PandoraPartyProject

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White sorrow

 ――朝の静謐は、小鳥さえくちばしを閉ざして、さながら祈るかのように。
 寒々しい緑青(ろくしょう)に覆われた、少女の像が跪いている。
 頭には雪の薄いヴェールを纏い、足裏だけが銅色の肌を覗かせていた。
 奇跡にあやかりたいと、人々が撫でて行くのだそうだ。
 聖女ラナの旅程――その終わりの地は、今は小さな公園となっている。

 それを横目に。
 誰かが踏み固めた雪の上を、ティナリスもまた厚底のブーツで踏みしめた。
 真新しい雪の下に小石でもあったら、コートの裾を汚してしまうだろうから。
 この程度で転ぶような鍛え方はしていないが、わざわざ無為な危険を冒す質でもない。
 水をすくうように両手を寄せて、息を吹きかける。手袋でも持ってくれば良かったと、ティナリスは自分自身の浅はかな癖に、なぜだか少々むっとした。

 この道を何度歩いたことだろう。
 小雪の粒は徐々に大きくなり始め、周囲の音をすっかり閉ざしている。
 しんと、しんしんと。
 ただ雪の降る道を、当てもなく進む。
 そして幾度も座ったことのあるベンチへ。
 そっと雪を払って腰を下ろした。
(雪でウサギを作ったっけ)
 それは母との思い出。
(雪球を背中にぶつけたんだっけ)
 それは父との思い出。
 母の微笑みも、父の困ったような表情も、家族の団らんも、ぬくもりも。
 全て過ぎ去った、過去の記憶に過ぎない。
 喪われたものは二度と戻らず。
 追憶はいつも寂しさと諦念と共に在る。
 それすら歳を経る毎に、淡くなり、おぼろげになり。
 いつかは忘れ去ってしまうのかもしれない。

 ……さみしいな。

 死んだと思っていたティナリスの父は、あの場所に居た。
 穢れた聖遺物の中で、その清らかな魂は傲慢な滅びと戦い続けていた。
 なんと強い人なのだろう。
 なんと気高い人なのだろう。
 なんと哀れな人なのだろう。
「……私、は――」

 ――聞け、ティナリス。
   私はもう死んだ身だ。
   この身体は敵のものとなるだろう。
   必ず討て。決して生かしてはならない。
   お前なら出来るな?

 きっと父からの最後の頼まれごとになるのだろう。
 その前は、ほら。だってもう、そんなことすら思い出せないのに。
 腰の剣柄に触れようとして、冷え切った指先が空を切る。
(佩いてなかったんだった)
 小さなことに気が滅入る。
 最近何もかも、間違えてばかり居る気がしてくる。
 けれど、それでは駄目なのだ。

 ――ねえ、お父様。私頑張るね。

 貴方を斬り、必ず討ち果たしてみせます。

 その呟きは、誓いは、約束は。
 ティナリス自身の耳にすら届かず。
 ただ、降りつのる雪の中へ溶けていった。

 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。


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