞いたことはあるが、何故?
 疑問は湧くが、しかし今は連中を止める事が先決である。
 放置していれば連中がどこぞの村を襲わないとも限らないのだ。操られているゼロ・クール達……見れば無理やり動かされているだけで、全体的な損傷も酷い。このまま酷使されるよりも、ここで終わらせてやるのが慈悲だろう……
「――行くか」
 故にイレギュラーズ達は進む。
 この世界に巣食う滅びの気配を――絶やす為に。


「進め。進め。数多を滅ぼし、全てを滅せ」
 デュラハン型の終焉獣……D・フィーは告げる。
 操りしゼロ・クールらを引き連れながら、己らの役目を果たさんとするのだ。
 この世界を滅ぼす。あぁそれが我らの根源的な役割なのだから。
 例え『外から至る存在』が在ろうとも、知った事か。
 進め。滅ぼす為に。
 進め。その時は近いのだから。

 ――我ら終焉の獣なり。

GMコメント

●依頼達成条件
 敵戦力の撃退

●フィールド『プーレルジール』
 プーレルジールとは混沌世界とよく似た、しかし違う場所です。
 その一角セトラト遺跡で『妙な気配を持つ存在』が感知されました。
 どうも終焉獣が生じているようです――彼らを撃破してください。

 時刻は昼です。視界に問題はないでしょう。古代遺跡の一種なのか、周囲は木々や朽ち果てたオブジェなどがありますが、左程戦闘自体に支障はないでしょう。

●敵戦力
『終焉獣』D・フィー
 魔王の配下と思わしき魔物の一体です。多少の知性が窺えます。
 デュラハンのような首なし騎士であり馬にも騎乗しています。馬も含めてD・フィーという一個体です。優れた機動力やEXA、物攻を宿しています。大きな剣を持っており振るう『列』攻撃は強力で『出血系列』BSや『飛』の効果を伴う事があります。
 ファラクという個体共を率いる指揮官級のようです。実力はこの中では抜きんでています。

『終焉獣』ファラク×8体
 D・フィーの指揮下にある終焉獣です。
 知性はありませんがゼロ・クールに寄生する事が出来る能力を有しており、その能力をもってして後述するゼロ・クールを操っているようです。ゼロ・クール1体につき1体寄生しています。

 ファラクはゼロ・クールの背中側にスライムのように寄生しており、ゼロ・クールに微量の『再生・充填』効果を与え、更に『麻痺系列』『足止系列』『混乱系列』のBSを無効化するようです(強引に体を動かしている、という為です)
 ただしこの再生やBS無効効果はファラク自体にはありませんので、どうにかして背中側に取りついているファラクを直接狙えた場合は、全て効果は通ります。

『廃棄物』ゼロ・クール×8体
 元々は人間の警護用に生み出された戦闘用ドールだったそうです。
 戦闘能力としては優れた膂力を持っていました、が体自体は故障気味のようです。亀裂が入っている箇所も多々。ただ終焉獣ファラクに寄生されており限界を超えても動き続けています。彼らを終わらせるには完全に粉砕するか、ファラクを狙い撃ちする他ありません。

 ファラクを倒すとゼロ・クールは動きを止めます。
 ただしファラクは背中側にいるので、正面からではファラクを直接狙うのは困難でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <英雄譚の始まり>捨てる『神』あれば拾う『悪魔』あり完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ


 プーレルジール。『可能性』の世界だなんて言葉を『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は聞いていたか。あの話は本当なのだろうかと……
「微妙にズレた世界を渡り歩けば元居た世界に戻れるかも……って本当かしら」
 そう。半信半疑だが『旅人が元の世界へ』戻れる可能性があるかもしれないと聞く――
 さすればタイム自身思い出せはしないが……旅人であればこそ、靄を掴むような感覚だが元の世界という単語に想い馳せる。が、今はとにかく、と眼前へ意識を集中させる。

