PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

光芒の下には行けなくて

「………………ん」
 思わず溢れかけた声音を噛み殺す。
 恍惚に呆けた頭で意識を手繰り寄せて肩を軽く叩けば、意図を察した君が牙を抜いた。最後に溢れた血を舐め取る熱い舌も、吸血も、そのどれもが波となって押し寄せる。
(……おかしくなりそうだ)
 実に合理的だ、とも思う。食事と言う行為は生物を無防備にさせる。その最中獲物に逃げられず、筋肉も弛緩させ『食べやすく』する、なんて。
「……ごめ」
「チック」
 縋るようにぎゅっとくっついたまま謝りかける君の言葉を遮って、決めたでしょと不思議な色の瞳を覗き込んだ。
 吸血は二日置き。頻度を減らして一度に多く血を失うのは流石に良くなく、毎日はチックが大きく頭を振り、かと言って我慢して他者の血に君が誘惑されるのは俺が面白くない。
 それから、謝らない事。悪い事をしている訳ではないし、ありがとうの方が嬉しい。
「これくらい全然痛くないし」
 寧ろ気持ちいいとは流石に憚られ、気にしないでと襟を正した。
「ゆーずぅぁ……かみつく、しない?」
「あれは君の気持ちを軽くする冗談だよ」
 ぱちりと瞬き、幼い顔が更に幼くなる。
「流石に僕でも番以外に痕は残さないかな」
 ……失言だ。この手の冗談を言う相手は選んでいるのに、未だにクラクラとする頭の思考力が落ちていた。
「つがいはかむ、の?」
「まあ多分……って、冗談だから! 口が滑っただけ!」
 俺が慌てているのが面白いのだろう。君が笑みを見せてくれて、そこに苦しさがないことに安堵を覚えた。
(ラサで用意される薬は俺が取りに行って、その後は)
 後遺症の状況に合わせ、また話し合いが必要だろう。
(チックには友人が多く居るのに、俺が独占していてはいけない)
 ずっと血を提供しても構わないけれど、俺は君が日常に戻るための『繋ぎ』に過ぎない。俺と居るよりも家に帰りたいだろうし、後遺症も無い方がいい。
(すぐに完治しますように)
 そんな事を考えながらも唇を尖らせた拗ねた表情を作って見せれば、君は楽しげに笑っていた。
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM