PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

真白の鬼と飛べない鴉
『ファントムナイトの日、少しだけ独占してもいい? チックの誕生日だからちゃんと皆に君を返すけど、少しだけ俺だけの時間を頂戴』
 10月に入ってから、雨泽がそう言った。「昨年は一緒に居られなかったから、今年は少しだけ時間が欲しいな」と。

 会える。お祝いして貰える。
 楽しみな約束事があると、月日というものの流れは一瞬だ。
「雨泽っ」
 待ち合わせ場所にはいつもの彩はなくて。けれどもチックはそれが彼だと見逃さない。
 今日はファントムナイト。なりたいものに、なれる日。
 なりたいものとふたりが願ったのは、互いの種族だった。事前に『君の種族になろうと思う』と伝えていれば合わせられたかもしれないけれど、そこは自由意志。互いに相手の行動や意思を縛りたいとは思っていないのだ。
 けれども『相手』ではなく『種族』を願ったのは自分たちらしいか、と雨泽は心の裡で笑った。いくら好いていても彼自身になりたい訳ではない。違う存在として側にいたくて、同じ種族だったらもっと相手のことが知れるし――雨泽は持って産まれた種を変えられるのなら『同じ』になりたいと思っている。
「よく見つけられたね」
「俺、雨泽なら……どこにいてもわかる、するよ」
「そうなんだ」
 黒い髪も綺麗だねとチックが笑い、そんな彼の笑みに穏やかに口角を上げた雨泽は手を伸ばしかけ――チックの額に生えた白い角に触れる前に止めた。躊躇ったのがわかるから、チックが一歩前に出てその手に角を擦り付けた。
「……雨泽が触られるのと同じ感覚、なのかな」
「どうだろう?」
 指先で触れる、つるりとした角。他人の角に触れたいと思って触れたのは初めてかもしれない。
「チックは鬼人種の姿でも可愛いね」
「雨泽も、可愛いしてる。鴉の翼……? も、黒い髪も綺麗、だね」
「そう、鴉なんだ。あ、そういえば、翼って面白いね」
「面白い……?」
「うん、何か腕がもう1セットある感じ」
 幼い頃から当たり前に翼のあるチックはなるほどと目を瞬かせた。
「飛んでみる、した?」
「怖いからしてないよ」
 キュッと眉を寄せた雨泽がブンブンと首を振るから、チックは頬が緩んで仕方がない。
「今日は俺が『えすこーと』したい、思う」
 差し出された手に雨泽が何かを言いかけ、やめる。
「それが君の望みなら」
 手を重ねてから、柔らかに「あのね」と紡がれた。
「チック、誕生日おめでとう。
 産まれてきてくれてありがとうって毎年言わせて欲しいと思ってるよ。
 プレゼントを用意してあるけれど、それは後から。ひとまずは僕ってことで」
 だから、何だって言うことを聞いてあげる。
 鬼人種の力を試したいのなら抱えてくれたっていいよと鴉が咲った。
執筆:壱花

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