シナリオ詳細
<アンゲリオンの跫音>雷響の戦詩
オープニング
●神託
第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
●『第一の預言』
「やっと捕らえることができました。彼の者、いかがいたしましょう」
『遂行者』アルヴァエルは聖都フォン・ルーベルグを遠くに臨みながら、物憂げに手をふった。
「大事の前である。よきにはからえ」
「……仰せの通りに」
従者がさがる。
合図でもあったかのように、激しい雨が降り出した。
「やっとであるか」
アルヴァエルは御座からゆるりと立ち上がると、配下の軍勢に進撃を命じた。
「目標、フォン・ルーベルグ。背教者に慈悲はいらぬ。間に立ちはだかるものは全て壊し、焼き払え」
虚空をゆるがせる連続的な雷音と、台地に突きさすような豪雨とが、遂行者の軍勢の足音を掻き消す。
目もくらむ稲妻がひっきりなしに光った。
それがパラパラと鳴りながら、影の天使たちに率いられ、進む星灯聖典らを青白くうつしだす。
聖都まで馬で半日の距離での出来事である。
●
「――ということだ。今すぐ止めに行かないと、まずこの村が潰されるぞ。そんな義理もないのにわざわざ知らせてやったんだ、ありがたく思え!」
確かに怪盗テンショウが持ち込んだ情報はとても重要なものだ。それは認める。
が、どうしてこんなに偉そうにされなくてはならないのか。
『奪うは人心までも』 結月 沙耶 (p3p009126)はずぶ濡れのテンショウを睨みつけた。
「その話、本当だろうな。嘘だったらただじゃおかない……今回は情報に免じて見逃してやるが」
「はぁ? なに上から目線で言ってやがる。リンネ、お前のそういうとこが昔っから嫌いなんだよ!」
「お互い様だろ!!」
ふん、と強く鼻を慣らして互いにそっぽを向いた。
『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)が見かねて、タオル片手に割って入る。
「ほら、これで体を拭け。しかし、どうしてお前が『遂行者』アルヴァエルの動向を把握しているんだ?」
テンショウは視線を斜め上へ泳がせた。
「それは……あれだ。あれ」
「ははん。さてはアルヴァエルから何か盗みだそうとして失敗したな」
「バカを言うな。可愛く、カッコよく、えげつなく! オレに盗めない物はない! 下調べに忍び込んでいただけだ」
沙耶がニヤニヤと笑いながら、半眼で髪を拭くテンショウを見る。
「あ、お前、信じていないな」
「大方、捕まって殺されそうになったところで、なんとか逃げ出してきたってところだな」
図星を刺されてテンショウが歯がみする。
「やめろ。テンショウ、アルヴァエルのところから逃げ出したのは何時間前だ?」
「だ・か・ら、逃げ出したんじゃない。下調べが済んだから一旦退却しただけだ」
そんなことはどうでもいい、とクルールは顔の横で手をおなざりに振る。
「……3時間前だ」
豪雨の中、馬を駆けに駆けさせてテンショウがこの村にやって来たのが2時間前。偶然か、それともここに沙耶 がいると知っていて来たのか。ともかく、進軍前の位置から推測して、ここにアルヴァエルたちがやってくるのは時間の問題だ。
「いそいでイレギュラーズを集めよう」
クルールは立ち上がると、豪雨の中、村に一軒だけの宿屋を飛び出していった。この村から聖都までは馬を走らせて30分ほどの距離だ。ギリギリ間に合うか……。
沙耶は真面目な顔でテンショウと向き合った。
「この雨だ。テンショウが知らせてくれなかったら直前まで気づかなかったと思う。ありがとう」
テンショウのことだ。何か思惑があってのことだろうが、危険を知らせに来てくれたことには違いない。
「ふん……せいぜい頑張れ。オレは高みの見物をさせてもらうぜ」
- <アンゲリオンの跫音>雷響の戦詩完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月24日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
