PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

甘い満月と兎
●重さ
「待たせてごめんね」
 ちょっと待っていてと言いおいて、暫く。人混みに辟易しながらも雨泽が駆け戻ってきた。
 手には離れる時にはなかった紙袋を抱えている。
「ゆーおにいちゃん、あまいにおい」
「おいしそうなにおい!」
「……お菓子?」
「そ。鼻がいいね」
 レムレースたちの背に合わせるようにしゃがんで小さな紙袋を開くと、ふんわりと甘い香りが更に広がって。
 わあと声を上げるレムレースたちに彼等の掌サイズの今川焼きめいた菓子を配れば、湯気立つそれを早速ぱくり!
「ありがとう、おにいちゃん」
「わ、なかにあまいのはいってるよ!」
 とろりと蜜色の飴が溢れて、見て! とチックの袖を引いてくる。
「本当、だね……美味しい?」
「うん、おいしい!」
「チックの分もあるけど、まずはこっち」
 手を出してとジェスチャーで示し、チックが掌を上向けると「これが僕からの贈り物」と小さな何かを置いた。
「……うさぎ?」
「そう。置物の」
 掌の上では親指と人差し指で摘める大きさの兎が、体の半分くらいの満月にちょこんと手を置いてチックを見上げている。
「重くなさそうな物って中々探すのが大変で、遅くなっちゃった」
「……重い?」
 兎は、確かに軽い。
「うん。……はい、チックも」
 兎の居ない手に菓子を載せ、自分の分を齧る寸前「気持ちが」とだけ呟いた。
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM