PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>星の降る場所へ。或いは、813号のおつかい…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●旅に出よう、星の降る場所へ
 その“人形”は、まるで爬虫類のようだった。
 黒い髪に真白い肌。ぎょろりと大きな瞳を見開き、瞬きもせずに辺りの景色を右へ左へ眺めている。半開きになった唇からは、鋭い歯と尖った舌が覗いていた。
 ひょろりとした長い手足を、まるで引き摺るようにしながら、猫背気味の姿勢で黙々と草原を進む。
 名を『YMTK-813号』。
 ゼロ・クールという『魔法使い』に制作された人形である。
「この先……」
 足を止めた“813号”は、まっすぐ草原の先を指さした。
 だが、見えるのはただただ広い草原ばかり。
「星の降る場所がある」
 特別、注目するものなどは何もないように思える。訝し気な“同行者”たちを意にも介さず、813号は手を降ろすと、再び草原を歩き始めた。
 目をぎょろりと剝いたまま、半開きの唇から舌を出したまま、813号は視線をきょろきょろと彷徨わせている。
 虚空に何か、813号の興味を引くようなものがあるだろうか。
 強いて言うなら、紫色の大きな蝶がひらりはらりと風に揺られて舞っている程度ではないか。

●813号、はじめてのおつかい
 プーレルジール。
 『プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)』を中心に広がる平野地帯だ。
 そこに暮らす『魔法使い』……つまり、人形に疑似生命を吹き込む職人たちの手によって、813号は造られた。ゼロ・クールという名の何も知らない人形である。
「だがまぁ、何も知らないなりに役には立つんだ。命令には従順だし、それなりに戦えるしね」
 そう言ったのは、黒衣の『魔法使い』である。
 彼は眼鏡を押し上げながら、“あなたたち”に微笑みかけた。
「こいつは813号……“YMTK-813号”だ。今回はこいつの稼働試験として、ちょっとしたおつかいを頼みたいんだ」
 そう言って、手渡されたのは1枚の地図だ。
 草原の一ヶ所に、赤いインクで丸印が付けられている。
「ここには“空喰い”と呼ばれる終焉獣(ラグナヴァイス)が巣食っている。なんでもこいつは空を喰って星を降らすって話だよ。その、こいつが降らした“星”を回収して来てほしい」
 曰く、空喰いは大きな蝶か蛾に似た姿をしているらしい。
 曰く、空喰いは【奈落】【懊悩】を伴う攻撃手段を有しているらしい。
 黒衣の『魔法使い』から得られた情報はたったそれだけ。
 危険な仕事か、そうでないかの区別さえつかない。
「だけどまぁ……君たちならどうにかなるだろ? こう言うのが得意だって聞いてるよ」
 なんて。
 さも“容易い仕事だろう”と言った調子で、黒衣の魔法使いは笑った。

GMコメント

●ミッション
“星”を回収して帰ろう

●ターゲット
・空喰い(終焉獣)×?
蛾か蝶に似た姿をしている終焉獣。
空を喰って星を降らす、と伝わっているがその他の情報は不明。
サイズも、数も、危険度も不明であるが【奈落】【懊悩】を伴う攻撃手段を有していることは確定のようだ。

●NPC
・YMTK-813号
黒い髪、真白い肌。
長い手足をだらんと下げた猫背のゼロ・クール。
言葉は少ないが、製作者である『魔法使い』には従順なようだ。
ある程度、戦えるようだが詳細は不明。

●フィールド
プーレルジールのとある草原。
“空喰い”が巣食っている区画。
見渡す限り広い草原で、姿を隠せる場所などは無い。
雑草が生い茂っているため、地面に伏せれば一応、身を隠すことは出来るかもしれない。
空喰いが、空を食うことで“星”と呼ばれる何かが落ちて来るらしい。
今回は、その落ちて来た“星”を回収し、持って帰れば依頼成功となる。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <英雄譚の始まり>星の降る場所へ。或いは、813号のおつかい…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ファニー(p3p010255)
芍灼(p3p011289)
忍者人形

