PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

幽けき涅槃吹、幕間
●演目前
「雨泽、よろしく、ね」
 何かあったら――危険があったら、逃げて欲しい。
 そうして、刑部省に伝えて欲しい。
 そう告げたチックに、雨泽はいつものようにすぐにうん――とは言わなかった。
「あのね、チック。それは君もだよ」
 前にも似たことを言ったかもしれないけれどと、ばつが悪そうに指先が耳飾りを弄る。
 助けを呼ぶのは大事だし、救いたいって気持ちはわかるし、希望を捨てたくない気持ちも解る。――例え殆ど答えが出ているとしても。
 けれど、それでも。
「俺は君の事を友と思っているから――」
「雨泽?」
 言葉の続きはない。
 情報屋として依頼をしている以上、危険なことをするなとは言えない。
「ううん、気にしないで。今日の公演、楽しみにしているね。チックの歌、僕好きなんだよね。特等席で聞きたいくらい」
 どこかいつもより早口でそれじゃあまた後でと会話を切り上げ、背を向ける。
(……雨泽?)
 チックは首を傾げて彼の背中を見送っていたけれど、やることをやなくてはと関係者入り口に姿を消した。
 チックの気配がなくなってから、雨泽は慌てて路地に入ってしゃがみこむ。
(何かすごく格好悪いこと言っちゃったよね、今!)

 演目を終えて再度芝居小屋の前で合流した時には雨泽の態度はいつも通りで、チックは緩く首を傾げていた。
 気のせい、だったのかな?
執筆:壱花

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