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シナリオ詳細

カウェルナエ・プロフンダム・ヴォラックス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ラサの研究所にて
 余人が見れば、それは雑多なおもちゃ箱。あるいは整然としすぎたガラクタ置き場。
 魔術の錬成に使う壺や概念魔術の投影に用いるキャンパスなどが並ぶそこは、かの有名なる古代魔術の研究者ナディラ・アミラの研究所である。
「やあ、よくきたね――イレギュラーズ」
 椅子に腰掛け一冊の本を手に撫でていた女、ナディラはあなたへと振り返り優しく微笑む。
 黒いローブで身を隠しつつも、女性的なシルエットはくっきりと浮かぶ彼女の身体。民族的理由で肌を晒すことを禁じられていると言うが、彼女はむしろその禁を間接的に破っているようにすら見えた。そのくらいには非常識で、そのくらいには挑戦的な女であるのだ。
 あなたをこの研究所へ呼びつけ、依頼をしようというこの女は。

「『これまでのあらすじ』というのは嫌いかい?」
 苦笑交じりに言うナディラが説明するには、彼女が今手にしている一冊の魔導書『アルカナ・アルマエラファ・アルカディマ』は古代のエルアスワッド遺跡にて厳重に封じられていた品である。
 だがただ手に入れれば開けるというものではなく、開く者に対して物語の世界に取り込んでしまうというトラップまで仕掛けられていた。
 だがそんな厳重すぎるセキュリティを、イレギュラーズは様々な才能と機転で突破してきたのである。
「そしてようやく、この本に書かれている『コード』を解析することが出来た。
 それによれば……この本は魔術のレシピを書いたものであると同時に、この本自体がマジックアイテムであったらしい。――私の様相通りに」
 そうそう、とナディラはあなたに手をかざしてみせる。
「まだ言っていなかったね。私がアルカディマを手に入れたがっていた理由さ」
 古代魔術の研究といってもその内容は多岐にわたる。治癒薬を求める者も居れば古代生物の使う魔術を調べる者もいるだろう。
 そんななかでナディラが専門としていていたのは認識魔術であった。
「認識魔術。知ることで発動する魔術。君はそうだな……『ムラサキカガミ』の噂話は知っているだろう? 何歳までに覚えていると呪われるというあの眉唾な噂だ。
 けれどそれが実在するとしたら? 本を開き特定の文字を読むことで異空間に人間を引きずり込み、そしてエサとして喰らってしまう恐るべき『認識の魔物』がいるとしたらどうだ?
 そんなものを閉じ込める、あるいは消し去ることは難しい。『知ること』を止めるというのは、本を燃やすことほど簡単じゃないのでね。
 けれど今、ここに対抗手段を得た」
 魔導書アルカディマを掲げてみせるナディラ。
「これは対象を物語の迷宮に閉じ込める認識魔術を備えた道具だ。元々はトラップとして発動したが、コードを操れば特定対象を閉じ込めることだって不可能じゃない」

 ここまで語ったことで、もし勘の鋭い人間なら気付いていることだろう。
 実際、場に集められたアルム・カンフローレル(p3p007874)は気付いてしまった。
「あっ! もしかして、それで封印したい認識の魔物がいるんだね!?」
「まてまて、まさか俺たちにそれを見学させるためだけに呼び出したなんてワケねえよな」
 身を乗り出し、苦々しい顔をするハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)。
 ラダ・ジグリ(p3p000271)はといえば、乗りかかった船だという顔をしている。
「認識の魔物を捕らえるには、認識する必要がある。
 先の話でいうならば――『わざと認識の魔物のテリトリーに入り込み、抵抗し、コードが完成するまで粘れ』という依頼かな」
「ほう、実に話が早い」
 ナディラが『だから君たちに頼むんだ』とばかりに手を叩いた。

●認識の魔物『ヴォラックス』
 カウェルナエ・プロフンダム・ヴォラックス――通称『ヴォラックス』。
 それは洞窟の奥に刻まれた一枚の壁画から始まった認識災害であった。
「見た者は眠りにつき、翼もつ獅子の群れに襲われ続けることになる。
 魔術的に抵抗することは不可能ではないが、出回った転写絵がその被害を拡大してしまってね……抵抗力のない者は食い殺される一方となるだろう」
 ナディラは畳んだ紙片を一枚テーブルに置いた。
「今から君たちにはその絵を見ることで、ヴォラックスの洞窟空間へと転移してもらう。
 私はその瞬間からコードを解析し、アルカディマの魔術をぶつけることでこの認識災害を終わらせる。
 君たちはそれまでの時間を、稼いで貰いたい」
 要するにモンスター相手の逆タイムアタック。時間稼ぎだ。
「虚弱な人間を放り込むことは、さすがに私もできないのでね。信頼できる君たちにこそ……頼みたいんだ」

