PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

Moon Child

 うとうとと微睡むような心地ではなく、ふと、唐突に目が覚めた。
 とても温かいことを不思議に思うが、答えはすぐに視界に入ってくる。
(……チック。俺、あのまま寝ちゃったんだ)
 ぬくもりを分けてくれた彼もずっと気を張り詰めていただろうから、暫く後に寝たのだろう。俺でもぬくもりを与えられているのかと都合の良い考えが過りかけるのを振り払う。そんなの、依存しあってるみたいじゃないか。
 姉上がチックの分の布団も用意してくれたのだろう。眠る君を起こさないように気をつけながら小さく半身を起こせば、夜明け前の気配が頬を撫でる。腕で這って顔が並ぶように移動して、眠る君をじっと見た。頬に触れて、涙袋の下へ指で触れた。肌が乾燥している。時折泣いているか、寝ている時に泣いているか。そのせいだろう。
 万全になったら高品質な化粧水を贈ろうと決めた。泣いたらしっかりと保湿しないと。彼の頬を少し摘んでから離す。滑らかな肌でいてほしい。
(君は他人を優先するから……)
 俺だからじゃなくて、他の人にも。だから俺の気持ちを優先して、自分の悲しみを分けてくれない。俺ばかりが甘えてしまっていて、けれども言ってと言うのも言わせているようで複雑で。誰かに促されなくとも頼れるようになってほしい。……そうなってくれたら良いのにね。
 君の頭に手を伸ばし、両腕で引き寄せる。
(辛い思いをした分、救われないとダメだよ)
 額に唇を寄せて良い夢をと願い、頭を撫でた。今の俺の腕でも、いいこって撫でてあげることくらいは出来る。いっぱい頑張ったねって言ってあげることはできるんだよ? ねえ、チック。
(人は鼓動を聞くと安心できるんだっけ? 君も俺で安心してくれる?)
 そうあればいいと思ってぎゅうと抱き込み、君の額を胸に押し付ける。
 今この時、君の世界が俺の鼓動(おと)だけになるように。

 朝が来る前に元の位置に戻るつもりだったのに……いつの間にか俺はまた寝てしまって、目覚めた君を驚かせたようだった。
執筆:壱花

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