恩人だなんて…ふふ、でも否定してはいけませんね。どういたしまして

あら、そうなんですね…あの人と話を……少し、時間をいただくかも
後は、そうですね。一度お開きにしましょうか…少し、忙しくなってしまいましたので

いやぁ、オレって見捨てられても文句言えないくらいのロクデナシだからさ……
おまけに少なからず破滅願望を抱えてるときたもんだ。
そんなやつに言葉を掛け続けてくれたんだ。マリエッタはオレにとって恩人みたいなもんさ。

……いつか、も●う●ひ●と●り●の●魔●女●とも話がしてみたいな。
価値観とか性格とか全然違うのかも知れないけど、そいつ存在を消したいとか考えてるわけじゃないんだろ？

ふふ、そんなに喜んでくれるなら、何よりですよ
断りなんかは島世話をよ。私をどう捉えてくれるか、ですし…こちらこそありがとうございます

……そ、そっか！
よかった、ありがとうなマリエッタ！
断られたらどうしようかと思ったぜ……(小声でぽつりと)

そのぐらいでしたら、別に構いませんよ？
私の言葉でよければ、いくらでも心の内に残してください。それで、貴方が少しでも救われるなら

あー……えっとさ、流石に弟子にしてほしいとは言わないけど
アンタのことを……ええと、そうだな、『心の師』だと思っても……いいかな？
言いふらしたり迷惑掛けたりはしないからさ。

オレは臆病な癖に傲慢で碌でもない男だ。
そのうえ、自分が誰なのか時々分からなくなることだってある。
そんなときに、マリエッタの言葉を思い出せば自分を見失わずに済む気がするんだ。

だから、その……
……………………だめ、かな？

弟子や使い魔、ですか？
ううん、力の使い方を軽く指南する、といった程度の弟子ぐらいしかいないですし
使い魔というのはそもそもいませんね

……そうか、それはお見逸れしたな。
ひとは見かけによらないもんだ。

強くなった……か。
そうだよな、最初から強いやつなんていないよな。
”強くならざるをえなかった”やつだって、きっとたくさんいるよな……。

――――なぁ、マリエッタ。話は変わるんだが。
アンタ、弟子とか使い魔とか、いたりするか？

ええ、彼女です。
ふふ、一番凄いことする、という認識に改めたほうが良いかもしれませんね

と、誰だって不安や戸惑いはきっとあります。
けれど、強さがあって、皆歩けるから可能性を絶やさず進んでいける、のかと

強い、のではないんです。強くなった…と、いうべきでしょうね

…………ユーフォニー、か？
覇竜の依頼で何度か一緒になったことがある。
四葉姉妹と聞き及ぶ中では、一番『普通の女の子』って印象が強いが……
……ああ、だからこそ、かな。
特別な力を持っていないからこそ、それに頼らず生きていくために必要なものが、彼女にとっては『勇気』だった……のかな。勝手な想像だけど。

…………強いんだな。アンタも。アンタの妹も。

助けられたかどうかは秘密、ですがね
ええ、私の妹…を名乗っている、覇竜で最前線で頑張っている子、ですかね

じゃあ、マリエッタもその言葉に助けられたことがあるのか？
……その知り合い、どんなやつか聞いても？

ふふ、この言葉は私の知り合いの言葉ですけどね
もし迷うなら、少し思い出してみてください。きっと、力になってくれますので

ためらいには……勇気を……。
勇気、か。
オレは無茶なことは結構やるけど『勇気』は別物だもんな……。

……うん。
もし、迷いが生じて足が動かなくなったときは、その言葉とアンタのことを思い出すようにするよ。
……絶賛迷い中ではあるけどな。

ええ、結局自分で終わらせたら…そこで何もかもはおしまいですからね

そんなもの、私だってありますよ？
自分のせいで、自分の行動が、そんな思いで自分の歩みが迷う、戸惑う
けれど…そんな時にはこんなことを呟くといいかもしれませんね

「ためらいには勇気を」
と…自分を応援してみれば、案外動けたりするかもしれませんよ？

うん……分かってはいるんだ。
一番恐ろしいことは、自ら手足を切断することだって。

けど、「沈黙は金」とか「触らぬ神に祟りなし」とか、そういうのもあるだろ？
自分の言動が良い影響となるのか悪い影響となるのか、その判断がオレはまだ未熟なんだ。
そのせいで、大切なひとを傷付けたり、仲間の信頼を失ったりしてしまったから……
それがオレの、罪だから……

