シナリオ詳細
<英雄譚の始まり>迷子の迷子のN.3.C.Oナンバー
オープニング
●瀕死のゼロ・クール
「――」
自分の喉が空気を振るわせることを知覚する。つまり、まだ声が出せる、という事であり、その程度の身体機能はまだ維持できている、という事である。
ゼロ・クール『N.3.C.O』ナンバー、ネコと呼ばれていたその少年(ふうの外見のゼロ・クール)は、豪雨の中、木々の枝枝から漏れおちる水滴に頬を叩かれて目を覚ましていた。
どれほど眠いっていたのか。明朝から働いていてから、さほど時間は立っていないはずだ。確認してみれば、体内時計がそのように明示している。
命令を再確認してみれば、主人の魔法使いから、鉱石材料の採取である、と思い出された。記憶回路も割としっかりしているようで、やはり内部機能に問題はないようだった。
ただ、視界の右半分が欠損しているのがわかる。触れてみれば、水晶の瞳は無残に砕け、眼窩はうつろの黒をさらしている。素こす首を傾ければ、苦だけ残った水晶の欠片が、まるで涙の様にぽろぽろと零れ落ちる。
「ネコ、命令を再開します」
ぐ、と立ち上がろうとする猫だが、ひしゃげた左足に力が入らなかった。製作段階で痛覚機能などは搭載されていなかったため、痛くもかゆくもない。が、それはそれとして、こうまで破損されては多少の無茶程度では動くことはできない。
どうしてこうなったのか、を頭の中で再生してみれば、自分の身の丈よりもずっと大きい、悪魔的な『魔猪』と遭遇したことに間違いなかった。伝説と神話に片足を突っ込んだような、長命の怪物である。だが、問題は。
「怖い、と感じました」
つぶやく。そう、怖い、というあらかじめプログラミングされた感情を思い起こされたのだ。恐怖、という感情は、いわばストッパーであり、リミッターとしてあえて搭載されていた。つまり、怖い、と感じたときには撤退せよ、である。
とはいえ、ほぼ無感情のネコが、そのような恐怖を感じることはほぼない。にもかかわらずそれを感じたという事は、相手はあまりにも、異常であったという事だ。
まるで、立ち上る影のような、何か、魔的な雰囲気……終焉を感じさせる、恐るべき、それ。
「……」
ネコが脱力して、空を見上げた。このままここで壊れて朽ちて、動けなくなるのだろうな、と思った。それは別に怖くはなかった。ただ、命令に失敗したのだな、という、残念な気持ちだけがあった。
「魔法使いメーテル様は、自身のゼロ・クールに愛情を抱くタイプの方だと聞き及んでいます」
と、ゼロ・クール『Guide05』――ギーコは、あなたたちローレット・イレギュラーズへ向けてそう告げた。
「メーテル様、私のマスターにお願い事を依頼しました。帰ってこないネコを連れて帰ってほしい、と」
「ネコっていうのは」
仲間のイレギュラーズの一人が尋ねる。
「ネコかい? 動物の」
「いいえ。説明不足でしたね。ゼロ・クールN.3.C.Oナンバー。ネコ、です」
「なるほど、ゼロ・クールの事か」
納得したように仲間がうなづくのへ、ギーコは続けた。
「ネコは、ここより南西、ハウドレドの森に、鉱石材料を採取に向かいました。しかし、二日ほど、連絡が取れないのです」
「ハウドレドは」
仲間のイレギュラーズの一人が声を上げる。
「確か、私たちの時代だと、普通におっきな街の名前だった気がする。へぇ、今は森なんだね」
「そのようになっているようですね」
ギーコがぎこちなく笑う。
「こんかいの『依頼(おつかい)』は、猫の捜索と救出です。
ですが、お気を付けください。彼の森には、神話の時代から生きていたともいわれる、長命の魔猪が存在します」
「でっかい猪ってこと?」
ふむふむ、と仲間の一人が声を上げる。
「強いの?」
「そのようにうかがっています。生命力も高く、タフであると。その上、繁殖も旺盛であると」
「それ本当に長生きなの? 普通に世代交代してるやつじゃない?」
「私にはわかりかねます」