リプレイ

●YMTK-813号
 今回の戦いは少々謎が多いようだ……。
 草原を進む列の後ろで、『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は思案する。
 茂る草に車椅子では進み辛いのが、少しばかり煩わしい。しかし、そのような些事はどうでもよいのだ。シャルロッテの興味を引くのは、今回の依頼の目的であり、依頼主より預けられたゼロ・クール“YMTK-813号”のことである。
 黒い髪、真白い肌。
 牙の生えた口を半分ほど開き、だらんと長い舌を垂らしてぼうっとしている。
「あっち。もう少し」
 何かを思いだしたみたいに、813号は進行方向を指さして言う。
 掠れた、小さな声だった。
「それらしいものは見えないが……なぁ、数や危険度はともかく大きさが分からないってのはどういう事だ? 姿も攻撃手段もある程度分かってるんだぞ」
 813号が指差す方に目を向けて、『狂言回し』回言 世界(p3p007315)が首を傾げた。
 シャルロッテが気にかかっているのもそこだ。
 今回のターゲット“空喰い”と言う名の終焉獣は、その名の通り“空を喰う”らしい。その姿はまるで蛾や蝶に似ているらしい。
 だが、どれだけの数が生息しているのか。
 どれほどの大きさなのか。
 それが分からないというのだ。
「空を食べる……食べられた空、空間はどうなるのでしょう。そうして、滅びが広がるのでしょうか?」
 疑問の言葉を口にしながら『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)は空へ向かって手を翳した。
 その手の平から、2羽の小鳥が飛び立っていく。目的地が近いということで、使役する鳥を偵察に出したのである。
 飛んでいく鳥に手を伸ばし、813号は首を傾げた。
「この先にいる」
「まぁ、そうなんだろうが。空喰いが空を食べない事には“星”は回収できない…んだよな?」
「そもそも空を喰う、ってどういうことなんだ」
『恨み辛みも肴にかえて』トキノエ(p3p009181)と『Star[K]night』ファニー(p3p010255)
は困った様子で顔を見合わす。
 どうにもこの813号、コミュニケーション能力に少々難があるらしい。自分の役割についてはしっかり理解している風ではあるが、悲しいかな目的を達成するための過程については、驚くほどに無関心なのだ。
 ターゲットである“空喰い”についても、詳しい情報を知らないらしい。教えられていないらしい。
 ともすると、その“足りていない情報”を得ること自体が、今回の任務の目的の1つなのかもしれないが。
「この世界の空は宇宙まで続いていなくて、途中で壁のような終わりがあるということなんだろうか。それとも、空というより「空間」を喰らうということなんだろうか」
「落ち着けよ、ファニー。見てもねぇもんについて考えたって、答えなんて出るはずもないだろ」
 行ってみるしかなかろうよ。
 そう言ってトキノエは髪を掻きあげる。
「……」
 813号は、トキノエの顔をじぃと見上げて……すい、と右腕を頭上へ伸ばした。
「空」
「あぁ、うん。空だが」
 会話が成立しているのか、そうでないのか。
 『忍者人形』芍灼(p3p011289)などは空を見上げて、感心した風に何度も頷いているが。
「うぅん、なんともなんとも奇々怪界」
 今のところ、見えているのは“当たり前”の青い空だが。
「まぁ、いいんじゃないか。813号はこれが初めてのおつかい、だよな? 頑張ろう」
 空に向かって伸ばされている813号の右手を握って『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はそう告げる。
 握手である。
 もっとも、813号の方は“握手”という行為が、何を意味するものか分かっていない風な様子であるが。
「しかしなんだな。隠れられる場所がないのに、ここに巣があるのか……いったい何処に?」
 見たところ、それらしいものは見えないが。
 ぐるりと辺りを見回して『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は目を丸くする。
 道中、あったのは草原ばかり。
 この先に進んでもそれは同じだ。
 空喰いの姿は見えず、空喰いの巣らしきものも無い。
「良いとも! それを解くことこそが軍師にして探偵の生き甲斐だとも!」
 考えていても仕方がないと。
 そう結論付けて、シャルロッテは車椅子を前へ前へと進ませる。

