PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

ある海洋の日

 海洋へ渡ってから数日経過したある日、毎朝同じくらいの時間に食堂で顔を合わせていた雨泽がやってこなかった。
(どうしたんだろう……)
 この宿は一階が受付と食堂なため、客室にある二階へ繋がる階段を見上げた。
 最初は体調を案じられての同室だったが、症状が落ち着いてきた事が解ってからは「僕が居たら気が休まらないでしょ」と一人部屋となった事を思い出す。
(休まらない、しない……けど、雨泽は)
 本当に休めていないのは彼なのではないかと思い、異を唱えなかった。部屋は別だが、隣部屋だ。大丈夫。
(昨日、のせい……?)
 血を多く貰い過ぎたのではと、途端に怖くなった。
(でも……)
 ただ疲れてゆっくり寝たいのだとしたら?
 邪魔をするのはよくない。

 昼になったが、まだ雨泽は訪ねて来ない。
(やっぱり体調が)
 不安な心はもう、我慢できなかった。
 ――コンコン。
 出来るだけゆっくりとノック。返事はない。
「……ゆーずぅぁ」
 名を呼んでみた。返事がない。
 ――コンコン!
 今度は強く。
「ゆーずぅぁ!」
 不安が胸に溢れていく。
 倒れていたらどうしよう。……扉を破壊しようか。

 ――ドン。

 何かが落ちるような音がした。
 息を飲んで耳を澄ますと、足音が聞こえた。
 がちゃりと扉が開けば、不思議そうな顔で壁に凭れ掛かる雨泽がいた。


 扉を叩く音で瞼を持ち上げた。
 そのまま寝返りを打てば、視界は床を映した。
 誰かが呼んでいる。起き上がって扉へと向かい、ぼうと重い頭を壁に預けながら扉を開けた。
「……あれ、チックだ」
 何故だか小さいチックがいた。
(夢かな……)
 ぼんやり眺めているとまた瞼が降りてきそうになる。
「……だいじょうぶ?」
 昨日までの記憶が急に戻ってきて、眠気が吹き飛んだ。夢じゃない。
「ごめん、また後でっ」
 勢いよく扉を閉めたから驚かせたかも知れない。
 振り返ろうとして、ゴツン。壁にぶつかった。
「ゆーずぅぁ!?」
「……大丈夫……」
 寝癖で髪はボサボサだし、寝間着のままだし、声だって寝起きで化粧だってしていない。
(あー……)
 頭を抱えてしゃがみ込む。
(……死にたい)
執筆:壱花

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