 ――終焉獣。連中を相手取る為にやってきたのだから。

「寄生して操る……そんな事が出来る種もいるのですね、終焉獣というものは」
「ボロボロのゼロ・クールさん達を寄生して、無理やり動かしてるって事?
 酷いよ! あんな風になるまで頑張った皆をこんな風に使おうとするだなんて……!」
 であれば『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)や『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)も敵の姿を確認しえよう。歩か『されている』ゼロ・クール達の姿を見れば……胸の内に宿るのは怒りの感情か。それとも憐憫であったか。
 此処で止めると、先手を取るべく迅速に動き出そう。
「あの子達を解放してあげよう、ね! さぁ来なさい、こっちよ!」
「ああ――さて、始めるとしよう。同胞らよ、その生に終わりを齎そう」
 故にタイムらが『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)の動きに続いて往くものだ。ブランシュの一歩が起点となりて皆の動きを導くかのように連鎖させる――
 秘宝種たるブランシュにとってゼロ・クールらは『同胞』とも言えた。
 だから彼らの想いが分からない訳でもない。しかし。
(それを叶える為に悪魔の手を取ったのは間違いだったな)
 せめて安らぎのある終わりをと、赴こう。
 救済執行。高速の軌跡を描くブランシュの動きに次いで、守りの力を固めたタイムが敵の注意を引き付けんと立ち回る。狙うべくはゼロ・クールそのものよりも背後に纏わりついているファラクなのだから。
 少しでも彼らの背面を取れればいい。そうすればリースリットや焔の放つ一撃が舞いこんで。
「無理矢理操られ、滅びを振りまく事に利用されているだなんてね……
 人を守るために作られたであろう彼等が不憫だわ。
 誰かに害を加えてしまう前に、解放してあげましょう!」
「流石にこんな惨状は見ていられないね……
 直せるか直せないかはともかくとしても、操られてるのは酷い光景だよ。
 ゆっくり休めるようにしてあげないと」
 次いで『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)も、ファラクらの意識がタイムに向いた瞬間を見計らって背後を狙おうか。双炎の蒼と紅。想い込められし炎が悪なる粘液を焼き払わんとし、更に気配を殺していた『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)も彼らの動きをに鈍らせようと術を展開するものだ。
 八寒の如き冷気が地獄の渦へ引きずり込まんと。
「これ以上は破損させたくないですが、中々難しいですかね。
 出来得る限りはなんとかしてみたいものですが……さて」
 続け様には『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)も動きをみせよう。
 不意打ちがないか警戒していた瑠璃だが、幸いと言うべきか終焉獣側は己らが襲撃される側であると注意していないようであった――どこまでも他者に対する滅びを宿しており、攻撃性が高いが故であろうか。
 彼女もファラクを見据える。その身を一突きせんと攻勢に加わって。
 が。終焉獣の中でも強力な個体と思わしきデュラハン……
 D・フィーが斯様な動きを阻害せんと動き出していた。
 馬の跳躍。地を踏み砕かんばかりの勢いと共に。
「――滅びよ。滅びよ。死ね、人間」
「させない! 助けてみせる……! こんな行いを黙って見過ごす訳にはいかないよ!」
 大剣振るいてイレギュラーズに襲い掛からんとした――その時。
 介入したのは『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)であったか。D・フィーの動きに合わせて投じられたは魔力の花弁。
 咲き誇る華から生じるは幻惑の力であり奴の敵意を向けさせんと動くのだ。
「無為な。無駄な。足掻くか、人類よ。ならば貴様から殺してみせよう」
「殺意の塊みたいだね、でもやれるものならやってみなよ……!
 こっちだってそう簡単に逃してあげたりなんて――しないんだから!」
 激突。D・フィーの極大の殺意を受け止めんとアレクシアは立ち回ろう。
 負けられるものか、こんな存在達に。
 あぁ。ボロボロの子達の心に入り込んで戦わせるような連中に――負けられるものか!