●空を喰う
 空に穴が開いていた。
 グリーフやトキノエが、少し前に言っていたことだ。
 先行させた鳥の目を通して、2人は一足先にその光景を見ている。
「なんだこりゃ」
 ぽかん、と空を見上げたままファニーがそんな言葉を零す。
 そこにいたのは芋虫だ。
 10か、20か、それとももっと多いだろうか。
 見えない壁でもあるみたいにして、遥か上空を芋虫が這いまわっているのだ。むしゃむしゃと空間を喰らう様は、なるほど確かに“空を喰っている”風に見える。
「あれが“空喰い”で間違いないか? 芋虫のように見えるが」
 ぼうっとしている813号の肩に手を置き、マッチョ☆プリンはそう問うた。813号は口をもごもごさせながら、視線を左右へ動かしている。
 どうやら、答えに窮している風だ。
「当たらずも遠からず、って風なリアクションだね」
 答えに窮する813号に助け舟を出したのはシャルロッテだ。シャルロッテは、さらに少しだけ事前に聞いていた情報と、目の前に光景とを見比べて思案を重ねる。
 灰色の脳細胞に、意図的に少し多くの血液を流し込む。
「つまり、“空喰い”の幼虫ってことだろうね。さっきまで、自分で喰った穴の中に……空に空いた、穴の中に隠れていたから遠目には見えなかったんだろう」
「喰われた空のあの向こうは、一体どこに繋がっているのでしょうなあ?」
 芍灼の疑問はもっともだ。
 きっと、想像もつかないどこか別の空間に通じているのだ。そもそも、空間とは何だ? 空間に実体はあるのか、無いのか。例えば、目の前に向かって手を伸ばした時、その手は空間に“触れている”と言えるのか、言えないのか。
 分からない。
 なにも、分からない。
「そもそも芋虫、ということは」
 ふと、思いついたようにグリーフは呟く。
 その言葉を、トキノエが引き継いだ。
「成体になるのを待たなきゃいけないのか? そうなると……アレか?」
 トキノエが指差した先には、空にぶら下がっている幾つかの繭らしきものが存在していた。見た目はまるで岩のようだ。
 ゴツゴツとした、尖った岩の塊が、空に浮いているように見える。
 サイズは、小さなものだと数センチほど、大きなものだと1メートルに少し届かない程度とばらつきはある。
「いやまぁ、最悪でも戦闘が起きるだけだと考えれば――なるほど、確かに得意分野に違いない。普段やってることと大して変わらねえや」
 羽化するのを待てばいい。
 そう呟いて、世界はその場に腰を降ろした。

 そう言えば、道中も蝶を追いかけていたな。
 空を見上げる813号の様子を見ながら、イズマはそんなことを思った。
 思えばあれは、813号なりに自分の役割を全うしようしての行動だったのだ。
「世界さんの見立てでは、そう遠からず羽化するとのことだったけど……さて、喰われた穴から何かが降るのか。或いは、空喰いから吐き出されるのか」
 願わくば“星”が回収しやすいものであってくれればいいと、イズマはひとつ吐息を零す。

 かくして、その時は訪れた。
 唐突に、突然に、それは始まった。
 空に張り付いていた繭が、次々に眩い光を放ち始めたのである。直視できない。目を開けていられない。網膜を焼き、脳髄にまで光が届くようだった。
「星」
 空を指さし、813号がそう呟いた。
 なるほど確かに星のようだ。暗い夜空に燦然と輝く灼星のようだ。
 空を喰っていた芋虫たちが、閃光から逃れるみたいに身をよじらせる。食い破って、開けた穴の中へと身を潜り込ませる。
「空を喰って星を降らす、ってそういう事かよ……」
 芋虫たちが、なぜ我先にと逃げ出したのか。
 それは、危険だからだ。生き物としての生存本能か、それとも習性か。とにかく、芋虫たちが急に逃げ出したのは、“逃げなくてはいけない”理由があるからに他ならない。
 トキノエは、空を指さす813号の襟を掴んで退らせる。
「お、おぉ……っ!?」
 ファニーの零した、驚嘆の声。
 閃光は、どうやら割れた繭の内側から溢れていることに気が付いたのだ。
「ハチ殿、ここは一旦退避しましょう」
 芍灼が813号の手を取った。
 引き摺るようにして、後方へと駆け去っていく。芍灼と813号だけではない。イズマも、トキノエも、ファニーも、シャルロッテも、世界も、全員がその場から離れていく。
 退避する一行の背を追うように、大地を眩い光が焼いた。
「これは、逃げ切れるでしょうか」
「逃げられないなら……前に出て壁になる!」
 ただ2人だけ。
 グリーフとマッチョ☆プリンの2人だけが、その場に残った。閃光の降り注ぐ中、1歩も退かずにその場に残った。
 それから、一瞬。
 世界が“白”に染まったかと思うほどの閃光が溢れ……そして、一瞬で光は集束して消えた。
 後に残ったのは、亀裂の入った繭だけだ。
 正しくは、空になった繭と、その近くを飛ぶ夜空の色合いをした鱗翅目。蛾だか蝶だか知らないが、紫紺の翅に星の煌めきを蓄えた終焉獣がいるだけだ。
 ピシ、と。
 何かの砕けるような音がして。
 瞬間、空に亀裂が走る。
 空が砕けて、ガラスの破片のように飛び散る。
 空に張り付いていた繭が、重力に引かれて落ちて来た。1つ、2つ、3つ、4つ。大質量の繭が地面に落下して。
 轟音。
 大地が揺れた。
 土煙が舞う。
 衝撃の波が吹き荒れる。
 マッチョ☆プリンとグリーフは、ごう、と吹いた衝撃の波と土煙とに飲まれて消えた。

