PandoraPartyProject

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フルカウンター・ネメシス

「――状況は以上です」
 重苦しい調子で報告を行った兵士に聖騎士団長レオパルは「うむ」と頷き、彼を下がらせる。
 聖都フォン・ルーベルグを分断する騒乱は中央にとっても苦慮の種となっていた。少なくともこのレオパルが騎士として宮廷に出仕して以来、初めてと言ってもいい位の非常事態はこの国が今直面する苦難を如実に物語っている。
 誰が敵で誰が味方か――判別が難しいのはあのイレーヌ・アルエだけでは無い。
 それを確定する事が出来ないのは王宮も同じであり、故にレオパルはフェネスト六世の傍を離れる訳にはいかないのだ。
「状況はそう芳しくは無いようです。
 聖都の中には未だ不正義なる勢力が存在しており、状況はもぐら叩きの様相を呈している」
「――と、言ってもそれはあくまでもぐら叩きに過ぎないのであろう?」
 水を向けたレオパルに玉座の王――フェネスト六世が応じた。
「御慧眼です、陛下」と彼の言を肯定したレオパルは言葉を続ける。
「不逞の勢力が狙ったのは聖都内の分断。しかし、彼奴等めの戦力は目的を前に逆に分断されております。
 この状況では、とても狙い通りの作戦行動は果たせますまい。
 ……ローレットに駆逐依頼を出したのは正解でした。
 睨み合いに動けない正規戦力より、フットワークの軽い彼等ならではです。
 まったく、天義聖銃士隊(セイクリッド・マスケティア)も貧乏くじを引いたものですな」
 元来は彼等がゲリラめいた動きをする予定が、結果として自身が喰らう側になったと言える。
 特に酷いケースでは個による武力で相当痛い目をみたとも聞くからこれは相当のものとなろう。
「アストリアめも、これでは誰に手配を出して良いかも分かるまい。
 ……とは言え、これで終わりであろう筈もあるまいな」
 フェネスト六世の言葉にレオパルは「ええ」と頷いた。
 アストリアにせよ、エルベルトにせよ、魔種の影にせよ、問題は簡単に解ける程優しくは無い。
「結果露呈しつつあるとは言え、これだけならば元より大した騒ぎではない。
 これ程までに周到に根を張った輩が勝算の一つも無く動き出す等有り得ますまい。
 なれば、これは始まりに過ぎないと考えるべきでしょう。そして『これが始まりであるとするならば』」
「敵は不倶戴天の輩――即ち本命の魔種となる。間もなく決戦が訪れるのだ、レオパル」
「はっ」
「わしはこの国の王、そして法王としてネメシスの旧きを知る身である。
 公然と表には出ぬ歴史も、非常に取り得る手段をも持っておる。
 宮廷の聖職が、学者が総力を挙げて掘り返した古き文献は現代に伝承を残していたのだ。
 わしもこれが起きるまでは御伽噺と疑わなかった――古い、古い戦いの記録を」
 フェネスト六世の語るは『原種の魔種』とも『大いなる魔種』とも語られるという七つの大罪についての記録だった。
 その内の一、『強欲』を司る黒衣の女には数百年前、ネメシスとの交戦記録があったという。
「……探偵がそれを口にした時点で気付いていれば」
「文献の探索と解読に時間が掛かったのは否めないが、止むを得まい。
 しかして、『最後』には間に合ったのだから重畳とするべきよ」
「……はい」
「重要なのは、この情報が『七罪』に対しての或る意味の対策になるという点だ。
 記録を信じるならば『強欲』は生と死を司る能力を保持している。
 奴めの操る軍団は不滅にして不死。我が国が如何に精強だとて、無限の戦力を相手にしては勝ち手が残らぬは必定である。
 その上――召喚士の属性を持つ敵なれば、聖都内で展開されればこれはひとたまりもあるまい」
「通常ならば」とフェネスト六世。
「しかし、これが一つ目だ。地政学上の有利がある。
 その手段を取り得ぬ理由は――聖都は流石に聖都だったという事か。
