PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

言う/言わない

 おしまいにしよう、と雨泽が言った。
「……え?」
 それは唐突なことで、チックにはすぐにわからなかった。
 ――何が。
 考えて、考えて、あっとなる。直前にしたことだ。
 時折する、深い口付け。それをやめようと雨泽は言ったのだ。
「……どうして?」
 つい先刻分け合った熱が、唇に灯った熱が、冷めていくようだった。
 好きだと以前は告げていたけれど、本当は嫌だったのだろうかと頭の片隅で考えてしまう。けれどジッと見上げた雨泽にそんな素振りはない。
 それに。
(甘くておいしい、って言ってた……)
 思い出せば頬に羞恥の熱が灯ってしまう。自覚するくらいに熱くなった頬は赤を宿していることだろう。
「え。だってもう、必要ないかなって」
「必要ない……」
「確認の」
「確認、の?」
 鸚鵡返しに口にして、首を傾げる。と、雨泽も同じように首を傾げた。
「確かめたいって言ったやつ。もう三ヶ月たったし、もう確認の必要はないよね?」
 触れるくらいでいいかなぁ、って。
 ぱちぱちと瞬いた。言われた言葉をゆっくりと噛み砕いて、チックは考えた。
 深い口付けは、本質的な部分での嫌じゃないかの確認。きっとそこには雨泽の気持ちだけじゃなくて、チックの気持ちも含まれている。確認の必要がないということは、好きという気持ちを認識しているからだろう。それは喜ばしいこと、だと思う。けれど――少し物足りない、ような。
 また、欲張りな自分を自覚してしまった。
「……」
「チック」
 視線が下がって俯きかけた顎を、雨泽の指がすくっていく。いつだって力は籠められない。指の動きで顔が見たいと告げるのみで、見上げるのはチックの意思に任されている。
「どうしたの? ……確認が続いていたことが嫌だった?」
 チックは首を振る。それは了承済みだ。
(でも……何て言おう……)
 言ってくれないとわからないよと雨泽が眉を下げる。
 してほしいことも、したいことも――。
「チックの気持ちを教えて」
「おれは……」
 望んでいると口にすれば雨泽はそうしてくれるけれど、そうでなければきっともう『しない』のだ。
執筆:壱花

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