PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

禍福倚伏の渦雲、幕間
●涙雨
 それじゃあまたねと別れようとした矢先、両肩を掴まれて驚いた。
 君の顔が髪で隠れていて、いつも顔が見えるのは君が見上げてくれているからなのかと何となく思った。
「チック?」
 疲れて体調が悪いのか、それとも――あ、血かな。戦ったりすると脳が興奮状態になるせいで英雄は色を好むとも聞くし、吸血衝動もあったりするのかもしれない。
 パッと君が顔を上げた。僕は笑みを浮かべかけた微妙な顔で固まった。
 あ~、これはなんかよくないぞ。よくない。怒られるパターンだ。
 真っ直ぐに見上げて怒ってくる顔は新鮮だし可愛いけど、今だけは絶対に告げてはいけない。もっと怒るに違いない。
「何で、犠牲になる、選ぼうとしたの!」
 ……気付いてたんだ。いや、気付くよね。
 少し前の俺なら、絶対にそんな選択はしなかった。俺は俺の命が一等大切で、けれどいつどこで終えても良かった。でもチックたちが俺を変えたんだ。沢山の出来事があって、『大切』が増えて、俺の一等が変わってしまった。全然自由じゃなくなったのに、それでもいいかと思えるようになったんだ。
 君が感情のままに言葉を紡いで涙を零すのを、少し嬉しく思っちゃってごめんね? 俺って君の大事な人のひとりになれてたのかって、俺のために怒ってくれるのが嬉しいんだ。
 君の涙を拭いたいけど、怒られている立場で拭って良いのか解らない。
 辛さを零す君に寄り添う資格があるのかも解らない。
 けれども君が俺を掴んだまま離さないから、傍に居てって言われているのは解った。
「……もう、おいていかれるのは……いやだよ……」
 そうだね。大切なふたりを喪ったのに、俺まで居なくなるのは酷だろう。
「もうしない。おいていかない。約束」
 涙を拭って良いのか解らなかったから、背へと腕を回して抱きしめた。

「……家に帰れそう?」
 暫く腕の中で震えていた君が落ち着いたタイミングで、驚かせないように頭を撫でてから声をかけてみた。
 泣き腫らした顔で家に帰れるのか、胸に顔を寄せている君も悩んでいるのだろう。否定も肯定も返らない。
「俺のところ、来る? あ、でも寝具も何もないや。どこか宿とか……」
 畳だから転がれなくもないけれど、寒いだろう。それに物が溢れすぎている。
 いけそうな宿はと考えようとしたところで、君の手に僅かに力が籠もった。
「……雨泽のとこ、がいい」
「……何もないよ」
「雨泽がいる」
「俺しかいないよ」
「ん。いっしょに、いて」
「わかった」
 こうして抱きしめていればきっと寒くないし、夜通しだって君の悲しみと言葉を受け止めよう。
 それじゃあ行こうと抱き上げたらワッと声が上がった。
「君の泣き顔を他の人に見せたくないし、少しだけ我慢していて」
執筆:壱花

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