雷光が闇を切り裂き、轟音が大地を揺るがす。
村の建物や木々、路地の全てが、豪雨の中でほとんど見えないほどの暗闇に包まれていた。
降りしきる雨の中、影の天使たちに率いられた星灯聖典たちが闇に紛れて侵攻する。
『遂行者』アルヴァエルは御輿の上で立ち上がり、雷光によって出来たその影が不気味なまでに伸びる中、闇に向かって言葉を放った。
「闇の帳が今、我らの前に広がっている。雷雨の災厄、神秘の力が我々を選んだのだ。今、この時が、信仰を示す時である! 悪しき者たちの罪を浄化し、真の救済へと導く。力を示し、神聖なる怒りを放ち、我らの手でこの地に真の秩序を築くのだ!」
狂信者たちはその言葉に応え、村の建物に向かって怒りと狂気を込めた攻撃を始めた。
最初に破壊されたのは小さな農家の家だった。狂信者たちは石を手に取り、窓を叩き割り、壁を打ち壊した。
村の中心にある教会の尖塔が雷光に照らされ、不気味な輪郭を描く。
(「おいおい、なにをしている。リンネ、イレギュラーズ!」)
あの情報屋、間にあわなかったのか。
否――。
尖塔の上で怪盗テンショウは見た。
鷹のような速さと優雅さで、遥か上空から影の天使目がけて急降下する『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の姿を。
落雷が近くで炸裂し、雨がアクセルの翼を打ちつける。
いち早く敵襲に気づいた影の天使が、剣を抜いた。星灯聖典たちも気づいて武器を振り上げる。
「おっと、オイラの敵は君たちじゃないよ」
星灯聖典たちの頭上すれすれで急上昇したアクセルは、体をねじりながら影の天使に向けてヴァイス&ヴァーチュを放った。
両手から放たれた光と闇の光線は、まるで宇宙そのものから湧き出る力のように、空を翔け落ちる。
半身を抉られた影の天使を守るように、星灯聖典たちが上から覆いかぶさった。
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が建物の間から登場する。
「暗闇に迷い込んだ心を救い出すため、怪盗リンネ見参! 愛と希望を奪い去る闇の力に立ち向かい、迷える子羊たちを解き放つ!」
覆いかぶさった星灯聖典の襟首を掴んで引っ張り上げた。
「どいて、邪魔」
沙耶は仰向けに倒れている影の天使の胸に手をつくと、波紋のようなエネルギーを打ち込む。
影の天使は反撃しようと剣を持ち上げたが、沙耶が放ったエネルギーに身体を包み込まれたとたんに凍りつき、まるで時間が止まったかのように動かなくなった。
「はい、一体目。頂きました!」
尖塔の上で怪盗テンショウが歯がみする。
(「リンネのやつ、なに自分一人で倒したみたいな顔でドヤってんだ。ムカつく!」)
ダン、と屋根を蹴ったところで足を滑らせて、悲鳴を上げながら建物の裏に転がり落ちていった。
「ん?」
アクセルが顔を向けた時にはもう、影も形もない。
「いま、誰かが教会の屋根の上にいたような」
ぴかっと空が黄色く光って、重々しい音が響いた。
「近い! あれに当たったら痺れちゃうぞ。オイラ自身は麻痺を無効化できるからいいけど――っと、誰か! 沙耶から星灯聖典たちを引き剥がして」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)がアクセルの声に応える。
「沙耶さん、いま助けます!」
トールは剱神残夢を発動させて無我の果てを目指し、その領域の一端に触れた。得られた力を胸に抱え、星灯聖典たちに向かって低く飛ぶ。
「私は心の灯火を守るために立ち上がりました。あなたたちは悪魔に騙されています!」
沙耶ともみ合っていた星灯聖典たちとその近くで家を壊していた者たちが、一斉にトールへ顔を向ける。
「黙れ、背教者!」
1人があげた怒鳴り声に、そーだそーだの大合唱が加わった。
「黙りません! 罪なき人々の暮らしを壊すことを良しとする、そんな神など何処にもいない。神は私たちとともに在ります」
トールは月光に縁取られた魔法障壁を展開すると、怒り狂う星灯聖典たちを引きつけたまま逃げた。
雨のスクリーンに映しだした神がもっとも神々しく見える場所へ誘う。