GMコメント

※こちらはライトシナリオです。短いプレイングと選択肢のみで進むアドリブいっぱいのライトな冒険をお楽しみください。

●シチュエーション
 異空間へと入り込み、ヴォラックスという魔物と一定時間戦い続けなくてはなりません。
 ヴォラックスは数も無限に存在し、もっている力も不明。『翼有る獅子』と言われてこそいますがその形状が変化することだって充分考えられるでしょう。
 このような未知の戦いに、あなたの才能をフルに発揮し対応しきるのです。


アドリブクローズアップ
 このシナリオは戦闘描写が多く、スタイリッシュに演出されます。
 武器や技など全般的にアドリブが入りますが、特に注目して描写してほしい部分を選択してください。

【1】武器
装備している武器やアイテムをクローズアップします

【2】スキル
活性化しているスキルをクローズアップします

【3】非戦・ギフト
戦闘のフレーバーとして用いられる非戦スキルやギフトをクローズアップします


戦闘スタイル
ここではあなたのバトルスタイルを選択してください。

【1】アタッカー
 率先して攻撃スキルをどかどかと撃ち込みます。
 威力やBSなど形は様々ですが、あなたは頼れるチームのアタッカーとなるでしょう。
 相手にバフをかけたりするのもアタッカーに含まれます。

【2】ディフェンダー
 優れた防御ステータスを用いて敵の攻撃を引き受けます。かばったり引きつけたりは場合によりますが、あなたがいることで仲間のダメージ量は大きく減ることでしょう。
 味方や自分を治癒することで戦線を支える役目もここに含まれます。

  • カウェルナエ・プロフンダム・ヴォラックス完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)
あなたは差し出した
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
えくれあ(p3p009062)
ふわふわ

リプレイ

●物語の迷宮と怪物
「なるほどねぇ、魔物の封印か……。最初からそう言ってくれればいいのにね!」
 コーヒーにちいさく口をつけながら、『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)は明るくそう言った。
 同じようにコーヒーをちびちびやっていた『ふわふわ』えくれあ(p3p009062)がナディラ・アミラをちらりと見る。
「最初から知ってたの?」
「そう言ってみたいところだが、残念ながら違うね」
 ナディラは真っ黒いコーヒーを見下ろしながら苦笑する。
「アルカディマがいかなる古代魔術であるかを予め知っていたわけじゃない。解いて、調べて、使えると分かったから使ったにすぎない」
「世の中には――」
 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が話に差し込むようにして呟いた。
「『手を付けたいが丁度良い手段がないので放置しているもの』が山ほどある。今回のカウェルナエ・プロフンダム・ヴォラックスもその一つだろう」
 そうだろう? と視線で問いかけるとナディラは肩をすくめることで肯定した。
「私の目的はあくまで研究でね。極論、人助けも世直しも興味が薄いんだ。進んで犠牲を出そうというつもりはないが、知らない誰かの犠牲を気にしてやったことでは別にないんだよ」
「それはまた、クレバーな意見だ」
「けど、『殺せない怪物を殺せない物語で封殺できる』と考えれば、なかなか興味がそそられる話じゃあないか」
「そんなものかねえ」
 『あの子の生きる未来』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がいやに苦笑を深くして言うが、世の大半はそんなものかもしれないと頭の片隅では思いもした。
 『あなたは差し出した』ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)が椅子に深くもたれかかる。
「ま、なんでもいい。金が出るなら仕事をするまで。それにここまで付き合ったんだ、最後まで付き合ってみたいって気持ちもあるしな」
「そんなに付き合いがあるの?」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が興味深そうに尋ねると、『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が依頼書のページをめくりながら感心したように頷いた。
「へえ、アルカディマを古代遺跡から入手するところからやってるんだ。それは確かに、付き合ってみたくなるね」
 古代遺跡の謎を解き、異様な図書館から一冊の魔導書を手に入れる。
 魔導書の罠を解き明かし、そのコードを手に入れる。
 簡単に言っては見たが、どちらもそう易々とできることではない。
 気持ちの上でも、その先が気になるのは当然といったところだろう。
「それで……そのヴォラックスというのはどういう魔物なのでしょう。『認識魔術を行使する魔物』ということでしたが」
 専門化に話を聞いておこうということで『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)がナディラに目を向ける。
「実のところ、ヴォラックスは『翼有る獅子』と定義されているもののその実体はない。概念として存在するだけの、形而上の怪物なんだ。ある文章を読ませることで対象を特殊な空間に取り込み、喰らう。文章はコピーが可能でどれだけ出回るかわからない。
 読みさえしなければ危険はないが、そうならないよう対処するのが難しいんだ」
「それで、魔物を物語の迷宮に閉じ込めてしまおう……と」
 迷宮とは元来、魔物を閉じ込めるためのものと言われている。
 概念魔術の魔物を概念魔術の迷宮で閉じ込めるのだから、理にかなっているといえるだろう。
「とはいえ、魔術にはかなりの時間がかかる。その時間を、稼いでもらいたいというわけさ」
「やれやれ」
 ラダはライフルを手に取り、立ち上がる。
「持久戦は得意ではないんだが……ここまできたらそうも言ってられないな。いいだろう。いつ始める?」