『ガ、ガガ、ギィ……!!』
 ゼロ・クールらは動く。殺意の思考が流れ込んでくるのだから。
 目の前の存在を滅せよと――思考の全てが染め上げられて。
「……必ず助けてあげるから。あと少しだけ辛抱してね」
 その様子に言の葉を紡いだのはタイムであった。
 ゼロ・クールの放つ拳を凌ぎつつ彼女は引き付け続ける。
 多少負傷しようとも己で治癒が可能であればタイムの守りは早々崩れたりなどしない。幾らでも相手取ってみせよう――なに。ボロボロすぎて動いてるのが不思議なぐらいのあちらに比べれば……
(こんな程度――なんの事はないもの!)
 心の中で決意を新たに。今少しばかり時を稼ごう。
「凍て尽かせるわよ。他者にへばりついてないで……離れなさいッ!」
「ドール達の損耗が酷くなる前に片を付けたい所ですね――
 D・フィーなる者もいるのです。なるべく早急に」
 そうしていれば仲間達が、終焉獣達に痛~い攻撃を当ててくれるのだから!
 跳躍せしアルテミアはファラクを狙い撃ち。燃やし、凍らせんと極度の温度差で攻め立てればスライム……つまりは液体主体の粘液状であるファラクの動きを制限出来ないかと画策しているのだ。ゼロ・クールから剥す為にも動きを鈍らせたい。
 故に瑠璃も不殺の心得をもってして攻め立てよう。高速の儘に一撃叩き込む――
「そこだ……ッ! 見逃さんぞ、隙はなッ!」
 更にその動きに乗じてブランシュも往こうか。
 穿つは超速の蹴撃。やはり狙うはファラク一択、だ。いずこの国の伝統的咆哮――チェストォォオの雄たけびと共に襲来! 衝撃にゼロ・クールがよろめくもののファラクを狙い打てば簡単には壊れぬようだ。ならばと安心して第二撃もチェストォォオ出来る!
「行けそうだね。このまま押し込んでいこう――
 慎重に進めればきっとゼロ・クール達も、可能な限り無事な状態で終わらせられる筈」
 ただ当然あちらも反撃の拳を紡いでくる。
 それは力任せなれど、人形の耐久を無視した全力。それなりの痛みは生じうる……決して油断は出来ない。ただ斯様な様子を雲雀は、周囲を俯瞰する視点と共に見据えていれば気付こうか。戦況自体はイレギュラーズ側に傾いている、と。
 皆の能力がそもそも高い事もある。流石は歴戦たるイレギュラーズ達だ。
 しかしそれだけに非ず――なにより重要となっているのは。
「舐めないでよね、魔女の護りはそう容易く破れはしないんだから!」
 アレクシアが常にD・フィーを抑え続けている事だろう。
 D・フィーの猛攻たるや凄まじい。振るう一閃は地を薙ぎ、衝撃波すら発生させる。もしもこれが最前線で振るわれれば被害は決して軽くなかった。されどアレクシアは物理も神秘をも遮断する術を張り巡らせ、守勢に全力を注ぐ。
 一人で受け止めるのであれば強大なる横薙ぎの被害も最小に抑えられるが故に。
 D・フィーも障壁を叩き割らんとする一撃を叩き込んでくるが考慮済みだ。
 奴を行かせない。まだこの場に釘付けにする――!
「アレクシアさんが抑えてくれていますが、終焉獣の生態には謎が多い……
 奥の手を隠していないとも限りません、早急に此方を片付けましょう――!」
 であればとリースリットは、アレクシアの体力を確認しながらファラク方面へ注力する。
 放たれる風の精霊の極撃が邪なる寄生体を穿つ――そして。
「今だ……! ボクが抑えるよ! ファラクを討ってッ!!」
 焔が踏み込んだ。
 挑発するタイムに引き寄せられるファラク達であるが、しかし全員が全員タイムの狙いを悟れぬ訳でもなかった。安易に怒らず背中を見せない個体もいる――だからこそ焔は被弾覚悟で組み付いたのだ。
 そのまま動きを抑え、仲間にファラクを狙う事が出来る様に。
 ――大丈夫、こんなところでこんな風に終わらせたりしないから。
「ここはボク達に任せて……!」
 決意と共に焔は抑え続ける。強引な力で引き剥がされんとしても――耐えて。
 討たせるのだ、ファラクを。この事態の元凶たる終焉獣のみを……!
「よし、数が減って来たわね、後は――あのデュラハンよ!」
「――同胞らを弄んだ屈辱、その報いを受けてもらおうか」
 されば斬撃一つ。アルテミアが邪悪たる気配の塊のファラクを斬り捨てれば。
 向きなおろう。未だ健在たるD・フィーの方を。
 ファラクの方は順次数を減らし続けている。故に……ブランシュは跳躍した。
 己が全霊を――奴へと叩き込む為に。


