PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

猫にまたたび

 椿園で華しょこらを口にした後、手作りチョコもあるのだと告げたチックへ、雨泽が奇遇だねと笑った。
 雨泽からの灰冠の贈り物は、椿屋での一泊。温泉に入って美味しい夜ご飯を口にして、椿屋の客室でのんびり過ごすひとときにラム酒風味のトリュフチョコを手渡して。食べさせてとねだられるままに一粒ずつ口へと運んだ。
「お酒が呑みたくなってきちゃった」
 呑んでも良いかと聞いてくる気遣いが嬉しくて頷けば、少し待っていてと雨泽は部屋を出ていった。

 チョコを食べたから洋酒にしたと、チックの分のグラスも手に雨泽が戻ってきてから――暫く。
「うーん」
「雨泽……」
「むーー」
 殆ど甘いソーダ水なチックと違い、氷のみでグラスを空けていた雨泽が唐突に卓袱台へ倒れ込み――それからずうっとこの調子。
「酔う、してる……?」
「……君に? そうかも」
「……お酒に」
「ふふふ」
 トロンとした表情で雨泽が楽しそうに笑う。その様子を可愛いと思って眺めてしまっていたら、のそのそと体を起こした雨泽がまたグラスを傾けた。
「もうおしまい」
 グラスを持つ手を止める。だって雨泽が持ってきた洋酒の瓶の中身はもう殆どない。
 不満を示す雨泽の手から簡単にグラスを抜き取って卓袱台へと置けば、あれっと雨泽が目を瞬かせた。
「チックがふたりいる」
「……おれは、ひとりしかいないよ」
「ほんと?」
 触れてくる指が常よりも温かく、瞳は眠たげだ。
「雨泽、眠たい? 布団に……」
「やだ」
 フイと顔を逸し、チックの頬に触れていた指も離れていく。
「チックといたい」
「……一緒にいるよ」
 ん、と返る声に、チックは微笑んだ。酔った雨泽は子供みたい。
「洋酒、よわい」
「知っていて……呑んだ?」
「うれしかったから」
 話が続いていないように思え、チックは首を傾げた。
「特別仕様だった」
 ああと思い至る。試作の時には無かったラム酒の風味。それが嬉しかったのだろう。
「俺が……を……だか……潰し……」
「雨泽?」
 途切れ途切れだった言葉が、ついに聞こえなくなった。雨泽はうつむいて瞳を閉ざしていて、座ったまま寝てしまったのだろうかとチックは覗き込もうとした。
 その途端、チックの視界はぐるんと回った。
 天井を映す筈の視界は白い髪のカーテンで覆われ、雨泽が機嫌良さそうに笑っている。
 抱きつかれて押し倒されたのだと頭が理解しだした頃には雨泽の顔が近寄ってきて――
「……」
「……翠雨?」
 チックの顔の横にポテンと落ちた頭は、健やかな寝息をたてていた。

 ――翌朝。
「俺、何もしてないよね!?」
 飛び起きた雨泽は酷く慌てた様子でそう言った。
 何も覚えていないことが解ったチックはジトリとした瞳を向けるのみで、答えてなんてあげなかった。
執筆:壱花

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