勝手に行動し始めた星灯聖典たちを、影の天使たちが追いかける。
「おっと、この先には行かせねぇっす」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は星灯聖典たちが途切れたところへ身を滑り込ませると、両腕を開いて道を塞いだ。
三人並べばいっぱいの路地で、走ってきた影の天使3体のうち2体をがっちりブロックする。
「あんたらの言う間違った歴史は、ここに居るっすよ!」
慧の中に降ろされた、侵されざるべき聖なるかなを畏れたのか、影の天使たちがたたらを踏んで立ち止まった。
強く雨が地面を叩く音だけが、狭い路地に響く。
影の天使たちが剣を振り上げて襲い掛かってきた。
すかさず、慧は夜叉歪角から炎を湧き出させた。炎は熱気と共に立ち上り、たちまちのうちに燃え盛る壁となって敵の突撃を阻んだ。
強引に突破した影の天使1体を、金剛の闘氣を纏った『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が正面から豪快にぶちのめす。
「命の惜しくない奴からかかってこいや。――と、お前ら、そもそも生物じゃねえよな。胸糞の教義とともに、遠慮なくぶっ壊させて貰うぜ。来な!」
昴の体に雨粒が流れ、まるで水中を泳ぐ龍のように躍動した。雷光の煌めきが精悍な体を照らし、
雨水が髪をなびかせる。
残り2体のうち、炎の壁を越えなかったほうが遅いかかかってきた。
昴はまるで激しい川の中で闘い、逆境を乗り越える龍のような一手を繰り出し、迎え撃つ。
破砕の闘気を乗せた拳が触れた瞬間、影の天使は一瞬、光を放つかのように輝いた。黒く薄い体が震え、次第に不安定になっていく。
あとから追いついてきた沙耶が揺らめいていた影の天使を仕留め、逃げ出した手負いの影の天使を上空からアクセルが仕留めた。
●
トールが横を飛び過ぎると、『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)は予め示し合わせていた場所に急いで跪いた。
「来ました! 涼花さん、トールさんが星灯聖典たちをつれて来きましたよ」
雨は冷たく、強風によって濡れた衣服がリスェンの体を引き締める。しかし、リスェン はそれを感じることすら忘れていた。雨粒が顔に刺さり、視界が霞む中、聖堂前広場に入ってきた影を正確に捉えようと目を凝らす。
(「12、3……、ううん、その三倍以上! 50人はいる」)
途中で謎の黒い影に誘導された者たちとあわせ、トールが連れて来た星灯聖典は30人以上に膨れ上がっていた。
どーんと音をたてて、右手の建物の屋根に雷が落ちる。
リスェンはぷるっと体を震わせた。石畳の冷たさゆえか、雷の恐ろしさからか。
雷は昔から苦手だが、そんなことも言ってられない。
指を組み合わせ、聖堂の大きな扉に頭を垂れて祈る姿をとる。
『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)は仲間たちの姿を視界に収めると、念のため、もう一度イオニアスデイブレイクを唱えた。
村に入る直前に、仲間たちにかけておいたが、奇跡を演じている最中に効果が失われてしまうかもしれない。
雷鳴がとどろく中で、涼花は言葉を紡ぐ。
「暁と黄昏の境界線よ。おお、刹那の栄光よ。この闇夜において、我が仲間たちに光を与え、希望と勇気を授けん。我らの心を照らし、暗闇からの脅威に立ち向かわんとする者たちの魂に、誠実な力を注ぎ給え」
涼花の声は静かながらも力強く、言の葉は荒れ模様の空に響き渡る。その瞬間、仲間たちが淡い光に包まれた。
直後、雨のスクリーンに神々しい神の姿が映し出される。
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)はこの村の先祖たちに協力を求めた。
「星灯聖典の人たちは悪神につけ込まれているだけだ。悪い夢を見せられているだけなんだよ。オレたちの敵は執行者と影の天使だけで、星灯聖典の人たちは傷つけたくない。頼む、みんなの力を貸してくれ!」
