幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
雲間にて
雲間にて
関連キャラクター:チック・シュテル
- こころ灯すもの
- ●
家へ帰るとすぐ、おかえりなさいの元気な声が響いてくる。
長い間家を空けていたせいか、最近は毎日こうだ。同居している家族が、チックの帰宅の度に玄関までお出迎え。それを申し訳なく思うけれど、その度『彼』の言葉を思い出す。
『謝らないで』
(ごめんね、じゃない……ありがとうの気持ち、がいい)
だから申し訳ないと思うよりも、子どもたちへの感謝と家に帰れる喜びを抱こうと湧き上がる申し訳無さを幸せな気持ちに変えた。
「おにいちゃん、おみやげ?」
おばけの子の視線がチックの手元へと向かった。よくお留守番している良い子たちへとお土産を買うからだろう。
「これ、は……おれの」
作ってもらった、自分だけのランプ。
置いてくるねと、部屋へと向かった。
――――
――
「鳥?」
問うたチックへうんと返した雨泽は、白、灰、黒へ。黒、灰、白、とランプシェードを回しながら指で辿った。ガラス片で身体と翼、頭と尾羽根をビーズで足した鳥が橙と白で作られた花模様の上を飛んでいる。
「生まれた時は灰色で、成長すると白くなる鳥がいるんだって」
チックの翼の変色の理由を知らない雨泽は、君も変わるタイプなのかなと口にした。
「……雨泽、は……白の方が、好き?」
「うーん、僕と同じ色だなって思うくらい?」
チックの視線が少し落ちた。
「黒だと僕が好んで纏う色かな」
視線が上がる。
「ほら、今日も黒いでしょ」
腕を上げて衣を見せて、君は何色を纏っても似合うと思うよと雨泽は笑っていた。
――
――――
白、灰、黒へ。黒、灰、白へ。
雨泽との会話を思い出しながら、チックの指はランプを辿る。
(おれのこと、よく見てくれてる……)
翼の変化に気付いていても、烙印で小さくなっても、雨泽は「似合うね」しか言わない。
斑で歪で、鏡に映る瞳の色を怖いと自分自身でも思ったのに、雨泽はいつもと変わらぬ態度で目を見て話してくれていた。
沢山の優しさにひとつずつ気付く度、幸せで。
「ランプ、どこに飾る……しようかな」
こつんとランプに爪を当て、飾った時の光景を思い浮かべるのだった。 - 執筆:壱花