 D・フィーの思考に撤退の二文字はなかった。
 その命が終わりを迎えるその時まで滅びに邁進する。世の毒となる為に……
「死ね、小娘。命果てさせるがいい」
 そして流石のアレクシアにも無数の傷跡が増えてくれば。
 一気に仕留めるべく、彼女の艶らかな首元へと斬撃を――
「させるか。貴様は悪魔らしいが、俺は死神だ。
 真なる終わり――終焉を逆に刻んで逝け。このタナトスの黒い疾風をな」
 刹那。介入したのはブランシュであった。
 撒き散らされる悪性のジャマーがD・フィーの思考を揺らがし――跳び蹴り叩き込もうか。大岩すら砕かんばかりの衝撃が襲い掛かりて。
「お待たせ、あっちはもう大丈夫! アレクシアさんは大丈夫!!?」
「皆、ありがとう……! 私はまだ大丈夫、それよりも奴を! まだ来るよ!!」
 直後にはタイムも合流しアレクシアへと治癒の術を紡ごうか。
 一個体として強力なD・フィーを一人で抑え続けていた為か傷が目立つ。早急に傷を塞がんとして――しかしアレクシアの歩みは止まらない。まだだ、まだD・フィーは生きているのだからと……!
 実際、抑える事に専念したが故にこそD・フィー側にはほとんど傷はまだ生じていない。
 油断は出来ない。あの大剣の威力は――本物だ。
 アレクシアは魔力を振り絞り神滅の魔剣を形成しようか。今こそ仕留めんと!
「あちらは完全に無力化しました。あとはD・フィーのみです。
 ――冷静に行きましょう。たった一体ならば、眼前に集中するだけで済みます」
「もうゼロ・クールさん達を弄ばせたりしないよ……! 此処で必ず倒してみせる!」
 続け様には瑠璃と焔も駆けつけてこようか。焔はその前に、ファラクを取り除けたゼロ・クール達を少しだけ離れた場所へ移動させんと試みていた。これ以上終焉獣の好きになんてさせない為に。
 叩き込む。踏み込んだ速度をそのまま武器とし、D・フィーを側面から打ち込むのだ。
 返す刀でD・フィーの薙ぎ払いがイレギュラーズに襲い掛かる。
 卓越した機動力から放たれる一撃は脅威。奴を縦横無尽に動かせていたら危機だったろう――しかし全てのイレギュラーズが注力しえる状況となった今、D・フィーが如何に強かろうとも限度はあった。
 その動きが抑えられている。
 一刀、二刀放つ間にイレギュラーズ達はその上を行く攻勢を奴へ。
「――終焉の獣。貴方は魔王の僕と聴きます」
 と、その時だ。雷の魔術の力を剣に纏わせながら紡ぐのは、リースリットか。
「答えなさい。貴方達は何処から来て、何処へ行く」
「何処へでも。滅びの赴くままに。この世全ての生を、平らなる大地へ導かん」
「それは一体誰の命ですか。魔王ですか、それとも他になんらかの存在がいるのですか」
「――応える義理は無し。世の滅びは近い、焦る事非ず」
 明確に指揮個体がいる所を見るとただの獣でないとは思っていた。
 故に探る。言語を介すならそこから見破れる事もあろうと――
 然らば、仔細は知れぬが終焉獣は確かに『滅び』を望んでいるようであった。
 誰が望んでいるかは隠したようだが、しかし……『近い』とは既に何かが迫っているのか。
「滅びだって? あの子達をあんなに追い詰めておいて……まだ飽きたりないみたいだね」
「苦しみと痛みを与える事しか出来ないのなら……貴方達が先に滅びなさい! 終焉獣!」
 それでも今は目前の苦しみを救済せんと、雲雀にアルテミアが一気に攻勢を仕掛ける。
 お前達がなんであれ、ゼロ・クール達に罪はあるまい。
 ――苦しめるな生命を。人を。人形も。誰もお前達のモノではないのだから!
 畳みかける。リースリットの雷光たる一撃がD・フィーへと襲い掛かり。
 間髪入れず雲雀の星の紡ぎが天より降る。輝く死兆星の流転が降り注ぎて。
 それでもと命ある限り命奪わんとするD・フィーの一撃が万物を切り裂かんと――するが故に、アルテミアは其処を突いた。一気に懐へと跳躍した彼女は、カウンター気味にその反撃へと三撃三閃。アルテミアの奥底より出でる力が最高潮へと至っていれば、誰が止めれようか!
「終わりよ、これでね!」
「死神の由縁を知れ終焉の獣よ――!」
「ボロボロの子達を乗って戦わせた……皆の痛みを教えてあげるよ!」
 大剣を持つ手を損傷させれば、そのままがらあきとなった胸部へと――トドメの一撃。
 一気に切り払う。ブランシュの蹴撃も、アレクシアの神すら滅す一閃も叩き込まれれ、ば。
 D・フィーは倒れ伏した。力なく地へと崩れれば、まるで砂のようにその身が散っていく。
 ……終わった。もう奴の命すら感じない。
 さればファラクらを引き剥がしたゼロ・クールらの下へと雲雀やタイムらが駆けつけて。
「――治療が出来るだろうか。近くに魔法使いの工房でもあればいいんだけれど」
「もう大丈夫、大丈夫だからね。直してあげるから……
 パーツがいるのかしら、それとも『魔法』自体に何かがある――?」
 考え得るのは全てゼロ・クールらをどうにか出来ぬか、という視点であった。
 ……元々相当古い個体のようだ。経年劣化も酷い。
 戦闘自体による余波が無くても彼らは助けられないかもしれぬ――いずれにしてもこの地の専門家である『魔法使い』に託すしかない、か。しかしゼロ・クールは斯様に『廃棄』される事もあるようだ……それは製造過程の失敗なども含んでの事。
 全てが全てではないだろうが――ゼロ・クールの扱いは『人形』であるという認識が強いのかもしれなかった。役目を果たす為だけに作られ使われる人形……
「いずれにしてもこの場では本格的な修理は無理ですね。
 応急処置ぐらいなら出来るかもしれません。やってみますが……
 中核となるような部分に関しては魔法使いに見てもらわねばならないでしょう」
「物は試しです。やれる限り処置してみましょう。せめてコンフィーにまで保ってくれれば……」
 次いで瑠璃やリースリットも彼らの様子を見定めてみる。
 工業の知識や、治癒の術を用いて彼らを救わんと試みるのだ。されど難しい。やはり未知という事もあるだろうが、内部の重要点が破損しているのかもしれぬ、と。
 ただ、それでも。

