PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

君の翼

 雨泽は悩んでいた。多分、今月入ってから一番の悩みに直面している。
 前方には背を向けたチック。姿勢を正して座っており、その背中は少し強張っており緊張の色が見える。
(飛行種の人ってどうもふるのが正解なんだろ……)
 ぶんぶん鳥ならば、主にもふるのは胸毛や綿毛だろう。
 雨泽にとっての鳥は小さくて愛らしい存在で、指先で軽く擽るように撫でるのは許される。だが飛行種は翼があれど『人』で、大きい。体表にも羽毛が生えている人もいるが、チックの『鳥部分』は翼のみだ。
(翼ってどうもふるんだろ……)
 翼は繊細だろうから、普段から出来るだけ触れないように気をつけている。
 思えば、『今度触らせて』と告げてから随分と時が経った。折ってしまったら怖くて、結局触るのを避けていたのだ。
「……触るね」
「ん」
 待たせ続けるのもよくないからと意を決してそろりと指先を伸ばせば、翼の先が揺れた。
 羽根の流れに沿って表面を撫でる。
(もふもふっていうよりはなでなでだけど)
 正解が解らない。難しい。
 普段触れたいと思うのは猫で、猫ならば撫でたり、胸や腹をもふもふしたり――吸ったりする。
(――あ。吸って良いのかも!?)
 閃いた。これだ。
 猫を吸うと何とも言えない幸せで胸が満たされる。
 彼を吸ってもそうなるに違いない。
「ねえ」
「ん、なぁに」
「君を吸ってもいいの?」
 一応聞いてみる。
「す……」と小さく聞こえたような気もするが、返答はない。
「駄目? じゃあかぷってするのは? あっ、痛い感じのじゃないよ?」
 猫の耳なんて愛らしすぎて甘噛みしたくなるものだ。
 肩が揺れた。背中を向けているから表情が解らない。これも駄目なのかなと首を傾げた。
(やっぱり嫌なことは聞いておくべきだよね)
 三眼へと両手を伸ばしたチックの表情を思い浮かべれば、心からそう思う。
「ねえチック、どこまでなら許してくれる?」
 翼の付け根の肌は?
 羽根はかき分けてもいいいの?
 やっぱり僕は吸いたいなって思うんだけど!
 ねえ、聞いてる!?
執筆:壱花

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