PandoraPartyProject
Sand Storm Coming Soon
「ディルク様っ!」
目は口ほどにモノを言う。
分かり易い人間は決して少なくは無いが、ディルク・レイス・エッフェンベルグにとってこの召使程のモノは早々無かった。
「御出征と聞きました。何でも伝承方面に赴かれるとか――」
「――赴くのは確かだがよ、何だその面は」
特に鋭敏でも無ければ良く知らぬ誰かでもすぐに気付くレベルである。
ましてや鋭敏であり、彼女を『お買い上げ』してから何年も傍に置いているディルクからすれば問題が易し過ぎて欠伸の一つも出るだろう。
「その全身全霊で心配です、行かないで下さいって面はよ。お前、俺を誰だと思ってンだ?」
「う、ぐ……」
呆れたような指摘を受け、エルス・ティーネ(p3p007325)はカエルが潰れたような声を上げていた。
誰か問われるまでもなく彼女は目の前の彼を理解している。
砂嵐最強の男、ネクストの傭兵王、或いは盗賊王。泣く子も黙る赤犬で――
(――それから、私の恩人。誰より大切な方)
……要するに最後のノイズが問題だ。心配なものは心配だし、それから。
「……ま、お前は『こういう仕事』が嫌いってのもあるんだろうがよ」
「……………弁えてはいます」
「当然だ。グチャグチャ言うなら放り出すぜ。
ただ、まぁ――好きだ嫌いだは趣味の問題だからな。そう思う事を否定はしねぇよ」
ディルクは頭を掻いて大きく息を吐き出した。
クリスチアン・バダンデール――そして恐らくはアーベントロート派からの提案は鋼鉄混乱の機をつき、伝承の国境を荒らしてみないかという話だった。
勿論、天才たる彼はそんな物言いはしていない。絶妙に言質は消しながら砂嵐に対して誘導と提案を行ったに過ぎない。
普通ならおいそれと乗るような話ではないが、『アーベントロート派が北部戦線の関係で動けず』、『中央の初動は確実に遅くなる』と言うなら確かに悪い話ではなかった。
実際の所、砂嵐がたっぷり諸外国に恨みを買っているのは今に始まった話ではないのだ。
図体の大きい強国の勢いを定期的に――そして自分達から仕掛けて削いでおくのは『舐められない』為にも、砂嵐が生き残る為にも必要な処世術のようなものである。
座して死ぬ気がない以上、綱渡りは何時もの事。チャンスは何時でも転がっている訳ではないし、リスクのない勝利等有り得ない。
しかして、砂嵐から国境荒らし――略奪や占領を仕掛けるのが中々荒っぽい話なのは確実だ。
体面上は『誰かの依頼である』というスタンスは崩さないが、人道的にどうかと言えば分かり切った話であり、僅か十五の少女であるエルスが厭うのは当然と言えば当然であった。
「……ま、適当な所で切り上げるさ。必要以上に頑張る義理はねぇし」
「はい……」
「俺に危険を味合わせられる奴なんてのが居るならお目にかかりたい位だね」
「……はい」
「……………死にそうな面してんじゃねぇよ。伝承の土産モンを持ってきてやるから」
「子供じゃないです!」
頬を赤くしたエルスにディルクはもう一度溜息を吐いた。
女に惚れられる事は多いが、女に懐かれる事は多くない。
彼女を助けたのは唯の気まぐれだが、些細な気まぐれの代償は中々どうして簡単ではない――
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