まぁ、爪の垢は冗談だけどさ
アンタの姿勢は見習いたいと思ってるよ。

否定は、そうでしょうね
自分が正しくないと思いこめるようになる、呪いのようなものです…が、ヒトというものは往々にして否定することで自我を保つ者
何ていうと、捻じれた生き物にも感じますけどね…良いんですよ、身長でも臆病でも
立ち止まらず、進み続けられれば…いつか、きっと変われるものです

ダメですよ、爪の垢なんて残してないですからね？

……そうだな。止めるやつは、いない。
でも、長い長い間、ずっと否定をされ続けてると、……不安になるんだ。
その問いに答えてくれるひとはいなくて、答えは自分で出さなきゃいけないって分かってる。
けれど一度過ちを犯している以上、どうしても慎重に……いや、『臆病』になっちまってな。

……情けないな、オレは。
アンタの爪の垢でも煎じて飲ませてほしいくらいだ。

自己暗示でもなんでも、ですよ
記憶がない以上、そう思い込むことでも私は力に変えるつもりで動いていますからね

手を伸ばす事、目指す事
それを止める人は誰もいません。何より止められたら止まるほどに弱いものですか？
自分の中で、何をしたいかが少しでも浮かぶのならば、それに従う事は自分の為になっていくものですから

……それは半ば自己暗示めいてないか？
まぁ、ポジティブなのは良いことだけど。

ん……オレにも、いつか見つかるかな。見つかるといいな。
失ったものは取り戻せないけど、まだ……星に手を伸ばし続けてもいいかな……。

オレにとっては充分に眩しいよ。
月でさえ裏側はアレなんだ。綺麗なだけの人間なんていないさ。
自分は自分として……か。
自分が何者なのか、それを探すために、オレ生かされたのかも知れないな……。

強くなければ生きていけませんし、弱いと思わなければ強いんですよ？

理由や目的なんて、そのうちできるので心配なんてしなくていいんですよ
中途半端でも生きていれば、可能性が残っていれば、そこから新たな芽は出てくるものです

あら、眩しく見るには少々穢れているかもしれませんよ？
なんて…私だって曖昧です。それでも私は私として、生きていくつもりですから

……そっか。
やっぱ強いな、マリエッタは。

オレはこのとおり死に損なったから、覚悟決めて生きていくつもりだけどさ、
そこにちゃんとした理由とか目的とかがあるわけじゃない。
罪を抱えるにしても、同じ過ちを繰り返さないことぐらいしか償う方法がないし……
色々と中途半端だからさ、だから、オレにはアンタが眩しく見えるよ。
嫌味とかじゃなく、本気で。芯が通っててすごいと思うんだ。

オレは、自分の存在すら認識が曖昧だから。

こうやって召喚されなければ、或いは…でしたでしょうね
けれど私は知って、思い出していますから。罪あっての私ですから…私は決別しません。全部抱えて生きていきますよ

…………成程、なぁ。
記憶を失っているのを良いことに、第二の人生を謳歌する……なんて楽観的なことは出来ないわけか。
でも、魔女を抑え込むことが出来たなら……罪と決別してもいいんじゃないのか？
……たとえすべてが上手くいったとしても、アンタは全部抱えて生きていくのか？

実際どうなってしまうかは、わかりませんけれどね
白状も何も、ほとんど確定していますからね。魔女を繋ぎとめるための楔（わたし）は必要かな、と思っていますので

……たとえ記憶を取り戻しても、それらを抱えている限りは、”いまの自分”を保っていられる、と？
そう聞くと、記憶を失くす前のアンタは他者の命を奪うことに躊躇のない悪い魔女だったと白状しているようなもんだが……
……それを繰り返さないため、でもあるのか？

償いをするつもりなら、さっさと自死を選んでいると思いますよ
それこそ、自分の命を爆発させて、散ってしまえばいい、なんで思うように（意地悪く笑みを見せ）

これは、私が”私”のままであるための
生きている理由と、生きる理由なんです。記憶を失った、何もかもを無くした私が…何かを取り戻した時にも”私”のままで在れるように、と

…………償い、か？
奪った命の分も生き続けると、そういうことか？

魔力だけの存在…旅人というのはこうも不可思議な人も多いのですね

…そうなるでしょうね。多くの人々の命を私は奪い、終わらせています
彼らの血、魂…意志。そういったものを、終わらせないためにも忘れるわけにはいかないんですよ

ああ、オレはもともとスケルトンだからな。
肉体を構成する魔力を再構築したらこうなっちまってな。

…………自分が奪った者？
それは、命を奪った、とかそういう意味か？

この魔力の感じ…後遺症、ですね？
そういう形が表に出ましたか…目的…ええ、そういう約束でしたね

目的、といってもそう大きく、殊勝なものでもありませんけれどね
私の目的はただシンプルに『自分が奪った者の事を永遠に忘れない事』です

よ、見た目が結構変わっちまったが、オレだ。ファニーだ。
無事に死に損なったから約束を果たしに来たぜ。(ひらりと左手を上げて)

