PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

南瓜が笑えば猫も歌う

 にゃ、にゃ、にゃ♪
 短く白猫が歌っている。
 否、合わせているのだ。チックの奏でる歌声に。
 今日の雨泽はいつもよりも――心の底から本当に、楽しいのだろう。
 白い尾はピンと立っているし、『ヒゲ時計』は10時10分を指している。
 その姿が感情に素直なことに、きっと雨泽は気付いていない。

「チックのその姿って、歌を奏でるひとだよにゃ」
 小さな猫の身体にはあまり量は入らないからとチックに分けてもらう形であんぱんももなかも口にした雨泽は、腹がくちくなった頃にそう口にした。
「雨泽、ふぁんとむ……知ってる、の?」
 おれは詳しくは知らない。
 目を僅かに丸くしたチックに、雨泽がうんと頷いた。
 雨泽はその物語を知っていた。
 ファントムは、仮面で『醜さ』を隠している。
 だからチックは――。
 水色の瞳が細まって――蕩けるように綻び、思考を隠す。
「彼の有名な言葉は知っているにゃ?」
「……何、だろう?」
「『歌え、私のために』」
 物語内で歌姫と歌の掛け合いがあるのだ。
「一緒に、じゃ……ダメ?」
「ダメ。……ねえ、言ってよ、チック」
 僕に命じて。悪戯だと思ってさ。
 今宵はファントムナイト。君の欲も願いも叶う夜。

 いつもは歌ってと言って目を伏して耳を傾けるだけなのに。
 雨泽は今日のこの日――このファントムナイトの夜だけは、チックの声に合わせて楽しげににゃあと歌っていた。
執筆:壱花

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