PandoraPartyProject
『怪竜』と呼ばれた存在
――良いかい? 琉珂、竜種は恐ろしい物なんだ。
決してワイバーンなどとは同じように思ってはならないよ。出会ったら逃げなさい。
幼い頃にそう教えてくれたのは里で逸れた竜種の世話を行っていた老年の亜竜種であった。
フリアノンではない遠くの集落から、その竜種とやってきたという彼は奇怪なことに人間に好意的であった竜種との友好を気付いて居たらしい。
竜種、亜竜、亜竜『種』
名は似ていても、それぞれが違う。
竜種は世界でも強大な敵と目された最強種。対話を行えど人とは大きく違いすぎる生命の在り方が何れだけの恐ろしさを誇るかは口にしなくとも分かるだろう。
亜竜と呼ばれるのは竜種の『亜種』だ。ワイバーンや竜の要素を持ったモンスターを言う。其れ等も凶暴ではあるが少なくとも飼い慣らす者は幾人か居るらしい。
そして、亜竜種だ。それは人種とも言えよう。古くの伝説に基づけば竜種の世話係であった人だとも言われているが竜種の『亜種』である『人種』。
その体に竜の因子を宿せども、竜種ほどの強大さも、凶暴性も、力も何もかもを備えては居ない。
故に、覇竜領域デザストルに住まう者達は皆、理解していたのだ。竜種に不用意に近付く勿れ。
そんなことを彼女が思い出したのは、『滅海竜』リヴァイアサンを封じた者達が里への来訪を申し入れてきたからだけではない。
里の外に、山菜を摘みに出たのだ。危険は承知でもフリアノンの周辺くらいならば琉珂や集落に住まう者にとっては生活圏ではある。
天を覆ったのは雲ではない。黒き影だった。
暗澹たるそれは上空を蛇行し、己の存在を知らしめるように揺らめいている。
長く伸びた首、巨大なその体には何匹もの亜竜が付き従う。複数にも及んだ眼球がぎょろりと蠢いた。
鋭利な爪先が戯れのように山を掻いた。残されたのは抉れた山肌。崩れた木々が小さなブロックでも打ち崩したかのように簡単に落ちて行く。
「あれは……」
山菜を抱えた琉珂は息を潜めた。里の者達にも『あれ』に気付かれぬように直ぐに集落に戻れと後ろ手に合図する。
その翼の動き一つで風の流れが変わる。
煽られたワイバーンが上空に攫われて、竜種の尾の揺らめきにぶつかり弾けるように消え失せた。
――特に、見たら気をつけて欲しいのはね『怪竜』さ。
黒い体に長い舌。緑の翼には何時だって亜竜達が付き従っている。
肌で感じるだろうよ。あれは危険だ、と。『怪竜』に出会ったら直ぐに逃げなさい。
琉珂は後退する。
ああ、其れが何で在るかを教えられずとも本能がそうであると訴え掛けるではないか。
「『怪竜』ジャバーウォック……」
少女は呟いて直ぐに集落へと飛び込んだ。
暫くの後、外を見遣れば、それは何処かへと飛び去って行った。
……あれはどこへ向かったのだろうか。『外(ラサ)』からの連絡では練達と呼ばれた国が観測していたそうだ。
「詳しく、分かるかしら。外の人たちと協力すれば……それが、此の領域(くに)を護る手助けになるならば……」
※『何か』が目撃された様です――
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