……聞かせてくれるんだろ？　アンタの『目的』とやらを。

……ふぅ。あら？
いらっしゃい、でしょうか？（読んでいた本を閉じ、向き直る）

マリエッター、マリエッター？
いるかー？
(声にこそ変化はないが、外見の大きく変わった少年が書斎へ訪れた)

ええ、お気をつけて。さて、どうなりますか…
私も気を付けなければいけませんね

さて、そろそろ出立だな。
ま●た●な●、マリエッタ。(ひらり、と紅い水晶と化した左手を振って書斎を出ていく)

……ま、オレもマリエッタとはまだ話がしたい。
いつかも●う●ひ●と●り●の魔女のほうとも話してみたいしな。
なんとか帰り道のことを考えてみるか。

ええ、未練はたくさんあった方がいいですからね？私も、貴方も。
魔女に魅入られたら逃げられない、らしいですよ？なんて、冗談ですけど
私もお話ししたいですから、ちゃんと戻ってきてくださいね？

……はぁ、ったく。
これで死んだら未練がひとつ出来ちまうじゃねぇか。
可愛らしい嬢ちゃんだと思ってたが、アンタそういうとこは立派に魔女だな。

ふふ、私は優しくありませんので？

ええ、次もちゃんとこうやってお話しできることを楽しみにしていますね
勿論、約束ですからね。ちゃんとお伝えしますよ

おいおい、そうくるかよ……
……はぁ、焦らすのが上手いな。(複雑そうに頭を掻きながら)

わかったよ。まぁ、善処はする。
運次第なとこもあるから、約束はできねぇけど……
……もし、生きて帰ってきたら、そのときは教えてくれよ？

あら…そうですね
それを知りたいのでしたら、ちゃんと生きてまたここに来てくれたら…教えてあげてもいいですよ？

後悔も未練もないさ。
そもそも目的すら、オレは持ってないようなものだからな。

……マリエッタは「自分の目的の為に死ぬわけにいかない」んだったな。
その目的とやら、どんなものか聞いてもいいか？

口に出すと思いますか？
ともあれ、私が言えるのはどちらにせよ全力で頑張ってください、としか言えません

後悔はないように…そして、悲劇の引き金を引かぬように

オレには守るものも失うものもない。
だから巻き込むような相手もいないのさ。

……そうだな、もしそのときは盛大に怒ってくれ。
怒られてるうちが花だ。聞いてやれないのが残念だけどな。

…自己満足の為、というのなら止めはしませんよ
けれど、その自己満足に誰かを巻き込まぬよう…という事だけです
軽率に死ぬ気はない、という言葉だけでいったんは安心はできますけどね

こう言っては何ですが、私は別に、貴方の生き死にに何かを口を出す権利も理由もありませんので
ただ…その結果に対して怒ったりすることぐらいはするかもしれませんね？

……ああ、おまえの言う通りだ、マリエッタ。
《《オレ》はただの利己主義者で、刹那主義者だ。
アフターストーリーなんてなにも考えちゃいない。
救いをもたらした気になって、本当は自分が救われたいだけなんだ。

……だから、逃げずに向き合って、すべてを抱えて生きる覚悟を持ってるおまえを、尊敬するんだ。

さて、軽率に死ぬつもりはないが、命を惜しむつもりもないんでな。
死んだら事故だったと思ってくれ。(へらへらと)

…本当に、ですよ

ファニーさん、それはただの現実逃避です
奇跡を起こして、救いを一方的にもたらして…それっきりで、どうするんですか？
奇跡なんかで、何もかもを無くしておしまいですか？
逃げと、負けと、犠牲の先に何を見ますか？

…説教じみてしまいましたが、軽率に死を選ぶ人は見逃せませんよ？
ましてや運命特異座標。私は打算的な魔女ですからね

……いや、尊敬するさ。
俺様だって別に善人ってわけじゃない。
誰かを助けるのだって自分のエゴだし、誰かの幸せを願うのも自分のエゴさ。
そのくせ、罪を背負って生きていくほどの強さもない。

奇跡と引き換えに自分が死ねば、重ねた罪が帳消しにされねぇかな、とか、
いっそ死んでしまったほうが誰かの役に立てるんじゃないか、とか、
そんな風に考えちまう。

それに比べれば、たくさんのものと向き合ってるアンタは、すごいよ。