ギーコが笑うのへ、あなたは苦笑した。まぁ、得てして民間伝承の類など、そういうものかもしれない。
「なんにしても、魔猪に気を付けつつ、ネコを探せばいいんだな。わかった。行ってこよう」
仲間の一人がうなづくのへ、あなたもうなづいた。
かくして、迷子のネコを探すため、あなたたちは森へと向かう――。
- <英雄譚の始まり>迷子の迷子のN.3.C.Oナンバー完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●迷子のゼロ・クール
――あれからどれくらいたったのだろうか。
体内時計が正確ならば、二日ほど経過しているはずだ。
N.3.C.Oナンバー、ネコ、と名付けられた少年のような外見のゼロ・クールには、自己修復機能は付けられていない。仮についていたとしても、ここまで大破してしまえばろくに機能はするまい。そういうわけだから、ネコは二日前と変わらず、ボロボロの状態で木陰に身を潜めていた。
まさにひん死の状態のまま、二日間を耐え抜いていたわけだが、それ故の恩恵というものも確かにあった。ほとんど死んでいるが同様故の生命力の希薄さが、あたりを徘徊する魔猪の鼻から、彼の姿を隠していたわけである。
「……でも」
と、つぶやけば、それも限界だろう、と心で続ける。奴らは鼻がよく、加えて見かけによらず気も長い。仕留め損ねた獲物を、そのまま放っておいて忘れるほど馬鹿というわけではないのである。
腐っても、神話生物と伝説される――それはあくまで伝説で、ただの頭のいい怪物なわけなのだが――だけはある。ネコというゼロ・クールは依然絶体絶命であり、救いの手を、外部に頼るしかなかったのだが。
「……任務に失敗した僕を、マスターが救助に来るのは非効率です」
と、確認するようにつぶやく。親の心子知らずと言おうか。ネコにとってみれば、自分など作り直せばいいだけであるし、わざわざ危険を冒して助けに来るものなどいるはずがない、と結論付けていたのである。
いささかネガティブな思考ではあったが、しかしこの時、実際に救助に向かおうとする勇者たちが居たのも事実だった。そして、遭難の際の鉄則は、とにかくむやみに動き回らないことだ。そのため、このネガティブな判断は、救助者である勇者たち――つまり、ローレット・イレギュラーズたちにとっても、ある種の幸運をもたらした、とも言えた。
そういうわけで、ローレット・イレギュラーズたちはハウドレドの森にたどり着いていた。広大な面積を誇る森である。あまり人が入り込まないのか、林道は整備されていない。けもの道が道、というありさまである。
「ううん、確かに、私たちの世界ならば、ハウドレドの街がある場所ですね……」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が、周辺に視線を送りながらそう言う。
「あの山の稜線などには見覚えが。
もちろん、完全に一致しているわけではないでしょうが……なるほど、過去には森があったのですね」
リースリットが思い出してみれば、『私たちの世界』、つまり混沌世界の幻想王国においては、ここは同名の街が存在しているはずだった。おそらく、森を切り開き、後の世に街と開拓したのだろう。プーレルジールが過去の幻想王国を模したものであるのならば、つまりこれは、ある意味で、過去の姿、という事になる。
「今もその、変な猪がおるのか?」
『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)が尋ねる。
「狂暴そうなやつらのようじゃが……そんなのと共存するのはしんどかろう。
と、考えれば、猪の討伐と開拓を兼ねて~と言ったのが『現在』の街に当たるのじゃろうか。知らんけど」
「おそらく、そう言う形かと」
リースリットが言う。害獣退治と街の開拓を兼ねたのかもしれない。それは、まぁ、元の世界で歴史書を紐解かなければわからない話だが。
「それにしても、ネコかー。ネコではないがネコなのだな。
