PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

最近嵌ってる甘味の話

「口吸い、してもいい?」
 問うのは毎回、吸血の後。毎度ではなく、3度の吸血に1度くらい。
 深いものだから驚かないように都度聞くのだろうかと思いながら、チックはこくんと頷いた。……期待するような表情になっていなければいい。けれど以前よりも誰かの瞳に映った自分の表情は豊かになっていて、見つける度に色んな感情が混ざってしまう。
 頬に触れた手が顎へとかかり、持ち上げられれば唇が触れ合う。迎え入れた熱で頭はすぐにいっぱいになって、短いだろうそのひとときを長く感じてしまう。
(もっとって言ったら、雨泽は)
 欲張りだとはきっと思われない。けれど恥ずかしくはある。
「大丈夫?」
「……うん」
「嫌だったり苦しかったら」
「嫌、じゃない」
 パッと顔を上げて否定をすれば、そうと呟いた雨泽が笑った。自分ほどじゃないけれど雨泽の頬も普段より血色が良く、機嫌良さげな笑顔を可愛いとつい見つめてしまう。この表情を見られるのは自分だけなことは是迄の彼の言葉を辿れば明らかで、自然と心が満たされる。
「雨泽は?」
「僕? 僕は好きだよ」
『好き』という単語が彼から聞けるのはどんな時だって嬉しい。おれもと返そうとし――爆弾が落とされた。
「チックって甘いし、美味しい」
「っ」
 肩が跳ね、頭の先から湯気が出そうなほどに顔が熱くなる。
「食べすぎないようにちゃんと我慢してるんだよ?」
 偉いでしょと上がった口角と、猫のように細められる瞳。
 そこでアッと気がついた。
「……わざと言う、してる……?」
「血が美味しいって言われる時の僕の気持ち、解ってくれた?」
「っ、それとこれは違……」
「一緒。何方も体液」
 熱が駆け上り、きっと首まで赤くなった。知らず開いた口を閉じるのにも苦労して。けれど彼の意地悪な笑顔も可愛いから、ただずるいと思う。
「……雨泽」
「僕が本気を出したら君なんてすぐ気をやっちゃうんだから」
 声を低くして窘めると、我慢のできる僕を褒めて欲しいくらいだと口を尖らせて。
 その表情も可愛いと少し思いながらも、チックは知らない言葉に首を傾げた。
 雨泽は失言だから忘れてと言う。
 けれど何となく。『もっと』は当分口にしない方が良いのだろう。
執筆:壱花

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