PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

アルアーブ・ナーリヤの違和
●心配
(やっぱり衝動があったのかな)
 いつもより長く吸血しているように思え、そんなことを考えた。
(脈も早い気がするし……無理をさせたのかも)
 彼は優しい子だから人のせいにしないし、すぐに我慢をする。我慢しないで欲しいと思うのに、結構頑固な事も知っている。
「もし僕が暫く留守にしないといけなくなったら、我慢せずにちゃんと誰かから貰ってね」
「……予定がある、するの?」
 首から顔を上げたチックの瞳が微かに見開かれている。
 驚かせたかな。いつもなら吸血後は小さく歌を口遊んで噛み跡をすぐに癒やしてしまうのに。
「そういう訳ではないけど」
 何事も備えておくことに越したことはない。常に最悪を考えて先に手を打つだけだ。
(保護している子からは嫌だろうし、本当は弟から貰えればいいんだろうけど)
 あの弟は、頼めばきっと二つ返事だろう。……けれど彼はどこか剣呑だ。
(家族の問題は俺が口出しすることじゃない。俺は『繋ぎ』に過ぎないのだから)
 彼に多く居る友人のひとりに過ぎない事を理解している。
「我慢、しないで。周りを頼ってね」
 だから言えることは、ただそれだけ。

●違和感
 もしもの話なのに、暫く会えない日々を想像してチックは少し悲しくなった。
 思わず見上げた雨泽の灰色の眸には、自分だけが映り込んでいる。
 いつもは嬉しいのに……けれど何故だろう。
(……あれ?)
 少しだけ違和感を覚え、確かめたくて背伸びをした。
「わ、チック。何、どうしたの。え、本当に口吸いしているように見せたいの?」
 彼の言葉で我に返り、意識しないように慌てて顔を背けた。それなのに頬に熱が集って……恥ずかしい。
「吃驚した。……ねえ、甘いものを食べに行こうよ」
 暗さと花火の灯りでチックの頬の朱に気付いていないようだ。彼は襟を正して笑って――違和感は隠れた。
 空にはまだ花が咲いていて、今なら店が空いているよと手を引かれた。
 ……花火の灯りのせいで見間違えたのだろう。
 色素の薄い虹彩が、罅割れているように見えた、なんて――。
執筆:壱花

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