ゼロ・クールの特性故に件のネコは落胆しとるじゃろうなあ……」
「そうですね」
『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)が頷いた。
「……きっと、そうなのでしょう。
愛情、というものを受けて、知ったものならば。
それを、返せないことに、悲しみを抱くかも、しれません」
「それでも……すこしだけ。
愛情があるのならば、魔猪の徘徊するような場所に独りで送り出す……というのは、珠緒には、疑問を抱いてしまいます」
少しだけ考えこむように、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が言った。
「愛情と、保護指向は、必ずしも並列するものではないのかもしれませんが……いえ、事情を知らずに語るものでもありませんね」
「うーん、どうなのかな。
もしかしたら、お使いに行ってもらった、くらいだったのかもしれないわね」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が、うーん、と考えるように腕を組んだ。
「珠緒さんも言った通り、事情は分からないものね。でも、ちゃんと救助を依頼するくらいには、愛情があったのだと思う。
……さて! ネコにもロボにも深い愛情を抱けるボク達日本人にとってはこの捜索、二重に庇護欲を刺激されるってものだから!」
気を取り直すように、蛍がそういった。
「そうだな。頑張って助けてやらないとな。きっと心細いだろうし……」
『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が、よし、とうなづいた。
「で、作戦は予定通りでいいか?
2チームに分かれて捜索する。
ネコがどこにいるかもわからないし、なるべく速く見つけてやらないと、猪に見つかっちまうかもしれない」
「うん、予定通りで問題ないと思うよ」
『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)が頷いた。
「チーム分けも、道中で決めたやつでいいかな?
つまり、俺と、蛍君、珠緒君、ニャンタル君のチームと、残ったメンバーのチーム」
「はい! 準備も万端です!」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が頷いた。
「あとは……できれば、鉱石を回収してあげたいですね。
もしかしたら、お仕事が失敗してしまった、って悲しんでいるかもしれませんから……」
ネコは、特に任務に忠実なゼロ・クールであったらしい。となれば、何か残念に思う気持ちを抱いていてもおかしくはあるまい。それを自覚していようといまいと、だ。
「ええ。できれば」
グリーフが頷いた。
「……愛情を、返す手伝いを、してあげたいと思います」
「いいのですよ。珠緒たちも頑張りましょう」
珠緒がほほ笑んだ。
「では、連絡手段として、ファミリアーをお預けします」
珠緒の言葉に、グリーフが頷く。果たして、珠緒の鳥の使い魔が、グリーフの肩に乗った。
「くれぐれも、気を付けてくださいね」
リースリットが言う。
「神話の生物とはさすがに言いすぎでしょうが。
それでも、ここが私たちにとって、未知の場所であることに違いはないのですから」
「ああ、わかってるさ」
零が頷く。
「それじゃあ、迷子のネコ探しを始めよう!」
零の言葉に、仲間たちはうなづいた。そして二手に分かれて、一行は森の奥へと足を踏み入れた――。
●森の捜索
「……なるほど。ありがとうございます」
そういって、リースリットが森の木々に頭を下げる。
森に侵入して、少し。早速の情報収集だ。
リースリットは植物や、近くの精霊からの目撃証言を得ていた。もちろん、精霊は気まぐれだし、植物からの情報は非常にあいまいなものではあったが、それでも指針としては役に立つ。
「なにか おっきな うごくもの