●ヴォラックス
 奇妙な儀式めいたものを行った直後、八人は無限の荒野に立っていた。
「ここは……?」
 バクルドが周囲を見回すが、それが荒野であることしかわからない。いや、それ以上の情報などないのだろう。必要ないと言っても良い。
「上だ!」
 ヴォルコットがそう叫ぶに応じて横っ飛びに回避するバクルド。
 ズドンと地面を穿つように着地したのは、確かに有翼の獅子であった。
 大きさは通常の獅子よりも少し大きい程度か。今まで色々なモンスターと戦ってきたバクルドの直感からすれば、そう脅威になるモンスターにも見えなかった。
「とりあえず、まずはコイツからだ」
 愛用のクラシックライフルWカスタム。取り回しを良くするために銃身と銃床を切り詰めたレバーアクションライフルだ。
 そいつを連続して撃ちながら、バクルドは有翼の獅子ヴォラックスとの距離を開ける。
 それでも飛びかかってこようとするヴォラックスに、早速義手内部に搭載された機構を発動させた。
 ぱかんと手首の部分で割れ大砲の形となったそれは、シェル弾を発射。シェルは散弾銃のように強磁性を帯びた鋼鉄球を広範囲にばらまくよう展開した。
 バクルドの定石だ。まずはこの弾で相手の動きを阻害し、そこから有利をとるスタイルなのだ。
 一気に距離を詰め。腰から抜いた片手剣で斬り付ける。
 有翼の獅子ヴォラックスは派手に血しぶきをあげ、その場にぐったりと倒れ込んだ。
「……って、おいおいおい、もう終わりか?」
「いや、そいつは認識魔術の魔物だ。『知っている限り遅いかかる』」
 見ろ、とヴォルコットが上空を指さす。
 すると十頭近くに増幅したヴォラックスがこちらめがけて突っ込んでくるのが見えた。
 えくれあが応援を開始。
「サヨナキ〜、チャンネルー! こんにちは、えくれあです!」
 応援と一緒に動画撮影まで開始した。認識の魔物に対する挑発とすら言える行為に、ヴォラックスたちはえくれあへと殺到を始めた。
 いや、えくれあが保っている範囲強化効果を警戒してのものだろう。えくれあを優先して倒すということは、それだけ戦術的有利を取りやすいということでもあるのだから。
「わわわっ!」
 空から突進し、爪による斬撃を繰り出してくるヴォラックス。えくれあはぴょんと飛び退きその攻撃をギリギリで回避した。
 いや、ギリギリではない。そのもちもちしたボディに結構なダメージを喰らってしまった。
 血が出る足に治癒の魔法をかけながら、それでも皆の『応援』を続けるえくれあ。
「こういうときはどうするの!?」
「とりあえず全員ぶっ殺す!」
 ヴォルコットは腰から抜いた拳銃に手を添え、ヴォラックスの額めがけて発砲。
 そのまま立て続けに十頭近いヴォラックスたちのヘッドショットをキメ続けた。
 血を吹き地面に崩れ落ちるヴォラックス。
 だが、その死体は渇いた大地に落とした水のごとくすぐに消えてしまった。
「まずは数を増やしてきた。こういう『対応力をもったモンスター』ってのはこっちのスタイルに対応してくる。とにかく新しいことをやり続けるってのが、勝利の定石だぜ」
 そう言っている間にヴォラックスは再び数十頭の増幅を果たした上、口から炎を吹き出し遅いかかってきた。
「ほらみろ、射程に対応してきやがった!」
 ヴォルコットは吐き出された炎を横っ飛びに回避し転がると、転がりながら銃をスピードローダーによってリロード。手首を返す強引なアクションで弾倉をおさめると、ヴォラックスめがけて連射した。
「別に全員倒せってわけじゃあない。全員、できることをやっていけば負けはないはずだぜ」
 ヴォルコットの言葉に頷いて、ウィリアムはまずは『ソリッド・シナジー』の魔術を唱えた。
 たったの一小節で発動させた魔法は彼の中の魔力を循環させ、魔術の発動効率を格段に上昇させる。
「そういうことなら……久しぶりに暴れてみようかな?」
 ウィリアムは炎を吐き出しながら迫るヴォラックスめがけまずは突進。
 彼の周囲に展開した無数の魔方陣が自動的に魔術防壁を展開し、炎を受け流していく。
「まずは、最大威力で」
 パッと手を開くと魔方陣が手のひらから複数展開。伸びたそれは急速に圧縮され手首を覆う光となると、ウィリアムは拳を握りしめた。
 高圧縮された破壊の魔法。一時期は『歩く砲台』などと呼ばれた彼の破壊力が、その拳ひとつに圧縮されたのだ。どんな現象をもたらすかといえば、そう――。
「――フルルーンブラスター、点火」
 殴りつける動作と共に発動した魔術はヴォラックスを『爆散』させた。
 まるで水風船でも破裂したかのような、あまりに見事な破壊である。
「っとと、やりすぎたかな? じゃあ出力を抑えて――っと」
 ウィリアムは微笑みを絶やすことなく次の魔術に移行する。
 ヴォラックスは彼の破壊力を恐れてのことか爪を繰り出しにかかるが、ウィリアムが展開している魔術障壁はそれを易々とガード。
