PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

雨乞い

 ――後遺症で解った事があったら教えてね。
 薬を飲んで日常生活に戻れるようになったが、まず自分の後遺症の状況を把握する必要があった。雨泽の言葉は主に、吸血衝動と必要な血液量だろう。
 海洋に居た日々と同様に雨泽は二日置きに顔を出し、「大丈夫?」と問うた。以前ならば強い衝動があったのに、それが無いことに安堵した。
 また二日経ち、雨泽が確認をする。衝動が湧き上がるものの、憔悴することなく抑えることが叶い、ホッとした。けれど彼を見て『飲みたい』と思ったことを少し恥ずかしく思った。
(雨泽に、何て言おう……)
 他者の血を欲してしまう。其れは浅ましく思え、乞うのも我儘であるような気がした。
 頼ってと言われた。……頼りたい。
 けれどどこまでが我儘で、欲で、甘えで――どこまで許してくれるのだろう。
 惑う気持ちが視線を彷徨わせた。それでもチックは勇気を出し、あのねと切り出した。
「それなら週二くらいがいいかな」
「お願い、できる?」
「勿論大丈夫だよ。週に二回も君に会えるなんてラッキーなだけかな」
 雨泽はいつだってチックの心が軽くなる言葉を選んでいる。最近チックにもそれが解ってきた。本心は違っていても、チックの心を優先しようとしてくれている。
(それは嬉しい、こと。でも……)
 寂しいとも思ってしまうのが、不思議だった。
 雨泽自身も嘘をついている訳ではなくて、幾つかの思いのひとつを口にしているだけ。けれど其れ以外を隠してしまうから、彼の本心は解り難い。
「量も……少しでよさそう、な感じする」
「そう? じゃあ首じゃなくて指……あ、ごめん。無し」
「……雨泽?」
「……抱擁みたいで好きだし、首からでお願いします」
 答えを求めてジッと見てみたけれど、教えてくれる気はないらしい。
 とりあえず今回の分をと襟を開いて招かれれば、その先の『おいしい』を知っているチックはその誘惑に抗えなかった。


 首筋に顔を埋めた君を撫ぜる。触れる髪がくすぐったい。
(……顔を見られたら恥ずかしい、なんて。言えないでしょ)
執筆:壱花

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