……それが、確かにこの奥に向かったそうです」
「うーん、猪か、それともネコかな」
零が唸った。
「さすがに、ゼロ・クールかケモノかまではわからないか?」
「そこは精霊の情報で補います。もう少し待っていてくださいますか? 適当な精霊を捕まえてみますから」
リースリットが、そう言ってあたりに視線を送る。そんなリースリットを守る様に身構えながら、トールは周囲を警戒している。
「でも、この辺りはけもの道というわけではなさそうですね」
トールが言った。あたりを見れば、確かに、獣が通ったような跡は見受けられない。草木が倒されたあととか、フンや足跡、そう言ったものだ。
「だから、もしも何かが通ったならば、ゼロ・クールの可能性が高いと思います」
「おっと、正解です」
リースリットが笑った。
「確かに、人間型のものだったと」
「じゃあ、ビンゴだ」
零が頷く。一方で、グリーフは、その赤色の眼を、森の奥へと向けていた。静かに、何かを探る様に。木々は視線を覆い隠すが、それでも、想いや、そう言ったものまでは隠さないだろう。だが、グリーフの瞳は、未だ何も映しはしない。近くに、何もいないのだろう。
「……この辺りに、ネコさんはいないのでしょう」
「気になりますか?」
トールが尋ねる。
「いえ、気になって当然なのですけれど。それとは別に、なんとなく……特に、そうなのかな、と」
「……ええ。隠すつもりはありませんが」
グリーフが頷く。
「”愛情”にも様々な形があると、私も知りましたが。
それでも、自身の生み出した子のために他者に助けを求める方の。
そうやって、”愛される”、私にとっては近しい隣人の。
助けになれるなら。
そう、思います」
「ええ、そうですね」
リースリットが頷き、零も頷く。
「それは、俺達もおんなじだ。助けてやりたいよ。だから、頑張ろう」
その言葉に、グリーフも、ゆっくりと頷く。
森に降る雨は、視界の妨げにも、移動の妨げにもなる。邪魔ではあったが、しかしこればかりはイレギュラーズたちの力でどうこうできるものではあるまい。そんな薄暗い森の中で、この時、激しい戦闘音が響いていた。
「こっちに引き寄せるわ!」
蛍が叫ぶ。
「アンタの相手はこのボクよ!
さぁ、正面からかかってきなさい!」
そう、決意の言葉とともに、胸に咲くは舞桜。桜花の決意がその手のひらに、その胸に、決意と勇気の花を咲かせる。その花に誘われるように、怪物――魔猪は雄たけびとともに突撃した。純白の手甲を構えれば、同時に無数の魔法陣が展開される。それを障壁として、勇者乙女は獰猛な獣の突撃に耐えて見せた。
「敵はひとまず一匹じゃ!」
ニャンタルが叫ぶ。
「一気に調理して牡丹鍋じゃぞ!
こっちも突進じゃーーーーー!!!!」
ニャンタルが、二振りの、すごくてやばいうちゅうブレードを手に突撃。速度を乗せた、まさに思いっきりの突進! 移動の完成そのものを刃溶かす斬撃が、猪の体を横合いから思い切り斬りつける!
ぐあおう、と猪が吠えた。ニャンタルの強烈な一撃を加えられつつも、しかし猪が絶命することはない。なるほど、確かに生命力は高い! 猪は、ダメージの怒りを蛍にぶつけるように、その体で猛烈なタックルをぶちかました。蛍が、たまらず後方へと飛びずさる。
「くっ……!」
「アルムさん、回復を!」
珠緒が叫ぶ。アルムが回復術式を編み始めたのを見やりつつ、その薬指の指輪に意識を集中した。瞬く間に、指輪より血の術式刀が生み出される。
「蛍さんへの狼藉は、百倍にしてお返しします!」
斬! 珠緒の刃が、猪の首を切り落とした! ぎゅが、と短い悲鳴を上げて、猪がその場に倒れ伏す。大地を揺らすような音を立てて、猪が倒れ、絶命した。
「大丈夫かい? 蛍君」
アルムの術式が、蛍の傷をいやしていくのを確認する。蛍は優しく笑うと、
「ありがと。まだまだ大丈夫よ」
「蛍さん、心配ですが、すぐにこの場を離れた方がいいと思うのです」
珠緒が言うのへ、アルムが頷く。
