PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

雲間にて

関連キャラクター:チック・シュテル

光芒プレリュード

 君を浚った。
 これ以上はもう、本当に良くないと思ったから。
 女王への敬愛を口にして暴れる君を体格差で抑え込んで、引っ掻かれた傷から溢れた血に怯んだ所を抱き上げて連れ去った。
 葛藤を、しているのだろう。この期に及んで。
 抗おうと、しているのだろう。腹が減って仕方がないだろうに。
 抱え上げれば自然と君の顔は僕の首元だ。ごくりと鳴った喉は――きっと血の味を知っている。
「噛んで」
 白い髪がいやいやと振られて首を擽る。
「……心と体、傷はどちらが痛いと思う?」
 それでも僕は許さない。君の後頭部を押さえて、君が抗いきれなくなるのを待つ。
「僕はもう限界なんだよ。これ以上君が苦しむのを見ていられない」
 君は頑なに抗う事で、周囲の人を傷つけている事に気付いていない。
 首筋が痛みと熱を帯びて、息を飲む。不思議な感覚に体から力が抜けそうになったけれど、君の後頭部から手を離さず、宥めるように撫で続けた。
「いいこだね」
 沢山泣かせてしまった。水晶の涙が幾つも地面に落ちて、僕は場違いにも両手が塞がっていなければ集められるのにと思う。
 そうして意識を手放した君を抱え、神殿を経由して海洋へと飛んだのだ。

「怒ってる?」
「…………」
「怒ってるんだ?」
 チックは俯いたまま、答えない。
「嫌いになった?」
「きら、いに、なんて……!」
「嫌っていいのに」
「なる、しない!」
 勢いよく顔を上げたチックの表情が必死で、雨泽は笑った。
「チック、僕は沢山傷ついたよ」
「……ごめん、ね……」
「違う。何も解っていない」
 怪我をさせた事を、血を吸ってしまった事を謝ろうとする彼は何も解っていない。だからもう、黙って見守るのを雨泽はやめた。この子には言わないと伝わらない。
「君が我慢するから、僕は痛かった。僕は君の友人なのにって、君の一番の友じゃないから頼って貰えないのかって、ずっと痛かったんだよ」
 他の誰かから供血されてる方がずっと良かったのに、そうならなかった。
「幸せを願っている相手が苦しむのを見守るしか出来ない気持ちが君に解る?
 ……君の罪悪感が薄くなるようにって言葉を選んだのに伝わってないし」
 言葉を尽くされ、チックは瞳を丸くした。
「友と思ってくれるのなら、俺をもっと頼って」
「うん……」
「もっと自分を大切にして」
「……うん」
「次我慢したら脅迫するから」
 驚きに固まるチックに畳み掛けていく。
「『俺に自傷させるか、自分で噛んで最小限の傷にするか選んで』って言う」
 どちらを想像したのか、チックの顔がくしゃりと歪む。
「負い目を感じるくらいなら、嫌って」
 詰って突き放してと笑う雨泽に、チックは何も返せない。
 彼にここまで言わせたのは、自分なのだから。
執筆:壱花

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