PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

桜流し

 チックと一族の邸へ行った別の日、刑部卿が視察に行くとのことで、俺も遠津へ向かった。
 宴会をし、夜桜も愛で、綺麗だねと空いている傍らへと声を掛けて驚いた。
 そうだった、遠津に君は来ていない。
(……眠れているのかな)
 不安そうにしている顔ばかりが浮かんで、心配になった。
 そんな彼の顔を思い浮かべると、邸へ行った日の事を思い出す。
『――あの、ね。さっきの……』
 桜花の下で、聞こえてしまったのだと『置いてきた名』をチックが口にした。
 知られてしまったことへの気まずさは、君をずっと騙していたせい。
 置き去りにした『俺』が喜んでいることに気がつく、苦い気持ち。
 煙に撒くことは出来たけれど、そうしなかった。
 そうだよと認めるだけで話を逸らし、団子を買い求めた。
(呼んでいいよとか、言ってあげればいいのに)
 きっと彼は困っただろう。
(でもチックは皆の前では口にしないだろうし)
 俺は宴席を抜け出し、手水川へと向かう。
 懐から取り出すのは、昼間にスペアと誤魔化してふたつ彫った大蛇、の片割れ。
 綺麗な桜花を大蛇へと載せ、黒黒とした川へと流した。
(チックの願いが叶いますように)
 あの日願えなかった最低な俺の代わりに。
 君の幸せを、今、願う。
 例え君の傍らに俺が居なくても、君が幸せならそれでいい。
 花弁の行方を見守らず、俺はその場を立ち去った。
執筆:壱花

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