「うん。騒ぎを起こしたばかりだ。こっちに他の猪が寄ってくるかもしれない」
「じゃが、ある意味でチャンスじゃぞ。ネコから目を逸らせる、という事でもある」
ニャンタルの言葉通りだ。猪との戦いは避けられないものであったが、しかし同時に、自分たちが囮になれる、という事でもあるわけだ。イレギュラーズたちの行動は、その一つ一つが決して無駄にはならない。もし一チームだけであったら、絡法のチームが囮に、とはならなかっただろう。ある程度の危険を承知で、チームを分割したのが生きてきているともいえる。
「それじゃ、さっそく移動しましょ」
蛍が、服についたほこりをはたきつつ、言った。
「ニャンタルさんは、引き続き周囲を警戒。アルム君も、警戒のサポートを。珠緒さんは、グリーフさんに状況を説明してあげて。
もちろん、移動しながらよ!」
「任せるのじゃ委員長」
むむ、とニャンタルが頷く。残る二人も、同意の頷きを返していた。
「珠緒さん達が、魔猪と遭遇したようです」
グリーフが言うのへ、リースリットが頷く。
「となると、少しだけ、こちらが動きやすくなりますね」
珠緒たちのチームの思惑を、こちらのチームも瞬時に察していた。となれば、この機会を活かさない理由はなく、むしろそうしなければ、向こうのチームへの無礼ともなるだろう。
「幸い……というかな、簡単に鉱石の方も回収できた」
零が言う。リースリットの精霊・植物の情報網があるがゆえに、こちらのチームは一歩、ネコに素早く近づけているといえた。足取りを、ある程度終えるわけだ。もちろん、情報は珠緒たちのチームにも共有されているわけだが、それはそれとして、第一次情報にアクセスできるリースリットがいるメリットは大きい。ネコの足取りを追えるという事は、道中で彼が改修しようとした鉱石にもアクセスできるという事だ。一行は鉱石を回収しつつ、先に進んでいた。
「……でも、この辺りも、足跡やフンの類が多いです」
トールが言う。
「……この、乱暴な感じ。ここを動き回ったみたいだ……」
「……ネコさんを、探していたのでしょうか?」
グリーフが尋ねるのへ、リースリットが頷く。
「おそらく……ああ! これ、見てください!」
と、リースリットが地面を指さした。そこには、金色の水晶のようなものが転がっている。それは砕けて、無残な跡をさらしていた。
「もしかしたら、ネコさんのパーツでは……?」
「……瞳でしょう」
グリーフが言った。
「きっと、これは……」
「なら、近くにいるかもしれない。助けを呼ぶ声を聴いてみる」
零が言う。同時に、グリーフも辺りを見回した。そして同時に、声を/感情を、捉えた。
「あっちだ!」
零が言うのへ、グリーフが頷く。駆けだしてみれば、なるほど、しばし先の木のうろ影に、片足をひどく損傷したゼロ・クールの姿が見える。右目はうつろな空洞のようになっていて、なるほど、状況から見たら、この子がネコだろう――。
「……! 大丈夫ですか……?」
グリーフがたまらずに声をかけた刹那、あたりの草木をかき分け、巨大な猪が突撃してきた!
「くそ、嗅ぎつかれた!」
零が叫び、ネコを抱きかかえて飛びずさった。その後を轢き飛ばすかのように、猪が走り抜ける!
「ここにきて、ネコさんを傷つけるわけにはいきません!」
リースリットが叫び、構える。
「零さん、ネコさんを守ってあげてください! 残りのメンバーで、一気に仕留めましょう!
さぁ、シルフィオン!」
その言葉に応じるように、風の精霊はリースリットに力を貸す。剣先にのせた、風の極撃。振り下ろされた刃は、さながら巨大なハンマーによる圧力のように、猪に叩きつけられた。が! 猪もただの獣ではない! があう、と雄たけびを上げるや、その衝撃に耐えて見せる!
「……!」
リースリットが歯噛みする。決して弱い相手ではない!
「こっちです!」
トールが叫ぶ。
「ネコさんにはいかせない!」
猪は激しいいななきをあげると、トールに向かって突撃! 身構えたトールが吹き飛ばされる!
