PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

白星ノ祈
●願いと祈り
 週に二度、必ず君に会う。
「ん……」
 もう何度も経験してるのに、牙が離れる瞬間に慣れることはなくて。
 けれども僕も君も、割りと『慣れた』方だと思う。そうすることが習慣になって、当たり前になって、触れる熱にも離れる熱にも気恥ずかしさは何処かへ行ってしまった。……と思っているのは僕だけかも知れない、けど。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 最初の頃の申し訳なさそうにする表情では無くなったから、慣れたかなって思っている。
 その後は、用事が済んでいればバイバイしたり、食事をしたり、夜歩きをしたり。いつも違うけれど、今日は少し歩こうって君を誘った。
 秋の香りを楽しんで、月の色を楽しんで、それから……君はどうやってくれたっけって考えた。あの日の俺は気が動転していて、君のことも気遣えなかった。手を引いて貰っていたことは覚えているけれど、話した内容も少し曖昧だ。小さな箱が塒に戻ってもあったから、ああ現実なんだって、全部夢じゃないんだって思ったんだ。……夢だったら良かったって思っていた。皆が案じてくれたのに、自分のことばかり考えてしまう俺は本当に最低だ。
「……雨泽?」
「あ、ごめん。考え事しちゃってた。なぁに、チック」
「月が綺麗だね、って」
 満月じゃなくても、月は綺麗。君の言葉に含みはないだろうから、そうだねと返した。
「悩む、してる?」
「うん。どうやって渡そうかなって考えてた」
 半分、本当。
 渡す? と首を傾げる君の手を掬って、小さな箱をその手に乗せた。
「これ……」
「少し早いけど、誕生日おめでとう」
 君がそうしてくれたように、俺からも。当日に渡しても良かったけれど、君の誕生日は俺も君も姿が違う可能性が高い。今の俺の姿で、普段通りの君に渡したかったんだ。
 箱の中身は、白い桔梗のブローチだ。文(ふみ)で話を聞いてから、そうしようって決めていた。桔梗は君の誕生花であり、俺が君に貰った花と同じ星型で、豊穣の秋の七草。
 中身を見て、俺を見る君の瞳が真ん丸で面白い。本当に月みたいだね、チック。
 ありがとうと紡ぐ君に俺がつけてもいいかと問うて。頷いた君の手からブローチを摘まみあげる。
「これから先もあなたの魔法が誰かの助けと為る様に」
 君の一族みたいに魔法が使えない俺には祈るだけしか出来ない。けれど精一杯の想いを籠め、ブローチを君の衣服へと飾ったのだった。

 ――どうかその魔法が、俺の助けとはなりませんように。
   他者のために自身を惜しまない君が、己の身を顧みて魔法を行使できますように。

――
アイテム名:白星ノ祈
フレーバー:
白い桔梗のブローチ。特別な何かなんてものはない。籠められているのは、ある鬼人種の祈りのみ。
執筆:壱花

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