PandoraPartyProject
明日も空があると思ってた
振り子時計の針がぴったりと重なり12時を告げる小さなメロディが鳴り響く。
正午。
日差しは窓辺から優しく降り注ぐ筈だった。
窓の外は真っ暗な空――
ある人は空が割れたと言った。
またある人は空が落ちてくると言った。
時折思い出したように白い光を放っては明滅して暗くなる。
自分達が見上げていた空の正体は、ただの光学映像で思った寄りも近くにあった事を知った。
真っ暗な空に比例するように、人々の悲痛な思いが『希望ヶ浜』に渦巻いていた。
異常事態。
普段は魔法やファンタジーのような無辜なる混沌の出来事に目を瞑っている希望ヶ浜の人々とて。
今の自分達の置かれた状況が異常だという事が分かるだろう。
それ程までに希望ヶ浜の――否、練達全土の都市機能が不調をきたしていた。
テレビ番組のテロップは災害時のような無機質なものに変わり、アナウンサーの声も務めて落ち着いた声色でニュースを告げている。
アナウンサーはしきりに落ち着いて行動するようにと呼びかけ、異常事態の原因を調査中だと繰り返していた。それは、希望ヶ浜に住まう人々の心身を守る為の言葉だったのかもしれない。
練達という国を統べる『マザー』の機能不全。
この国の『神』とも呼べる存在が、R.O.O側からの干渉『コンピュータ・ウィルス(クリミナル・オファー)』に侵され、窮地に陥っている事を希望ヶ浜の住人は、理解出来ない。しようとしない。
されど、普段は現代日本の風景に浸っていた人々もマザーが『防衛』に回らざる終えなくなった瞬間に、夢から覚める思いをしただろう。
自分達の住んでいる場所は『こんなにも狭い』のだと思い知っただろう。
この異常事態は希望ヶ浜だけではない。
練達全土『セフィロト』の都市機能が麻痺している。
地域によっては安定している場所もあるようだが、電気やガス、水道などのライフラインも不安定な状態が続いているのだ。インターネットも繋がらない場所がある。
最低限の電力供給では空調設備や天候管理システムさえ制御困難だった。
人々の不安は高まる一方で、一部地域ではデマによる騒動が発生しているらしい。
『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)は滅多に近寄らない『澄原病院』の通用口から中に足を踏み入れた。
館内は少し空気が澱んでいる。空調が最低限しか効いていないのだろう。
電気は非常灯に切り替わっていた。
スーツ姿の暁月はしっかりとした足取りで澄原病院の通路を奥へ進んでいく。
診察室のドアの前に立ち、ゆっくりとスライドさせた。
「やあ、晴陽ちゃん。停電だねぇ。花火でもしよっか」
突然ドアを開けて入って来た暁月に澄原 晴陽(p3n000216)は心底嫌そうな顔をする。
「祓い屋が何故ここへ? 花火は結構です」
視界に入れるのも億劫だと再びデスクに向かう晴陽。
「じゃあキャンプはどうだい?」
「予備電源がありますので不要です」
「ああ、本当だね。この部屋は明るいや。じゃあ私も此処に居ようかな」
「帰って!」
声を荒らげる晴陽に暁月は目を細めた。
「昔は学校の屋上で一緒に花火してくれたのに」
高校時代。暁月と晴陽、詩織、■■で一緒に花火をした。
先生に見つかるから手持ち花火だけだったけれど。薄い星空の元、子供みたいにはしゃいだ。
「……何なんですか! 帰って下さい!」
デスクの上にあった紙ファイルを暁月に投げる晴陽。あまり感情を表に出さない彼女が頬を赤くして怒りを孕んだ瞳で暁月を見上げている。
「もう、『俺』に対してだけは乱暴なんだから。これでも心配して見に来たんだよ」
「結構です。心配されるような子供ではありませんので」
「俺にとっては、可愛い後輩だけどね」
「暁月先輩は早く帰って家の面倒でも見てて下さい」
この病院に晴陽が必要なように。燈堂には暁月が必要なのだ。
夜妖に向き合う姿勢は違えど、暁月を慕う人達が居る事を晴陽は知っている。
「ふふ、優しいね。晴陽ちゃんは」
「良いから早く出て行って下さい」
晴陽に押し出されるように診察室を出た暁月は、思い出した様に振り返った。
「――ああ、そういえば龍成の事なんだけどね。こっちに帰って来てるかい?」
――マザーの機能不全により練達全土に不安が広がっているようです
――R.O.O内部にpatch3.0『日イヅル森と正義の行方』の実施が告知されました!
同時に一部のイレギュラーズが『ログアウト不可能』になっています!
↓ログアウト不可能のイレギュラーズと思われる音声データが届きました。↓
(※音が出ます。音量にご注意下さい)