「トール!」
零が叫ぶ。
「いえ、予定通りです……もう一撃を!」
「ええ、シルフィオンッ!」
リースリットが再度、風の極撃を振り下ろす。トールを狙うために体勢を崩していた猪は、その一撃を今度はまともに食らう形となる! がおうん、と世界を震わせるような風の叫びが、猪を大地に叩きつける! ぶ、もう、と猪が絶叫! そのまま、ぐにゃり、と猪が倒れ伏した。
「大丈夫ですか?」
グリーフが、トールへと駆けよる。僅かにふらつきながら、トールが笑った。
「あはは、私より重傷な方がいますから、そちらを」
そういって指さす先には、ぼんやりとこちらを見つめる、ネコの姿があった。
「皆様は――?」
そう尋ねるネコへ、零が応える。
「助けに来たんだ。君を」
「助け?」
小首をかしげた。
「非効率的です……僕は……仕事に失敗しました……」
「失敗ではありませんよ」
グリーフが言う。
「鉱石を、貴方は確保していました。少し慌てて、落としてしまっただけ。
私たちが、それを拾いなおしました。だから、失敗ではありませんよ」
グリーフが、静かに微笑んだ。
「まだ、わからないかもしれません。でも、私たちが助けに来たことを、覚えていてください。
それが……メーテルさんの、愛情なのですから」
「ネコさんの確保を確認しました!」
珠緒が言う。あちこちから感じる猪の気配から逃れながら、ニャンタルがガッツポーズを決めて見せた。
「よっしゃー! 万事解決じゃな! あとは我らが脱出できれば!」
「ここまで来て、俺達が遭難、なんて情けないことはできないよね?」
アルムがそういうのへ、蛍が頷く。
「当然、帰るまでが課外授業だもの!
珠緒さん、偵察お願い! さぁ、帰って、ボクたちもネコさんに会いに行きましょ!」
「ええ、任せてください、蛍さん」
珠緒が笑い、ファミリアーと視線を共有する。
あれほど重かった雨は、まるでイレギュラーズたちの作戦完了を祝福するように上がっていた。
さした陽光は、ささやかな祈りと道行を、イレギュラーズたちに照らしてくれているかのようだった。
イレギュラーズたちが森から脱出し、ネコとともに依頼主のもとにかえったのは、それからすぐの事である。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
迷子のネコも、今は修理のために休養中のようです――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
ネコを探しましょう!
●成功条件
ネコの生存及び救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
魔法使いメーテルの作り上げたゼロ・クールN.3.C.Oナンバー、通称『ネコ』が、南西に存在するハウドレドの森で消息を絶ちました。
皆さんは、魔法使いからの依頼を受けて、このネコを救出しに行かなければならないわけです。
ですが、ただ漠然と探しているだけでは、おそらく救出は難しいでしょう。なぜなら、この森には強力な魔猪が存在するというのです。
皆さんが魔猪に撃退される可能性もありますし、ネコが魔猪に発見され、完全に破壊されてしまう可能性もあります。
速やかに、効率よく、探し、撤退する必要があるわけです。
作戦決行タイミングは昼。天候は雨。灯りはありますが、曇り故に少々薄暗いかもしれません。また、雨のために視界も悪いです。
視界を補助するスキルや、猫を見つけるための探索スキル、或いは、効率的に動くためのプレイングなどを駆使し、救助を完遂してください。
●エネミーデータ
魔猪 ×???
巨大な怪物イノシシです。2m級のサイズを持つ、凶暴で凶悪な奴になっています。
特筆すべきは、生命力と、反応速度。先手を取って、強烈なぶちかまし攻撃を行ってくるようです。これを食らえば、吹っ飛ばされてしまうでしょう。
森の中を徘徊しているほか、総数が分りません。絶対に遭遇しない、という事は不可能ではありますが、それでも遭遇回数を減らすことは可能なはずです。うまくやり過ごしてください。
●救助対象
ゼロ・クールN.3.C.Oナンバー
ネコ、と名付けられたゼロ・クールです。健在酷く破損しており、自力で行動などは不可能です。
速やかな救出を願います。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
Tweet