 ウィリアムは大きく飛び退き距離を開けると、手のひらを翳してそれを大砲に見立てた。
「――界呪・四象」
 四つの魔方陣が同時展開。同時発動。一体のヴォラックスめがけて飛んでいくと、その身体を激しい炎や氷に包み込み破壊してしまった。
 それを見て負けてられないなと微笑んだヨゾラ。
「呑み込め、泥よ……数多の獅子を飲み干せ!」
 えくれあに群がろうとするヴォラックスたちめがけて『星空の泥』を発動させた。
 混沌に揺蕩う根源的な力を煌めく星空のような泥に変え、広域対象の運命を漆黒に塗り替える魔術だ。
 ヨゾラがケイオスタイドを自分流に変えた技であり、別名は――『星海・星空の海』。
 ドッと吹き上がった煌めく泥がヴォラックスたちを包み込み、その動きを抑え込んでいく。
「そこを離れて、攻撃するよ」
 えくれあに退避するようによびかけると、ヨゾラは今度はヴォラックスたちへと走り出した。
 既に発動している『煌めく星空の願望器』。可能性の拡張ともいうべきそれは、ヨゾラの魔術効率を格段に引き上げている。そうして生み出されたのはおなじみとも言える彼の必殺の魔術。
 『星の破撃』――別名『夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)』である。
「――ッ!」
 神秘的破壊力を一点に集約し零距離で放つという星空の極撃。直撃をうけたヴォラックスがあまりの破壊力にはじけ飛ぶ。
「うわあ、皆派手だなあ」
 などと言いながら、えくれあたちを守るように立ちはだかったアルムは杖を空に翳した。
「輝き癒やせ、コーパス・C・キャロル」
 波紋のように広がった煌めきが、ヴォラックスの吹き付ける炎のダメージやそれによって生じた火傷を治療していく。
 が、相手も相手で今度は威力に振ってきたらしく、金色のヴォラックスが現れ地面に着地、開いた口から激しい光線を発射してきた。
「うわわっ!?」
 慌てるえくれあだが、アルムはそれでも怯まない。
 前にザッと飛び出すと、対抗するように杖を突きつけた。
「破壊だけが戦いの術じゃない。見てて」
 アルムから発された光が治癒の力となり、ヴォラックスの黄金の砲撃をカウンターヒールによって相殺してしまった。
「……っと、こんな所かな。倒すのは任せてもいいかな?」
「勿論。回復支援を頼みます」
 そう言ってまえに出たのはエリスタリスだった。
 自らを守る強固な魔術障壁。そこから電波を放つように展開する見方への強化効果。
 ここまで結構な時間戦ってきているが、エリスタリスに消耗の色はない。なぜなら、彼女のスキルの消費エネルギーはまさかの『ゼロ』なのである。
 ヴォラックスが黄金の砲撃を何度も放ってくるが、それをエリスタリスは自らの魔術障壁のみで撃ち払う。もし魔術に詳しいものがいるなら分かるだろう。
 障壁に命中したその瞬間、確かに破壊された筈の障壁がエリスタリス自身の治癒魔法によって瞬時に修復されているのだ。
 もはや壊れない壁であり、倒れない盾だ。
 エリスタリスはずんずんとヴォラックスへと詰め寄るようにゆっくりと歩くと、その迫力にヴォラックスは思わず半歩下がってしまった。
「逃がしません」
 突き出す手。放たれたのは魔術のダーツ。
 通常ではありえない距離と軌道を描いたダーツはヴォラックスへと命中し、針に仕込まれた魔術を解放する。
 バリッと電撃が走り、ヴォラックスは膝をついた。
「ああ、これは……撃ちやすいな」
 隙を狙っていたラダはライフルのスコープを覗き込み、発砲。
 それもただの発砲ではない。
 デザート・ファニングSS。アン・バゼットのファニングショットをカスタムしたというそれは、砂漠の砂嵐を思わせるような強烈な連射をヴォラックスとその周囲で炎を吐くヴォラックスたちへと浴びせかけた。
 一人の味方に集中した敵を一網打尽にするのは容易い。それを今まで幾度となく行ってきたラダであればなおのこと。
「しかし……有翼の獅子というわりにさして飛ばないな? 七面鳥の如く撃ち落とすつもりだったんだが?」
 ラダがシニカルにそう言うと、ヴォラックスは天空めがけ吠えた。
 ゴオッという嵐にも似た咆哮が空を覆い、そして巨大なヴォラックスが何十体と空から降ってくる。
 ラダは直感する。
 こちらが対応すればするほど相手は対応を強め、次第にこちらの手がなくなっていく……ということなのだろう。
 だが、同時にラダは勝利も確信していた。
「ヴォラックス……だったか? こちらの手を探るのに時間をかけすぎたようだな。とっくに、『時間稼ぎ』は済んでいるぞ」
 見ろ、とラダが空を指さすと、そこにはアルカディマの怪物。
 ヴォラックスのそれまでの強さをまるで無視したかのように塵に変えてしまうと、無限の荒野が物語空間へと塗り替えられていく。
「物語迷宮へようこそ。永久に、読み続けるがいい」