「さて……回収に行くべきか?」
 ズレた眼鏡の位置を直して世界が言った。その髪も、白衣も、すっかり土に汚れている。大した傷を負っていないのは、プリンとグリーフが盾となってくれたおかげだ。
 ひらひらと舞い踊る空喰いを見て、世界はうんざりとした顔をした。
 地面に落ちた“星”の真上を飛んでいる。回収のために近づけば、きっと戦闘が始まるだろうことは想像に難くなかった。
「こんなこともあろうかと! 袋を用意しておきました!」
 芍灼が、813号の手に袋を持たせる。
 芍灼と813号を一瞥し、次に空喰いを一瞥し、それからシャルロッテは顎に手を触れ思案した。
 沈黙はほんの数秒ほど。
 薄い唇を開き、シャルロッテは言葉を吐いた。
「……では、行こうか。BSは受けた側から回復していくから、気兼ねなく前進してくれていいよ」
「それっきゃないよな。……回収したら見せてくれ。”星”の分析を試みる」
 髪を掻いて、片手を白衣のポケットに入れて、世界は前進を開始した。

「はたして、あれを見過ごしていいものなのか」
 砕けた空を唖然と見上げ、グリーフはそう呟いた。
 白い髪も、肌も、服も、全部がすっかり土に塗れて汚れている。皮膚には幾つもの、大小様々な傷がある。
 けれど、まだ動ける。
 空喰いとの戦闘も十全にこなせる。
「ぬぅ……ちょっとビックリしたぞ!」
 グリーフの隣で、プリンが吠えた。身体の半分ほどを埋める土砂を撒き散らしながら、少年姿のプリンが毅然と立ち上がる。
「無事だったか! まだ動けるか!」
 そう言ったのはファニーであった。
「押忍! 魁は任せてくれ!」
「おぉし! 分かってると思うが、足止めだ。回収班が星を回収している間に邪魔をされないようにな!」
 ほんの一瞬さえも背後を振り向かないまま、プリンは前へ駆け出した。目標に向けて、まっすぐに。己の役割を果たすべく、ただただ愚直に。
 言葉よりも、行動で。
 語るのなら、その背中で。
 かつて、友がそうしたように。
 プリンは駆ける。
 駆けるプリンの後ろにはファニーが続く。
 あっという間に、2人の背中が遠ざかる。
 
 空喰いが翼を動かすたびに、鱗粉の混じった暴風が吹いた。
 キラキラと光る鱗粉は、まるで散弾のようにプリンとファニーの身体に降り注ぐ。衝撃が2人の身体を打ち据えた。
「い……ってぇな!!」
 鱗粉に打たれながら、ファニーは空へと手を翳す。
 降りしきる星には、降りしきる星で対抗するのだ。ファニーの頭上に浮かび上がった魔法陣から、魔力で形成された星屑が降り注ぐ。
 拡散する星屑は、何体かの翅を撃ち抜いた。
 空喰いの星と、ファニーの星とが、絶えず辺りに降り注ぐ。星の間を縫うようにして、813号と芍灼、そしてイズマが“星”の方へと駆けていく。
 空喰いの降らす星をその身で受け止めながらプリンは言った。
「芍灼と813号は無理はするなよ。倒れそうになる前にちゃんと帰れ!」
 その声が耳に届いたのか。
 813号が、にこりと笑って頷いた。

 急降下する空喰いが、813号の眼前に迫る。
 813号を狙ったと言うわけではない。たまたま、降下した先に813号がいただけだ。
「来た」
 813号がそう呟いた。
 その胸には“星”が抱えられている。
 その目はまっすぐ、空喰いの方を向いている。
 このままでは、813号と空喰いがぶつかる。芍灼も、イズマも、813号を庇えるような位置にはいない。
 けれど、しかし……。
「おぉぉっ!」
 トキノエが間に合った。
 外した手袋を投げ捨てて、右の拳を振り上げる。
 身体ごとぶつかっていくように。
 まっすぐに振り抜かれた拳が、空喰いの腹部を撃ち抜いた。
 荒くれ者の放つ粗野な殴打である。だが、空喰いを絶命させるには十分な一撃であった。
 地面を転がる空喰いを一瞥。
 トキノエは、額に滲んだ汗を拭った。
「しっかし……回収した“星”を何に使うのかも謎だよな。ただの趣味……なわけねえか」

