PandoraPartyProject

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Maria In Scheinen Nchat

「ふぅん」
「久し振りの街はお気に召したかい?」
「……私の頃とは随分違うみたいだけど。ここ、あのアイオンの興した『幻想』なのよね?」
 小首を傾げたマリアベルに「そうだよ」とイノリは応じた。
 雪の聖域の眠りの時間は余りに長い。一年の時間さえ彼女を完全に覚醒させるにはまだ足りない。
 世界各国ほうぼうを回って一年の締め、最後に訪れたのがメフ・メフィートの聖夜――あのローレットのお膝元なら実に皮肉に意義深いと言えるかも知れないが。
「本当に戦わないのね。今でも争いは続いているのでしょう?」
「飽きない位にね。人間ってのはだから人間なんだろう。尤も僕は『それ』は好ましく感じているけど」
「……昔からそうだったわ。貴方って何時も、そんな感じ」
『聖夜』に人間が争う事は無い。
 気の遠くなるような昔に、聖女が戦いを収めてから混沌ではずっとそれが風習だった。
 実際にあった事かも分からない。真偽さえ定かではないお伽噺。
 今を生きる誰もがそんな物語に縋る必要はないのに――
 それでも暗黙の了解が続いているのは誰もきっと綺麗事を完全に否定したくなかったからに違いない。
「そう言えば」
 華やぐ街に気を利かせて散る白い粉雪に目を細め、マリアベルは切り出した。
「R.O.Oでしたっけ。架空の貴方は負けてしまったみたいじゃない」
「寝坊助の割に……君は随分と現代的なんだな」
「一応聞きたいのだけれど、『あの彼』は貴方と同じと思っても良かったのかしら」
「細部(ディティール)までの保証はしかねるがね。
 ああ、違う。もう一点。もっとダイナミックな問題もあった」
「なあにそれ」とマリアベルが促すとイノリは事も無く言った。
「『僕はあんなに弱くないよ』」
「でしょうね」と頷いてくくっと笑ったマリアベルにイノリは「これだもの」と苦笑した。
「満足かい? マリアベル」
「ある程度はね。正直を言えば――」
「――うん?」
「こんな風に貴方と。堂々と一度街を歩いてみたかった。
 昔の私が思っていた事だけど、今の私が思わない事でもない。
 ……おかしいかしら。少し、はしたないかしら?」
「……………からかっているだろう?」
「その通りでしてよ」
 憮然としたイノリの手を取り、マリアベルは実に愉快そうに言った。
「来年はどうかしら?」
 あれ程激しくやりあったとて、ローレットは未だこの真の脅威に気付くまい。
『時差ボケ』を解消した彼女が何を考えているか。イノリなる終末が描く図柄を想像も出来ないだろう。
 しかし――今だけは聖夜だ。聖夜には争わないものだ。
「でも、今夜に満足しているのは本当よ。
 聖夜はこんなに輝かしくて、輝かんばかりなのに!
 そんな日にこんな『最悪』が大人しく連れ立ってるなんて――最高じゃない?」
 輝かんばかりのこの夜に、彼女の笑顔はひどく美しく際立っていた――



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 特別なメッセージも届いているみたいですが、まぁアレです……


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