スクリーンに映し出された神々しい神の姿は、全てを包み込む存在として聖堂の前に立っていた。
その神の姿の周りで一悟の願いを聞き届けた霊たちが、輪舞のように軽やかに舞い、空間に神秘の調べを奏でている。霊たちの姿は透明でありながら、星座のような輝きを放っていて、見る者に神の神秘を感じさせた。
星灯聖典たちが雨に濡れぼそりながら、神秘のシーンに引き寄せられるように広場に足を踏み入れてくる。
彼らの顔には期待と畏敬が半分、懐疑が半分ずつ。まだ全面的に受け入れられないようだ。
雨の中でトールが声を張り上げる。
「本物の神は言っています! 歩む道を間違えるなと! このような破壊行為に加担したところで待つのは破滅への道であると! しかしまだ引き返せるとも仰っています! 武装解除して投降して下さい!」
一悟は魔眼を発動させると、両手を広げながら星灯聖典たちに近づいた。
「その通り。お前たちは騙されている。ここに御姿を現された方がホンモノだ! あそこで跪く女性のように改心して、手にしているものを捨ててくれ」
リスェンは神の足元でゆっくり立ちあがってると、慈愛に満ちた声を雨音に負けない程度にはりあげた。
「わたしも、本当はどの神様が正しいかなんてわからないです。でも! 誰かにとっての背教者は、別の誰かにとっての殉教者…… あなたが傷つけることで、他の誰かが大切なものを失うんです。もうやめませんか?」
濡れた鍬を地面に置く音が、雨粒の音と共に静かに響いた。鍬を置いた星灯聖典の顔が安堵に包まれたかのようにゆるく笑っている。
雨音と共に、一人また一人と、武器が地面におかれていく。
石畳を打つその音には、まるで罪の重荷を背負うことから解放されたような響きがあった。神秘的な存在に向かって謙虚になり、信仰を示す姿勢を取る瞬間を静かに讃えている。
――と、そこへ新たな集団が怒鳴りながら、別の道から聖堂前広場になだれ込んできた。中心に剣を構えた影の天使2体がいる。
「リスェン、トール、改心者を安全な場所へ! 涼花とオレで連中を足止めする」
「わかりました。みなさん、あちらへ」
リスェンとトールが改心した人々を伴って広場を出ていく。
リスェンは市場の入り口で振り返ると、追いかけてきた星灯聖典たちに神気閃光を放った。激しく瞬く神聖の光が、狂信者の心を射抜き、その体を痺れさせた。
「 すみませんが、少しの間おやすみしててください」
それから一悟と涼花に手を上げてふり、「 すぐに戻ってきます。それまでどうか御無事で!」と言った。
トールも遠くから「みんなを連れてきます、頑張ってください!」と叫んだ。
「おう、待ってるぜ」
一悟と涼花は、彼らを追おうとした星灯聖典らの前に立ち塞がった。
「一悟さん、右側をお願いします! 私は左側をやります」
「了解」
痺れて思うように動けない星灯聖典たちをつき飛ばしつつ、影の天使たちが襲い掛かってきた。神気閃光の効果範囲から外れていた星灯聖典たちも、唾を飛ばして怒鳴り、武器を振り回す。
「土砂降りで雷じゃんじゃか……くそ、戦いにくいぜ」
一悟は命中と反応を上げた。足場の悪さを飛行でカバーする。
(「これでこいつらも改心してくれりゃあ、安いモンだけどな」)
襲い掛かってきた星灯聖典をかわしつつ、攻撃を通すゾーンを見極める。
「ここだ!」
胸の前で手と手の間に光球を出現させ、そこから光の柱を飛ばして影の天使にぶつけた。雨に濡れた石畳に足を滑らせて、ペラペラとした影の翼を広げて後ろに倒れる。
派手な水しぶきが上がった。
「光の柱で攻撃なんて、天使のする事っぽくね?」
「一悟さん、油断しちゃダメです!」
黒々とした曇天より一条の稲妻がくねりながら滑り降りてきて、一悟を撃った。
●
ダメージを受けた体が痺れ、一悟はその場に膝をつく。
涼花は自分が相手をしていた影の天使への攻撃を取りやめ、一悟を助けることにした。
「聖なる光輪よ、高らかに輝き続ける者たちに恩寵を与えん。我が手に神聖なる力を託し、痺れし身体に活力を注ぎ給え。柊木 涼花の求めに応じ、至高の奇跡を成し遂げ給え」
光の輪が一悟に降りそそぐ。
間一髪、力を取り戻した一悟は、影の天使が振り下ろした剣を避けることができた。
