PandoraPartyProject

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熱砂の策謀

「つくづく――本当に性格が悪いな、アンタのトコの国は」
『砂嵐』中核、悪徳の都ネフェレスト。
 大いなる砂漠の中心、美しくも毒気匂う都の美しき宮殿でディルク・レイス・エッフェンベルグは酷薄な薄ら笑いを浮かべていた。
「褒め言葉と受け取っておこうか。此方にも色々算段や都合というモノはあるのでね」
「ふぅん? だが天才君。こんな最高にヤバい案件を他ならぬ俺達に直接要請するとかさ。
 後で『高くつく』とは思わんかね?」
「試している心算か? 赤犬君。私はそうは思わないな」
 口の端を歪め、獰猛な気配を見せるディルクに対面の男――クリスチアン・バダンデールは彼のものに劣らない冷笑を浮かべる。
「あくまで可能性の問題だ。『商談』を纏めるには私が自ら出馬するのが適当だと踏んだまで。
 それにもう一つ付け加えるなら、誰か他の手の者を使ったとて大差はないだろう?
 強いて言うなら新田君に頼んでも良かったが――お嬢様への点数稼ぎを彼にさせるのはちょっと嫌だし。
『諸君らが自分で言うようなならず者なら、どの道情報を抑えられる結末に変わりはない』。
 ならば、私が直接事態をコントロールした方が確実でマシというものさ」
「へぇ? じゃあ精々下手な交渉はしねぇ事だな。
 アンタとは言えど、砂嵐(ここ)で下手を打てば高級な人質の出来上がりだからな?」
「ご心配痛み入るよ。だが、そうならない為に護衛も用意しているんだ。
 ……実は、此方にも面倒な事情があってね。
 嗚呼、諸君らのような腕利きを前にして『おあずけ』をするのは骨が折れるんだ。
 くれぐれも理性的な対応を頼むよ。私はあくまで商談にやって来たんだからね」
 ディルクと護衛の男――死牡丹梅泉が同時に鼻を鳴らした。
 傭兵王、或いは盗賊王の異名を持つディルクは報酬次第でどんな仕事も請け負うとされるネクストきっての狂犬である。一方でクリスチアンは伝承大法廷の最高裁判官を務めるリーゼロッテ・アーベントロートの秘書のような男だ。北部勢力圏の商都サリューを拠点にする大商人だが、此方は半ば貴族階級のように権勢を振るっている。
(……さて、クリスチアンが表に出てきたって事は――今回の話のバックにはアーベントロートか?
 野心家には違いないが、まさか単独では動くまい。『気を利かせた』可能性は無くはねぇが、はてさて。
 得体が知れねぇ以上は、クリスチアンを締め上げるのは無しかな。
『この俺に勝てる奴なんざこの世にいねぇが』被害をゼロに出来る程甘くはなさそうだ)
 値踏みするようにクリスチアン――と言うより梅泉を睥睨したディルクは横目で傍らのハウザー・ヤークとキング・スコルピオの表情を伺った。
 それぞれ砂嵐の中核『傭兵団』である『凶』と『砂蠍』の首領である彼等はディルクと同じように目の前のクライアント候補――男二人を油断なく見据えている。
 正体不明の護衛は少なくとも只者ではない。加えてクリスチアンの実力は底が知れない所がある――
「オーケー、商談と行こう。アンタ達は今回俺達を動かしたい、それでいいんだよな?」
「ああ、それで構わない。ネクストに悪名――
 ――おっと失敬、名声を轟かせる『砂嵐』の暴れっぷりを見たくなってね」
「伝承には外患誘致って概念は無いのかい?」
「何を正しい事と考えるかは高度に政治的な問題さ。
 少なくとも私はタイミングを選んで来た心算だよ。
 何故今でなければならないかは――諸君にも分かるだろう?」
「フン」
 スコルピオが鼻を鳴らした。
 如何にも信用出来ない物言いである。『どうして癇に障る男なのは間違いない』。
(だが――理屈で正しいのは間違いねぇな。少なくともこの優男の言う『目的』とは一致してやがる)
『先程聞いたクリスチアンのプラン』は成る程、砂嵐と彼双方にメリットを生じるものであった。
 しかし、多大なリスクを生じるのは確かだ。もし話が彼の罠だったとするならば、世界は一変するだろう。
 それからもう一つ――
「舐められてるみてぇで気に食わねぇな」
 ――スコルピオの苛立ちはハウザーが口にした言葉と同じ。
「テメェ等、まさかこの俺達がガキのお使い程度で話を済ませると思ってんじゃねぇだろうな?
 それともテメェはこっちにお使いをさせた後、『どうにか出来る』とでも思ってんのか?」
 問い質すハウザーにクリスチアンは肩を竦めた。
「イエスと答えてもノーと答えても機嫌を悪くする質問だろう、それは。
 実に非生産的で勘弁願いたいが――だから私は言ったじゃないか。
『この依頼において、私が君達に提供する代価はない』と。
 つまり、それが回答だと思わないか? 諸君等の大好きな切り取り次第という事に他ならない。
 ああ、尤も? 諸君等が吠える割に大した事のない連中なのだとしたら……
 ……うん、申し訳ないね。その時は酷い骨折り損になるかも知れない」

 ―――――キッ!

 言葉が終わるよりも硬質の音が鼓膜を揺らしていた。
 刹那に閃いた獣の爪を梅泉の刀が受け止めていたのだ。
「――流石じゃな、『凶』のハウザー。わしは構わぬが戦争と洒落込むか?」
「ケッ、冗談程度を受け止めた位で粋がるなよ」
 一瞬即発、何とも危険な空気をクリスチアンの軽やかな笑いが切り裂いた。
「――だが、私は合理的な男だ。そう思っているなら最初からリスク等背負わない。
 赤犬君、茶番は十分だろう。この話、諸君等にも多少の妙味はあると思うが?」
 熱砂を中心に野望は渦巻き、策謀は揺らめく。
 未だ蜃気楼以上には確かではなく、R.O.Oの『イベント』は少しずつその輪郭を顕にしていくのだった――

これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O

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