 この都には建国と、そして戦いの折、遺失技術による保護が施されているようだ。
 故に『強欲』は聖都内で直接戦力を展開する手段は限られよう。
 彼奴めが『外』から来るのは止められまいが――少なくとも防衛の構えを取る事は可能となろう」
「一つ目……なれば、『先』がございますな」
「うむ。ネメシスが過去に奴を退けたというならば、そこには幾つかの理由があろう。
 それが古今無双の勇者の存在だったのか、大いなる神の加護であったのかを語る術は持たないが……
 少なくとも、神が聖都と我々に与え給うた好機、祝福は一つだけではない」
 即ち、二つ目。旧きアーティファクト――『エンピレオの薔薇』の名を持つ兵器がある。
 サン・サヴァラン大聖堂に存在する枢機卿勢力を駆逐出来れば、蕾は開き、奇跡への道も開けよう。
「しかし、起動も含め不明が多すぎます。取り扱う人間の問題も」
 応じたレオパルの脳裏に大聖堂を威力偵察するイレギュラーズの顔が過ぎった。
 そう、例えば、彼等さえ上手くやってくれたなら――
「薔薇を咲かせる手段は今、全力で探しておる。
 それに、使い手の方は――敵国の人間だが、この期に及べば身内よりも信用出来よう。
 既に幻想大司教に書をしたためておる。協力を受諾した彼女は密かにネメシスに入っている筈だ。
 尤も、彼女の出番を用意出来るかどうかは我々次第ともなろうがな」
「……切り札は他にも?」
「三つ目は『天の杖』。『薔薇』を戦術的な切り札とするならば、こちらは戦略級となる。
 否、これは人の身が兵器と呼ぶもおこがましい『神の奇蹟』に相違ない。
 ネメシス王家の至宝と呼ぶべきこれは、わしと宮廷聖職者が――命に換えても起動する心算だ」
「まさか、御身を……」
 眉を顰めたレオパルにフェネスト六世は「愚かな」と一喝する。
「ネメシスを守り、導くのが王家の宿命よ。覚悟こそすれ、分かり切った自死等、認めぬわ。
 そのような惰弱、誇り高きこの血も我が神も許されぬ」
「そして、四つ目。これが最後になる」と威厳の王は語る。
「まったく――誰も彼も罪の轍を踏んだものだ」
「――――」
 嘆息に似た王の言葉を、その先を聞いた時、思わずレオパルは息を呑んだ。
 一つ目は聖都。二つ目は大聖堂。三つ目はこの宮殿、問題はあれど所在と為すべきは知れている。
 だが、四つ目だけは今、まだこの場に無いパーツであった。
 否、正しく言えばそのパーツはこれまでネメシスに存在していたが、罪に塗れて消えたそれである。
 聖都は幾重にも手段を用意し、重ね、その時を迎え撃たんとしている――しかし、敵は。
 遥かな昔でも、今より圧倒的に奇跡が身近にあった時代でも倒し難かった真なる魔。
 奈落に張りつめたタイトロープを渡らんとするネメシスの行く末は神ならぬ他の誰にも分かるまい。
 だが、それでも。
「正義を」
 正義を、誇りを。
「神が為に」
 民の為に、家族の為に、愛の為に。
 祝福あれかし、ネメシスよ、静謐と秩序あれ――平穏であれ、調和であれ!
「他ならぬ誰が敗れたとしても、この国が屈する訳にはゆかぬのだ」
 敵が魔種なれば。何よりも深き不正義なれば。
「シェアキム・ロッド・フォン・フェネストの名の下に王命を発する。
 如何な邪悪が相手だとて、悉くを打ち破り、この世に正義があらんと知らしめよ!」
 その心よりの号令は、聖騎士が求める矜持、即ち戦う理由そのものであった――


『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生し続けているようです。
※天義市民からローレットへの評判が、激闘を続けるイレギュラーズを中心として飛躍的に高まっているようです。
※聖都フォン・ルーベルグを中心に、様々な思惑と運命が交差しようとしています……

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