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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

星海鉄道の夜 、幕間
●ただいまの行方
「おかえり」
 そう告げた君に、少し驚いた。
「……ただいま」
 返事が遅れた僕を不思議に思わないでくれたことに、密かに胸を撫で下ろす。
(おかえり、だなんて)
 これまでだって少し席を外す時におかえりとただいまは言っていた。けれども眠るために向かった寝台車で言われたら、まるでチックの居る場所が帰るべき場所みたいじゃないか。
(帰る場所なんて――ないのに)
 帰る場所は、自分で手放した。
 新しく作ったらそれは自由じゃなくなるような気がして出来なくて、猫だって飼わないようにしている。
 けれど彼の側が居心地好いということは、認めていた。
(……でも、無理)
 彼とは恋人でも家族でもない、ただの友人だ。
 最近では友人同士のルームシェアというものがあるらしい。けれどふたりきりでもない――何人も人が住んでいる場所での生活なんて、息が詰まってしまうことが容易く想像できた。
 ぼんやりと考えながらもチックと会話を続け、ふあと欠伸が溢れて横になる。疲れてふわふわとした思考に子守唄が優しくて――だからだろうか。『本当』が零れ、君が眠るのを待つ前に寝入ってしまった。

●例え終点が暗くとも
 柔らかな寝息が聞こえてきたことに安堵して、チックは寝転がりながら窓を見上げた。
 窓の外には幾つもの綺麗な星が流ていて、本当は進んでいないけれど――列車は終点へと進んでいく。
(終点は、どんな風になってるんだろ)
 星は果てでも瞬いているのか。それとも何もない、暗くて冷たいところなのか。
 けれどそこがどんなところでも、チックは雨泽と一緒なら怖くはない。
(雨泽は……どう思う、する……かな)
 人が多いのは苦手だと零したから、星が多く瞬いている方が苦手かもしれない。
 暗くて冷たい場所だったら、また風邪を引いてしまうかもしれない。
 歌を灯し、照らしてあげたいと思った。温めてあげたいと思った。
(この気持ちが欲張り……じゃない、なら)
 ――雨泽が安心して帰れる場所になりたい。
 チックは流れる星へと願った。
執筆:壱花

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