涼花も振り向きざまに背後から襲ってきた影の天使を魔極タクトで突き倒す。
トールとリスェンが、改心者たちを安全な場所まで送り届けて戻ってきた。
アクセルと沙耶、それに慧と昴も一緒だ。
慧は合流を阻むように群がってきた星灯聖典たちに、ノーモーションから掌底を繰り出した。まるで風が突然に起こったかのように、無音で、しかし猛烈な力でつき飛ばす。
「理由がなんであれ、この村から『奪おう』としてる以上、止めさせてもらうっす」
昴がどすを利かせた声で、なおも武器を振り回す星灯聖典たちを怒鳴りつけた。
「覚悟のある者からかかってこい」
拳を握りしめて、星灯聖典たちに歩み寄る。
と、怖気づいた星灯聖典の人垣が割れた。
アクセルがその間を広げるように飛んで、神気閃光を放つ。
「神聖なる者よ。オイラの手に聖なる力を託し、邪悪を裁く者として立ち上がれッ」
アクセルの声が響く中、激しく瞬く神聖の光が聖堂前広場に広がっていく。その光はまるで星々が降り注ぐかのように、周囲を照らした。
あっけに取られる星灯聖典たちの後ろで、影の天使だけがダメージを受ける。
リスェンが一悟を助けに走り、トールと沙耶がコンビネーションを発揮して影の天使二体を倒した。
一悟と格闘していた影の天使が不利を悟って逃げ出す。
「待ちやがれ!」
追いかけようとした昴を、空高く舞い上がったアクセルが止めた。
「逃げていく。他にいた影の天使も星灯聖典も、村から逃げ出していくよ」
いつの間にか、あんなに激しかった雨も上がり、雲の切れ間から薄い陽の光が濡れた石畳を光らせ始めていた。
(「ぬぐぐ……リンネたちがアイツらとガッツリ戦っているうちにお宝をくすねようと思っていたのに! あの女、村に入ることすらせず引き返しやがった」)
その時、建物の陰で地団駄踏んだテンショウの肩をトントンと叩く者が――。
トールだ。
「あの、あなたも星灯聖典だった人ですか? どこか怪我をされているなら、すぐに手当てをいたします」
「あんな狂信者たちと一緒にするな。聞いて驚け、オレが怪盗テンショウ様だ。かわいさとカッコよさ、そしてちょっぴり辛辣、全部詰まってるぜ!」
「え、えっとぉ……」
「リンネに伝えておけ、次はオレが勝つ、と」
口だけを動かしたエア高笑いを明後日の方角に響かせると、テンショウはトールの制止を振り切って走り去った。
●
「あなたは失くすことの痛みがわかる方ですよね」
リスェンは手当てをしてもなお、顔に後悔を滲ませている男性の手を取った。
「もし、わたしが信じるものを信じていただけるなら、一緒に村の修理をしませんか? 」
男性はゆっくりと顔をあげた。
「あなたの信じるもの……ですか? それは」
「きっとみんなが幸せになる答えはないんですけど、何を信じるかは自分で決めないといけなくて。私は、人々が互いに助け合い、共に幸せを見つけることを信じています」
微笑みあいながら立ち上がった2人のすぐ近くで、トールと沙耶が割れた窓ガラスを壁際に掃き寄せていた。
「怪盗テンショウ……沙耶さんと只ならぬ間柄って感じでしたけど、もしかして怪盗仲間ってやつですか?」
「……同門だ。元の世界で怪盗としてのだけじゃなく、人生の師匠だった方の、な」
「そうでしたか」
「仲間というよりは……ライバルが近いかな。テンショウの奴は私と違って私利私欲で動くわ平気で殺しもするわと在り方は悪寄りだがな」
雲間から顔を出した太陽が、2人と村を温かく照らす。
村の住民たちは戦いの傷跡を癒すために協力し、建物の修理に取りかかる。
一悟は一番初めに壊された家の壁を修復し、アクセルは屋根の修理を手伝っていた。
「一悟君、そこの木を取って。あ、そっちじゃない。そう、それだよ」
「え、これ使うの? 新しく切った方がいいんじゃね?」
「聖都から新しい木材が届くまでの 応急処置だから、それでいいよ」
トントンと金槌で釘を打つ音がリズミカルに響く。
水たまりに、そんな2人に差し入れを持ってきた涼花の姿が写り込む。
「ちょっと休憩しましょう」
昴と彗も一休みすることにした。
「それで、どうだった。潜入させた野ウサギから何か得られたか?」