●かくして災いは去って
 パタン――と本が閉じられる。ナディラは鎖を本に巻き付けると、特殊な魔術を行使することで本が永久に開かないよう拘束をかけた。
「これでよし……ね」
「もうこれでヴォラックスは人を襲わないの?」
 興味深そうに雁字搦めの本を見下ろすえくれあ。
「ああ。ヴォラックスは永久にアルカディマを読み続け、対応し続け、そして決められたループの中を周り続けることになる。怪物に怪物をぶつけたわけだ」
「強引なのか合理的なのか……はは、でもちょっと面白いかも」
 アルムは微笑み、そしてストンと椅子に腰を下ろす。
「けどつかれたな。結構長い間戦ったから」
「確かに……」
 同じように椅子に腰を下ろしたヨゾラ。
 ウィリアムは微笑んで肩をすくめた。
「魔術をいくらでも行使できるとはいっても、体力を使うからね。ずっと集中しているのもつかれるものさ」
「そうでしょうか……確かに、そうかもしれませんね……」
 まわりよりも遥かに疲れの少なそうなエリスタリスが、壁にそっともたれかかったまま言った。
「で、その本はどうする?」
 ヴォルコットがナディラに問いかけると、鎖でかためた本をそっと持ち上げてナディラはシニカルに笑った。
「このまま封印するさ。研究材料としては面白いが、解析しきったコードにはあまり興味がわかないからね」
「結構なことだ。これ以上被害が拡大しないなら、それに越したことはないからな」
 ラダはやれやれといってライフルを担ぎ直した。

 報酬を受け取り、研究室から出て行くイレギュラーズたち。
 こうして、あるひとつの物語は終わりを迎えたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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