PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

曇り空
●Side:雨泽
 仕事柄、様々な情報が入ってくる。
 気付けば知人が増えていて、其の報告書に目を通すことも増えた。しなくていいことをしている。そう気が付いて、途中でやめることも多い。
 けれど、一枚一枚報告書の頁を捲る。
(俺は相当の物好きだな)
 現場に送り出してお終いな筈の仕事の先を、案内していない仕事の先を、無事に終えたかどうかの確認をしてしまう。情が移っている証拠だ。よくない。
 依頼は『無事』に終えていた、が。
 ――烙印。
 その文字が目に止まる。事例としては既に知っていた。其れがイレギュラーズにも生じたとの報告があり、数名の名が記されていた。
 ――チック・シュテル。
 指で触れて塗り潰せるのなら、きっと指先でなぞっていただろう。

 伸ばした手を、チックが避けた。
 ――彼から離れてくれるのなら、それが一等いい。
 ずっとそう思っていたはずなのに、小さく傷付いた――ことに驚いた。
 距離が近くなっている事に気付いた時から離れようとした。出来るだけ誘うのをよそうと思った時もあった。けれど気付けば誘っている。思考と行動が乖離していて、よくないと何度も思ってきた。それなのに。
(よくない)
 本当によくない。引いた線が消えてしまっている。
(いつも通りにしようって決めただろ)
 きっと其れが彼にとって一等良いと思える行動だから、極力気にしない素振りで離れ、説明を続けた。
 けれどもふと頭を過ってしまう。
 ――どんな花を咲かせたのだろう。きっと彼に似合いの可憐な花だ。
 暴きたくなる気持ちを抑えて、『いつも通り』を心掛けて笑った。

 そう、全部いつも通り。――最低なところまで。





 丘でチックが弟と再会をし、ふたりの会話から少しだけ関係性が見えた。
 弟に去られて震えるチックの背中を見て、俺は「良かった」と思った。チックが追いかけていたら、『あの言葉』を口にしていたのは俺だっただろうから。
 言わずに済んで、良かった。君が居なくならなくて良かった。
 ああ、本当に最低だ。
 大切なのに、君の幸せを願ってあげられない。
執筆:壱花

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