彗はゆるゆると首を振った。
交戦中にファミリアーで野ウサギを使役し、こっそり敵陣に潜入させておいたのだが、敵が撤退するときによりにもよって『遂行者』に見つかってしまったのだ。
「まさか、殺されたのか!?」
「無事っす」
「よかった。逃げられたんだな」
「逃げてないっす」
怪訝な顔をした昴に彗星はむすっとした顔を向けた。
「アルヴァエルっていうんすか、あの白い奇妙な兜を被った『遂行者』。兎を抱きかかえてこういったんっす。『なんとも愛らしい兎よのう。さて、兎の向うにいる背教者よ。我らの後をつけようとしても無駄だ。いま見せてやろう』って」
直後、アルヴァエルは背後の空間に大きな黒い穴をあけて、手下ともども溢れ出て来た影に飲み込まれ、消えたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
星灯聖典たちの半数近くを改心させ、影の天使を6体以上撃破して、『遂行者』を撃退することに成功しました。
村の端に立っていた家が数件ほど破壊されましたが、その後、イレギュラーズと改心した元星灯聖典たちが、帰ってきた村人たちと協力して立て直しています。
MVPは星灯聖典たちを数多く引きつけた方に。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●依頼条件
・『遂行者』アルヴァエルの軍勢を撃退し、村を守る。
影の天使の3/1が倒れたところで、アルヴァエルと残党は余力を残したまま撤退します。
村の半分以上が破壊されると失敗です。
※事前に村人は避難させています。
●フィールド
聖都フォン・ルーベルグ近郊の村。
激しい雨が振っており、視界と足元がとても悪い状況です。
アルヴァエルの軍勢が近づくにつれて、大地に降り注ぐ雷が激しく、多くなっていきます。
落雷に打たれると感電(BS)し、火傷による流血(BS)が止まらなくなります。
村は囲いも何もなく、襲われればひとたまりもありません。
敵は目につく建物を片っ端から壊しながら、まっすぐ聖都を目指そうとします。
※事前に村人は避難させています。
●敵 『遂行者』アルヴァエル
謎の多い『遂行者』です。
最後方で指揮を取っています。
影の天使の1/3が倒されると、全軍に撤退を命じます。
● 敵 影の天使 ×15体
ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にそっくりな存在――でしたがディテールが上がり『影で出来た天使』の姿をして居ます。
不滅でもなく、倒す事で消滅します。
武器は剣、歌声で味方を支援したり、敵にBSを与えたりしますが、今回は雨と落雷のせいで歌えないようです。
後述の星灯聖典たちを1体につき複数人従えています。
●星灯聖典 複数人
天義各地の一般市民や騎士たちがルスト派の勢力『星灯聖典』に属し聖騎士グラキエスを崇拝するようになった状態の者たちです。
彼らは『星灯聖典』に属していれば失ったものを取り戻せるとかたく信じており、そのために身を粉にして協力しています。
すべて人間です。特別な力はありません。武器は鍬や鍬、なた、斧等です。
殺しても問題ありませんが、不殺にして捕えた方が良いでしょう。
●関係者
・怪盗テンショウ
アルヴァエルが所持しているお宝を狙って、一度は捕らわれたものの、命からがら逃げ出しました。
どんなお宝を狙っているのかは分かりませんが、アルヴァエルたちがイレギュラーズと戦っている隙に再び盗みを働こうとしているようです。
戦闘には一切加わりません。
イレギュラーズが村の中心まで押し込まれて、アルヴァエルが村の端に到達した時点で動きだします。
逆に終始イレギュラーズが優勢であれば、最後に捨て台詞を残して去ります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●
よろしければご参加ください。お待ちしております。
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