『ア、アリガ……トウ……』

 ゼロ・クールらは己らを助けてくれんとしている者らに感謝の意を述べよう。
 例えこの言葉が最後になろうとも。
 それ自体が魔法(プログラミング)によるものであろうとも。
 己を救わんとしてくれた者がいた事を――彼らは感じえたのだから。
「アトリエに運ぼう。アトリエじゃなくてもいい、魔法使いのいる所へ!
 もしかしたら直せる子がいるかもしれない――助けられるかもしれない――」
「せめてコアとなる部分だけでも回収できれば……
 復元を頼める工房があるかしら。調べておかないと、ね……」
「うん……直してほしいよ。人の為に頑張って来たんでしょ?
 それなら人形の一種なんだとしても……直してあげるべきだよ……!」
 であればアレクシアやアルテミア、そして焔もなんとか彼らを救えないかと模索するものだ。ひとまず人型サイズなので運ぶ事は出来そうである。後はコアがどうなっているか。
 ……終焉獣に侵食された結果で損傷が深まっているだろうか。
 命を感じえない。ただそれでもと、アレクシアは願おう。
 せめて救うのが無理でも――彼らの記憶を引き継ぎたいと。
 己に宿るギフトの祝福で読み取らんとする。
 走るノイズ。それは命に非ずからか、古すぎるが故か。
 微かに見えた人影は魔法使いか……?
 やはりゼロ・クール達は助からないかもしれない。だけど。
「ここで誰にも看取られず消えていくよりは、故郷に戻した方がより人間的じゃないかね」
 いずれにせよ運んでやろうとブランシュは思うものだ。
 彼らが機械では無く人だというのなら……
「俺は、そう思うがな」
 同胞よ。出会った事無き同胞よ。
 その終わりに少しでも幸あれと――せめて願おうか。
 俺たちは使命を果たすだけの人形。ならば。
 終焉の獣に操られ人を傷つける魔と化すよりも。
 純粋たるゼロ・クールの儘の終わりこそが――きっと救いであるから。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 プーレルジールでの歩み、ゼロ・クールや終焉獣の気配……
 不穏な影もありますが、はたしてこの世界には何があるか――詳しくはまた今後となるでしょう。

 ありがとうございました。

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