PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

輝かんばかりの日に向けて

「お待たせ、した?」
「ううん、全然」
 髪をふわふわと弾ませ、小走りにチックが駆けてきた。急がなくてもいいのにとは思うものの、待ち合わせ場所に先に人が居たらそうなるのも解る。だからそれ以上は何も言わず、僕の傍へと辿り着いた君がふうと吐息を整えてから「それじゃあ行こうか」と告げた。
 今日の目的は、先日文(ふみ)で彼にねだった買い物だ。
 ――折角だからお揃いの物がほしいなって。
 少し恥ずかしいお願いではあったけれど、欲しいなって思ったのだから仕方がない。
「お店、楽しみ」
 僕の行きたい店でいいと君が言ったから、どうしようかなって結構悩んだんだ。
 ローレットに通うようになる前の僕にとってちゃんと用意をした贈り物というものは相手からの心象を良くするための手段に過ぎなくて……まあ言ってみれば賄賂と同じ。一緒にウロウロしている時に買ってあげるのは気まぐれだし、特に意味のない物や勘違いされない物や消え物を選ぶ。
 けれどローレットに通うようになって暫くして、僕の考えは変わってきた。
(喜んでくれるかな。喜んでくれるといいな)
 贈る相手のことを考えて、受け取った相手の反応や笑顔を楽しむ。
 友人から貰う物も、気持ちが多く籠められている事に気がついた。
 ただの賄賂。意味のない物。
 だった筈なのに、貰うと嬉しくて、贈るのも楽しい物となった。
「チック、この店だよ」
「小物屋さん?」
「そう。前に赤と白いのあげたでしょ? あれもここの」
 僕好みの造形の物を多く扱ってるこの店は、僕のお気に入りだ。持ち物が被るのって好きじゃないし、あまり他人に店を教えたくはないけれど、チックならいいかなって思ったんだ。
「ピアスを贈りたいなって」
「ピアス……?」
 でも、と君の視線が持ち上がる。見ているのは横髪に隠れた僕の耳だろう。
 僕の耳に、ピアスホールは空いていない。個性を増やすということは変装したりする時に不利になるからだ。それでも別にいいかなと思えるように最近なった。
「そう、ピアス。どんなのがいいかな」
「水引……多い感じ?」
「そうだね。主力商品」
 赤い石のピアスへと視線を向けて少し考え、やめた。贈るのだから、君に持っていて貰いたい色にしよう。
「あ、そうだ、チック」
 うん? 首を傾げた君が僕を見上げてくる。
 ピアスをしている左耳へと手を伸ばしても君は逃げなかったから、そっと君の耳へ触れてみる。
「僕のここに、穴を開けてくれない?」
 初めて触れた君の耳たぶは、ふにっとしていて柔らかかった。


――
アイテム名:梅に翡翠
フレーバー:
翠珠揺れる水引ピアス。固い絆と魔除けの梅結び。さらりと揺れる真白の房飾りは掴み所なく。
執筆:壱花

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