PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

君が寂しくならないように

 指が真っ直ぐに首へと伸びていく。
 瞳を丸くした弟は、全てを受け入れて柔らかく微笑んでいた。
(やめて)
 それがいけないことだと既に知っていて、何度も夢に見る。記憶を辿って勝手に動く体はいつも通り首へと指を回し、気道を締め上げ――なかった。
 代わりに顔を寄せ、弟の白い首筋に牙を突き立てた。
 命の雫を一滴も残さず飲み干して、『ひとつ』になる。
 これで、ずっといっしょ。

「――――ッ」
 夢を見て飛び起きた。ぜえぜえと荒い呼吸に肩を弾ませて、『知らない』壁を凝視する。何処という疑問は既に浮かばない。忙しいと理由をつけて家に帰らず、最近借りている宿屋の一室だ。
 天義から帰ってから、悪夢が変わった。
 煙の香りで意識せずに済んだのに、まるで”それ”を望んでいるようだ。
(……怖い)
 コツン。窓が鳴った。
 窓の外には、二羽の小鳥。チックが窓を開くと二羽の小鳥は室内に入ってきて、レムレースたちはふわりといつものシーツおばけの姿に変わる。
「どうして……ここに」
「おにいちゃん、さびしいかもって」
「ゆーおにいちゃんがね、おしえてくれたの」
 ――君たちなら大丈夫。
 なんのことだろうね。ねー? と、ふたりは顔を見合わせ首を傾げた。
 レムレースたちは肉体は既に土へと還った、血肉の無い無垢な魂だけの子。
 ――大丈夫だよ。
 此処に居ない彼の声が聞こえた気がした。
執筆:壱花

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