PandoraPartyProject

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Snow White Sorrow

「フロックスちゃん!」
「今はまだ安静に。ね」
「はいなの」
 妖精郷の友人(フロックス)の危機を聞いて駆けつけた『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)は、心配そうな表情で寝顔を覗き込んでいた。
 手当され、今はゆりかごの中に寝かされているフロックスの呼吸は深く落ち着いており、幸いにも命に別状はないようだ。今は疲労のほうが強く出ているのだろう。

 それはつい先程のこと、フロックスが妖精郷を脱出した晩の事であった。
 魔種タータリクスから逃れた彼女は、アルベドとよばれる怪物に追われながら、深緑(アルティオ=エルム)はアンテローゼ大聖堂へ助けを求めてきた。
 『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)と、居合わせた『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)は怪物に即応し、無事にこれを撃退してフロックスを保護したのである。
 イレギュラーズが大迷宮ヘイムダリオンを踏破し妖精郷と深緑との転移装置を開通させてから、まだ幾ばくも経ってはいないが、大聖堂には妖精達が次々に逃げ込んで来ていた。さながら駆け込み寺の様相である。

 フロックスや、次々に逃げてきた妖精達の言葉から判明した事実はいくつかある。
 一つはアルベドという魔物について。
 それそのものが存在するという現実である。
 アルベドというのは、タータリクスが作り上げた魔物(ホムンクルスと呼ぶべきか)であるらしい。
 イレギュラーズから採取した血や髪などを素体として、妖精の命を使って動くようだ。
 交戦の手応えとしてはかなりの強敵だった。
 ルドラはむしろ相手が深追いしなかったのが幸いしたと判断している程である。
 魔物二体でこの大聖堂がどうこうなる筈もないが、状況的から考えるに相手が攻撃行動を優先した場合、フロックスの命が守れたかは怪しい所であったのだ。
 もう一つは妖精郷の現状について。
 妖精郷は今も魔種達によって蹂躙され続けており、妖精女王は月夜の塔という場所に閉じ込められているという話である。妖精郷の地理は未知であるが、いくらかでも戦える妖精であれば、道案内の勇気を振り絞ってくれるかもしれない。
 ともあれ未だ調べなければならないことは、いくらでもあるのが現状だ。
 深緑(依頼主)としてはイレギュラーズが来るまでの僅かな間に、出来るだけ情報精度を上げたい。

「これは、一体……」
 ルドラが眉をひそめる。
 交戦の降り、アルベドの二体は逃したが、妖精――女王ファレノプシスを模したアルベドだけは、確保することに成功していた。
 今はもう人の形を成さず、水を混ぜすぎた紙粘土のようにぐずぐずに崩れている。
 中から覗いているのは、透明な宝珠のようなものであった。
「さながら、未完成品ってところカナ?」
「分かるのか、ライエル殿」
「いいや、さっぱりダヨ。ただ思い当たる詩はあるんだ。錬金術に関する。ネ」
 深緑を根城にする放浪の吟遊詩人『虹の精霊』ライエル・クライサー(p3n000156)は、何の目的か知れぬがイレギュラーズに入れ込んでおり、本件においても積極的に首を突っ込んでいる。胡散臭い男だが、大迷宮ヘイムダリオンへの侵入に一役買うなど、ひとまずは役には立っているようだ。
 それはさておき。
「錬金術……」
 ルドラが神妙そうに繰り返した。
「それじゃ、コホン。アー、アー。失礼して」

 ――マグヌム・オプス。
   其は大いなる業……

 ライエルが朗々と語った詩は古いもので、酷く分かりにくい内容ではあった。
 詩が示すに、アルベドというのは諸説あるが、どうやら技術的な中途段階を示すと推測出来る。
 ともかくそうした技を使って作られた怪物に違いない。
 白い偽物の妖精女王に関しては、中でも余り精度の良くない品であったのだろう。
「つめたいの、ひんやりしてるの、わたし、しってるの」
 ストレリチアが宝珠に両手を当てていた。
「聞こえるの……感じるの……こんなのってないの……わたし……」
「どうしたの?」
「ぜったいぜったい、友達がこの中にいるの!
 ぜったい生きてるの! 閉じ込められてるの!!」
 ストレリチアの訴えに、一同は視線を合わせて。
「見てみるわね」
 フランツェルが名乗り出た。
 とは言え錬金術というものに覚えはない。
 そもこの世界(無辜なる混沌)では、その技術体系すら無数に乱立していてもおかしくはないのだ。
 仮に知識があったとしても、実際には全く別物ということすらあり得る。
 何もかもがどうにも分からないが――少なくともストレリチアが触れてしまった以上は――そこを手がかりとする他なさそうだと思った。
 だからフランツェルは宝珠にそっと触れてみたのである。
 確かにほんのりと冷たい感触がする。
 どうしたものかと思いあぐねている時のことだ。

 ――突如、光りが弾けた。

 まぶしさに驚いたフランツェルは、僅か一瞬まぶたを閉じたのだが。
 目を開けた時、そこには白い小さな小さな女性が倒れていたではないか。
「スノー・ホワイトちゃん!」
 抱きついたストレリチアはぼろぼろと泣きながら、友人の名を呼び続けているが。
「すぐに手当ね……」
 弱々しいが、辛うじて息がある。急がねばなるまい。
 これもまたイレギュラーズに伝えねばならないだろう。
 妖精は、アルベドの中にある宝珠から、もしかしたら助け出すことが出来るのかもしれないのだ。
 そしてもしずっと、あのまま宝珠の中に閉じ込められていたのなら、命を落としていたかもしれない事も。

 フランツェルは閉じ込められていた妖精をそっと両手抱え込むと、ちらりと時計を仰いだ。
 今日は長い夜になりそうだった。


 *魔種が生み出したモンスター『アルベド』の核となった妖精を助ける手段が見つかりました。
 *戦いの時が近づいているようです……。
 *ストーリー関連クエスト『迷宮踏破ヘイムダル・リオン』が開始されています!

 *期間限定クエスト『神威神楽・妖討滅』が開始されています!
 *また、カムイグラではお祭りの話が出ている様です……?

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