PandoraPartyProject
理想郷の守人 弐
――月原清之介は往く。
森の中を、身を隠すようにしながら。
己が願いを。狂おしいまでに渇望する願いを――その身に内包しながら。
「さて、希紗良には仕込んだ。
後は想定通りに情報をあちこちに流してくれればいいのだが……」
「そう上手くいくのかよ?」
瞬間。天より清之介の近くへと降り立ったのは――天狗面。
翼を背に持つ彼は飛行種の種族だろうか……
ただ、その身より発せられる『圧』は人のソレではない。
人域を超えた彼は魔種の血族である――
その仮面の下には想像を絶する感情が一つ宿っているものだ。
……尤も。それは巧妙に隠しているが、清之介も同様である。
天狗面とは異なり飄々とした様子の彼もまた。
それぞれ個人としての動きはあれど世界を滅ぼす因子を身に宿す怪物という事だ――
「さて――ただ中々波打たぬ水面に、ようやく石を投げ込めたのだ。
必ず波は立つ。それが大か小かは知らぬが……
後は拙者らがその波に如何にして乗るか、というだけの事」
「……ふん。まぁいい。確かに俺達以外の要素が加わる事が先決か。
あの女の築き上げた『街』を崩す為にも……」
「然り。拙者はあの女を、其方はあの街そのものを。互いの願いの先はすぐそこにあろう――迦楼羅殿」
フンッ――と天狗面は一つの声を零すものだ。
迦楼羅。それは彼の名前。
瀬威・迦楼羅という天狗は――憤怒の感情と共に此処に在る。
常は真朱山に座し訪れる人々の命を奪う悪鬼の如く振舞う彼だが。
今ぞ、その地を離れ此処に在るのは、笑顔を浮かべる街があるのだという話を耳にしたが故。
――許せぬ。
何を幸せそうな顔を浮かべている。何が理想郷、何が幸福だ。
ましてやそれを『与えよう』などとのたまう『あの女』が――迦楼羅は気にいらなかった。
だからかの地を破壊せしめんと、この地に訪れていた……のだが。
それは中々に成せていなかった。なぜならば――
「――見つけたぞ」
この地を守護する者が、次々と襲い掛かってくるのだから。
刹那。迦楼羅と清之介が跳躍する、と。ほぼ同時。
彼らが先までいた場所がまるで抉られる様に――極大の衝撃と共に砕け散った。
攻撃だ。神速の一撃が、彼らに襲い掛かってきたのだろう。
その撃の主は『干戈』と謳われた帝が一人。軍服に身を包む神人が一人――
ディリヒ・フォン・ゲルストラー。
「このような所で逢瀬かね? つれないではないか――私も混ぜたまえよ」
「……やれやれしつこい御仁だ。気配は殺していた筈なのだが」
「消すか」
「さてどうしたものか。あちら側の中では頭一つ抜けた戦力だ――無為に戦う必要もないが」
それに『まだ来そうだ』と。迦楼羅へと清之介は言を紡ぐ。
ディリヒに続いて此方へと至らんとしている気配があるのだ――
妖か、それとも他の守人か。
……どうにも、この森の中は奴らにとって有利な地であるらしい。
こちらを知覚しうる何かがある様だ――いやそもそも、この森もまた『あの女』の力の領域の範疇と言う事なのだろうか。いずれにせよその所為で清之介達は非常に活動がし辛い状況の中にあった。
だからこそ清之介は、己に懐く希紗良を利用せんとしたわけで……
と、その時。
「見つけたぞクソ野郎――殺す」
更に場へと乱入してくる影が一つあった。
それは空という人物。剣撃振るいて至るその姿、正に鬼神の如き様相であれば。
――激突する。
空の狙いは迦楼羅達ではなく、ディリヒの方であった。
激しき金属音が鳴り響き、そして。
「ハハハハハ! これはこれはまたお前か!!
いいぞ何度となく挑み来るその魂――称えよう!!」
「その言い方が一々殺したくなるんだよテメェはァ!!」
そのままに交戦が始まる――
ディリヒはこの地を守護する『守人』だとのたまい、侵入者へと暴を振るう者。
その際に空とも一悶着あった様で……その際の縁が此処で再びぶつかっているのか。
――ならばと。迦楼羅達はこの隙に瞬時に動き出す。
「さっさと行くぞ。他の守人に包囲されては面倒だろ――突破する」
この森には今、幾つもの思惑が渦巻いている。
一つは古き帝達。
一つは清之介らの魔種達。
一つは玄武らから依頼を受けた神使達。
そして――空の様なそれぞれの事情によって赴いた者達の。
しかしいずれもの歩みは只一つに向かっているのだ。
この森を治める『偲雪』という一人の女性へと……
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