PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

暗雲払う野分、幕間
●お守りの行方
「あのね、チック」
「うん」
 話しかけてきたのに、雨泽がその先を話さない。
 否、話そうとはしているようだ。唇を薄く開き、そして閉じるを繰り返している。
 チックはそうした時、相手を急かすことはない。幾らでも待つ気で、ただ静かに彼の側に居た。
「……ごめんね」
 時間を掛け、ようやく零されたのはそんな言葉。
 どうしたのと視線を向けて首を傾けると、言葉に詰まったような微妙な視線とかち合った。視線はすぐに外されて、一度落ちてからまた上げられる。
「せっかくお守りくれたのに、壊れちゃった」
 見える場所につけておいたのに、と左手が右手首を撫でた。
 小さくぽつりと零されるのは、気付いたら弾けて無くなってしまっていたこと、欠片を探そうにも戻れなかったこと。
 ――なんだ、そんなこと。
 彼の元気がない理由が解って、チックはホッと息を吐いた。
「雨泽が無事で、よかった」
「うん。チックも無事で……じゃなくて。だからね、代わりを贈ってもいい?」
「本当に、気にしていない……よ?」
 あげたものだから弁償するようなものでもない。
 かぶりを振るチックに焦れたのだろう。ああもう、と笠で隠されていない前髪をくしゃりとして。
「俺が気にするの!」
 だから今度、一日付き合って。
 勢い任せにそう言った。
 いつも通り「君が気にしないならいい」とは言えなくて。
執筆:壱花

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