●星拾い
「まだか!?」
 世界が叫んだ。
 その周囲には、創造した武器が舞っている。縦横に舞う武器の群れが、意思を持つかのように飛翔し、次々に空喰いを貫いている。
「もう少し、と言ったところでしょうか」
 答えを返したのはグリーフだ。
 鱗粉の吹き荒れる中、両の脚で大地を踏み締め立っている。
 傷ついた世界を治療しながら、視線を背後へと向けた。
「離脱するまで耐えてくれ! なに、あとほんの数十秒もあればいい!」
 後方からはシャルロッテの声。
 防衛班と回収班の両方へ、矢継ぎ早に指示を飛ばしてシャルロッテは笑った。脳みそをフル稼働させた反動か、形の良い鼻からは血が流れている。
「悪いが考える事しか能がなくてね、ならばそこで負けるわけにはいかないさ!」
 鼻から下を血で濡らし、けれどシャルロッテは笑う。

 小さな星も、大きな星も、手当たり次第に袋に詰めた。
 少しだけ熱を持ったそれは、まるで胎動するかのようにほんの少しだけ震えている気がした。
「この"星"も気になるものですな! 1つ2つ持ち帰ってもいいものでしょうか?」
 袋1つをいっぱいにして、芍灼は問うた。
「どうでしょうね。そこに滅びの力が残っているもかわかりませんから……少なくとも、依頼主までへの運搬は、こちら側で行うのがいいかと」
 答えたのはグリーフだ。
 どうにも、終焉獣の落とした“星”なるものに不信感を抱いている様子であった。
「承知しました! ささ、そろそろいいでしょう! ハチ殿の方はいかがです?」
「たくさん、取れた」
 膨らんだ袋を掲げて813号はそう言った。
 長い舌をだらんと垂らして、牙の生えた口を開いて、笑っている。
「ありがとう。名前……」
「やや! それがし、芍灼と申しまする!」
 思えば。
 この時はじめて、813号は他人に興味を持ったのである。

「813号だと耐え切れないな」
 空喰いとの戦力差だ。
 ドレイクの背に乗ったイズマは、空喰いを見てそう判断した。
 片手に手綱を握り絞め、もう片方の手で細剣を引き抜いた。
 一閃。
 リィン、と鈴の鳴る音がした。
 展開された不可視の斬撃が、空喰いを斬って、遠ざける。倒せないのなら、倒せないで構わない。ドレイクを走らせるだけのスペースと隙を作れればいい。
 愛ドレイク“チャド”の首を手で叩き、813号の元へ向かわせる。ドレイクの引く馬車の車輪が大地を削る。
「星は確保した! 813号ももう十分だ、撤退するぞ!」
 急停止。
 地面を抉って止まった馬車へ、813号と芍灼が乗り込む。近づいて来る空喰いを、トキノエやファニー、マッチョ☆プリンが牽制している。
 十分だ。
 空喰いの戦意は低い。近づいて来るから、襲って来るだけのように思える。ならば、十分に逃げられる。
 ただし、巻き起こされる暴風と、鱗粉だけは厄介だ。
 狙って放たれるわけではないので、予期しづらいのだ。
「だけど、このぐらいの修羅場は何度も潜って来た。そうだろう?」
 イズマの声に賛同するように、チャドはぐるると唸り声を零す。
 機嫌がいいようだ。きっと調子もいいだろう。
 イズマが手綱を引っ張ると、チャドは体を反転させる。
 そして、走った。
 疾駆った。
 暴風を突き抜け、鱗粉の間を擦り抜けて、一目散に元来た道を駆け戻る。
「ドレイク。速い」
 馬車の荷台から顔を覗かせ、813号はそう呟いた。
 なんとなく、楽しそうな顔をしていた。

成否

成功

MVP

マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば

状態異常

回言 世界(p3p007315)[重傷]
狂言回し
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
彼女(ほし)を掴めば
ファニー(p3p010255)[重傷]

あとがき

お疲れ様です。
星は無事に回収されました。
813号は少し楽しかったようです。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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